その37「ギャンギャン!お見合い問答無用」

 スクラッチに、突如ランの母・伶子がやって来た。ランの顔を見に来たと言うが、実はランにお見合いの話を持ってきたのだ。「宇崎家の決定事項」だとして、躊躇するランを一喝する伶子。

 一方、理央とメレは幻獣拳の起源とその有様について、ロンより聞くことになる。未だ輝かざる幻獣拳の頂点の星・幻獣王に理央が、そして幻獣王の下に集う四幻将の一人にメレが運命付けられていた。幻獣拳使いになるということは、即ち輪廻の苦しみを背負うということだと言うロンに、メレは「それだけ?」と呆気なく応える。ロンはメレの態度にいたく感心し、早速「血盟の儀式」を執り行うことにした。メレはロンの「幻気」を受け入れ、幻獣拳使いとなるが、身体に変化は起こらない。ロン曰く、悲鳴と絶望に満たされた時が覚醒の時であるという。理央はサンヨの双幻士である幻獣ケイトス拳使いのゴウユを街に放った。

 その頃ランは、大学のエリート研究員である村辺カツジとのお見合いの席にいた。伶子の迫力に圧倒されつつ、嫌々お見合いの時間を過ごすラン。ふと外を見ると、ジャン達4人の姿が見える。慌てて外へ出たランは、ゲキレンジャーを辞めるつもりはないが、伶子には逆らえないという苦しい心情を吐露する。ケンは、ある作戦をランに伝授した。その作戦とは「ブーブークッション」と「付け鼻毛」という、ランにとっては屈辱の作戦だったが、ゲキレンジャーを辞めたくないランは根性で実行する。ところが、村辺は逆にそんなランを素敵だと言い、ますます気に入ってしまう。作戦が失敗するやいなや、今度は怪しげな格好をしたケン、ゴウ、レツ、そして裸のジャンが乱入、お見合いの席をメチャクチャにする。伶子は4人をスクラッチで見かけたと言い、「あの会社は貴方に相応しくない」とランを一喝した。ジャンはその騒動の中、ゴウユの気配を感じる。

 ゴウユと対峙するジャン達は、その幻気による圧倒的な力の前に苦戦を強いられる。

 ランはジャン達に合流すべく席を抜け出そうとするが、伶子は長刀を持ってそれを阻止しようとする。だが、ランはスーパーゲキイエローとなり、戦いの場に母を誘う。ランはジャン達を一喝し、キャプテンの根性を発揮してゴウユに対する一発逆転を狙う。伶子は美希からランの現在の道を聞き、ランの戦う姿を見て何かを悟った。伶子の見守る中、見事なチームワークでゴウユを圧倒するゲキレンジャー。ところが、ゴウユは怒って巨大化した。ゲキレンジャーもゲキファイアー、ゲキトージャウルフ、サイダイオーで迎え撃つ。

 一度は苦境に陥るゲキレンジャーだったが、伶子の応援を受け、ランはゲキエレファントファイアーで善戦する。ところが、そこにサンヨが登場。重さを自由に操るゲンギにより、ゲキファイアー、ゲキトージャウルフ、サイダイオーは一蹴されてしまう。恐るべき幻獣拳の力を見せ付けられたゲキレンジャーだが、その決意は一層強くなった。

 そして、悲鳴と絶望を得たメレは、幻獣フェニックス拳使いとして覚醒を果たす…。

監督・脚本
監督
加藤弘之
脚本
横手美智子
解説

 とにかく美保純氏の快演が光る好編。ランのお見合い騒動というシチュエーションからは、バラエティ編の香りがするものの、前回ほど徹底しているわけではなく、臨獣殿側には大きな動きが用意されたりと、大河の一環としても構築されている。

 ところでこのパターン、どこかで見たような気がする。そう、遡ってみれば「太陽戦隊サンバルカン」の第38話「豹朝夫のおやじ殿」という傑作エピソードがある。ここで提示されているのは、親に立場を半ば隠して戦う戦士が、突如親の都合を示され、逆に戦う姿を見せることで自立を示すというパターンだ。今回はまさにこのパターンどおりの展開である。この後も、戦隊シリーズでは何度か親の存在が描かれることになる。

 パターンが安定しているからか、随所に遊びの要素が盛り込まれていて楽しい。

 まずは主役であるランにスポットを当ててみよう。ランが正面きって主役を張るのは、実に「不良少女」のエピソード以来である。新戦士登場から幻獣拳登場に至るまでイベントが目白押しだった為か、ランの影は残念ながら薄かったと言わざるを得ない。今回はそれを払拭するかのようにランの魅力が炸裂している。

