第10話「トランプ勝負」

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 サブタイトルからして、「ジャッカー電撃隊」を想起させるエピソード。もしかして、丹波義隆さん、あるいは宮内洋さん登場か? と、思わなかったと言えば嘘になりますが、ビッグボンバーだけでも満足でしたね(笑)。まぁ、サブタイトルは全く「ジャッカー」のパターンを踏襲してませんが。踏襲するなら、「2ペア!トランプ勝負」とかになるでしょうか。

 今回は、ジョーとルカを組ませて、スパイ戦を仕掛けるという筋立てで、敵地潜入という、最近の戦隊ではあまりお目にかからなくなったシチュエーションで展開されます。

 初期戦隊、特に「ゴレンジャー」から「バトルフィーバー」までは、こういったスパイ戦が多く、「デンジマン」は民間人の戦隊だった事が影響してか、そういった要素は盛り込まれなくなりましたが、この醍醐味は宇宙刑事シリーズに継承されたと考えられます。今回、ジョーとルカが潜入作戦をとる事で、往年のスリリングなストーリー展開を見せる事に成功しており、更に一捻り加える事によって、海賊戦隊の知性の面が活写されたのは、見事だったと言えるでしょう。

 単なるスパイ戦ではなく、コミカルな味もふんだんに盛り込まれ、「ゴーカイジャー」としての特徴も確保。やはり、先輩ゲスト編でないエピソードの完成度は、水準を大きく超えていると評価出来るでしょう。

 続きの方で、詳しく振り返ってみたいと思います。


 適材適所。正にこの言葉がピッタリ。今回の展開において、ジョーとルカという組み合わせは、少なくともこの時点ではベストの組み合わせだったと言えるでしょう。

 特に巧いのは、ジョーがザンギャックの裏切り者であるという点を生かしている事。

 古い話に少々お付き合い頂く事になりますが、「ゴレンジャー」でスパイ戦が多く展開出来たのは、バックにイーグルという巨大な組織があり、常に黒十字軍と情報戦を繰り広げていたからです。つまり、ゴレンジャーの5人は、イーグルが得た情報を前提として、超精鋭前線部隊として作戦を遂行していたわけで、捜査を一から担当する事は、むしろ稀でした。事件が起これば、その手がかりはイーグルが調査し、ゴレンジャーの5人はそれらの情報を総合して作戦を立案し、黒十字軍のアジトを崩していく。そういう展開が多かったように思います。何しろ、劇場版含めて90話近いエピソードがあるので、見落としはあるかも知れませんが、とにかく、「ゴレンジャー」が「スパイ大作戦」を企図したものであるのは明らかで、その「スパイ大作戦」も、前提として事前調査が済んでおり、精鋭チームが作戦を遂行するドラマでした。

 この「基板」は、シリーズを経るに従って段々と曖昧になります。明確に変化したのは、「バトルフィーバー」。シリーズ序盤が「刑事モノ」をかなり意識していた為、捜査の段階から動く事も多く、差し詰め「エゴス担当特命係」の様相を呈していました。

 この傾向は定番となり、この点から、スーパー戦隊シリーズのストーリー構造的な基盤は、むしろ「ゴレンジャー」より「バトルフィーバー」だという事が指摘出来ると思います。

 今回は、珍しくも敵の内情を熟知した上での作戦を展開しており、「ゴレンジャー」的傾向の再現として、強く注目に値する内容でした。いわば、ジョーがイーグルの情報員の役割を担っていて、ジョーの事をよく分かっているマーベラスの機知が、優秀な司令官のそれだったわけです。

 そして、ルカの使い方も巧い。

 ルカが本気を出せば、カードゲーム(ここではポーカー)に滅法強いという事でしたが、その「本気」とは、「イカサマ」である点が素晴らしいのです。ルカはとにかく「正義の味方」の匂いが希薄で、こういったキャラクター付けが物凄く良く似合います。

 同様にヒーローへのアンチテーゼを徹底した傑作キャラクターとして、「ジェットマン」のブラックコンドル=結城凱が居ますが、ルカにはそのエッセンスが感じられますね。凱もまた、敵相手に大イカサマをやっています。ルーレット勝負で建物ごとロボットに傾けさせ、玉をコントロールするという、ルカでさえも到達出来ないようなイカサマ師っぷりが印象に残ります。

 さて、潜入作戦では、コミカルな要素の導入も忘れられていません。ゴーミンへの変装があんなに安易なもので大丈夫なのかという...(笑)。この有り得ない変装というシチュエーション、既視感があったのですが、「ゴーオンジャー」だったか、「シンケンジャー」だったか...すみません、忘れました。とにかく、笑わせるにはこういう基本的なことで充分であり、今回充分面白かったので、良かったと思います。

 変装では、ルカの脚が素晴らしかったですねぇ。すみませんね、エロオヤジっぽい発言ばかりで(笑)。

 あと、全体的にコミカルな味付けとして効いているのは、「トランプ」です。

 あまりに自然にやっているので、見落としがち(?)ですが、これって、地球の「トランプ」ですよね(笑)。勿論、無粋なツッコミはしません。というのも、あらゆる要素を総合して、地球のトランプが最も適格ですから。

