その10「ジャラジャラ襲撃!はじめてのおつかい」

 ラン、レツは森の中をさまよっていた。ジャンは裸になって大はしゃぎ。実はマスター・シャーフーの知り合いに、ある荷物を届けるためのお遣いの為、3人は森の中を進んでいたのだ。

 事の発端は、臨獣パンゴリン拳の使い手・ムザンコセに手痛い敗北を喫したことにある。ムザンコセの硬い外殻にはあらゆる武器が通じない。地殻プレートに臨気で刺激を与え、地震を起すと宣言するムザンコセは、手っ取り早く障害を排除すべく巨大化。ゲキトージャで迎え撃つゲキレンジャーだったが、まるで歯が立たなかった。

 対策を考えあぐねる3人に、「ヤツの助けを借りるしかないようじゃな」と言うマスター・シャーフーは、山奥の川沿いにある山小屋の主に、ある荷物を届けて来るように指示した。何故か、3人で行くようにと言う美希。「あの森にはもののけが住んでいる」とはマスター・シャーフーの言…。

 マスター・シャーフーの言葉通り、森の奥から「もののけ」の操る鎖鉄球が飛んできた。「もののけ」は鎖を生き物のように操り、あっという間に3人を捕縛、例の荷物を奪い取る。3人はゲキレンジャーとなり、「もののけ」を追った。荷物を取り戻そうと必死になるゲキレンジャーだが、「もののけ」の卓越した技の多彩さに翻弄されるばかりだ。激激砲すらも回避されるが、「1人じゃ出来ないことも、3人集まれば何でも出来る」と奮起したゲキレンジャーは、見事な連携で荷物を奪回する。振り返ると「もののけ」は姿を消していた。

 その頃理央は、「空の拳魔」の魂に骸の場所を聞き出していた。真毒を用い、空の拳魔の骸に生命を宿そうと考えているのだ。その骸は、険しい山岳地帯にあるという。理央は早速その地へと向かった。

 ジャン達が山小屋に荷物を届けると、その中には例の「もののけ」が。何と「もののけ」の正体は、拳聖エレハン・キンポーだったのだ。エレハン・キンポーはいたくランを気に入り、激獣エレファント拳を伝授するための修行をすると言い出す。例の荷物の中身は、美希が開発した新武器・ゲキハンマーだった。

監督・脚本
監督
諸田敏
脚本
横手美智子
解説

 五毒拳全滅で臨獣拳側も一息といったところで、今度は激獣拳側のドラマが始まる。全体的にコミカルなエピソードだが、エレハン・キンポーを筆頭とする個性的なキャラクターがストーリーをグイグイと牽引し、パワフルなスピード感がある。

 サブタイトルには「はじめてのおつかい」というほのぼのしたタイトルと、「ジャラジャラ襲撃」という物騒なタイトルが併記されているが、両方とも激獣拳側の出来事を表しているのが凄い。五毒拳編後半が、半ば激獣拳置き去り状態だったのを考えると、この充実振りは興味深い。激獣拳寄りのエピソードであることを象徴するのが、ジャンの「ケナケナ…じゃない、ゾワゾワだ」というセリフ。メレのキャラクターの深みをあっさり捨て去り、理央の果たさんとする目的に向かって一途になる様子に、違和感を感じるどころか納得してしまう演出力がある。

 一方の理央は、拳魔を蘇らせる段取りを手際良く進行している。「空の拳魔」が山岳高地にその骸を横たえるという設定も、かなりシビれるカッコ良さだ。従来ならば「ボス格」と呼ばれるに相応しい臨獣殿の切り札が、1クール内でその姿を明らかにする可能性は高く、ゲキレンジャーのハイスピード振りが伺える。

 ムザンコセは、以前のリンリンシーに比べて古風で知性的なキャラクター設定が光る。「センザンコウ」→「センザンコ」→「ンザンコセ」→「ムザンコセ」というネーミングの強引さも素敵なポイントだ。リンリンシーの姿の折は、見栄切りのような動きで古風な言い回しを支えており、そのマッチング度が可笑しい。

 今回の白眉は、何と言ってもエレハン・キンポーだ。「もののけ」として登場し、ゲキレンジャーと一戦交えるシーンは、カンフー映画のコミカルな演出をそのまま引用。特に「荷物」を効果的な小道具として使う様は、カンフー映画乱立期の懐かしささえ漂わせ、満足度の高いアクションを創出している。「荒唐無稽であるが理に適って見えるアクション」は、組み立てが非常に難しいが、今回のアクションは充分に水準を達成していると言えるだろう。ランにセクハラまがいの行動を交えて翻弄したり、鎖でレツを地面の上で転がしたりといったアクションは、カンフー映画をモチーフとしたゲキレンジャーならではの面白さだ。

 勿論、エレハン・キンポーという名前にも反応しないわけにはいかない。サモ・ハン・キンポー氏から拝借されたと思しき、そのネーミングに加え、何と声の出演に水島裕氏まで招聘。往年のカンフー映画をまさに再現して見せた。ただし、さすが水島氏、エレハンの年齢を考えた声質で演じており、厳密にはサモ・ハン・キンポー氏の出演作とはイメージを異にする。ファンとしては、あの「デブゴン」が老いて師匠クラスになった様を、想像して楽しめるという趣向として好意的に受け止めたい。

 今回はランに少しばかりスポットが当てられている。「スケベな象(美希談)」エレハンの「攻撃」に悲鳴を上げる様子は、非常に可愛らしく、ランの新たな一面を開拓するのに一役買っている。