GP-09「明日ガアルサ」

 範人と早輝の「若いもん同士」はショッピングへと出かけていた。途中、早輝がケーキ選びに夢中になっていた時、範人は悲鳴を聞きつけその現場へと向かう。そこにはレンズバンキがおり、人々を「撮影」して消し去っていた。範人は戦いを挑むものの、遅れて合流した早輝共々レンズバンキによって何処かへ飛ばされてしまうのだった。

 早輝と範人が気がつくと、そこはスクラップがいっぱいの「ヒューマンワールドではない世界」であった。レンズバンキはその間も人々を次々と消し去り、別の世界へと送りこんでいく。早輝と範人が飛ばされる直前に入れた連絡を受け、レンズバンキの前に現れる3人のゴーオンジャー。3人は一旦レンズバンキを撃退する。ボンパーによれば、早輝と範人は別のブレーンワールドに運ばれたのかも知れないという。しかも、どのブレーンワールドに飛ばされたか分からない為、救出は容易ではないのだ。

 早輝は連絡や変身を試みるも、そのどちらも叶わない。消沈する早輝に「なんとかなるよ」と楽観的な範人は、空腹を満たす為に早輝の買ったケーキを食べ始める。ケーキを勧められた早輝も口にしたが、まだ不安を隠しきれない。

 キタネイダスがレンズバンキを派遣したのは、「ジャンクワールド」に人間を送り込む作戦の為であった。そこに恐ろしいことが待ち構えていると言い、ケガレシアの期待をあおるキタネイダス。レンズバンキはさらに人間をジャンクワールドに送り込むべく、再度行動を開始した。

 早輝のケーキ好きへ関心を寄せる範人に、早輝はケーキの専門学校に通っていたと告げる。味音痴だと先生に言われて以来、学校には通っていない。「こうなるといいなと思ったことは、大体うまくいかないんだ...」という早輝に、範人は「人間最後にはうまく行くんだよ。明日は明日の風が吹く。あきらめなきゃ、なんとかなるよ」と励ます。そこにウガッツの声が聞こえてきた。その声を追うと、ウガッツ達が人々を連行する様子が。キタネイダスの考案した「ウガッツ補完計画」。それはウガッツの材料となるスクラップ不足を憂慮したキタネイダスが、ジャンクワールドのエナジーによって人間をスクラップ化し、ウガッツに仕立て上げるという恐ろしい計画であった。すぐに人々を助け出さなければならない。だが、変身できない今、早輝は戦いに対して不安を感じていた。一方の範人は、楽観的な態度を一貫させて着々と奇襲の準備を始めていた。「ヒロインとして立派にやっている」と早輝を評する範人の言葉に、早輝はこれまでの戦いを思い出し、人々の救出を決心する。生身で大立ち回りを演じ、ウガッツ達をなぎ払った2人は、捕らわれた人々を助け出した。

 その頃、連は早輝と範人の救出方法をついに思いつき、行動を開始していた。レンズバンキを誘導した走輔、連、軍平の3人は、レンズバンキに「撮影」され姿を消してしまう。勝ち誇るレンズバンキだったが、走輔たちは無事だった。レンズバンキが「撮影」したのは、何とゴーオンジャーの姿をしたパネルだったのである。走輔はレンズバンキのダイヤルを巻き戻してジャンクワールドへの道を逆流させた。すると、早輝や範人を始めとするジャンクワールドに飛ばされた人々が、ヒューマンワールドへの帰還を果たした。だが、ウガッツに変えられた数人はウガッツの姿のまま。しかしここでも早輝と範人は「なんとかなるよ」と宣言。5人揃ったゴーオンジャーはスーパーハイウェイバスターを完成させ、レンズバンキを撃破した。

 すぐさまレンズバンキは巨大化を果たす。ゴーオンジャーはエンジンオーとガンバルオーで迎撃。レンズバンキはフィルムを巻きつけるという攻撃に出るが、カメラの弱点である逆光を利用して勝機を得たゴーオンジャーは、立て続けに必殺技を炸裂させ、レンズバンキを粉砕。ウガッツ化された人々も元に戻ることができた。ところがその刹那、レンズバンキはガンバルオーとエンジンオーの必殺技を「記念写真」を撮影していたのだ...。

 戦いが終わり、早輝はケーキを作って皆に振る舞う。味音痴の早輝が作るケーキということで警戒する走輔、連、軍平。しかし、足を滑らせて早輝のケーキに顔を突っ込んでしまった走輔が、ふと口にしたケーキは大変美味だった。「あきらめなきゃ、なんとかなる」のだ。

今回のアイキャッチ・レースのGRAND PRIX

 ガンパード!

