第39話「カロリーとネックレス」

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 東映作品としては、「仮面ライダーOOO」の伊達さん、「宇宙刑事 NEXT GENERATION」の二代目シャイダー・烏丸舟として特撮ファンに広く認知されている、岩永洋昭さんをゲストに招いたコメディ編。

 セラの純情さにスポットが当たり、普段は強気でクール(と言っても最近はクールさを前面に出さなくなりましたが...)な彼女の本当の乙女心を描き出す名編となりました。

 全体的にコミカルな雰囲気が横溢していますが、ちょっとホロッとさせるようなシーンもいくつかあり、非常に良質なコメディとして成立していたと思います。

シェフードン

 今回の怪人として登場したのは、シェフードン。現在ではグルメリポーターとして不動の地位を誇る彦摩呂さんを、パロディ怪人に仕立てたものです。

 その能力は単純明快で、瞬時に作り出す高カロリー食を無理矢理食べさせ、一気に肥満に導くというもの。肥満描写がこれまた奮っていて、わざわざ球状のスーツを用意するこだわりが、余計に可笑しさを増幅しています。勿論、被害者の方はたまったものではありませんが...。この能力から受ける印象だと、クバルよりはアザルドっぽいゲームではありましたが、クバルの興味はどちらかというとゲームよりは人間観察、あるいはバングレイの右手の能力分析にあったようなので、単純に賑やかに暴れて欲しかったのかも知れません。

 今回のゲスト、岩永さん演ずる零は、このシェフードンとは全く関係なく動くキャラクターでしたから、両者の乖離にどう折り合いをつけるのかと思っていましたが、まさか最後の最後で零がセラを庇ってシェフードンの餌食になるとは! これは見事でしたね。面白い落としどころだと思いました。

 デザインは、料理道具や衣装を思わせるパーツで構成されてはいるものの、明確にその寄せ集めだとは一見して分からないようになっており、見事に抽象画的です。この美的センスは、ややウェットなセラのドラマと良いコントラストを生んでいたと思います。同情の余地が全く入らない、愉快犯の悪辣さも感じられて素晴らしいですね。

クバル

 バングレイから奪った右手。どう使うのかと楽しみにしていましたが、まさか自分の右手にしているとは...! 既に器官が云々といった感覚を超越していて不気味です。一体どうやって「手術」したのか、そもそも彼等は生物なのか、そういった想像の余地を与えないだけの衝撃がありました。

 今回は、バングレイの右手を使いこなすための「研究」がクバルの行動原理でした。セラの件は研究の範囲内であり、要はどう使えば良いのかを知るのが第一目的だったようですね。

 中でも面白いと思ったのは、記憶から作り出したコピーの記憶を、さらに読むといった連鎖コピーを行うことはできないということ。わざわざこんなことを思いつくあたりが実にクバルらしく、良い着眼点だったと思います。あとは、自分自身の記憶からコピーを作り出すといったことも試していましたね。こちらもさすがにチート機能なので不可能とされました。

 この零というキャラクター、岩永さんならではですね。伊達さんというよりは、やはり烏丸舟です。

 二代目シャイダー・烏丸舟は「ギャバン THE MOVIE」で初登場しましたが、この時はまだ、東映ヒーロー出身俳優のサービス登場といった趣であり、その個性は描かれませんでした。その個性が弾けたのは「NEXT GENERATION」において主役を張った際です。見事な軟派男として登場し、嫉妬した相棒のタミーに殴られたり蹴られたりするという、秀逸過ぎるコミカルキャラに変貌しており、なおかつ男らしく決めるところは決める格好良さも兼ね備えた最高のヒーローとして描写されたわけです。

 この烏丸舟の軟派な表層部分を取り出して、悪いヤツに仕立てたのが今回の零であると言っても良いでしょう。クバルによって結婚詐欺の被害者と思しき女性の記憶から複製された零は、その類い稀な魅力を振りまいてセラを虜にする......というベタな展開にならないあたりが良いです。

