Mission 9「ウサダ奪還作戦!」

  • 投稿日:
  • by
  • カテゴリ:

 文句なく面白いエピソードだったと思います。前二話分が、私としては少々物足りない印象だったので、溜飲が下がる思いでした。

 ある意味、大局的には「どうでもいい事」が発端となり、それがどんどん事態を悪化させていく様子と、それに頭脳と反射神経で対処していく爽快さが一緒になり、盛り上がっていました。その「どうでもいい事」がヨーコ関連で、しかもエピソードの最初と最後で全く成長も変化もないという、いかにも挿話的なエピソードなのも良い。

 こうした「関係者の誘拐モノ」は、割と多用されるパターンだとは思いますが、あんまり戦隊シリーズでは見ないようにも思います。その辺も含めて続きの方で見所を。

 戦隊シリーズにおける「関係者の誘拐モノ」の白眉は、私の独断と偏見で「ゴレンジャー」の第31話「黒い挑戦状! 怒れ五つの正義の星」に決定。

 このエピソードで誘拐されるのは、江戸川総司令。黒十字軍には完全に総司令としての正体を隠蔽していて、表向きはスナック・ゴンのマスターであるが故に、ゴレンジャーの駆け引きが見応えたっぷりに描かれます。江戸川総司令のトボケっぷりに加え、あくまで表向きには「ゴンのおっさん」としか扱わないゴレンジャーが可笑しく、しかも凄まじい緊張感が漲っているという、スパイアクションの醍醐味に溢れた傑作エピソードです。

 救出後も、何かと指示を出したがる総司令に、アオレンジャーが釘を刺す等、セリフ回しも痛快そのもの。「ゴーバスターズ」と比べると、アラは色々と目立ちますが、そんな事がお構いなしになる程の勢いが「ゴレンジャー」には存在する為、不思議と気にならなくなってしまいます(笑)。

 他にも「バイオマン」に第7話「つかまったピーボ」という傑作があったりしますが、戦隊シリーズ全体的には、「誘拐モノ」で印象に残っているエピソードは、あまり存在しません。

 今回の「ウサダ奪還作戦!」は、「誘拐モノ」の傑作として挙げて良いのではないでしょうか。事件の発展していく様子や、そこに絡んでくる個々人の事情が巧く機能している上、さらに「作戦」が前面に押し出されているのも高ポイントです。

 また、これまでのエピソードでは、割と使命感やチームワークといったテーマ性がギスギスした感触を作品に与えていましたが、今回はヨーコの高校生らしいプライベートが描かれ、しかも特命部の面々が少しずつ関わっている可笑しさが強調されており、非常にウォームでライトな雰囲気に仕上がっています。こうした雰囲気の開拓は、長期シリーズにとって必ずプラスとなるので、1クール消化前に挿入されたのは賢明だったのではないでしょうか。

 細かい部分で感心したのは、ヨーコが勉強から逃げる為に、日頃からあらゆる策を用いているというウサダ談で、それが今回のメインとなる「作戦」の立案に繋がっている処。学校の成績がイマイチである事が判明したヨーコでしたが、そのヨーコが立案した作戦が採用された処をみると、その作戦が司令官のお眼鏡に適ったという事になり、日頃から学校の勉強以外の部分で作戦立案能力を研鑽しているという結論に至るわけで、実に可笑しいわけです。最も作戦立案に適していると思しきリュウジではなく、ヨーコだという「ずらし」も見事です。

 その「作戦」、内容もさる事ながら、立案シーンが実に素晴らしい。

 年季の入ったスーパー戦隊ファンなら膝を叩かれたのではないかと思いますが、ミニチュアを手で動かして作戦を立てる様子が、「デンジマン」や「サンバルカン」で、敵側が作戦立案する際に用いた手法に酷似していました。この敵側の作戦会議、どこから入手したのか、ポピー(現・バンダイ)の各種トイが使用され、そのミニチュアとしての違和感のなさが、逆に当時の子供達への販促に繋がったのではないかとさえ、今となっては思われるわけです。使用されるミニチュア全てが超合金やDXを冠する商品というわけでもなく、ロボにジャンボマシンダーが使用されたり、マシンにポピニカが使用されたりといった、適材適所なブランド選択が秀逸でした。

