その28「ビシビシピキーンで押忍!」

 エレハン・キンポーが工場長を務めている、久津家経営の町工場「スクラッチ・マイスターズ」に、美希が電話をかけている。ゲキレンジャー5人目の仲間でありゲキレンジャーの隠し玉である、久津家の長男がそろそろ帰ってくる筈だが、まだ顔を見せていないのだ。マスター・シャーフーは、彼の加入を「賭け」だと言った。

 拳魔たちののさばる臨獣殿が面白くないメレは、実力者である臨獣クロコダイル拳のニワを呼び出し、理央が留守の間に評価を下げることのないよう、街に派遣した。そんなメレにロンは理央の居場所を尋ねる。理央の行き先が獣源郷と知るや舌打ちするロン。ロンは「まだ早い」と呟いて姿を消してしまった。

 その頃、ジャンは惣菜屋「あおき」のメンチカツ最後の一枚を狙っていた。ジャンが小銭を数えている間に、何者かが横から100円を払い、早々に取り上げて去ってしまった。慌てて追いかけたジャンと、メンチカツを取り上げた男が激しく対立する中、ジャンはふと臨獣殿の気配を感じる。ジャンが向かった先では、ニワとラン、レツ、ゴウが戦いを繰り広げていた。ニワは殊のほか強く、3人は苦戦している。ジャンが合流したとき、メンチカツの男は何とトラックを暴走させてジャンを追って来た。気をそがれたニワは去ってしまい、ラン達は腹を立てる。メンチカツをまんまと食べてしまったこの男を、現れたシャーフーは「久津ケン」と呼んだ。スクラッチ・マイスターズを営む久津家の長男・ケンこそが5人目のゲキレンジャーだったのだ。

 ケンは半月前に帰ってくるよう連絡を受けていたのだが、今になってやっと帰ってきたのだという。しかもゲキチェンジャーを壊していた。父親の権太郎はケンのその態度に激怒。親子喧嘩に発展する。ラン、レツ、ゴウ、そしてジャンは、ケンを仲間にする気がすっかり失せてしまう。ケンは自分の力を見せるというが、呆れたジャン達はその場から去ってしまう。ケンに破門をちらつかせ、シャーフーは誰か一人でも仲間と認めさせてみよと言った。

 ケンは早速メンチカツを大量に買ってジャンに近づく。メンチカツにかぶりつくジャンだが、ケンの買収には乗らない。そこにケンの妹・幸子が現れ、ジャンに兄の激獣拳を見て欲しいと頭を下げる。しかしケンは、もう破門でいいと諦めていた。幸子はケンの頬を打ち、その場から走り去る。ところが、幸子の頭上から、クレーンにつるされた看板が落ちてきた。ケンは咄嗟に激気を研ぎ澄まし、看板を丸く切り抜いて幸子を助ける。その「激気研鑽」を見たジャンは「ニキニキ」だと言ってケンを仲間と認めた。

 ニワに苦戦するラン達3人に合流するジャンとケン。ケンはゲキチョッパーに変身し、リンシーズを瞬く間に全滅させた。さらに、鎧の堅牢さを自慢するニワを激気研鑽によって追い詰め、遂に一刀両断を果たす。ジャンはケンの実力を認め、嬉しそうに美希に報告するが、ラン達はいい加減すぎるケンを受け入れるのに時間がかかりそうだ。

 獣源郷に向かう途中、理央はジャンやゴウ、マスター・シャーフーに姿を変えて話しかけるロンに出会う。臨獣殿の人間はこれ以上進めないと言うロン。獣源郷には拳聖たちの張った特殊な結界「七重七聖の関」があり、臨気を纏う者は超えることが出来ないのだ。その関を越える鍵は、操獣刀であるという。操獣刀はシャーフーがケンに預けた筈なのだが、ケンは笑ってごまかすのだった。果たして操獣刀は何処へ...?

監督・脚本
監督
中澤祥次郎
脚本
横手美智子
解説

 遂に、というよりは早くも登場した5人目のゲキレンジャー。その名は久津ケン=ゲキチョッパー。ゴウの登場から間髪を入れずに登場させるあたり、とにかくテンポ重視の作劇であることを伺わせる。

 ゴウは自分の中にあるネガティヴな面を克服するキャラクターだったが、ケンはポジティヴであり過ぎるために周囲との摩擦を生み出してしまうキャラクターである。追加戦士にこうした正反対のキャラクター設定を持ってくるのは作劇上の定石だが、重いものを背負ったゴウの後に、ひたすらお調子者に徹するケンを持ってくるところに、ウマい計算が働いている。まさに重と軽であり、その落差でスピード感を煽っているのだ。

