第36駅「夢は100点」

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 「昴ヶ浜の記憶」に斬り込む、しっとりとした感触を持つ名編。ヒカリが頭脳戦やアクション重視ではない、叙情的なシチュエーションに挑んだ回でもあります。

 ゲストはアイドリング!!!の外岡えりかさんで、妙にリアルな大学生を的確に表現していました。普段、大人と少年の間を揺れ動いているような雰囲気を持つヒカリが、彼女とのシーンで、グッと小学生の感覚に近付いていく辺りの演出と演技は、今回の見所となります。

 まずは、今回のシャドー怪人に触れておきましょう。マンネンヒツシャドーは、右肩の万年筆から落第点を発射し、それを付けられた人間から闇を発生させるという、何とも手間のかかる作戦を担うシャドー怪人。この雰囲気は正に70年代後半~80年代にかけてのもので、妙に小さいスケール感から良質なドラマを生み出す手法を踏襲しています。今回の脚本は會川さんで、上原・長坂両巨頭の薫陶を受けた作家さんですから、この辺りの巧さは見事という他ありません。

 マンネンヒツシャドーの声は飛田展男さんで、少々とぼけた味が堪りません。要所要所に(多分)アドリブを挟んで場面を賑やかに彩っており、かなり格好良いデザインを与えられながらも、良い意味でやっぱりスケール感の小さい辺りが素晴らしいです。飛田さんと言えば、「ゴセイジャー」では狡猾で高貴な黒幕(しかも1話からずっと出演)の声を演じられ、絶大なインパクトを発揮していました。今回はある意味真逆のキャラクターですが、飛田さんの幅広さを感じる事が出来ます。飛田さんは「ちびまる子ちゃん」の丸尾君や「Zガンダム」のカミーユ・ビダンといった代表作を挙げるまでもなく、アニメでのお仕事が多いのですが、特撮は意外な程に少なく、もっと登場願いたくもあります。

 いきなり話が逸れましたが、逸れついでにマンネンヒツシャドーって、仮面ライダーブレイドのデザインに似てますよね(?)。肩部がちょうど握り手のようになっているデザインも非常に面白いです。「バトルフィーバー」のヒダリテ怪人とか、「デンジマン」のビーダマラーとかを思い出してしまいました。

 さて、続いて外岡さん演じる「さくら先生」ですが、これほど実習生と大学生とで印象が変わるとは、やはりメイクの力は恐ろしい(笑)。多分、私はヒカリのように同一人物だとは気付かないと思います...。外岡さんの素顔がニュートラルな感じなので、極端なメイクが映えるのでしょうね。

 今回、巧いな~と思ったのは、ヒカリが小学生のまま大人の姿になっているという状況を、視聴者に観察させる感覚です。ヒカリは小学生の意識のままさくらに接していて、一方のさくらは同年代にしか見えないヒカリに違和感を持ちながら応じている構図。ビジュアルでは、同年代の男女の間にある一般的な関係性を想起させながら、心情描写では年齢のギャップが在り在りと描き出される巧みさ。これは「トッキュウジャー」のテーマを別の角度から眺めたものであり、一度は「子供から大人へ確実に進んでいる」というテーゼを投げかけつつも、「やはり子供である事は否定しようがない」という事実を見つめ直す行為でもありました。

 二人の一連のシーンの中では、さくらが「合コン」とか「酔ってて覚えていない」とか「適当に入学した」といった、いかにもその日暮らしな大学生像を披露していて、子供向けコンテンツとしてはなかなか衝撃度が高いのですが、ウン十年前の自分の頃を振り返ってもそれは結構リアルな感覚だったわけで、それが悪いとは言い切れないのが現実なんですよね。その辺り、ヒカリのような純粋な人格が「それは良くない」と否定しつつも、ドラマ全体ではやや突き放した感覚で統一されていて、非常に良かったと思います。メインターゲットからすれば未知の世界である大学生相手に、説教臭い作風をとらなかったのは理性的ですよね。

 そんな感じでシーン作り、キャラクター造形共に虚無感に包まれたさくらが、ヒカリによってかつての夢を思い出すというくだりは、良い読後感を生んでいます。この展開自体、在り来たりと言ってしまえばそれまでですけど、「トッキュウジャー」ならではの要素としての「昴ヶ浜の記憶」と絡ませているので、ヒカリ側のカタルシスとシンクロさせていて、余計に読後感がいいのです。ここで改めて面白さを感じたのは、さくらが実習生として赴いた昴ヶ浜に関する記憶を取り戻したかどうかが至極曖昧な処です。ヒカリの名前を思い出したような描写はありましたけれど、イメージシーンのような処理へ振り切られていましたし。昴ヶ浜の記憶を多くの人々が思い出す事によって、何か事態が進展するという展開も有り得ますが、それでは既視感ありありですからね。一応ゲスト作家という事もあって、敢えて本筋に影響するような語り口を避けられたのではないでしょうか。

 そして、メインを務めるヒカリです。

 実習生に強い印象を抱いていたという設定は、ヒカリに最もマッチしていたと思います。ライトは「0点なら慣れている」といった具合ですし、トカッチにはヒカリ程の繊細さがない。女の子二人組だと同性になってしまって、何気に今回の肝になっている「違和感」を感じにくい。消去法から行ってもヒカリはベストチョイスでした。

 ヒカリというキャラクターは、クールなキャラクターという設定の為か、割と表情に乏しい感があるのですが、今回は大袈裟な表情を一切せずとも、「目で演技」という難題を見事にクリアしていたのではないでしょうか。特に印象的なのは、はじめにさくらの前に立った時の子供っぽい輝き。いつもの面々と居る際は、ちょっと背伸びした雰囲気を漂わせているので、その可愛らしさには驚きました。

 メインを務めた事もあって、ハイパートッキュウ4号になる流れもごく自然。既にそのアクションに定評ある横浜さんですが、素面アクションを割愛したのは、逆に良かったと思います。今回の(変身前の)ヒカリはとにかくスタティックで通して大正解です。さくらを助ける為に素面アクションで活躍しまくるというシーン設計もありですが、それだと感情の継続が破断されてしまいますからね。本当に英断だったと思います。

 ヒカリ以外はとにかくコミカルに動く事が意識されていたようで、トッキュウ0号とか-100号とか、笑わせるギミックもふんだんに。等身大戦では、殆ど役に立っていない辺りが凄いですね。中でも脱力したミオの、声のトーンが良かったです(笑)。

 巨大戦では、マンネンヒツシャドーがトッキュウレインボーの大きさにわざわざ合わせた処(順番は逆ですが)に可笑しさが。殆ど飛田さんの一人舞台になっていて、そちらにも笑ってしまいました。

 車掌さんは、終始モノマネを披露してましたね。いわゆる「若大将」の真似でしたが、正に嬉々として演じておられるのが伝わってきました。それでもまだ、「やりたい放題」の域には達していないんですよね。この辺りの理性的な判断は、関根さん自身のものなのか、制作陣のものなのかは、定かではありませんが(笑)。

 次回は、明とシュバルツの密約の内容が明らかになるとか。一話分引っ張りましたが、意外に早く明らかになるんですね。