監督・脚本
監督
渡辺勝也
脚本
武上純希
解説

 早輝と範人の「ヤングコンビ」活躍編。「ヤングコンビ」などという死語めいたタームも相応しい、古典的ヒーローの王道(とコメディ)が展開される。スーパー戦隊屈指の若年コンビである早輝と範人。両者ともオンエア当時の御年16歳である。そのフレッシュな(古い言い回しで失礼)魅力がドラマをしっかり牽引しており、異世界に分断されるというシチュエーションも効いて完成度の高い一編として仕上がっている。また、スーパーハイウェイバスター登場編という側面も重要だ。

 古典的ヒーローの王道たる姿勢は、早くも冒頭において見ることが出来る。久しく見ることのなかった東映特撮 TVドラマ名物、ヒロインの大量ショッピングにヒーローが付き合うというシーンである。昔とはジェンダーの考え方が異なる為、男が大量の荷物を抱えてあたふたする様子は当時と趣を異にするが、その光景はオールドファンにとって非常に懐かしく映る筈だ。なお、ここで早輝が購入したビーズのストラップが、後にちゃんと出てくるあたりもポイントが高い。余談だが、この光景の元祖は「ウルトラマン」の第14話「真珠貝防衛指令」で、イデ隊員がフジ隊員に大量の荷物を持たされるシーンであろう。このシーンは、高度成長当時の女性の地位向上に関するテーゼを見せたものとして興味深い。

 今回はペシミスティックな早輝とオプティミスティックな範人のコントラストを軸に、ネガティヴ思考の早輝がポジティヴな方面に導かれていくという物語が繰り広げられるが、ここでの早輝のキャラクター設定にはある程度の混乱が見られる。というのも、早輝のモットーは「スマイル、スマイル」であり、ネガティヴ思考のかけらも感じさせないキャラクターとして描かれてきたからだ。今回、「こうなるといいなと思ったことは大抵うまくいかない」と吐露しており、意外な面を露呈する。シーンの組み立て方やジャンクワールドという極限状態に置かれたことで、深層に隠された内面が表出したという印象も受けることができるものの、少々唐突な感も否めないところだ(困った顔が可愛いから許すと言ってしまえばそれまでだが...)。ただ、どちらかと言えば無難な路線のヒロイン像を見せていた早輝に、深みを与えたという効果も否定できない。モットーである「スマイル、スマイル」も、自分の置かれた不運を払拭する為の早輝なりの強がりだったのかも知れない。一方の範人は安定路線。どこまでも楽天的で楽観的であり、徹底的にポジティヴ思考だ。悩めるヒーローも魅力だが、ここまで澱みも悩みもないヒーローというのも魅力的である。

 印象としては早輝の方が「お姉さん」的でありつつ、常に主導権を握っているのは範人だという図も面白い。前述のジェンダーに照らし合わせると、興味深いテーゼが織り込まれているようにも見える。早輝は決して「男と比べて戦力の低い要員」との描かれ方ではない(むしろ逆の場合が多々見られる)。だが、スーパー戦隊シリーズにはどこかノスタルジックな男性主導の面が残存している。そこには子供が憧れるヒーローやヒロインの姿があり、時代と共にジェンダーに対する考え方が変化してきても、根本的な、つまり互いに越権しない性差のあり方を提示していると言って差し支えないだろう。「忍者戦隊カクレンジャー」や「未来戦隊タイムレンジャー」といった女性リーダーの戦隊にも、それは顕著だ。

 さて、今回はボンパーの口より衝撃の宇宙観が語られることとなった。宇宙は11の次元から成るブレーンワールドであり、ヒューマンワールドやマシンワールドもその一つ。そして、今回登場するジャンクワールドも含まれるというのだ。この高尚なSF設定を遥かに超越したファンタジー設定(「brane world」という語自体は最新宇宙物理学の用語だが、ボンパーの説明するイメージがお伽の世界っぽい)に、TVの前で思わず仰け反った方も多いことだろう。前回の理性的な展開に代表されるように、「ゴーオンジャー」は地に足の着いた印象がある。ところが、このブレーンワールドのぶっ飛び設定が入ってきたことで、急激に世界の構造が縦方向に広がったのだ。これを是とするか非とするかの判断は、まだ時期尚早であろうかと考える。それを敢えて承知の上、現時点で判断するならば、これはやはり物語に必要なジャンクワールドという世界を設定する為に用意された、壮大な大風呂敷であるとの捉え方が適当ではないかと思う。「11次元」という(数学的な面は別として)途方もなく観念的な世界は、それはそれで魅力を放っている。だが、そこに過度の期待をするのはどうかと思う面もあるわけだ。とりあえず静観を決め込みたい。