 ケンが本当に根っからのお調子者なのか、はたまた生真面目な性格を隠すための道化芝居かは、およそ容易に判別がつく。メンチカツ奪取の為に、大型トラックを運転して追い回す短絡さ、ジャンを仲間にする為に、メンチカツを大量に買い込む安直さ、妹に叱咤される情けなさ...いずれをとっても、久津家の放蕩息子というイメージが強く出ている。これらの描写がフェイクだとしたら、それはやり過ぎだろう。

 ストイックな感覚が強い4人の中にあっては、ケンは異物である。それが「隠し玉」の意味であり、「賭け」たる所以である。ジャン、ラン、レツ、ゴウの4人は、求道の果てに現在の実力を得てきた。しかし、ケンは元々「激気研鑽」のできる天才なのだ。一応、獣源郷で修行して研鑽の精度を高めてはきたようだが、ゲキチェンジャーを壊したり、「バカンス」「アバンチュール」といった言葉が象徴するように、その求道的な面はかなり弱い。本物の天才は努力する姿を見せないもの...ということなのだろうか。ケンは並外れたお調子者でありつつ、意外に並外れた努力家...なのかも知れない。この異質なる逸材によって、ゲキレンジャー全体が文字通り「研鑽」されていくのだろう。

 それにしても、やはりジャンの果たす役割は今回も大きかった。ゴウのケースでは、ゲキレンジャー再構築によって4人編成を成し遂げた。今回のケースでは、異物であるケンの受容体の役割を果たしたのが、他ならぬジャンその人である。ジャンは当初、食べ物(メンチカツ)の恨みと、ケンの久津家の家族への態度から、ケンを拒絶している。ジャンの口から「グダグダヘレヘレなヤツ、使う拳法もグダグダヘレヘレに決まっている」といった言葉を出して、ジャンの成長振りを垣間見せたのも面白いが、ジャンにとっての純粋な興味はそういった精神面よりも、むしろ「新鮮味のあるもの」に向けられている。それがケンの「激気研鑽」のテクニックであり、それを目の当たりにしたジャンはケンを仲間として受け入れるのである。ジャンは純粋であるが故に、ランやレツ、そしてゴウのように、その先に待つ結束の十分性についてあれこれ詮索しない。ジャンは自分が「ニキニキ」できれば、きっとうまくいくのだと信じているのだ。

 ゲキチョッパーは、道着のようなデザインと白を強調したカラーリングが新鮮。スーパーゲキクローより更に大振りなサイブレードが大胆で、一目でジャン達ともゴウとも違うカテゴリーに属することが分かるようになっている。それでいて、ゲキレンジャーの一員であることを分からせるビジュアルが秀逸だ。その戦いぶりは、ゲキレンジャー的というよりは、むしろスタンダードな戦隊ヒーロー的と言え、サイブレードを使ってリンシーズを「射撃」によって倒していく様子は、正に銃を武器とする多くの戦隊ヒーローを彷彿とさせるものだ。少々残念なのは、サイブレードが大味すぎて、激気研鑽の結果としての鋭さが、今ひとつビジュアルとして伝わらないことである。水をぶった切るという豪快なシーンこそ存在するが、それが直接刃の鋭さに繋がってこない。ニワの硬さもマガやムザンコセの二番煎じで、印象の弱さは否めず、その印象の弱さがまた激気研鑽の鋭さをスポイルしてしまっている。ニワのデザインが恐ろしいものであり、怒臨気を必要としない自信家として描写されただけに、非常に残念だ。

 ところで、今回、獣源郷(の一歩手前)の具体的な描写が登場した。ロケーション的には既視感がありすぎるのだが、ロンがジャンやゴウ、マスター・シャーフーへと様々に変化することで幻想的な絵を作り出している。このシーンでは、当然それぞれのキャストがロンを演じていることになるが、特筆すべきはジャン役の鈴木氏である。ロンの動きを研究したと思しき怪しげな振る舞い、理央を舐めるような眼つきが不気味で、普段のジャンとは明らかに異なる雰囲気を出しているのが凄い。衣装その他完全に普段のジャンと同一でありながら、ここまで雰囲気を異にする演技力は高い評価に値するだろう。

 一方で、ロンが初めて感情を露にするシーンが登場した。メレとの会話で、理央が獣源郷に入ることは時期尚早だとするシーンだ。ロンが一体何を目論んでいるのか、未だよく分からないものの、どうやら今の理央にとって不利益となるシチュエーションは避けたいようであることは確かだ。

 なお、今回からオープニングの映像が大幅に変更されている。ゴウ=ゲキバイオレット登場時には変化がなかったので、どうやらゲキレンジャー5人揃い踏みの期を待っていたようだ。ゴウやケンのメインキャスト入りのみならず、ジャン達3人や美希のポージングも変更され、ロンがメインキャスト扱いのクレジットに加わる(!)など、新鮮な変化が目白押しだ。メレと理央の映像に変化がないのは残念だが、新キャラのオープニング揃い踏みにより、一気にドライヴがかかった印象を受ける。文字通り役者は揃った。怒涛の後半戦にますます期待がつのる。