その41「ズシズシ!もうやだ」

 父・ダン、そして理央との宿命を受け入れられないジャン。そんなジャンを、幻獣王・理央とスウグの悪夢が襲う。ジャンは「ウジャンウジャン」な頭の中を整理できずにいた。混乱をきたしたジャンが姿を消したことで、ゲキレンジャー達はそれぞれの感じ方でジャンを心配する。しかし、それはチームワークの亀裂の前兆でもあった。

 理央は、幻獣王自らの出陣を推奨するロンに対し、まずはロン自身が力を見せるよう命ずる。ロンは自分の双幻士であるドロウとソジョを差し向けることにした。頭脳派のドロウと肉体派のソジョのコンビを、「変人コンビ」と呼ぶメレ。それにかまうことなく、ドロウはソジョに先発を頼み、自分は何かの準備を始めた。

 ランの真似をして「ウジャウジャ」を取り払おうとするジャンを見つけるラン達4人。4人はジャンを説得しようとするが、ジャンは「ワキワキではなくズシズシ」故に、もう戦いたくないと言い出した。ゴウはジャンを叩き伏せ、甘えを諌める。それを止めようとするケンは、ゴウと衝突、喧嘩に発展する。そんな折、ソジョが街に現れたと連絡が入った。直ちに迎撃に向かうゲキレンジャーだったが、ジャンは変身すらせず、戦う気が全くない。とりあえずジャンを放り、ソジョに連続攻撃を与えるゲキレンジャー。何故かソジョは攻撃を素直に受け続け、フラフラになってしまう。チャンスとばかりにゲキバズーカを撃とうとするレツだが、ジャンは逃げ出し、ランはそれを追って戦線を離脱。急場凌ぎにゴウとケンがレツと共にスペシャル激激砲を放った。まともに食らったソジョは何故か喜びながら臨獣殿へと帰っていく。ドロウは、ソジョが集めてきた激気と紫激気を幻気と混ぜ合わせ、研究によって作り出した「種」に向けて放つ。飛び散り、「泥粒子」と名付けられた光る粉末を、ドロウとソジョはばら撒きに出かけた。ソジョはこの為にわざと激気による攻撃を受けてきたのだ。

 追いすがるランに、ジャンはゲキレンジャーを辞めると告げ、どこかへ行ってしまう。マスター・シャーフーはそっと物陰からその様子を見ていた。

 ジャンがゲキシャークに乗って無我夢中で逃げてきた先は、故郷の森であった。そこには何故か釣りを楽しむシャーフーが居り、「家出の中にも修行ありじゃ」と告げる。シャーフーは野暮用でここに来たが足をくじいてしまったと言い、ジャンに背負ってもらうことに。ジャンは道すがら、シャーフーにダンの人となりを尋ねる。ジャンは、ダンが立派な男だったと教えられるが、ジャンに理央との決着を託したり、ジャンを森に置き去りにしてしまった結果をとらえ、ダンが自分を大切に思っていなかったのではないかと疑うのだった。

 その頃、街ではソジョが「泥粒子」をばら撒き、人々を苦しませ消失させていた。4人のゲキレンジャーはソジョを迎え撃つが、ドロウがいきなり巨大化して登場。ソジョにランとレツが、ドロウにゴウのゲキトージャウルフとケンのサイダイオーが挑む。戦いを有利に進め、ドロウとソジョを撃破する4人。だが、ロンは不適に笑う。次の瞬間、巨大化したソジョと等身大のドロウが出現する。いつの間にか両者が入れ替わっているのだ。ゲキレンジャーはソジョの作り出した幻を撃破していたのだ。動揺するゲキレンジャー。形勢は完全に逆転してしまった。

 さらにその頃、不甲斐ないジャンに苛立ちを募らせたメレが、ジャンを襲撃しにやって来た。理央に釣りあう器かどうかを確かめると言うメレだが、ジャンは関係ないと突っぱねる。怒ったメレはシャーフーを抹殺すると宣言。ジャンはシャーフーを背負ったままメレから逃げまどう。シャーフーは自分を下ろして逃げろと言うが、ジャンはそれを拒み、さらに逃げ続けた。ダンの技と力を受け継いでいるにも関わらず、ジャンがそれを拒み続け、理央と戦う意志を見せないことに対し、メレは遂に怒りを爆発させる。崖っぷちに追い詰められたジャンは、シャーフーと共に、遂に崖下へ突き落とされた…!

監督・脚本
監督
竹本昇
脚本
荒川稔久
解説

 何と、ジャンの逡巡のみで1話を引っ張ってしまうというエピソード。ダンに対するこだわりと、ジャンに対する接し方の違いにより、メンバー同士の諍いも発生し、ゲキレンジャー内で何度か繰り広げられてきた「チーム崩壊」の頂点とも言うべき展開が用意されている。しかし、それに伴う危機感が薄いのも本エピソードひいてはゲキレンジャーというシリーズの特徴だ。

 ジャンの「戦う原動力」は、前回で分析したとおり「ワキワキ」だという感情であった。そこへダンが今際の際に用意した「宿命」がのしかかり、それを知る理央が執拗にジャンへのこだわりを見せる。ジャンが求めていた家族像は、ランの母であり、レツとゴウの兄弟の絆であり、ケンの妹・幸子であり、美希となつめの親子の絆であった。だが、実の父であるダンが残したのは、ジャンを樹海に置き去りにしたという結果(これは勿論、シャーフーも指摘するように「仕方のないこと」であるが)、ジャンが理央を倒すという予見、ダンの激気魂がスウグという敵になっているという事実、この3つである。ここには、ジャンが求める「ホワホワ」「ヨカヨカ」「ギュギュー」とはかけ離れた、(今は無思慮な)ジャンにとっては迷惑な父親像なのだ。この図式を、ケンがレツに「たこ焼き屋」の話を持ち出して可笑しく解説してみせるシーンがあるが、これは意外に的確な例えであり、いつの世にもどんな場でも、親の思惑が子のプレッシャーとなる図式は存在するものであるということを、端的に語っている。ジャンに過酷な宿命を強いるダンの存在。優しいキャラクターイメージが強烈な大葉健二氏のファンとしては、少々複雑な思いも去来する…。

