その8「コトコト…ひたすらコトコト」

 ソリサは「強い男」になったマガに惚れ、マガは調子に乗り「あんな奴等いつでも倒せる」と言って退却してしまった。美希は「あのゲキワザじゃないと勝てない」と呟く。

 落ち込むジャンに、なつめは自分で作った豚の角煮を食べさせる。ジャンはその美味しさに感激した。そこへ美希がゲキバズーカを持って現れる。マガの防御壁を破るためのゲキワザ・激激砲を放つための新武器だ。ただし、3人の実力では、激気を込めるのに2分かかってしまうという。その間の時間を稼ぎ、守りに徹する役目に、ジャンが抜擢された。

 ソリサとマガが街に出現。早速ゲキレンジャーはゲキバズーカを試す。ところが、ランとレツはうまく激気を込めることができない。ジャンは我慢が出来なくなり、怒って攻撃に転じてしまった。当然危機に陥ったゲキレンジャーだったが、マガとソリサは突然抱き合って甘いムードに陥り、そのまま退却してしまった為、難を逃れた。ランとレツはジャンを非難する。「まだ分かっとらんだけじゃよ」とマスター・シャーフーは言う。

 ランとレツがスクラッチに帰ると、ゲキバズーカに激気を込める繊細な指使いの修行の為、ピアノの練習を言い渡された。マスター・シャーフーの神経を逆なでする「ネコ踏んじゃった」を、安らぐほど繊細なタッチに仕上げること。それが修行の目標だ。「もっと楽しんで」という美希のアドバイスで、上達しはじめる2人。

 一方、ジャンはなつめに呼ばれて豚の角煮を食べることになった。出来上がるまで、ひたすら待つことになったジャン。我慢に我慢を重ねて遂に口にしたジャンは、凄まじい感動を覚えた。「ジャンが時間を与えたことに、豚肉が答えた」というなつめ。戦いも同じだというマスター・シャーフーの言葉を伝えられたジャンは「コトコトで勝つ!」と誓う。

 遂にソリサとマガの態度にキレたメレは、2人を怒鳴りつけて送り出す。迎え撃つゲキレンジャー。ゲキバズーカへの激気充填が始まる。ジャンは、ひたすらソリサとマガの攻撃に耐え、ランとレツはピアノで鍛えた繊細さを生かして激気を込める。ジャンの頑張りで遂に激激砲発射が可能となった。マガは余裕綽々で立ちはだかるが、激激砲はそれを打ち破る。怒ったソリサは巨大化。対抗してゲキトージャ登場だ。

 ソリサは秘伝リンギでゲキトージャを襲うが、勢い付いたゲキトージャはソリサを圧倒的な強さで追い詰め、遂に撃破した。メレはそれを理央に報告したが、理央は悪夢に深く苛まれていて気づかない。物陰から理央の様子を見ていたブラコは、理央の弱点を看破したと感じていたが…。

監督・脚本
監督
中澤祥次郎
脚本
荒川稔久
解説

 カデム、モリヤと倒れていき、ソリサとマガが組んだことで長期戦化するかと思われたが、何と2人まとめて倒されてしまうという早足展開。しかし、ピアノに豚の角煮という修行内容に、ほのぼのした空気が充満していて、全く殺伐とした雰囲気がない。これが戦隊のイイところだ。毛を逆立てたり、安堵したり、はたまたピアノの腕前を披露したりという、マスター・シャーフーの芸達者振りも楽しい。

 ソリサとマガの「バカップル」振りが、あまりにも強烈。それまでのオクテな性格だったマガが、一転して自信過剰になる姿が何ともユーモラスで、それに釣られてソリサも妙に可愛らしい女になってしまうのが可笑しい。このバカップルのマイペースな様子が、ゲキレンジャーの危機回避にウマく作用するのは、便利な定石でありながら効果的で、ドラマのテンポを保つのに大いに役立っている。

 メレは前回ソリサとマガの2人を結びつけるのに成功したが、それが全て裏目に出てしまい、常に憤慨している。理央にも「無視」され、良いところがない。それぞれの場面でのメレの反応が豊かで、飽きさせない。

 今回登場の新武器・ゲキバズーカ。拳法モノにバズーカとは何とも不似合いな印象だが、本編を見る限り違和感はない。「激気」という本作のメインファクターが発射に直結していることを初めとし、技の完成に至るまでのプロセスが文字通り繊細だったのも、プラスに作用してものいると思われる。2人が激気を込めている間に、ジャンが単独でその頑強さを生かし身を挺するという熱さもいい。ちなみに、同じ拳法モノの「五星戦隊ダイレンジャー」にもスーパー気力バズーカなる武器が後半登場している。

 なつめの役割が、前回からガラリと変わってしまったのは、ちょっと気になる。前回は自分のことしか見えていないという設定で、ジャンによってそれを克服するというキャラクターだったのだが、今回はマスター・シャーフーの代弁者にまでなってしまった。なつめの可愛らしさは全てを肯定させるに足るパワーだが、前回と今回の脚本を同じ荒川氏が担当したにしては、少々整理を急ぎすぎた感は否めない。豚の角煮というアイデアは良いし、それをなつめに扱わせるのも良い。そしてジャンの我慢に結びつけるのも良い。良いこと尽くしだが、なつめの転換の早さがやはり気になるところだ。瑣末と言えば瑣末だが…。

 そのなつめのキャラクターには、ゲキレンジャーの「萌え要素」を担う戦略が感じられ、今回はその戦略を感じさせる部分が散見される。「エヘッ」はその最たるものだろう。ジャンのお姉さん的役割をも与えられており、あらゆる側面からの「萌え要素」を投入しようという試みが見られる。逆に言えば、ランとは完全に役割分担するということなのだろう。ランはあくまで爽やかで健康的な可愛らしさを押し出している。なつめの存在は、イイ意味でその裏側を狙っているようだ。

 理央の登場シーンは、今回極めて少ない上、どちらも悪夢に呑まれているという描写にとどまる。これが今後への伏線となることは明らかで、「静かなる理央」を印象付けるのに効果的であった。真毒使いはブラコということになるのだろうが、早くも敵側に内乱の臭いが漂う。バズーカの早々の登場といい、ゲキレンジャーは、戦隊シリーズの展開を圧縮して見せているのだろうか。