第21話「冒険者の心」

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 ボウケンレッド・明石暁チーフ、大登場!

 そんなキャッチコピーを付けたくなるような一編。先輩ゲスト編が間髪入れずに二話連続するという、「ゴーカイジャー」の定石を破った今回ですが、これまでの先輩ゲスト編とは、かなり趣の異なるエピソードとなっていました。

 その特徴を端的に示すならば、「ボウケンジャー」の完全なる正当な続編となっている事、そして、大いなる力がストーリーに殆ど関わらない事。この二つの特徴を見ても、いかに特殊な先輩ゲスト編であるかが分かります。

 では、四年を経た明石チーフの冒険に出発と行きましょうか。


 今回は、冒頭に示した二つの特徴に沿って話を進めていきます。

 一つ目の特徴である、「ボウケンジャー」の完全なる正統な続編という点については、見た目的に非常に分かりやすいと思います。しかし、逆に言えば、「ボウケンジャー」そのものを知らない視聴者からすると、ややインパクトが弱いのではないかとも思えます。しかし、分かり難さという面はほぼ無いと言っても良いでしょう。

 もう何度も言及していますが、「ゴーカイジャー」の美点の一つとして、「ショートカットの美学」が挙げられます。今回も、「ボウケンジャー」のキーワードである「プレシャス」を、海賊の求める「お宝」と重ねあわせたり、今回のプレシャスである「黄泉の心臓」を、ザンギャックも戦力強化の為に狙っているという設定にしたりと、「ゴーカイジャー」の世界をある程度理解していれば、今回の骨子を理解する事が出来るようになっています。

 ショートカットの美学は、明石の登場シーンにも現れており、いきなりゴーカイガレオンの中に潜入しているというシーンが用意されていました。この1シーンだけで、明石の類稀なる潜入能力が示されているわけです。そして、海賊にプレシャス探索の助力を依頼するという、冷静かつ的確な判断力も提示され(実際は、方便に近いものだったようですが)、更には、この人物が、劇場版で既に大いなる力を託しているという事を振り返る事で、ボウケンジャーのリーダー・ボウケンレッドその人である事を、端的に示すという段取りが見られました。ここまでで、開始5分程度。しかも、主題歌やCMを含めて5分程度。見事です。

 話が脱線しましたが、正統な続編という面に話を戻します。

 これまでの先輩ゲスト編は、一応続編的なニュアンスを残しつつも、どちらかと言えば、それはサービス精神の現れだったと考えられます。というのも、先輩ゲスト自体はオリジナルの雰囲気を極力残すように努め、そのイメージを戦略的に利用していた一方、彼等の「敵」に関しては、あくまで終わったものとして扱われており、基本的にゴーカイジャーとザンギャックの戦いを傍観する立場でした。

 ところが、今回は明石にボウケンジャーとしての力こそないものの、宿敵の一人であるリュウオーンと再び対峙するというシチュエーションが用意され、そこかしこにオリジナルの「ボウケンジャー」を前提とするセリフが盛り込まれていました。ちょっとだけ出てきたジャリュウも、今回のメインであるリュウオーンも、オリジナルキャストで登場しており、正に続編的な匂いを醸し出しています。

 この試みは、文字通り「冒険」だったのではないでしょうか。スーパー戦隊シリーズは、長年のファンよりも新規ファン(つまり、メインターゲットである幼児)の方が多いのではないかと、私は漠然と考えているのですが、即ちそれは、「ゴーカイジャー」が初めての戦隊である可能性が高いという事になります。要するに、かつてのシリーズの続編をやっても、それが売りにはならないという事です。

 同様の展開を前面に押し出した作品として、「ウルトラマンメビウス」が挙げられますが、この作品の場合は、マニアックな要素を取り入れる事によって、旧来ファンの琴線を揺さぶり、結果としてその子ども世代を巻き込んで人気を得ました。「ゴーカイジャー」も同様の構造を少なからず持っている作品ではありますが、「ウルトラマンメビウス」は、既に「昭和のウルトラマンシリーズ」という一括出来る世界観の上で成立しているコンテンツであり、「ゴーカイジャー」とは根本的に異なります。「ゴーカイジャー」を見ていると忘れてしまいそうですが、スーパー戦隊シリーズの各シリーズは閉じた構造をしており、基本的に横の繋がりはないのです。VSシリーズですら、あくまでサービス編、番外編として制作されていますよね。

 VSシリーズを持ち出した折に突如気付きましたが、本エピソードはVSシリーズの構造に酷似しています。VSシリーズにおける「前戦隊」は、敵も含めて続編的な面をたっぷりと携えて登場してきますし、「現戦隊」に様々な示唆を与えて去っていきます。今回の明石は、この構造上の「前戦隊」そのものだという事が分かります。しかも、明石はアカレッドにマーベラスを導くよう頼まれていたというオチが付いていて、正にVSシリーズの要素を全面的に採用していたわけです。何と言っても、「ボウケンジャーVSスーパー戦隊」で、明石はアカレッドに会っているのですから!