 まぁ、こんなのが有益とは思えませんが、一応その「弁護論」を展開しておきましょう。

 まず、トランプじゃなかったら、はっきり言って宇宙のカードゲームなど、我々が知る由もなく、勝ったか負けたかさえ分からない。勿論、「スター・トレック」の「立体チェス」等、優れた架空のゲームは沢山ありますが、戦隊シリーズでここまでやると、そちらがメインになってしまい、ストーリー自体が空っぽになってしまいます。

 続いて、トランプは「ジャッカー」のモチーフであり、戦隊ファンにもアピール可能であること。ジョーが「スペードのエース、来い!」のセリフには、ニヤリとさせられた方も多かった筈。

 さらに、これはある意味好意的な詭弁ですが、トランプ自体が宇宙で普遍的な文化であっても、それ程ヘンではないという事。だって、皆日本語喋ってるじゃないですか(笑)。こういった部分は、何もリアルである必要はないわけです。今回リアルだったのは、ルカのイカサマの鮮やかさであり(プロのマジシャンが参加)、それで充分です。

 この「トランプ」、ジョーの転生の勝負強さと、ルカの策士振りを描くだけでなく、マーベラスのゲーム才のなさも表現しており、これがまた面白いのです。マーベラスは、実際の戦闘となると滅法強く、また今回は、ジョーとルカを囮とする作戦をまんまと図に当てており(しかもジョーとルカの行動を予測した上で利用しています)、戦闘力と戦術力を兼ね備えた優秀なキャプテンですが、ことゲームとなると気を抜きすぎているのか、全然ダメらしい。このギャップがいいのです。

 ところで、私が最も感心したのは、ラストもラスト、CM前のジョーとルカの表情。

 ヒーローの条件である、屈託の無い笑顔は、ここにはありません。あるのは、ニヒリズムに満ちた笑みでした。この笑顔の異質さは、視聴者に「引っ掛かり」をもたらすのに充分でした。自分達を囮にしたマーベラスに対する冷笑でもなく、やり遂げた達成感による満足気な笑顔でもなく、そこにあるのは、「しょうがない奴らだ」といった、諦念と友情の入り交じった、複雑な笑顔でした。二人が「海賊」という肩書きを持ちつつも、その中で更にプロフェッショナルを意識している、そんな余裕を感じさせる表情でしたね。素晴らしすぎます。

 では、この辺りで、豪快チェンジについてまとめておきましょう。

 今回はまず、敵艦への潜入でジョーとルカがボウケンジャーを使用。ボウケンジャーの特徴だった、決してスマートでない「冒険」を感じさせるアクションが、見事に再現されていました。インディ・ジョーンズ的といいますか、崖を転がるシーンに至っては、これぞボウケンジャーといった趣でした。ショットアンカーの使用も嬉しい趣向でしたね。

 そして、今回の真打ともいうべき、ジャッカー電撃隊!

 「ジャッカー」序盤にて、名乗り前に飛んでくるトランプ(しかも、ビッグワン用のJoker付き)を再現。ここまでくれば、ヨクバリードに「貴様らが噂の...」と言って欲しかった(笑)。

 アクションでは、ジャッカーの特徴的なジャンプのポーズ等も、以前の登場時以上に再現度を高めています。

 そんでもって何より凄いのは、ビッグボンバー! ビッグボンバーの組み立てまでやってしまうとは...。ちゃんと「セットワン!」「セットトゥー!」「行くぞコンバイン!セット・オン!」も再現されていて、ビッグボンバー大好き人間としては、感涙モノでしたね。「ジャッカー必殺武器!」のセリフをルカが担当した事で、やっぱりゴーカイジャーなんだなと思い知らされるわけですが、あの濃い宮内節による「ジャッカー必殺ブチ!」よりも、スタイリッシュに見えてしまうのには笑いました。

 ビッグボンバーは、合体バズーカの元祖であり、こうした形で顧みられるのは、いい事ですね〜。

 それにしても、ビッグワンというキャラクターは、色々と面白い側面を持っています。実際、ポーカーの役的な感覚で行けば、彼は10担当であり、実際に「ペイジワン」という、タロット由来っぽい名前も案として出ていたようです。

 しかし、隊長格として登場するからには、ペイジ(従者)ではマズいとされたのか、ビッグワンは「ジョーカー」の担当となり、しかも、それまでの司令官だった鯨井隊長が「ジョーカー」を名乗っていた為、結果的に「ジョーカー」の名を使えず...。何だか、色々と皺寄せを食らったキャラクターだという感じがします。デザイン自体は、いかにもワイルドカードな感じでまとめられており、意外とファンの間で好き嫌いが分かれるらしいです。

 まぁ、本当に皺寄せを食ったのは、実は桜井五郎=スペードエースなんですけどね(笑)。

 さて次回は、何と志葉の姫が登場するようです。どんなドラマを見せてくれるか、とても楽しみですね。