第13話「道を教えて」

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 待望のアイム単独編といった処でしょうか。アイムの魅力爆発エピソードとしても充分に評価できる一編です。やっぱり通常編の出来がとってもいいなぁ。

 これまで、あまりキャラクターが掘り下げられなかったアイムですが、それは、ある意味「見た目と所作が分かりやすい」キャラクターだったからです。今回、悲劇を克服した強い一人の女性というキャラクターを付加されることにより、ゴーカイジャーに欠かせないメンバーとしての存在感を確立しました。

 この「欠かせない」という要素、実は戦隊では結構疎かにされているものも散見されます。いわゆる「空気」と形容されたメンバーが居る場合、徹底されていないシリーズである可能性が高いわけですね。

 そもそも五人居るという時点で描き分けも困難であり、さらには追加戦士も当たり前になってしまった現在では、その苦慮は相当なものになると想像出来ます。しかし、それでもキャラクター編を巧みに配置し、イベント編との折り合いを付ける事によって、名編として成立しているシリーズも沢山あるので、巧く料理すれば相当な成果を得られるという事でもあります。

 まだ1クールを消化した程度なので、「ゴーカイジャー」をどう評価出来るか、結論は急げませんが、今の処、空気メンバー(笑)は不在であり、既に各キャラクターの基盤も個性の面もしっかりしている印象なので、このまま転がっていけば安泰なのではないでしょうか。

 では、アイムが「欠かせない存在」として成立し得たのは何故か。その辺りを見ていきたいと思います。


 本エピソードの特徴は、事件の真相をアイムだけが知っていて、周囲はそれに踊らされつつ、いつの間にか事態が収束していくという点でしょう。こういった手法は、よくコメディの手法として用いられるものですが、非常に巧くまとめられていたと思います。梨田役の山中崇さんも、素晴らしい雰囲気でしたね。物凄く巧い俳優さんだと思いました。

 アイムの言動も見事。

 ザッガイを誘拐犯だと誤解しているマーベラス達を横目に曰く、「ま、いっか」。ザッガイに誘拐犯の誤解を解いて欲しいと言われ、「何のことでしょう?」。成り行きでザッガイを粉砕して、「ごめんなさい」。ザッガイが巨大化すれば、「やっぱりしつこい人は嫌いです」。もうアイムのセリフが鋭角で斬り込んで来て楽しいんですよね。エピローグでは、梨田について、「私、何もされてません、何も」と誤魔化しており、アイムのザンギャック観と地球人観が分かるようになっているのもポイントです。

 感心したのは、梨田にお金の都合がついて終わるのではなかった点。こういう、ちょっと苦い余韻の残るラストはいいものです。

 また、サブタイトルである「道を教えて」の意味を成すべく、冒頭・中盤・エピローグに結線を引いていて、見ていて気持ちがいいですね。

 先に挙げておくと、まず梨田がアイム誘拐のきっかけとしたのが、「駅までの道」を尋ねるというもの。アイムが梨田に「道を示す」中盤を経て、エピローグでは、梨田との関わりをマーベラスに説明する段で、アイムが「ちょっと道を教えて差し上げたんです」と発言します。実際は、中盤の要素だけでも充分なのですが、冒頭の梨田の「誘い文句」が実に効果的で、結びの「道を教えただけ」というセリフが、本エピソードに一本筋を通しています。サブタイトルが示す処の意味を、エピソードを通して忘れさせない配慮としても、なかなか見事だったと思います。

 さて、アイムの今回の言動を追ってみると、彼女のキャラクター設定がステロタイプながらも効果的だという事がよく分かります。結論から言ってしまうと、この部分が活かされたことにより、アイムは「欠かせないメンバー」として成立したと言えるわけです。

 アイムのキャラクター設定として真っ先に挙げられるのは、「お姫様」。この「お姫様」はキャラクターを個性的にする反面、使い方を誤ると「空気」になる可能性の高い要素だと、個人的には思います。理由としては、言動を常にロイヤルにしておかなければならないのと、あまり羽目を外させられない、ステロタイプ故にキャラの幅を広げるのが怖い...といったものが挙げられます。なので、たまに典型的な「おてんば姫」が登場したりするんですが、こっちはもっとキャラが狭まったりするんですよね...。

 では、何故アイムは成功しているのか。

 一つは、「お姫様でありながら海賊」という、ステロタイプから容易に脱却できる構造を持ち込んだ事でしょう。今回も存分に描写されていますが、アイムはジョー曰く「そこそこ戦える」。つまり、お姫様が何故「そこそこ戦える」のかという理由を、「海賊だから」という理由で片付けてしまっているわけです。あれこれ理由付けしてガチガチに固められるより、こんな単純な理由を持ち込んだ方が、確実にキャラクターの自由度が上がるのは、自明でしょう。