 そのジャンクワールドに誘うのはレンズバンキ。とうとう環境破壊とは表層的に無縁な蛮機獣が登場だ。レンズバンキの項でも触れたが、当初のコンセプトを崩していくことでシリーズを活性化するパターンは、初期スーパー戦隊シリーズに散見される。「秘密戦隊ゴレンジャー」では、高尚な「仮面」をコンセプトとした仮面怪人が、途中よりコミカルな外見とより明確なモチーフを有する怪人にシフト。「バトルフィーバーJ」では、世界各地の古代文明を思わせる格調高い怪人デザインが、途中より動物や植物モチーフの個性的なものにシフトしている。「電子戦隊デンジマン」や「太陽戦隊サンバルカン」のように、初期数話でオリジナルコンセプトの怪人を止め、早期に明確なモチーフを打ち出す方向性に改める例もある。ルールという呪縛からの解放を企図しているものと思われ、確かに方向転換してからの怪人たちは、非常に活性化している印象が強い。「ゴーオンジャー」がこれに倣ったのかは不明だが、少なくとも地味なモチーフに縛られる必要はなくなったわけだ。半ば定番化したモチーフであるカメラの怪人を登場させたのも、そのような意図を伺わせるに充分である。

 ジャンクワールドはロケーションのウマさが奏功しており、これまた古典的な「変身できない」シチュエーションに説得力を持たせている。変身できないと知った途端に自信を失う早輝と、変身しなくてもゴーオンジャーのアイデンティティを失わない範人の掛け合いが空疎にならないのも、このジャンクワールドの説得力故だ。精気の感じられない世界において、まず「食べる」という、しかも「甘いものを食べる」という行為を通して自我の喪失から逃れるというのも高ポイント。機械生命体であるガイアークとの対比も匂わせていて興味深い。

 そして、早輝と範人は変身できないまま人間ウガッツ化の阻止に乗り出すことになるのだが、ここでの2人のアクションはかなりの水準となっている。「ヒロイン」という単語が印象的な今回だが、早輝がそれに見合った活躍を見せてくれるのは嬉しい。勿論、範人のアクションも充実しており、ジャンプを伴ったアクションに果敢に挑戦する姿が印象深い。近年、生身で大立ち回りを演じるという機会の少なかった戦隊ヒーローだが、「ゴーオンジャー」に関してはかなりの挑戦が見られる。これからも大いに期待だ。

 クライマックスの「奇策」は連の考案によるもの。「記念写真」と言えば「パネル(書割)」という発想なのか、ゴーオンレッド、ゴーオンブルー、ゴーオンブラックのパネルを用意し、レンズバンキを欺くという作戦だ。レンズバンキがはっきりと気付くまでは、実際のスーツを使って撮影されており、ここではレンズバンキの視点で物事が進んでいく。ツッコミ処満載なのが可笑しく、ネタバラシの際の、パネルの安っぽい外見に脱力すること請け合いだ。一方で、レンズバンキが人間をジャンクワールドに送り込む際、しつこい程にダイヤルの回転を見せていたことや、久々に登場した連のメモ帳がしっかりと書き込まれていた為、レンズバンキが動揺している間にダイヤルを逆回転させるという作戦が、連の類稀なる観察眼と詳細なメモの賜物であると自然に感じられ、ストーリーの流れとして申し分ないものとなっている。確固とした流れの組み立てと、コメディ描写のバランスが非常にいいのは「ゴーオンジャー」の美点であろう。

 果たして、エンジンオーとガンバルオーによってレンズバンキは敗れ去るわけだが、その必殺技をスクープとばかりに撮影する姿が可笑しい。この「スクープ」を何に使うのかは、年季の入った特撮ファンならば一目瞭然という仕掛だ(年季が入っていなくとも、予告で分かってしまうのだが)。基本的には非常に潔い一話完結型ながら、どこかに連続性を残す手法は、昨今の連続ドラマ志向とは一線を画す作り。視聴者を飽きさせない工夫が感じられて好印象だ。また、「王道」を感じさせる事項として、ウガッツ化された人々が、本来ジャンクワールドの特性と関係ない筈のレンズバンキ打倒によって元に戻るという描写がある。「何とかなるさ」という範人の言葉通りの展開だったわけだが、このように、ちょっとした予定調和を笑い飛ばす感覚も「ゴーオンジャー」ならではであろう。

 なお、今回はエンディングがバスオン仕様になった。曲は勿論、歌詞に合わせてちゃんとバスオンのアニメーションと新撮部分が制作されている。このような丁寧な制作姿勢は高く評価されてしかるべきだ。主題歌CDの売上も好調とのことで、さらなる相乗効果が期待できそうだ。