 勿論、セラは零の手口にはまりかけたのですが、そこまでガッツリと取り込まれたようには見えませんでした。純情でありながらも、戦うヒロインとしての警戒心はどこかに残っていたように見えましたが、いかがでしょうか。とは言え、やはりセラが動いてくれなくてはどうにもならないので、それなりに零が振り回すことにはなります。

 零の行動は、元々結婚詐欺師というプロフィールを持ち、基本的にクバルの命令に従っていることもあって、悪いヤツのものなのですが、徐々にセラの純情さに惹かれていき、本来の優しさが表面化してしまうという、ある意味ベタな定石に従うものでした。このパターンは戦隊シリーズでも非常に古くからあるもので、「バイオマン」の新頭脳ブレインなんかも、ラブコメとは程遠いながらもこの系譜に該当します。このパターンは悲劇的な終焉を迎えることが多いのですが、今回は色々と有耶無耶にしつつそのあたりを爽やかに締めており、その処理には結構な驚きを覚えました。零自身の終焉は、セラを庇って肥満体にされたあげく、シェフードンに吹っ飛ばされるというコミカルなものでしたが、その後人知れず静かにクバルによって消去されるという幕引きが付加されていました(エフェクトも相俟って結構美しいシーンに)。その直前、クバルに結婚詐欺師らしからぬセラへの「想い」を告白しており、コピー体が持ち得る人間性を大和の母親に続いて示す格好となりました。

セラ

 今回の主演女優賞、間違いなく受賞するでしょう。

 零に返す必要がない(とアムが認識している)ネックレスを返すという、義理からの行動をきっかけに零と接近することになりますが、それはジュウオウジャーからセラを引き離す罠だった...という筋書き。アムは研ぎ澄まされた女の勘(!)で零を危険視しますが、純情なセラはそれに反発するという展開も安定した雰囲気で素晴らしいです。

 基本的に零とのデートシーンに関しては、コメディの常套句(セラが普段見せない表情を見せる、レオが怒り出す、皆で尾行するetc...)がこれでもかと詰め込まれたものになっていて、そのド安定感に心が洗われる感すらあります。そこで見られるセラの様々な表情は実に芝居の完成度が高く、3クールの間に清廉された魅力を存分に堪能できます。言うなれば喜怒哀楽すべてが披露されており、その撮影は精神的にも肉体的にも大変なものだったのではないかと推察されますが、見事にその魅力を振りまいていましたね。

 これは私の想像に過ぎませんが、セラは元々男勝りのクールビューティという設定だったのが、演者の柳さんのキャラクターに引っ張られて、何となく男への免疫のない純情乙女という設定に変化させられたのではないかと思うわけです。これは「キャラが独りでに転がる」という感じよりは、「長丁場のドラマは生き物」という感じでしょう。やはり、彼女の放つ雰囲気や感覚が「こんなセラを見たい」という視聴者側と制作側のシンクロを生んで、このような話を生み出したのではないでしょうか。その意味で、セラというキャラクターは多面的になりましたし、見事に初期設定と演者の個性が合致して常に安定しているアムとは、面白いくらいにコントラストが生まれています。

 感心するのは、初期設定もちゃんと重視しているという点ですね。エピローグで非常に鋭い睨みを利かせるセラの描写は、男どもを震え上がらせるに充分な迫力を有し、その「強い女の子」という性質を大事にしていました。そこに「女を怒らせると怖い」というジェンダー由来のスパイスを効かせているあたりも巧いところですね。

次回

 セラとは縁深いレオがメインを張るようです。レオのエピソードは分かり易い傑作が多いので楽しみですね。彼も、軟派男から男気溢れる硬派(時々軟派)へと変化したキャラクターです。4クール目突入にあたって、レオの集大成が見られるかも知れませんね。