 エピソード内でいわゆる「七変化」を披露したわけではないが、今回は場面ごとに様々なコスチュームに身を包んで登場している。普段の姿は言わずもがな、着物姿にウエディングドレス、シャーフーと出会ったばかりのころのトレーニングウェア姿と、楽しませてくれる。イチオシはオマケではあるものの、やはりウエディングドレス。少し照れ気味の笑顔が実に可愛らしい。

 ベテラン女優である美保氏を相手に、臆した様子を感じさせることなく「娘」を演じる姿勢もいい。宇崎家がいわゆる名家であるという事実は突然で突拍子もないのだが、ランを演ずる福井氏の醸し出す「育ちのよさ」がそれに説得力を与えているところが面白い。公式サイトでも言及されていたが、美保氏と福井氏の雰囲気は良く似ており、親子としての違和感がないのもイイ感じだ。

 そして、ランお得意の「根性」が連発されることにも注目だ。最近では「根性」がギャグに使用されていたきらいがあるのだが、今回はそれを見事に返上する活躍ぶりだった。勿論「恥ずかしい作戦」を演じ上げた福井氏自身の根性も評価に値する。ランがキャプテンであることもきちんと継承されており、「情けない男性陣」を一喝する、したたかで爽やかな女性キャプテンという役どころが実に気持ち良い。女性リーダーは「忍者戦隊カクレンジャー」で初めて提示され、「未来戦隊タイムレンジャー」で昇華されたが、宇崎ラン=ゲキイエローは精神的な面でリードする者として、新リーダー像を作り上げたと言えるだろう。まさに体育会系な「キャプテン」という呼称が相応しい。

 さて、「問答無用!」が大迫力のランの母・伶子に注目だ。

 演ずる美保氏は、前年の「ウルトラマンメビウス」への出演が鮮烈。ここで特撮ファンに対し最大限にアピールしたのが「強い母」というキャラクターであった。今回も期待を上回る快演振りで、主役であるランを喰わんとしている。ただし、前述の「メビウス」では本当に美保氏演ずるキャラクターが主役だったのに対し、今回はランを立てる配慮が感じられる。そういう演出意図も一因だろうが、美保氏による「シチュエーションを大切にする姿勢」もあるように思える。というのも、長刀を振りかざすシーンに最もその姿勢が感じられるからだ。

 長刀のシーンは、お見合いの席という状況から考えれば非常に滑稽であり、美保氏のコメディエンヌとしての才覚を存分に発揮できるシーンである。しかし、そこでは軽い笑いに留めておき、あくまでランが説得すべき高い壁としての役割に徹している。故に「強烈な母」というよりは「強く優しい母」という印象を視聴者に与えており、それが即ちランの浴びてきた愛情にまで想像を及ぼすのである。このあたり、非常に上質なドラマの構築を大いに感じるところだ。

 一方の臨獣殿側には、大きな動きが生じた。が、その前に、ロンが語る幻獣拳の構成について整理しておこう。

 幻獣拳は、「幻獣王」と呼ばれる者を中心とする。幻獣王=第一位の周囲には、四幻将と呼ばれる第二位の者が就き、さらに四幻将各々に対して2人ずつの双幻士が就く。幻獣拳には、幻獣王(1人)+四幻将(4人)+双幻士(8人)の計13の流派しか存在しない。13の神秘と幽幻の獣を宿す者、それが幻獣拳使いだ。現在までに登場したのは、ドラゴン、バジリスク、フェニックス、ケイトス、ミノタウロス、そして姿を棺に隠したキメラの6つ。残り7つが存在し、その内の1つが理央に割り当てられることとなる。13という「不吉な」数字、想像上の獣というファンタスティックな響き、そのどれもが東映の伝統芸を色濃く感じさせるものである。古くは「マジンガーシリーズ」や「仮面ライダーストロンガー」などに同様の趣向があり、最近では「魔法戦隊マジレンジャー」の冥府十神にも見出せる。

 その「幻獣王」には理央が就くことが概ね決定し、メレは四幻将の一人となった。無限道に堕ちることを厭わず、幻気(このネーミングは悪役に相応しくない響きではある)を取り入れることにより、メレは彼女に相応しい不死鳥の幻獣拳使いとなったのだ。バエはメレの臨気が必要なのに、幻気でこの先大丈夫なのかという疑問(否、あるいはメレは不死鳥の如く生者の世界へ舞い戻ったのかもしれない)はさておき、その獣人態は実に華麗かつ恐ろしい。カメレオン態の頃のデザインも随所に取り入れられており、メレであることのサインは十分に感じられる。惜しむらくは、人間態の披露がなかったことであるが、それは次回以降に期待したい。