その32「ゾワンギゾワンゴ!集結、獣源郷」

 獣源郷に向かう理央とメレ。そこに立ちはだかるのは、マスター・シャーフー。そして、エレハン・キンポー、バット・リー、シャッキー・チェン、ゴリー・イェン、ミシェル・ペング、ピョン・ピョウの七拳聖であった。怒臨気で対抗しようとする理央とメレだが、拳聖たちはその余裕溢れる身のこなしで理央とメレの自由を奪う。

 その頃、美希の話から拳聖たちの真意を知ったジャン達は、ゲキバットファイアーで獣源郷へ飛ぶことにした。同じ頃、拳魔たちもマクの秘伝リンギ・臨怒雲で獣源郷へと向かっていた。

 獣源郷に先に到着したのは、カタ、ラゲク、そしてマクであった。ジャンはその禍々しい怒臨気に戦慄し「ゾワンギゾワンゴ」と称する。マクは「拳聖であろうと拳魔であろうと、誰を追い抜こうと関係ない」と言う理央を責め立てた。その様子を見ていたシャーフーは、ここが獣拳創始者ブルーサ・イーが獣拳を始めた約束の地であることを忘れたかと一喝する。

 拳聖と拳魔はかつて、獣拳創始者ブルーサ・イーの元に集まった門弟であった。マクはその中でも才能に恵まれ、ブルーサ・イーの後継者と目されていたのだが、無双の者となる野望に燃え、ブルーサ・イーを暗殺してしまった。マクと、マクに賛同し手を貸したカタとラゲクは拳魔を名乗り臨獣殿を創設。それに対抗し、七人の拳聖が立ち上がった。それが激臨の大乱である。勝機は拳魔たちにあったのだが、拳聖たちは禁断のゲキワザ・獣獣全身変を使って辛くも勝利をおさめた。

 そこまでは拳魔たちの知るところであったが、カタはその後何があったのかを知るべく、シャッキーの記憶の深層より真実を掴み出す。 

 激臨の大乱に勝利した拳聖たちは拳魔の魂を腕輪に封印し、ブルーサ・イーの倒れた場所へとやって来た。ブルーサ・イーの不滅の激気魂は、獣源郷へと飛び巨石に宿った。拳聖たちはブルーサ・イーの遺した操獣刀を用いて巨石を彫り、獣拳の神サイダインの石像とした。ブルーサ・イーの激気魂宿りしサイダインには、獣拳を学ぶ者の秘められた能力を開花させる力があるという。その為、ブルーサ・イーと同じ激獣ライノセラス拳を使うケンが、獣源郷へと修行に行かされたのだ。

 「強さのみが大事なら、その強さが失われたとき何をする」そうマクに問うシャーフーだったが、それがマクの怒りに火をつけた。巨大化したマクは拳聖・拳魔の見境なく暴れ始める。そこにゲキバットファイアーが到着。マクに立ち向かうが、ゲキシャークファイアーの力を以ってしてもマクに適わない。理央は隙を見て獣源郷へ急いだ。

 マクは等身大へと戻り、ジャン達に止めを刺そうとする。それを抑えた拳聖たちは、ジャン達に理央を止めるよう命じた。ブルーサ・イーの魂を受け継ぐのは、正義の心を持つゲキレンジャー達の使命だ。

 理央は操獣刀で七重七聖の関を解除し、獣源郷へと踏み入った。神を目指す理央を、ジャン達が追う。理央は獣拳神サイダインの石像の元へとやって来た。そこへジャン達も到達する。睨み合う両者は互いの拳をぶつけ合う。その戦いの中、理央とジャンは互いに自らの心を掻き立てられる感覚にとらわれるのだった。そこへ現れたのは、拳聖に足止めされた筈のラゲク。マクを怒らせすぎた報いとして、ラゲクは異空間に若き獣拳使い達を飛ばしてしまった。

監督・脚本
監督
渡辺勝也
脚本
横手美智子
解説

 驚愕の拳聖拳魔大集結編。ゲキレンジャーと理央メレ置いてけぼりの展開は驚愕必至ながら、拳聖と拳魔それぞれの名乗りポーズを堪能できるところから始まり、激臨の大乱の秘密、獣拳創始者ブルーサ・イーの紹介と、重要トピックの披露が続々。とにかく全編鳥肌立ちっぱなしで興奮度は最高潮である。ここは冷静になり、獣拳黎明期に起こった事件の顛末を整理してみたい。

 まず、獣拳を興した人物の名は、ブルーサ・イー。ブルース・リーの名からインスパイアされたと思しき、激獣ライノセラス拳の使い手である。このマスター・ブルーサ、肉体が滅びても「激気魂」は不滅だといわれており、このことから獣拳の根は激獣拳にあったと見ることが出来よう。ブルーサ・イーの元では、多くの門徒が学んでいたが、その中でも突出した実力を有していたのが、後に拳聖・拳魔となる10人の拳士である。

