GP-12「走輔バンキ!?」

 走輔が風邪で寝込んでしまった。連達4人はトレーニングに励む。走輔は既に3日間寝込んでおり、すっかり持て余していた。そこに、ハツデンバンキ登場の情報が。ハツデンバンキは雷を発生させて街を襲撃していた。走輔は風邪にも関わらず飛び出していく。クシャミ連発で調子の出ない走輔はハツデンバンキの電撃攻撃に翻弄されるが、スピードルの提案でハツデンバンキの懐に飛び込み、隙を突いて斬りつけることに成功した。ところが、事前に放っていた雷は、ハツデンバンキと走輔を直撃!

 連達4人が現場に駆け付けると、既にハツデンバンキは姿を消していた。4人は倒れている走輔を発見。同じ頃、ハツデンバンキは目を覚ましていたが...。

 何と走輔とハツデンバンキの人格は入れ替わってしまっていたのだ。走輔の姿をしたハツデンバンキは、ゴーオンジャーを内部から壊滅させる好機として、まずはボンパーを狙う。一方、ハツデンバンキとなった走輔もヨゴシュタインを奇襲するチャンスと見て、背後より狙っていた。しかし、ボンパー襲撃は、走輔の風邪を治そうと次々と乱入してくる連達に阻まれ、ヨゴシュタイン襲撃も気付かれそうになり失敗に終わる。ヨゴシュタインは発電増幅装置を完成させ、ハツデンバンキの発電パワーを100倍にするという。作戦再開に焦るハツデンバンキの走輔だったが、策を巡らせ、発電増幅装置を自らの落雷で破壊することに成功した。だが、ヨゴシュタインにハツデンバンキでないことを感づかれてしまう。一方の走輔姿のハツデンバンキは、我慢できずにハツデンバンキとしての行動をとるが、連達4人は未だ正体に気付かない。だが、スピードルだけは異変を感じていた。

 ハツデンバンキの走輔の元に、走輔のハツデンバンキが現れ、両者は取っ組み合いを始める。両者の人格が入れ替わっていることに気付いたヨゴシュタインは、走輔のハツデンバンキを人質にとり、ハツデンバンキの走輔をゴーオンジャーに倒させるという作戦に出る。だが、現れた連達4人は、ハツデンバンキの走輔を襲撃すると見せかけて、ヨゴシュタインを攻撃した。スピードルが4人に真実を伝えていたのだ。走輔のハツデンバンキは妙案を思い付く。それはゴーオンレッドに変身するというものだった。だが、ゴーオンレッドとなったハツデンバンキには、炎神ソウルを用いた攻撃は不可能だった。スピードルは炎神達の力でハツデンバンキの身体から「走輔ソウル」を抽出すると、ジャンクションライフルでゴーオンレッドに向けて撃ち出すよう指示。撃ち出された走輔ソウルはゴーオンレッドに命中し、ゴーオンレッドの身体からハツデンバンキのソウルを追い出した。元に戻った走輔とハツデンバンキ。ハツデンバンキには走輔の風邪がうつっていた。

 スーパーハイウェイバスターの直撃を受けたハツデンバンキは、巨大化して襲いかかる。すぐさまエンジンオーG6で迎撃するゴーオンジャー。G6グランプリの前に、風邪ひきハツデンバンキは反撃の暇すらなく粉砕された。

 ギンジロー号に帰って来た走輔は、自分のベッドが大変なことになっているのに驚く。それは、ハツデンバンキの風邪を治そうとした、連のニンニクたっぷりの特製おじやに、範人のネギと味噌、早輝のアロマキャンドル、そして軍平が乾布摩擦の為に持ってきたタオルだった...。

今回のアイキャッチ・レースのGRAND PRIX

 スピードル!

監督・脚本
監督
竹本昇
脚本
宮下隼一
解説

 ヒーローと敵が入れ替わってしまうというギャグ編。走輔メイン編であるが、レッドを完全にコメディアンにしてしまう「ゴーオンジャー」のパワーに拍手だ。

 物語は走輔が風邪で寝込んでいるという設定で始まる。この風邪描写がのっけから実にコミカル。クシャミはわざとらしくストレートに「ハクショーン!」だし、赤いハッピも妙に似合う。この風邪描写で、今回が徹底したギャグ編であることを宣言しているようにも見える。その走輔をよそに、しっかりトレーニングを積んでいる4人が描かれるが、これは今回の戦闘シーンの少なさを逆算しての措置であろう。スピーディかつ合理的に組み立てられたアクションが爽快そのもので、かなり真剣に撃ち合いをしているものの、4人のチームワークを感じさせるという素晴らしいシーンに仕上がっていた。

 走輔が既にハツデンバンキと入れ替わった後ではあるが、走輔の風邪に対しての4人の反応も非常に面白い。連はニンニクたっぷりの特製おじやを勧め、範人はおばあちゃんに教わったという民間療法(ネギを首に巻き、味噌を足の裏に塗るというもの)を走輔に施す。早輝はアロマキャンドルを手当たり次第持ち込み、軍平はいきなり上半身裸で登場して乾布摩擦を勧める...。ニンニクにネギに味噌にアロマキャンドルとは、その臭いの凄まじさを想像してしまうが、何といっても軍平のインパクトが大きい。乾布摩擦という、今は昔となってしまった感のある「療法」だが、これが軍平のキャラクター性を見事に表現している。当初から飛ばしてきた「ゴーオンジャー」だが、本エピソードのように「息抜き」的なエピソードこそに脂の乗り具合が現れる。この風邪に対する反応一つとっても、脂の乗り具合が手に取るようにわかるのだ。