 ちなみに、ジャリュウ一族とリュウオーンがザンギャックよりも強いという事が示されて、ゴーカイジャーが必ずしも最強の戦隊とは言えないという事が示されたのも収穫でした。過去の戦隊と現役戦隊のパワーが比較される事は、ほぼ皆無と言っていいのですが、今回は、間接的ではあるものの、ボウケンジャーの戦闘力の高さが示される格好となりました。

 さて、続いて、大いなる力がストーリーに殆ど関わらないという点について話を進めていきます。

 今回は、前述の通り「ボウケンジャー」の続編的な側面が非常に強いので、「ゴーカイジャー」におけるバラエティ編の構造を持ち出す方が、ある意味で都合が良かったのだと思います。もし、今回が大いなる力の継承を描く物語だったら、プレシャスを探す物語というよりは、復活したリュウオーンを打倒する物語に傾いたのではないでしょうか。今回の肝は、マーベラスにワクワクする冒険心を取り戻させるという事であり、バトルがメインではないのです。

 前回は、レッドではない人物から大いなる力を受け取る話、そして今回は、レッドから大いなる力を受け取った後の話。こうして単純化してみると、はっきりとした意図で対照的なストーリーを組み立てている事がわかります。バスコによってマーベラスに生まれる焦り、それを解消する明石との冒険...。その視点で見ると、前後編でもあるわけです。私は、マーベラスがバスコに対して焦りを感じる事で、中盤を加速させるのかと思っていましたが、意外にもあっさり処理されてしまいました。逆に、殺伐とした妙なドライブ感が抑制されて、良かったと思います。

 マーベラスの焦りは、大いなる力に対するワクワクする感覚をスポイルし、それを「奪取」する事だけを目的化してしまいました。それ以前、大いなる力を手に入れるまでの「過程」を楽しんでいたマーベラスの姿は、ナビィに対する態度や、何が起きても常に不敵な笑みを浮かべている様子から分かるようになっており、丁度今回は、それらの要素を裏返す事で、マーベラスの苛立ちを表現していたわけです。バスコのやり方は、「過程」をすっ飛ばすやり方であり、それは本来のマーベラス流ではない。ルカが特にその辺りを心配しており、明石の誘いに乗るようマーベラスに勧めた辺り、見事なキャラクターの使い方だと感心しました。

 ある意味、明石がマーベラスの冒険心を取り戻させたというくだりは、先輩ゲスト編における「スーパー戦隊の資格」への気付きと同種のものだと言えるでしょう。しかし、突き詰めると、冒険心はスーパー戦隊の資格でも何でもなく、単にボウケンジャーとの共通精神というだけです。それが逆に、「ボウケンジャー」という作品の特殊性をも浮き彫りにしている気がします。

 では、ここで豪快チェンジについてまとめておきます。

 一発目は、鎧がシュリケンジャーにチェンジ。勿論、ハリケンジャーへのチェンジを期待しての行動だったわけですが、同じ忍者繋がりという事で、ジョー、ハカセ、アイムはそれぞれニンジャブルー、ニンジャブラック、ニンジャホワイトにチェンジ。カクレンジャーには追加戦士が居ない(ニンジャマンは、何故かロボ扱いされている)ので、鎧はわざわざハリケンジャーを選んだというのが泣かせます(笑)。カクレンジャーのアクションでは、特徴的なアメコミ調の書き文字が登場。これは懐かしくていい演出でしたね。

 今回がボウケンジャー編という事で、勿論真打はボウケンジャー。シルバーも加えた6人体制での登場で、変身シーンの再現や、主題歌インストの採用等、先輩ゲスト編の定番をしっかり踏襲していました。それぞれの個人武器とそれに伴う個人技も飛び出し、リュウオーンとの対決という構図もあって、正に「ボウケンジャー」の再現。リュウオーンの驚きに対し、「海賊版だがな」と返すマーベラスも素敵です。

 巨大戦では、ボウケンジャーの大いなる力を発動。ダイボウケンが出現し、轟轟剣をゴーカイオーに託すという、何とも説得力のある画面でした。ゴーカイマシンがなくても、大いなる力の説得力あるシーンが作れるという事を証明してくれました。

 明石関連の小ネタとしては、「ちょっとした冒険だな」とか「グッジョブ!」といったセリフが、オリジナル通りで素晴らしい処。また、明石の場合、プレシャス回収不可能と判断した際、それを破壊する方向へ動くのに対し、マーベラスは何としても奪取する方向へ動くという対比もありました。これは、ゴーカイジャーがボウケンジャーを超えたという事ではなく、トレジャーハンターと海賊では流儀が違うという事を示しています。

 いわゆる「マベちゃんの焦り」前後編で、少しだけパターン破りを展開し、今後の先輩ゲスト編への指針を示しました。中盤の安定感ある展開を期待させてくれる作りで、かなり安心してしまいましたね〜。

 最後に、「ボウケンジャー」の思い出を。

 いわゆる記念作品であった「ボウケンジャー」ですが、リーダーが正統派レッドであったり、敵キャラに歴代ロボのオマージュがあったりといった部分を除けば、意外にも記念作品の色は薄く、むしろ「トレジャーハンターの戦隊」という異色作らしい面が突出していて、面白かった覚えがあります。

 登場キャラクターのうち、ボウケンイエロー=間宮菜月が特に異色の出自を持ち、しかもその両親がキリンレンジャーとメガイエローという、サービス満点な設定だったので、異様にキャラが立ってしまい、他のメンバーの影が少々薄くなってしまったのは残念な処。しかしながら、メカの統一感や、複数の敵が入り乱れる緊張感、メンバーの恋愛模様等、あらゆる要素を貪欲に取り込んだ上で高次元で纏め上げた制作手腕の高さが光る名編でした。メインターゲットである幼児にはやや難解だったかも知れませんが。

 いずれにせよ、この「ボウケンジャー」こそが、戦うだけではない戦隊のパイオニアであり、「ゴーカイジャー」の原型となった事は間違いないと思います。