その12「ゾワンゾワン!臨獣拳、修行開始」

 空の拳魔カタを蘇らせた理央は、カタの力を受け継ぐことを望んだ。臨獣殿に帰ってきたカタは、理央に「修行開始だ」と告げる。

 一方、なつめと出かけていたジャンは、銭湯に掲げてあった鯉のぼりを捕まえようとする。それを銭湯のおやじ「源さん」に阻止されたジャンは、なつめがヌメヌメした粘液の上を滑り、道路へと滑り込むのを見た。なつめを救うジャンが気配を感じたのは、臨獣イール拳のナギウ。ナギウは粘液で街を混乱させていた。迎え撃つゲキレンジャーだったが、ナギウの粘液はあらゆる攻撃を滑らせて無力化してしまう。ついには、ゲキレンジャーは粘液の奔流で遠く流されてしまった。マスター・シャーフーは、銭湯へ行けと3人に告げた。

 カタの修行は、本気で殺しあうことであった。「その拳、激獣拳の臭いがする」と言うカタは、臨獣拳の真髄を見せるために、理央の絶望を見るとする。カタのリンギにより、理央は少年時代の絶望的な場面を見た。

 銭湯に来た3人。ジャンはイライラして乱雑な行動をとる。それを巧みな布さばきで止めたのは、源さんであった。源さんが「手ぬぐいヌンチャク」を披露すると、ジャンは面白がって練習を始めた。そして、ジャンは源さんの石鹸まみれの腕を、手ぬぐいヌンチャクで捕まえることに成功。「自ら見出す、それが激獣拳」エレハン・キンポーは言う。

 メレが理央に駆け寄ると、理央はそのまま倒れ付してしまった。カタは「己の悪夢の中にあり、絶望に悲鳴をあげ、それが我が力となる」と言った。怒ったメレはカタに襲い掛かるが、カタの敵ではない。悪夢の世界の中で、理央はカタに嬲り者にされ、遂にカタの拳によって貫かれた。

 再びナギウと相まみえるゲキレンジャー。ジャンは、源さんに借りた鯉のぼりを「鯉のぼりヌンチャク」として使い、ナギウの粘液をふき取ってしまう。激激砲を食らったナギウは巨大化して反撃を開始した。しかし、粘液なきナギウは大した脅威ではなく、エレハンマーで早々に片を付けた。

 理央は悪夢の中で再び立ち上がった。驚くカタを前に、理央は自らの絶望を食らい尽くして更なる力を得る。「そんな者は、臨獣殿の歴史上、一人もおらん」とたじろぐカタに、理央は必殺の拳を浴びせる。悪夢から目覚めた理央の前には、膝を付くカタが居た。理央はカタを「マスター」と仰ぎ、心中でさらなる強さを求める誓いを立てる。

 ジャンは、その「ゾワンゾワン」な気配を感じたのだった。

監督・脚本
監督
竹本昇
脚本
會川昇
解説

 主に臨獣拳にスポットを当てたエピソードだが、激獣拳側にも見せ場を設けた、バランスの良い1本。しかし、その両者のドラマが交差することは殆どなく、並行し雰囲気を異にした2つの流れが交互に描かれるという、やや異色の構成である。

 臨獣拳側には、前回から続く正統のドラマがある。蘇った空の拳魔カタにより、理央の「修行」が開始されるという。この正義側と何ら変わらないポジションで展開される様は、善悪の概念を超えた「流派」に重きを置いている時点で、既に清々しさすら感じられる。改めて気づかされるのは、「獣拳戦隊ゲキレンジャー」の主役は、ジャン達3人だけではなく、理央やメレもだということ。善悪が等価にクレジットされるオープニング・フィルムが、それを物語っている。

 度々描かれた理央の悪夢。これについて、早くも謎が解かれるのかと思いきや、理央はそれを食らい尽くして我が力としてしまった。結局、この悪夢は「理央の少年時代における絶望的な体験」という表層のみが語られることとなり、謎は消滅してしまった。まさか戦隊でマクガフィン化することはないと思われるので、謎の解明は先送りとされたのだと見ていいだろう。

 それにしても、凄まじいのは臨獣拳の修行である。「殺し合いこそ修行」を旨とするそれは、充実したアクション(より実戦を思わせる殺陣!)と、イマジネーションを前面に押し出したエフェクト、そしてカタの声・納谷六朗氏の名演により、「一段階上のステージにおける拳の修行」といった印象で描かれている。これは、正に「暮らし(遊び)の中に修行あり」とする激獣拳の、ある種ほのぼのした修行(子供の手が届きそうな修行)とは対極にあるものと言っていいだろう。

 それを象徴するかのように、今回の激獣拳は、「鯉のぼり」というタイムリーなネタ、下町風情を導入した「銭湯」という舞台、そして源さん役に岡本美登氏というファンサービスを交え、非常にファミリー向け要素を意識している。臨獣拳側の重々しさと一線を画すかの如く、極めてライトなシーンばかりだ。対戦相手に、ナギウという軽々しいキャラクターが配されているのも、その傾向を後押しする。しかしながら、そんなライトタッチの激獣拳もちゃんと「立って」おり、これが本エピソードのバランス感覚を支えている。

 意外なことに、前2回のみのゲスト(勿論、サブレギュラーとして後々登場する予想は付いていたが)かと思われたエレハン・キンポーは、どうやらレギュラー化するらしい。優しく厳しい目で見守るシャーフー、お調子者でエッチなエレハンの図は、楽しいことこの上ない。「動物の師匠」という、ある種の分かりやすさもイイ感じだ。

 今回は銭湯ということで、男性ファンが過剰な期待を寄せた(?)であろう、ランの入浴シーン。戦隊シリーズでは、割と惜しみなく水着シーンや入浴シーンを織り交ぜてきた歴史があるが、今回は非常に簡素な(要するに短い)シーンにまとまった。充分に健康美を堪能できるシーンではあったが…。以下は一応自粛しておくこととする。とは言え、撮影は色々と大変だったに違いない。ちなみに、ジャンやレツのサービスシーンは沢山盛り込まれていた。特にジャンはかなり際どい格好で手ぬぐいヌンチャクの練習をしており、男性視点からしても、ヒヤヒヤ感があった。

 激獣拳側も臨獣拳側も新たな師が登場し、更に加速してきた。