 さらにその中でもブルーサ・イーの後継者と見做されていたのが、マクである。才能豊かなマクは、マスター・ブルーサの意志を忠実に学ぶ人物だと思われていたが、心中はどす黒い野望に覆われていた。マクは無双の強さを得るべく、ブルーサ・イーを手にかけたのだ。その時、マクの方針に賛同したのが、カタとラゲクである。この頃に、三拳魔は獣獣全身変もしくは獣人邪身変を使って獣人態と化したようだ。ここで気づくのは、理央とマクの目的意識が実は非常に似通っていることである。ただし、マクは自らの力を行使して並び立つ者を滅ぼすことで頂点に立とうとしたのに対し、理央はあくまで実体を伴うパワーを得るべく知略を巡らせている。この差異は興味深い。

 マク、ラゲク、カタが拳魔を名乗り臨獣殿を創設したのは、その事件の直後。3人はそれぞれ弟子をとり、臨獣拳を広めた。メレが弟子入りしたのもこの時期である。臨獣殿は弟子を増やしてその勢力を拡大し、世界を手中に収めんと画策した。そのどす黒い野望を阻止すべく、遂に激獣拳7人の達人が動き出した。無益な争いを好まない彼らのこと、臨獣拳の動向を静かに見守っていたが、世界が絶望と悲鳴に覆われんとする状況に際して決起したのだろう。三拳魔に戦いを挑んだ拳聖たちの戦いがそれぞれの弟子たちにも伝播し、激臨の大乱に発展した。メレとバエもこの戦いに参加している。この戦いでは、獣人態の力をフルに活用した拳魔たちが圧倒的に優勢であり、それに対抗すべく拳聖たちも獣人態と化すことに決めた。これが、後に獣人態から戻れなくなるという報いと不老の報いをもたらす獣獣全身変の使用だ。

 禁断のゲキワザ・獣獣全身変により辛くも勝利した7人の拳聖たちは、3人の拳魔の魂を腕輪に封印した。直後、ブルーサ・イーの激気魂が館の近傍にある大木を目指して飛ぶのを見る。大木の最上部にはブルーサ・イーの魂の宿った巨石が置かれており、シャーフーたちはそれを獣拳神サイダインの巨石像に作り変えた。その彫像に用いられたのが、ブルーサ・イーの遺した武器・操獣刀である。

 その後、拳聖たちは拳魔たちの骸をそれぞれの場に葬り結界を張る。マクからは用心の為にイキギモを抜き、それはシャッキー・チェンに預けられた。

 長い時間が過ぎ、拳魔たちを失った臨獣拳は勢力を失い(時の流れと共に多くの臨獣拳士は殉死または自然死を迎えていると思われる)、ゲリラ戦的な戦いこそあったにしろ、臨獣殿の完全なる勢力復活は理央の登場を待つこととなる。

 とまあ、こういった流れになるのだが、如何せんビジュアルが断片的過ぎ、説明台詞が多くを占めるため、直感的に歴史をとらえることは難しい(前述の整理結果ですら誤りである可能性も完全には否定できない)。特にブルーサ暗殺の時期から激臨の大乱までの時間は、殆ど空いていないかのような錯覚を起こし易い描写と構成で語られる(実際には臨獣殿の「地道な」活動期間がある)。また、シャーフー達の台詞にも文節の曖昧な点があり、拳魔たちも獣獣全身変で現在の姿になったのか否かは、その具体的な描写が何一つなく、いきなり獣人態で現れるのも手伝って、今ひとつ判然としない。

 さらには、獣獣全身変を使用した直後の拳聖たちの姿が、既に現在の姿であることにも違和感がある。シャーフーやエレハン達はいいとして、ミシェル・ペングやピョン・ピョウのあまりに「現代的な」服装はいただけない。明らかに時代錯誤だ。

 もう一つ気になるのは、拳聖たちの名乗りに統一性が感じられないこと。ゴリーたちマスター・トライアングルのように、全員に英語による肩書があるともっと良かったのだが。また、シャーフーはフェリス拳使いであることが判明するが、それと同時に○○・シャーフーやシャーフー・○○といった名前も披露して欲しかった。

 些細なあらを捜せば枚挙に暇はないが、それでも拳聖たちが並び立つ迫力とカッコ良さは、問答無用である。あれこれ難しいことを考えずに見るのが、本エピソードの正しい楽しみ方なのかも知れない。激臨の大乱や獣源郷の起源に関する説明を正味25分程度に叩き込んであるのだから、そのテンポに乗っていくことで重厚な歴史を体験すればいい。

 また、拳聖と拳魔の影に隠れがちだが、ゲキレンジャーと理央メレの完全な直接対決が展開されたのは久しぶりのこと。過激気と怒臨気のぶつかり合いは、実力を拮抗させた者同士の戦いとして短いながらも非常に見応えのあるものとなっていた。今回はさらに、ジャンと理央のライバル関係を前面に押し出して強調してきており、2人の因縁にも今後注目しなければならない。ただ、メレが他の4人を相手にする構図は、結構バランスを欠いていると思うが…。これも「強力なメレ様」の現れとしてファンは受け止めておきたい。