 さて、今回は走輔と蛮機獣の人格が入れ替わるという、「ニセモノ」エピソードを一歩進め、「転校生」等のパロディを盛り込んだものとして展開する。この入れ替わりパターンの最も有名なタイトルは、前述のとおり「転校生」等の映像作品であるが、本来全く別種のアイデンティティを抱えた者が入れ替わることで生まれるギャップに、可笑しさとペーソスが生まれるという効果があるのはご承知のとおりだ。今回も例に洩れず、「別種」である走輔とハツデンバンキが入れ替わることで生じる面白さを狙っている。しかし、ここで繰り広げられる面白さは、両者のギャップだけではなく、走輔とハツデンバンキのテンションと思考パターンがよく似ているということから生じるものも含まれている。走輔(実はハツデンバンキ)が「ビカビカビカ」と胸部ハンドルを回す仕草をするにも、何となく普段の走輔の姿が重なる上、ハツデンバンキ(実は走輔)がヨゴシュタインの前で慌てる姿も、普段の蛮機獣の姿とそう乖離するものではない。また、走輔の身体に宿ったハツデンバンキがボンパーを破壊しようと迫る折、ハツデンバンキとなった走輔がヨゴシュタインを背後から襲おうとするというシーンまである。このくだりでは秀逸なシーンの切り替えによって、両者が同じことを考えているということが実にテンポ良く、また分かりやすく描かれており、さらには可笑しさすら喚起させるものとなっていて完成度が非常に高い。

 その後は、スピードル、ヨゴシュタインがそれぞれ異変に気付くという展開になっていくが、その原因となる行動が、正義と悪という構図を反映させるものになっている。具体的には、ハツデンバンキ姿の走輔が発電増幅装置を自ら破壊するというものと、走輔の姿をしたハツデンバンキが痺れを切らしてハツデンバンキとしての珍妙な行動をとってしまうというものだ。姿とのギャップをものともしない走輔と、ギャップにとうとうキレてしまうハツデンバンキの鮮やかな対比により、ヒーローの魂(まさにソウルだということが後の展開でわかる)が浮き彫りになった一幕である。ここでの走輔(実はハツデンバンキ)を演ずる古原氏の演技が楽しすぎて注目度高。檜山氏の声がアテられているが、コラボレーションはバッチリ決まっていると言って良いだろう。この珍妙な行動を見ても、なお風邪の所為にしてしまう4人にも笑えること必至。全編にわたって手抜きなく笑わせてくれる上、本人達が大真面目であることもきちんと描かれていることで、良質極まりないコメディが完成を見ているのだ。

 ハイライトは無論、ハツデンバンキ姿の走輔が、ゴーオンレッドとして名乗りを上げるというパロディシーンであろう。わざわざスーツアクターをスイッチして行われたというこのシーン。背後の赤い火薬使用は勿論のこと、ゴーオンレッドのエンブレムのステッカーを用意するというコミカルな演出も盛り込み、超一級のパロディシーンとして完成している。こういった手抜かりのなさこそが、パロディに深みを与えるという、まさにお手本のようなシーンだ。逆に、ゴーオンレッドに変身するハツデンバンキは、古原氏のノリの良さで蛮機獣らしい表情を作り出し、大変楽しいシーンになっている。炎神ソウルを使えない為、マンタンガンを使えないという流れも秀逸だ。

 走輔とハツデンバンキの入れ替わりについては、荒唐無稽であることには変わりないが、「ゴーオンジャー」の物語世界としては、実に理にかなった理屈の上に成り立っているのも見逃せないところ。炎神がソウルを分離できるという設定を利用し、走輔とハツデンバンキが落雷のショックで「ソウルを入れ替えた」と解釈。漠然と人格が入れ替わり、漠然と元に戻ったのではなく、ソウルというエクスキューズが徹底して使用されていた。炎神達がハツデンバンキの身体から走輔のソウルを取り出すという場面は、炎神達の奇跡的な力の発現であるが、元々自らのソウルを分離できる炎神達故に、十分許容範囲内である。続いて、取り出した「走輔ソウル」が物体化する。この「走輔ソウル」、あからさまに赤い色でないところがイイ。物体化するのも、作中では炎神ソウルで固定概念化している為、まるで違和感はない。さらに、ジャンクションライフルで走輔ソウルを走輔の身体めがけて打ち出す。普段、炎神のソウルを蛮機獣めがけて打ち出しているので、これも作中では当たり前のことだ。この、当たり前づくしで全てを解決してしまう凄さ。これこそが本エピソードの本領だ。ついでに風邪をハツデンバンキに置いてきたというギャグ描写も忘れていない。偶然やミラクルで片づけてしまわないところ、納得できるエクスキューズを忘れないところ、それが「ゴーオンジャー」で特に重視されていることは何度も指摘してきたが、ここでもしっかりと生きていることがわかる。

 ラストは、走輔のベッドが大変なことになっている、というギャグシーンで締めくくられる。これは勿論、連、早輝、範人、軍平による「風邪への対処」の結果であるが、作中で使用されたギャグシーンをラストまでちゃんと引っ張ってくるあたり、スパイシーな計算がピリッと効いていて心地よい。メンバーは個性が豊か過ぎて喧嘩ばかりしている印象こそあるが、仲の良さを否応なく感じさせるシーン作りが光る微笑ましいシーンであった。ゴーオンジャーのメンバーのみならず、制作体制のチームワークの抜群さが伝わってくる。