 「理央様にはあんたしか見えていない」とはメレの言。「あんた」とは勿論ジャンのことである。マクが登場したあたりより、理央がメレのことを気にかけている様子は露ほども描写されなくなったが、それは理央がジャンに対する特別視を強めていったことに由来する。メレのセリフはそれを明らかにするものとして重要なものだ。それにしても、ジャンが自分にとって邪魔なのではなく、理央が満足を得るために立ち直ってもらわなければ困ると考えるあたり、メレの献身愛が特殊性を帯びる。

 少々深読み耽溺な意見となるが、ここでは、与えられる愛に飢えるジャンと与える愛に飢えるメレの対比を描いており、それをメレの一方的な襲撃に託すという構図が見られるように思う。逆に、与える愛に関しては、ジャンはシャーフーを絶対見捨てないという行動で示しており、与えられる愛に関しては、理央の傍に仕えるということに幸せを感じているメレが示していると言える。ゲキレンジャーのテーマが「あらゆる種類の愛」だと断言する気はさらさらないが、少なくとも数種の「愛を名称とする事象」に関しては、善悪関係なく描写に力が入れられているように感じられる。

 さて、テーマ的には非常に重苦しい今回だが、描写は至ってライトだ。

 ダンに接点があることから、ジャンの不甲斐なさに対して真剣に向き合う(あるいは人一倍怒りを募らせる)のはゴウのみ。他のメンバーは、ジャンの性質をよく理解しているのか、怒鳴っても改善しないと決め込むような態度をとっている。中でも、事あるごとにゴウに突っかかっていくケンが可笑しい。前述の「たこ焼き」の例えは軽いジャブ。その後は、ジャンを力ずくで戦場に引きずり出そうとするゴウに対して「紫イモ野郎」と毒づき、戦いの最中でも平気でゴウと衝突する。普通ならば、戦隊メンバーが互いに罵り合う構図は絶望感を誘うものだが、ここでは「いい大人が子供のような喧嘩をしている」ようにしか見えない。これは当然狙って演出されたもので、ジャンの感情に引きずられて必要以上に暗いムードに彩られないよう、配慮された結果である。

 ドタバタ感を彩るキャラクターは、他にも存在する。言うまでもないが、ロンの双幻士で「変人コンビ(メレ談)」、ドロウとソジョである。2人の声は、戦隊シリーズで何度もゲスト声優として招かれ、強烈なキャラクターを一つは担当している稲田氏と津久井氏が怪演。ネットボキャブラリーにまみれたドロウの喋りと、やたらテンションが高いソジョの鬱陶しさが、エピソード全体を強力に牽引していく。双幻士は四幻将と違ってキャラ造形に自由度があるのか、ヘンな言動の者も多いが、このドロウとソジョはタブーやチョウダといったコメディ系リンリンシー並みの言動が特徴で、ソジョに至ってはデザインもあまり幻獣拳らしくない。リンリンシーが跋扈していた際の雰囲気を取り戻そうと意図したものなのか、ロンとのギャップを大いに狙ったものなのかは定かではないものの、「ヘンな奴らだが意外に強い」という感覚の構築には十分成功している。故に、全体的に危機のどん底にある筈のゲキレンジャーだが、何となくそういった雰囲気が感じられない。それが4クールという土壇場にして相応しいかどうかという議論もあろうが、年末商戦をターゲットとするスポンサーの思惑からすれば、あまりにも重苦しい雰囲気によって年少者の嗜好と乖離するのは得策ではなく、ある意味致し方ない面もあるのだろう。

 ところで今回、獣源郷周辺の地理に関して言及があった。獣源郷の近くにはダンの住んでいた村があり、その近くにはジャンの育った樹海があるという。何となくスクラッチのある地から近いような印象もあるが、美希がセスナで、マクが臨怒雲で、ジャンがゲキシャークで飛んでいかなければならないほどの距離があることを忘れてはならない。雰囲気としては、アジアの内陸部に存在する感じか。ゲキレンジャーの劇中世界における地理には様々な不明点や矛盾点が存在するのだが、いずれは何らかの刊行物にて、設定書レベルのものが明らかになるだろう。

 理央が幻獣王となったことで、体制の安定した幻獣拳側。ロンの腹黒い部分が少しずつ滲み出す。早々に理央を出陣させることを望むロン。そんなロンの思惑を知ってか知らずか、ロンに力を見せるよう命ずる理央。両者の駆け引き(というより、思惑通りに進行しないロンの苛立ち)に自ずと期待が高まる。何故理央を幻獣王とし、早々の出陣を望むのか。その謎がクライマックスの重要な鍵であろうことは疑う余地もない。

 今回のED「キャラソン七番勝負」は、レツの担当。曲目は「Just make it out」。レツの一人称「僕」と歌詞中の一人称「俺」が異なることで、少々違和感があるものの、高木氏の歌唱力が高く、美しさを身上とするレツのキャラクター性は存分に表現されていた。