Mission 33「モーフィン!パワードカスタム」

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 なかなか面白い時期におけるパワーアップ編...なのですが。

 ぜ、絶望的に面白くない!

 前回の妙なテンションダウンを、そのまま引きずっているような感覚で、折角のパワーアップ編も空回りしてしまったようです。

 物語の基盤となっている「仕掛け」の数々はいいと思うのですが...。

 その「仕掛け」の数々、実は往年の東映特撮ドラマの要素を巧く昇華したものでした。

 まず、メサイアのバックアップを13枚のカードにし、それぞれが偶発的に強力なメタロイドとなって現れるという趣向。この辺りは、「フラッシュマン」のデウス遺伝子を有したデウス獣戦士に通ずる感じで、ボス自体のパワーを分け与えられた怪人軍団という、ワクワク感があります。

 また、13人の最強軍団という意味では、数は異なるものの「仮面ライダーストロンガー」のデルザー軍団にも通じる感覚です。デルザー軍団編は、仮面ライダー史上、最高のテンションで展開されたものだと、勝手に思っていますが、危機また危機、悲壮感、相棒の死、パワーアップ、歴代勇士の集合...といった、凄まじいまでの盛り上がりで、第一期ライダーシリーズを締め括るに相応しい完成度です。

 しかし、今回のエンターが示した13のカードは、そこまでのワクワク感やテンションはありません。

 その理由を考えてみたのですが、メサイア自体がその圧倒的な力を見せたのは、たった1.5話程度で、後はエンターによってあしらわれているシーンしか思い浮かばない。つまり、メサイアは恐ろしくもないし、実質エンターの方が格上として扱われているように見えるからではないかと思います。

 さらに、最強のメタロイド軍団という触れ込みの割には、そのスケールが異様なまでに小さいのも問題。

 いきなり砂時計がモチーフというのも、ちょっとどうかしている感じ(もっと物騒なモチーフにしてくれ!)ですし、一斉にメタロイドが13体現れて「ヤバさ」を描写するならともかく、今までとあまり変化のない(=敵側のパワーアップがビジュアルで分からない)砂時計の怪人が現れた処で、全く説得力がないわけです。赤い右腕だけじゃ分からないよ。どうしてこうなった...。

 確かに、魔空空間を研究したかのような、現実世界に突如出現する蟻地獄や、蟻地獄に引きずり込まれた者が直ちにデータ化され、メタロイドに蓄積されるというアイディアは良いです。しかし、データの蓄積先が最前線で動くメタロイドである意味もよく分からないし、一話であっさりニックが奪還される辺りも、盛り上がりという点では大コケに値するように思うわけです。

 続いての「仕掛け」は、相棒奪還ドラマ。これについては、枚挙に暇がないので割愛したいと思います。強いて挙げるならば、「シャイダー」にはこのテのいい話が詰まっています。

 で、この相棒奪還ドラマに「パワーアップの種」を絡ませたのは、抜群のアイディアだと思います。しかし、やっぱり出来れば一話で簡潔に描かないで欲しかったですね。この時期、バディロイド達との絆に関する話は、もう耳タコに近い程描写され尽くした感もあるので、このくらいが丁度良いと思う向きもあるとは思いますが、この期に及んだからこそ、ニックがパワードカスタムに際して恐怖を感じて逡巡するとか、深くて濃い葛藤ドラマが生み出せたのではないかと。前提として強い絆があるからこその葛藤とか、パワーアップ編にピッタリだと思うのですが...。

 ヒロムがニックを救出する為に、再び立ち上がるシーンは、熱さと芝居のテンションの高さ、そして黒木司令官の確信といったカットも相俟って、抜群の効果を上げた名場面となりましたが、如何せんヒロム「だけ」のドラマになってしまい、パワーアップのキーパーソンであるニック側のドラマがあまりにも希薄だったように思います。

 もう一つの「仕掛け」は、いわゆるパワーアップ合戦の要素。

 これについては、「仮面ライダーX」、ひいては「変身忍者嵐」辺りからずっと続いている要素ですから、それこそ枚挙に暇がないどころか、もう当たり前の要素になっているわけですが、やはり一話で片付けられてしまった事(巨大戦におけるパワーアップが残っていますが、それはまた別の話)自体が残念。

 そもそも「仮面ライダーX」のパワーアップも一話で解決してますが、そのエピソードは、それまでのライダーが行ってきた「特訓」を「改造手術」に置換しただけであり、「改造手術」の前に死にかけているという、「死と再生」を思わせる描写が加わっている為、一話で完結していても違和感は皆無です。

 パワーアップの流れが変わってきたのは、「ゴーグルファイブ」や「ダイナマン」辺りで、新必殺技を生み出すに至るまで、数話を費やしています。以後、パワーアップ編は大きな盛り上がりを企図して挿入されるようになりますが、近年はマーチャンダイジングのスケジュールがより過密になっている為、この辺りがスルーに近い軽さになってしまったのは、少々残念ですね。

 折角の、バディロイドの力がないと機能しないパワーアップという、ビジュアル面でも説得力に富んだ設定でありながら、今一つ盛り上がらなかったのは、ゴーバスターズに降りかかる「絶体絶命の感覚」が薄すぎたからでしょう。一話で片付けるなとは言いませんが、もっと追い詰めても良かったのではないかと思います。メサイアカードのメタロイドの強さが印象に残らないのも、その辺りに原因があります。

 パワードカスタムの、マテリアライズを駆使した奇想天外なアクションは、非常に面白く、見応えがあったと思います。正にセンス・オブ・ワンダーの塊であり、チーターに変身して突撃したり、鉄骨や巨岩を作り出したり、空中を自由に駆け抜けたりといった、拡張現実をリアライズしたような映像は、作品世界にも完璧にマッチし、さすがといった処。

 しかしながら、その能力の殆どをバグラーに対して使っていた上に、しかもバグラー自体のパワーアップには全く言及されていない為、物語終盤で、わざわざスタート地点のスライムをギガスラッシュで倒しに行くような感覚で見てしまい、やや興醒めしてしまったのも事実。

 というわけで、あらゆる面で基盤を活かしきれない構成が残念。いつもながら、芝居も含めたビジュアルだけはハイパフォーマンスなんですけどね...。

 この先、大丈夫なのだろうかと心配になってきました。エスケイプの登場(しかも、エンターの目力の前に虚ろになるエロティシズム!)は素直に嬉しいんですが(笑)。