Mission 29「亜空間への突入!」

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 正に、最終回の一本前といった趣。

 ただ、圧倒的に不足しているのは、敵側の物量でして、「最終編における敵側総力戦に対抗する為の突入」というシチュエーションではなく、あくまでメサイアの実体化を防止する為に、亜空間内でメサイアをシャットダウンするという状況。実は通常の「特命」の延長線上にあるもので、そういった感覚がまたクールであるとも。

 逆に主役側のドラマ的には、正に最終編のような盛り上がりで、黒木司令官をはじめとする、サポート人員が見せる絆の深さも含め、特にヒロムの感情を極限まで盛り上げていく演出が熱いです。特命部からすれば、メサイアのシャットダウンは最終目標の一つであり、そこに「亜空間内に存在する人々を救う」という、当初の予定になかった目的意識が加わっていて、今回はその両者を一度に解決するかも知れない「特命」になっているわけです。ヒロム達の意識が自然と高揚していく事に、容易な感情移入が見込めるでしょう。

 今回は、亜空間突入を察知したエンターが、それを寸前で阻止しようと、暗躍ではなく正面から攻めてくる辺り、ヴァグラス側の本気度も感じられるわけで、戦闘モードのコスチュームに身を包んだアバター二人も大きな見所になっています。

 そんな感じで、かなり速いテンポとメリハリのある演出によって、息もつかせぬ展開になっている本編ですが、少々惜しい点もなきにしもあらず...。

 今回の素晴らしい点を挙げれば、本当にキリがありません。

 しかし、特に目立った処を挙げると、自然にヒロムとエンター関連になるでしょう。

 ヒロムの「熱さ」は、これまで割と意図的に避けられてきたように思います。というのも、「ゴーバスターズ」がスパイアクションに立脚する企画であったが故に、クールな人物像が求められたように思われるからです。しかしながら、周囲との関わりが深くなるにつれ、ヒロムの精神を取り囲んでいた氷壁が少しずつ溶け、感情表現も豊かになってきました。

 今回、亜空間から父の肉声が届いたと知り、また、亜空間に突入せざるを得ない状況になって来た事を認識するや、一気に肉親との距離感を縮めていったヒロム。ここでやや冷静さを捨てたような描写を経て、作戦遂行に至って冷静さを取り戻し(この辺りがプロフェッショナルな感覚でカッコいい)、エンターとの戦闘に際してまた感情を爆発させるというプロセスを経ています。つまり、ヒロムの感情の温度感は、急上昇と降下を繰り返しており、それがヒロムの内に秘めたる「熱さ」を巧く描写していました。

 興味深いのは、これまではエンターをあくまで「特命」の対象としてクールに見ている感覚があったのに対し、今回は「うんざり」といった負の感情で表現し、更には、亜空間突入を邪魔しようとする行為に対して、怒りを伴った決意をぶつけている処でしょう。3クールに入るに至って、ようやく私情が戦いの中にイデオロギーとして介入する瞬間が訪れたとあって、特に80年代の特撮を愛するファンは、溜飲を下げたのではないでしょうか。

 ヒロムのこの一連の描写は、マスクオフ演出も相俟って、肉親に手が届くか否かのギリギリの駆け引きの上で、駆け引きに勝利する要素が「冷静さ」ではなく「感情の爆発」であるという答えを出しています。何故なら、エンターに破れたヒロムを立ち上がらせたのは、肉親への希求に他ならないからです。「特命」を絶対に成功させるというプロ意識よりも、私情が優先されたからこそ、倒れても立ち上がったわけで。この辺り、宇宙刑事シリーズが非常に意識的に取り入れていた部分で、「シャイダー」に至っては、相棒のアニーの命を救う為に燃やした感情が、突破口を開き、最高の私情が悪の滅亡に繋がるという展開が最終回に待っていました(クゥーーー!)。

 面白いのは、ただ単に「ウォーーーー!!」での形勢逆転(90年代〜2000年代初頭の特撮に多い)ではなく、ニックが現れて、戦いを挑むヒロムに加勢した事。この処理は実にクールであり、エンターに勝てる要素が殆ど皆無だったという状況が、ちゃんと継続していて見事だったと思います。お約束として、ヒロムが危険を冒して現れたニックを詰るわけですが、ニックは「おまえの13年は俺の13年だ」と返し、ここに至って遂に二人は一心同体の境地に達したのも、素晴らしすぎる処です。

