Mission 10「戦う理由」

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 ヒロム編...というより、ニック編。

 ヒロムの姉・リカのニックに対する嫌悪が、1本のエピソードで解消されてしまうのは、やや性急な感もあるものの、練られた構成と感情移入しやすい演出(ヒロムより、スーツキャラであるニックに感情移入しやすいという凄さ!)、爽やかな余韻のあるエピローグ等の要素で、納得させられてしまいます。

 加えて、戦隊シリーズの定石をなぞった随一のアクション編としても成立しています。

 続きでは、その辺りも踏まえて、見所を挙げていきます。記事が短い理由については、察してください(笑)。

 冒頭から素面アクションとスーツアクションの二本立てで、大立ち回りが大充実。ヒロイックな変身シーンも挿入され、一気に従来の戦隊らしさに歩み寄った印象でしたが、土壇場でリュウジの熱暴走が発生。ダーティなファイトによって迅速に事態が収拾していくという、逆にお約束を打ち破る楽しい構成になっていました。ここでのアクションは、絶妙なカット割りを以て成立している、いわゆる「立ち回り」が主体になっており、各人の特殊能力をフィーチュアしつつも、やや泥臭い印象でまとめられています。

 一方で、後半のヒロム VS ダンガンロイドの一戦では、エフェクトを多用した「超高速戦」仕様。このコントラストが素晴らしく、アクションをふんだんに織り込んだエピソードを飽きる事なく見せています。そして、アクションの狭間にヒロムとニック、そしてリカのドラマを挿入する事により、際立たせているのは見事です。

 後半戦についてもう少し。

 レッドバスターが人間故に疲れを見せ、徐々にスピードが落ちてくるという設定がリアルで、ある意味凄絶。そしてそれをカバーする為に武装を放棄、さらに放棄したのが見せかけであり、瞬時に組み立てた戦術で逆転勝利を収める等、ヒーローアクションの枠を軽々と超えてみせる演出が素晴らしすぎました。

 また、この後半戦のメインは、いわゆる等身大戦ですが、GT-02によるメガゾード制止限界が迫るタイムリミットのシチュエーションと、エンターによって操られた人々の安全確保に奮闘するヨーコとで、三つの戦線が並行する形となっており、この立体的な構図が「ゴーバスターズ」ならではとなっています。今回はメガゾード戦をゴーバスターオーで締める必要があるよう仕向けられており、これら三者三様の戦いがゴーバスターオーの活躍に収斂していく様子は、高いカタルシスを与えていました。

 これは、「デルタニウム39」が結果的にエンターによって奪われてしまうという、ある意味特命部にとっては作戦失敗とも言える成績になってしまった事で、カタルシスをスポイルされる状況に対応したものと思われます。また、榊によって「犠牲者を一人も出さない」という特命が強調された事により、件のデルタニウム防衛に代わる「成果」が導出されているのは、興味深い処です。

 要は、ここ数件の特命部の「失態」は、恐らくヴァグラス側の新戦力、ひいてはゴーバスターズ側の新戦力登場への布石となるわけですが、ここはやはり戦隊シリーズであるが故の宿命と申しますか、この辺りの「失態」については巧みに隠されているような気がします。物語自体も、「多少の犠牲を出してでも、戦略的に不利な状況は排除する」という、リアリティのある判断を弱め、「人の命や生き甲斐といったものを最優先にする」という、日本的にヒロイックな展開を重視しているようです。「ゴーバスターズ」はリアルな世界観を強調したシリーズですが、テーマは前述の通り「日本的にヒロイック」であり、今回のサブタイトルにあるヒロムの「戦う理由」も、これ以上人々が離ればなれにならないように...という願いである事が示すように、特命部とヴァグラスの全面戦争という雰囲気を、意図的に避けている節があります。

 この辺りを「ヌルい」と感じている方も大勢いらっしゃるとは思いますが、今回のように、ドロドロした愛憎をスカッと片付けてしまうスピード感自体、戦隊シリーズの伝統美であり、そこを外しているシリーズは基本的に存在しません。キャラクターが大勢登場するシリーズであるが故のスピード感を、「ゴーバスターズ」は巧く踏襲しつつ、新しい要素を積極的に取り入れようとしているのではないでしょうか。

 さて、今回の主役はほぼニックだと言っても過言ではないわけですが、スーツアクターである浅井宏輔さんの「繊細なオーバーアクション」が光っており、無機質な外観の中に、「ヒロムとリカの間の溝をどうにかしたい」という苦悩がちゃんと見えて来るという、素晴らしい演技・演出でした。そして、そこにさらなる命を吹き込む藤原啓治さんの声。もう、この方以外にニックの声は考えられない程ハマっています。ちょっとお節介なキャラといった雰囲気も抜群で、感情表現が下手でぶっきらぼうなヒロムの相棒たる存在感が、1クール消化目前にして完璧な完成度を見せていました。

 方向音痴であるが故にリカのイラスト展に辿り着けない可笑しさ、作戦中にリカを連れて来るという「戦略より人情」なポリシー(ヒロムに叱責されるのがまたイイ)、饒舌でないヒロムに代わって饒舌にリカを説得しようとする様子。全てがヒロムとは良い凸凹コンビたる資格を示しています。赤いチーターとしてリカのイラストに描かれる幕切れも、非常に可愛らしくて良かったと思います。

 巨大戦は、防衛戦がメインとなっている為、かなり新鮮な趣。GT-02がスーツによる奮戦を見せるのは嬉しい限りで、ゴーバスターオーの派手な戦闘と見事なコントラストを示していました。RH-03はオープン撮影が多用されており、屋上で戦闘を展開しているヨーコとの場面的融和が高くなっていました。また、この屋上からの遠景にて、メガゾードとGT-02の戦闘が展開されているという地続き感も抜群。断絶のない等身大戦と巨大戦の醍醐味が堪能出来る名シーンでした。

 次回は、今回のリュウジの熱暴走が伏線となるのか、遂にウイークポイントが狙われる展開!