第4話「アイドルはラゴン」

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 前回よりは場面運びがスムーズで、テーマも分かり易い感のあるお話。しかしながら、「ウルトラマン」ではなく「ウルトラQ」のラゴンをフィーチュアした結果、スケールの矮小化に歯止めが効かなくなっているようにも感じられます。

 元々、本シリーズは「少年少女による夏休みの冒険譚」という枠組みで制作されている為、スケールが云々といった議論そのものが成り立たないのですが、今回はクライマックスのバトルで激しくドンパチしていて、逆にこの閑静な町の無関心ぶりが際だってしまい、箱庭の中の限定空間という印象を強めてしまいました。

 実は、典型的な田舎に住んでいる私にとって、周囲を山に囲まれたような場所でこのような事が秘密裏に進行していても気付かないといった事は、結構リアルな感触です。だからといって、ドラマの構造を肯定する理由にはなりませんが、少なくとも、「少年少女による夏休みの冒険譚」で巨大戦が行われても、それが完全にリアリティから乖離した噴飯モノだとは言えない。「演出によっては」の但し書き付きですが。

 問題はやはり「演出によっては」の部分であって、今回のように他所から来た撮影隊が「街」との繋がりを殆ど示唆しないようでは、折角街ロケのシーンがあっても、あるいは街で流れている音楽が聞こえてきても、学校周辺との空間が完全に断絶されているように見えてしまってます。逃げたアシスタント(?)が街中で「怪物を見た」とか触れ回っているシーンがあるだけでも、全然違うと思うんですけどねぇ。街の音楽が聞こえてくるような場所なのに、ジャンキラーの凄まじいドンパチの音が街に聞こえないってのも、どうも...。

 さて、その辺りをとりあえず横に置くと、今回の話はキャラクターのドラマとして比較的まともな作りだったと思います。

 これまでは、割と正体不明な悪人がヒカル達の前にやって来くる事で及ぶ危険に、スパークドールズの力を使って対処していくというパターンでしたが、前回は、健太のヒカルに対する嫉妬心を盛り込む事で、レギュラー陣の心の機微に少し変化を与え、今回で遂に千草を事件の中心に据えてきました。仲良し四人組に見えても実はそれなりの葛藤があるんだよという、結構円谷らしいというか、意外に鬱展開を許容する作風には、本作のポテンシャルを感じる処です。

 今回は、美鈴の衣装替えというバラエティ的なイベント性を押し出す事で、逆に千草の心の闇が強調されるという、印象的な演出が見られます。美鈴の撮影シーンは質感を含めて何となくコントのようなノリでしたが、葛藤する千草を捉えるカットは、どれも寄りと引きの連続を多用した「突き放し」の感覚があり、そこにわざと視聴者の共感を拒むような印象がありました。つまり今回の「ホン」は、嫌がりつつも撮影に応じる美鈴と、それを無邪気に楽しむヒカルと健太よりも、千草に共感させるような内容だったのですが、演出側はその逆を狙っているわけですね。何故そのような狙いになったのでしょうか。

 それは、ラゴンとギンガが対峙するシーンで、ヒカルが言い放つ「お前の心は真っ黒だ」という一言に説得力を持たせる為でしょう。千草に感情移入させると、ヒカル達は総出で千草に謝らざるを得なくなり、ギンガの存在意義そのものが失われてしまいます。それは「夢の肯定者」であるヒカルの存在意義をもスポイルしてしまうでしょう。その点で、本シリーズが模索する「夏休みの冒険譚でウルトラマンを使う」という方針が、いかに困難を伴っているかが浮き彫りになるのです。

 全体的に今回の画面の肌触りが冷たいのは、ヒカルや美鈴達にも共感出来ない上に、千草への共感も拒否されているから。そこに「Q」の音楽好きのラゴンが持つ独特の哀愁が乗っかった処で、空回りするのも当然でしょう。

 ところが、実は今回、ここにホラーコメディの要素が加味されていて、実はそのジャンルとしての「ドライな画面作り」は一定以上の成功を収めているのです。

 ラゴンが、等身大だと滑稽ながらも異様な恐ろしさを発揮する事を最大限に利用し、登場人物を次々と驚かせるのは定石通りで、そこに千草の意志があまり介在していない(自分の執着する音楽に吸い寄せられる「本能」に支配されている)辺りも巧い。千草のウェットな嫉妬心を殊更増幅させるような事はせず、あくまでドライに。この方針によって、千草は事件の後でも元の場所に戻る事が違和感なく出来たわけです。千草というキャラクターにとって、その心の闇をドライな雰囲気で突き放されたのは、結果的にプラスになったと思います。

 ちなみに、先に「ラゴンが空回り」としましたが、この「空回り感」が逆に千草のもどかしさを強調していたのも面白い処で、やはり今回はこの演出で正解だったんでしょうね。

 クライマックスの巨大戦ですが、相手が千草と分かった以上、まともに戦う事が出来ないわけで、前回では違和感のあった「会話」が今回は違和感のない形に落ち着いています。「会話」と書きましたが、実際は千草は黙ったままで、それが却ってヒカルの「説得」を際立たせていました。ここに胸のすくようなカタルシスはありませんが、バランス自体は優れていたのではないでしょうか。ギンガの技も優しいものでしたし。

 このラゴン戦が地味だった反動か、ジャンキラー突然の襲撃では、昔のSEを擁した大爆撃を展開。所々明らかに解像度が異なるライブフィルムが挿入されて「?」となりはしましたが、これまでの鬱憤を晴らすかのような爆破の数々は圧倒的でした。友也の意図は殆ど分からずじまいで、タロウの出番もない、非常にミステリアスかつ唐突な登場でしたが、ジャンキラーの無機質な機能性が不足なく発揮されていたと思います。

 爆破シーンと絡む事がないので、ミニチュア特撮の醍醐味の一つは完全に失われていますが、建造物、特に校舎のミニチュアや道路のセットはなかなか緻密で、高解像度のコンテンツでも、ミニチュア特撮はまだまだ行けると感じました。配置が巧いので、いつものグレーのホリゾントによる狭小感もあまり感じませんでしたね。ただ、1話や2話のような印象的なカットには乏しいという感想も持ちました。ジャンキラー関係の描写は奮っていましたが。

 全体的に、ややシリーズに対する不安を感じる処ですが、次回は豪華な巨大戦に期待出来そうな顔ぶれです。どのように魅せてくれるか楽しみですね。