第14話「いまも交通安全」

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 グゥの音も出ません(笑)。

 「ゴーカイジャー」を、元・レッドレーサーで現・役者(?)の陣内恭介氏が乗っ取り、完全に「カーレンジャー」の世界に作り替えてしまいました。

 これは凄い!

 正直、「ゴーカイジャー」の数年前からスーパー戦隊シリーズを見始めたであろう、メインターゲットたる幼児には、何の事やらだったのではないかと思いますが、「カーレンジャー」にリアルタイムで戦慄を覚えた世代からすれば、これは本当に正真正銘の「カーレンジャー」の続編でした。

 脚本も「カーレンジャー」をメインで手掛けた鬼才・浦沢義雄氏で、浦沢節ともいうべき、ナンセンスでスピーディで、何が飛び出すか分からないスリリングなコメディを披露してくれました。

 真面目な話をするのが難しい今回ですけど、一応真面目に考察しているのが本ブログの特徴(?)でありますからして、今回も努めて真面目に考察していきたい所存でございます。

 では、続きの方で気を取り直しまして...。


 今回は、一応「先輩ゲスト編」なのですが、これまでの「先輩ゲスト編」とはかなり構造が異なっており、陣内恭介が傍観者ではなく当事者になってしまいました。「カーレンジャー」で頻繁に見られた、「敵側のボーゾックこそが主役」という構造のお話を、ここでやってしまったわけです。

 だからといって、ザンギャックが主役というわけでもなく、やっぱり主役は陣内恭介なのですが、本来の主役であるゴーカイジャーから、主役権(?)を奪ってしまっている事からすれば、やっぱりこれは、正当な「カーレンジャー」のお話だと言えるでしょう。何だかややこしい論法ですが。

 そんなわけで、従来の「先輩ゲスト編」との比較により、いかに今回が特殊なのかが浮き彫りになると思うので、その方針で進めてみようと思います。

 まず、マーベラス達と陣内恭介の出会いという点では、従来の「先輩ゲスト編」とほぼ同じです。ただし、他の先輩ゲストが一様にミステリアス、あるいはカッコいい「その後の姿」として登場するのに対し、さすが元・カーレンジャーの陣内恭介は、あたかも「カーレンジャー」の本義が「交通安全」ただ一点であるかのように、ザンギャックにすら「交通安全」を説く男として登場します。この辺り、オリジナルの「カーレンジャー」ではシグナルマンの役割に近く、本来の陣内恭介のキャラではないのですが、そんな事はどうでもいいとばかりの勢いに、とにかく圧倒されるわけです。

 続いて、これまでの先輩ゲストが、あくまで「大いなる力」を受け取る資格の確認者だった点について。陣内恭介も一応これに当てはまるように思えますが、実は全く違います。陣内恭介は、ゴーカイジャーが「大いなる力」を集めているという事を知ると、「大いなる力」をチラつかせ、ゴーカイジャーに「交通安全指導者」になるよう強要するという、得体の知れない(笑)人物です。レッドレーサーの影を自ら跳ね除けてしまう処を見ると、彼はレッドレーサーである事より、周囲の交通安全の方に使命感を抱いている印象すら受けます。中身は別にして、陣内恭介は、ゴーカイジャーにカーレンジャーの大いなる力を「能動的に与えた」人物であるという点で、異色中の異色の先輩ゲストであると言えるでしょう。

 さらには、これまでの先輩ゲストが、あくまで自らザンギャックと相まみえる事がなかった点を見ても、今回がいかに特殊であるかが分かります。勿論、ドギーや志葉薫といった例外もありますが、レッドに限って言えば、ザンギャックには自ら殆ど手出ししていないし、志葉薫も基本的には同じ立場でした。今回の先輩ゲストである陣内恭介は、インサーンに惚れられるわ(これは「カーレンジャー」における「異星人にだけモテる恭介」の踏襲)、ジェラシットに文字通り嫉妬されて追い掛け回されるわ(インサーンとジェラシットが回想で学生服を着ているのも、「カーレンジャー」お得意のナンセンスシチュエーション)、巨大化したジェラシットに愛情の込め方を説くわ(芋長の芋ようかんが象徴するように、「カーレンジャー」は巨大戦も日常の延長だった)、もうザンギャックと共にやりたい放題。結果的に引っ掻き回すだけ引っ掻き回して、いつの間にかゴーカイジャーにジェラシットが倒されて終わるという、何とも読後感が奇妙な話になったわけです。この雰囲気は、「カーレンジャー」の雰囲気以外の何物でもありません。

 加えて、先輩ゲストとしての威厳が露程も感じられないのが陣内恭介。誤解のないよう申し上げておきますが、別に恭介役の岸祐二さんに先輩としての威厳がないわけではなく、そういうキャラを作り上げている処が凄いのです。当時も、意外に充分大人の雰囲気を持っていた陣内恭介でしたが、年を経て、更に大人の魅力を増しており、その上で更に面白さも増しているという...。やはり、陣内恭介は岸祐二さん以外に有り得ないわけですね。

 そして、従来の「先輩ゲスト編」との最大の違い、それは、「大いなる力」を手に入れたかどうかが分からないということ!