 今回は正義側で、しかもミニチュアはタンクローリーとウサダっぽい物体のみでしたが、今後、同様の作戦会議を、しかもトイを使ってやって欲しいものです(笑)。様々な面でハイテク化された特命部に於いて、この極限のアナログ感というか、建造物のハコをわざわざ作った手間暇が想像される可笑しさというか、そういったスパイシーな温かみに、しばしホッとする瞬間でした。

 さて、当初の誘拐犯として、まいど豊さんが出演されていたのが、個人的に印象深かったのですが、何故かと申しますれば、「ウルトラマンメビウス」にマル補佐官秘書役でレギュラー出演されていたからです。「メビウス」は、上官に当たる人物が珍しくギャグ担当だったシリーズですが、マルの鋭いツッコミととぼけた味は、良いムードを作品に与えていました。今回も、その味が遺憾なく発揮されており、当初のウサダ誘拐が、後のエンターによる誘拐行為と抜群のコントラストを成していました。

 エンターは、前回のような出で立ちで可笑しさを誘う演出こそなかったものの、一瞬、「してやられた」と知って激昂するシーンが設けられる等、キャラクターに拡がりを持たせているように見受けられました。しかしながら、その怒りが陳腐なものに堕す事はなく、しっかりと軽口で退場する等、イメージの保全に努められていた事は、特筆しておくべきでしょう。

 ヨーコ立案の作戦においては、オペレータである森下トオルと仲村ミホが、遂に現場に参戦。といっても、それぞれヒロムとヨーコに変装するという役割でした。それでも、二人ともよく本人に似ており、エンターでなくとも騙される事請け合い(ヒロムはわざとバレるのが前提でしたが)。予想外のエンターによるメガゾード起動に際しても、ヒロムの機転により、現場を離脱したと見せかけて、ウサダ救出にギリギリながらも万全を期す辺り、頭脳的で見ていて気持ちが良いです。しかも、バスターマシンの動作自体は、ニックやゴリサキでも何とか行えるとあって、「三人+相棒三人」の六人体制をケレン味たっぷりに宣言するシーンでは、これぞ戦隊シリーズの「熱さ」といった部分を体現。徐々に、「振り切ったリアル路線」から、従来の戦隊シリーズの雰囲気を導入していく意図が垣間見えます。

 この部分、等身大戦をエンターとのバトル及びウサダの救出に充てる事で、巨大戦をニック達に任せているわけで、その意味では、「ゴレンジャー」における新命=アオレンジャーと、他のメンバーによる空陸二面作戦のブラッシュアップとも解釈出来ます。またこのくだりでは、ヨーコが泣くシーンも用意されていましたが、以前のリュウジ暴走に対する「泣き」と明らかに異なる泣き方が秀逸で、実に感情移入しやすい名シーンとなっていました。

 巨大戦は、バンクシーンの非常に巧い使い方に加え、新撮部分については主にオープン撮影で制作されており、スピーディな場面転換と相俟って、やはり大充実でした。三体それぞれが活躍する事で十分に事態収拾が可能な場合は、ゴーバスターオーに安易に合体しないという方向性も素晴らしいと思います。

 エピローグは、司令官がヨーコの宿題を「模範解答」でサポートする等、コミカルなシーンで締め括られました。司令官の冷徹なイメージは、初回よりエンディングのダンスで壊れてしまっているわけですが(笑)、劇中でも、少しずつ崩しにかかっているように見受けられます。作戦遂行中と、そうでない時のギャップは、一般的な会社組織なんかでもごくあり得る話で、そういった描写の積み重ねが重層的なキャラクターを生むわけです。ましてや、司令官を演じている榊さんの演技力は素晴らしいわけですから、言わずもがなといった処ではないでしょうか。

 次回は、ヒロムの姉が再登場。ヒロムのプライベートが、どう変化するのか、楽しみですね。