 一方のエンターは、とにかく狡猾で、それでいて「余裕を装っている」感覚が秀逸。

 実はエンターにとってもギリギリの防衛戦である今回。まぁ、ラストで亜空間内での阻止を嘯いており、グレートゴーバスター突入前の時点が真にボーダーラインだったわけではないのですが、流れと演出の巧さによって、それを感じさせない「必死さ」を醸し出していました。

 当初はもてあましていた感のある、戦いのみを好むエスケイプを手駒として使い、自身は亜空間突入の要であるヒロムを狙うという、理に適った作戦の狡猾さ。寄り道なしで、それを忠実に実行しようとする実直さ。今回ばかりは「スパイアクション的なドラマ」の主役はエンターだったと思います。

 そしてアクション。所々にスタンドインが用いられてはいるのですが、大部分の激しいアクションカットを自らこなし、目の演技を併用してレッドバスターを追い詰めていく素晴らしさ。ワンカットワンカットが息をのむような高速アクションであるのに加え、コード状の触手をCG合成で処理する為の仮想演技を随所に加味しなければならない、難易度の非常に高いシーンであった事に、異論はないものと思います。実に素晴らしい。

 3クールに至るまでに、成長してきた両者がぶつかる瞬間のテンションは半端ではなく、正にクライマックスの熱量!

 さて、その熱量の中で、やや惜しいと感じられる点も挙げてみましょう。

 一つは、グレートゴーバスターを守る為、黒木司令官以下、サポートメンバー達がヴァグラスと対峙するシーン。このシーン自体、「絆」というテーマを体現するものとして、物語上重要な意味を持っており、実際にレギュラーメンバーの素晴らしい熱演によって、それは概ね達成されています。しかし、ややリアリティに欠けていたように思います。

 というのも、陣が登場した際までは実感出来ていた大規模な人数が、妙にアッサリと少人数化したような印象になってしまったからです。実際にヴァグラスとの戦闘に参加した人数については、イチガンバスターの配備数に限りがあったと考えれば納得も出来るのですが、他の人員に関する描写が皆無なので、あのドックに居た人員が、あれだけだったように見えてしまう。班長に逃亡を促されるとか、隔壁の操作に回るとか、そういった描写があれば...と思いました。まぁ、それは贅沢ではありますが、せめて敬礼のシーンで人員を増やしてくれれば...。

 また、これは現在の放送コード上困難なのかも知れませんが、その他大勢のメンバーに一人も負傷者が出ていないというのも、何となく切羽詰まった感覚が薄い原因になっています。流れ的には「死守した」という事なのですが、どうもそこまでの迫真を感じられなかったわけです。エスケイプが「撃つ気にもならない」と吐き捨てて退却する際に、安堵の感情があまり流れていないのも、その辺りに原因があります。

 もう一つは、メサイアの描写。

 実体化する段では、エンターの頭上で大規模に行われているかのような描写になっており、てっきり私はメガゾード級の大きさを伴って実体化するものと思っていました。ところが、実際に登場したメサイアは等身大戦に適応した大きさであり、少々肩透かしを食らってしまいました。

 元々、メサイアがエンターと会話する際にも、巨大なドクロのようなイメージだったわけで、実体化するならば、そのドクロに見合ったスケールの身体が与えられるものと、普通は考えてしまいます。ところが、登場したのはメタロイド級のスケール。勿論これは、等身大戦で決戦を行うからこその措置であると分かっていますが、ちょっと納得しかねる部分でしたね。

 まぁ、これらはあくまで些細な事でして、全体的な完成度をスポイルするようなものではありません。

 最後に、次回への引きの部分をまとめておきましょう。

 一つは、「創造する者達」が、メサイアにメガゾード建造を強要されている、センターの人員であると半ば明言された事。エンターの言う「裏切り者」が、ヒロムの父に該当する事はほぼ間違いないでしょう。

 もう一つは、陣がヒロムの父をはじめとする人員が、現在どうなっているのかを隠していた事。「行けば分かる」とした陣の突き放し具合の根底に、悲劇的な要素が流れているのは、こちらもほぼ間違いないと思われます。

 この事から、次回で一旦ヴァグラス戦に決着をつけた後、新展開として、ヒロムの父親達に関する展開を用意しているのではないかと予想。「防衛戦」から「探索」に軸足を移していくのではないでしょうか。まぁ、この辺りは話1/4くらいでお願いします(笑)。