 最後の一点については、色々と議論の余地がありそうですが、公式の見解としては、「子ども達に交通安全を教える事」こそが、「戦う交通安全」を標榜するカーレンジャーの大いなる力だとしています。それはそれで、表面上で納得出来ない事もないわけですが、それだとあまりにもカーレンジャーに対して失礼(いや、浦沢さん自身が書いたホンなので、本来は失礼も何もないんですけど...)。

 確かに、カーレンジャーの大いなる力は、レンジャーキーが光って、ゴーカイオーにカーレンジャーのパワーが宿るという効果ももたらす事なく、何だか分からないままスルーされてしまった感があります。しかし、見逃してならないのは、「戦う交通安全!激走戦隊カーーーーーレンジャー!」の名乗りを決めた瞬間、子ども達に憧憬の笑顔が宿った事です。

 「海賊」という肩書き上、地球人にとってはややお近づきになりにくい戦隊ヒーローであるゴーカイジャー。そのゴーカイジャーに、子ども達が喝采を贈った瞬間、ゴーカイジャーは真に憧憬の対象たるヒーローに成り得たわけです。よって、私の解釈としては、陣内恭介が与えた「大いなる力」とは、「子ども達が憧れるスーパー戦隊の資格」としたい。

 実際の処、この「資格」が、今後のストーリーに影響するとは考えにくいです。ただ、「交通安全」等という、宇宙規模のヒーローにとっては瑣末な事項であっても、常に入魂して事に当たるのが、スーパー戦隊たるもの。その心構えを教えてくれたのが、我らが猿顔の一般市民・陣内恭介だったのではないでしょうか。見た目はハチャメチャでしたが、実はいい話なのでした〜。コーヒー牛乳も出たし!

 さて、この辺りで恒例のネタ集めと参りましょう。

 まず、今回の一方の主役はインサーンでしょう。ザンギャックの連中は今の処、ワルズ・ギルとバリゾーグだけがキャラクターを確立している印象であり、他の面々はかなり印象が薄い感があります。特にインサーンは、井上喜久子さんの妖艶な怪演を除けば「巨大化要員」から一歩も出ないキャラクターだっただけに、今回は正に「オイシイ」役どころ。

 確かに、インサーンをこのような「惚れっぽい」キャラクターにしてしまった事で、今後のストーリーに悪影響を及ぼす可能性はゼロではありませんが、今回が「カーレンジャー」の世界での出来事に過ぎない事を考えれば、特に問題はないのではないでしょうか。むしろ、インサーンにとっては良い機会だったと思います。「カーレンジャー」に登場した、元祖セクシャル幹部・ゾンネットの魂を受け継ぐことが出来たのですから(笑)。「魔笛」に乗って踊る姿にも、妙な愛らしさがありましたね。

 ゴーカイジャーの面々は、冒頭の睡眠シーンでの、腹筋台で寝るジョーが至高。あと、マーベラスが両手を上げて横断歩道を渡ったり、ハカセがシェイクスピアのセリフを引用したり、浦沢脚本ならではの要素がそこかしこに見られます。

 そして豪快チェンジですが、今回はまずジュウレンジャーが登場。龍撃剣、モスブレイカー、トリケランス、サーベルダガー、プテラアローといった、個人武器をバッチリ登場させ、連携攻撃でのアピールも充分でした。特に、自信満々に真剣白刃取りの構えを取るジェラシットに、龍撃剣を真っ向両断で決めるカットは、素晴らしいものがありました。勿論、ギャグとしても見事過ぎるくらい見事でしたが。

 その後も、豪快チェンジはあくまでコミカルな味付けの為に登場(!)。満を持してターボレンジャーを登場させると、恭介にたちまち「それじゃない」とツッこまれ、遂にカーレンジャーが登場。同じ車モチーフという事を利用した、見事なギャグのセンスに脱帽です。

 カーレンジャーへの豪快チェンジでは、主題歌インストが完璧なタイミングで流れ、恭介も自らの昔の勇姿を思い出して惚れ惚れ。かと思いきや、自転車やら一輪車やらスケボー、ローラースケートを持ち出すという、何だかこれでいいのかどうなのかよく分からない演出! しかし、ゴーカイクルマジックアタックに至る流れは、コミカルでありながら決める処はバッチリ決める、「カーレンジャー」の流儀そのものでした。

 巨大戦では、大いなる力を思わせる「ゴーカイ激走斬り」が炸裂! 当時も高速回転の描写が絶大なインパクトを持ってましたが、現代に蘇っても、やっぱりインパクトは強いですね。

 そういえば、インサーンが恭介を振り回してジェラシットを翻弄するシーンでは、恭介が明らかに人形になっているカットがありましたけど、あれは浦沢脚本が炸裂した「不思議コメディシリーズ」では常套手段として用いられた、真面目なんだかギャグ何だか分からない、紙一重の演出を意図したものだと、個人的には思っています(笑)。

 こんなわけで、どんなにハードなヒーロー番組でも、たちまちギャグの横溢するコンテンツに変えてしまう浦沢脚本と、それに応えた見事な演出が炸裂したエピソードでした。ギャグを展開しつつも、どこか突き放したような冷静な視点と、世界観を壊さない理性が感じられるという特徴も、しっかり発揮されていたと思います。

 「カーレンジャー」、また見たくなりました。