 もう一つは、「故郷の唯一人の生き残り」という悲劇性ですね。しかし、アイムの特徴はこの悲劇性そのものではなく、その悲劇を「乗り越えている」という面にあります。今回のアイムは、梨田の「どん底」と対比されて描かれていますが、アイムの背負っている悲劇は、梨田のような個人的な金銭トラブルとはレベルが違うわけで、ゴーカイジャーの一員として「派手に」戦い、自分を誘拐しようとした者に笑顔を向けられるアイムの「強さ」が、より強調されています。

 つまりは、フィジカル面でもメンタル面でも「強い」のが、アイムなんですね。ゴーカイジャーのメンバーは、それぞれの強さを持っていますが、アイムもやっぱり強い。しかも、他のメンバーにはない「独特の思いやり」が、アイムにはあります。この「独特の思いやり」こそが、アイムを欠かせない人物にしている要素だと、私は思います。

 極端な話をすると、アイム以外のメンバーには、「善人」の雰囲気があまりありません。アイムの持つ「良心」が、ゴーカイジャーを戦隊たらしめているような気さえするのです。

 ただ、この「独特の思いやり」が、即「善人」に繋がるかというと、そこは微妙な匙加減でボカされているんですよね。どことなく「noblesse oblige」の雰囲気と言えばいいのでしょうか。貴族故の独自性を感じるわけです。

 そして、アイム最大の成功要因は、小池唯さんの存在でしょう。丁寧な言葉づかいを流暢に操り、貴族的な可憐さを持ちながら、やっぱり「現代的な女の子」でもあるという...。ルカと比較して、圧倒的に「護ってあげたい」系なのに、「逆に護られてしまう」という今回のストーリーは、男子的にあらゆる面で嬉しかったのではないでしょうか(笑)。

 さてさて、ここからはビジュアル面を見ていきましょう。

 まずは今回の主役であるアイムをフィーチュア。

 アイムが「派手に参りましょう」と言っているのが、まずは目立つポイントでしょう。メインを張ったメンバーが「派手に行くぜ」を言うというパターンが確立すると面白いかも知れません。

 今回の五人での豪快チェンジは一回だけで、他の豪快チェンジはアイム単独となりました。

 意外とチェンジ回数の多いゴレンジャーからは、モモレンジャーが登場。モモレンジャーのアイデンティティとも言える「イヤリング爆弾」を披露してくれるのが堪りません。しかも、オリジナルの「いいわね?行くわよ!」をアイム流にアレンジした「よろしいですか?行きますよ!」が素晴らしすぎました。

 そして、最近作からゴセイピンクが登場。「WINDRIVE」カードを駆使して、ザッガイから逃げるというものでしたが、豪快チェンジの魅力の一面である「スーパー戦隊の能力を駆使しての局面打開」がちゃんと描かれたのは嬉しい処です。

 で、今回も素面アクションのシーンが沢山盛り込まれていました。アイムも例外ではなく、梨田を傷付ける事なく翻弄した舞踊のようなアクションが華麗。ここでも、スタンドインは効果的に使われていますが、もはやどこでカットを割ってるのか、判別不能でした。

 他のメンバーの素面アクションも冴えを増しています。安定系で姿勢がいかにも強そうなマーベラスは、剣と蹴りで魅せ、ジョーは剣の手練としての雰囲気が抜群な上、連続パンチを叩き込むというダーティな面も披露。賑やかなパワーファイトで魅せるルカは、キレキャラを盛りこんでキュートな印象。そして、ハカセはプロレス技をテクニカルに披露してくれました。段取り的に、ハカセは毎回難易度の高いアクションを見せている気がします。

 今回感心したのは、素面での武器の使い方や姿勢が、変身後との親和性を増していた事ですね。変身ヒーローものは、素面とスーツで演者が異なるという特殊なジャンルであり、主役キャスト陣とスーツアクター陣のコミュニケーションが欠かせないと、長年に亘って言われていますが、今シーズンでも、コミュニケーションは良好のようですね。

 五人による豪快チェンジは、ギンガマンでした。次回がカーレンジャーなので、ここでカーレンジャーをフィーチュアするかと思いきや、まさかのギンガマンだったので、ちょっと驚きました。アースを駆使した個人技が次々と披露される様子は、もうギンガマンの大いなる力を手に入れちゃったんじゃないの? という感じでしたけどね(笑)。

 というわけで、やはり通常回も面白い「ゴーカイジャー」でした。

 次回は、戦隊最大の問題作である「カーレンジャー」のお話。何と、「カーレンジャー」のメインライターだった浦沢義雄先生がまさかの登板。これは期待しないわけにはいかないでしょう。

 なお、予告では、岸祐二さんの声だけがやたら目立ってましたね(笑)。岸さんは声優としての芸歴も長いので、エラく声が通るんだと思います。十数年ぶりの猿顔の一般市民、楽しみですね〜。