GP-40「将軍フッカツ」

 石化した炎神大将軍が街に落下した。それを眺めていた青年の前に、雷々剱と獄々丸が出現し「約束通り働いてもらう」と告げる。

 走輔はかつてサムライワールドで共に闘った烈鷹達に思いを馳せるが、現実には烈鷹達はもう存在しない。一方、晴之助と昭之助は烈鷹と面識があり、2人が託され守っていた剣は烈鷹の魂が込められたものだという。その剣によってのみ炎神大将軍を動かすことが出来るのだ。

 走輔達の前に雷々剱と獄々丸が登場し、剣を手に入れるべく襲いかかる。走輔達も直ちに戦闘態勢に入った。その間に安全な場所へと逃げる晴之助と昭之助の前に、烈鷹によく似た青年が現れる。晴之助は「剣をお返しします」と青年に手渡した。雷々剱と獄々丸は、その青年こそがヒューマンワールドにおける烈鷹の姿と魂を持った者だと言う。だが烈鷹の再来を期待する走輔の想いをよそに、青年は剣を手にすると、炎神大将軍を世界を滅ぼす破壊の権化として蘇らせてしまった。炎神大将軍は周囲を手当たり次第破壊し始める。ゴーオンジャーはエンジンオー、ガンバルオー、セイクウオーで炎神大将軍を止めようとするが、走輔は烈鷹への想いが強く、攻撃に集中できない。ガンバルオーとセイクウオーの攻撃も通用せず、2体はエンジンオーを残して炎神キャストに戻ってしまった。エンジンオーと炎神大将軍の一騎討ちとなるも、炎神大将軍のパワーの前にエンジンオーも合体を解かれ、炎神大将軍はさらなる破壊をもたらし始める。炎神達のダメージは大きく、チャージには丸1日が必要だという...。

 ケガレシアとキタネイダスは悪としての炎神大将軍復活を喜び、さらなる協力を雷々剱と獄々丸に求めるが、雷々剱と獄々丸はヒューマンワールド支配を目論んでおり、邪魔なケガレシアとキタネイダスを幽閉してしまった。

 走輔は青年が烈鷹と同一の存在ならば、彼にしか止められないとし、青年に接触する。烈鷹似の青年の「誰も自分を必要としない」という言い分、走輔の「甘ったれんな」という言い分、互いの主張の違いから2人は殴り合いを始める。「俺達だけが特別なんじゃない。お前だって、本当はヒーローになれるんだ!」と走輔は言うが、烈鷹似の青年は聞く耳を持たない。走輔はキョウレツオーで一人立ち向かう決意を固める。烈鷹の心が炎神大将軍の中に滅びることなくあると信じているのだ。

 しかし、雷々剱と獄々丸はしつこく襲いかかってくる。怒った走輔は連、早輝と共に突進していくが、雷々剱と獄々丸のパワーの前に苦戦。そこに範人や大翔達が合流し、7人勢揃いしたゴーオンジャーは反撃のチャンスをうかがう。

 一方、落胆する晴之助と昭之助の前に再び烈鷹似の青年が現れる。青年はサムライワールドにこそ、自分の居場所があるのではないかと考えていた。しかし、晴之助はヒューマンワールドと同じく、サムライワールドでも辛く苦しいことはあると言う。サムライワールドもヒューマンワールドと何ら変わることはないのだ。実は青年にもそんなことぐらい分かっていた。そして、この世界で戦うことが必要であると理解していたのだ。

 ゴーオンジャーは、必殺技を矢継ぎ早に繰り出し、雷々剱と獄々丸を遂に退ける。だが、雷々剱と獄々丸は炎神大将軍に反撃を命じた。その時、烈鷹似の青年が現れ、雄叫びと共に烈鷹の魂を発現。炎神大将軍を炎神キャストに分離させた。雷々剱と獄々丸は切り札として、ガイアークから奪ったビックリウムで巨大化する。

 走輔、連、早輝の3人は、スピードル、バスオン、ベアールVのソウルを烈鷹、獅子之進、月之輪の炎神キャストにセット。奇跡の炎神合体を果たし、炎神大将軍を完成させた。炎神大将軍は圧倒的なパワーで雷々剱と獄々丸を粉砕する。

 戦いが終わり、晴之助と昭之助は烈鷹達の炎神キャストを手に、キシャモス達に乗ってサムライワールドへと帰って行った。烈鷹似の青年も本来の自分を取り戻し、背筋を伸ばして街を歩いている。

今回のアイキャッチ・レースのGRAND PRIX

 スピードル!

監督・脚本
監督
佛田洋
脚本
會川昇
解説

 いわゆる「炎神大将軍」編の後半である。

 前回は、劇場版未見者への配慮の無さに多少の憤りを感じ、かなり辛辣なことを書いたが、今回はちゃんと劇場版の顛末が映像と共に説明され、未見の視聴者にも話の流れが分かりやすくなっている。実際のところ、コレを前回やって欲しかったわけだが、烈鷹にスポットが当てられる今回にフォーカスするとなれば、なるほど、このタイミングがベストだったのかも知れない。つまり、前後編を間髪入れず連続で視聴すれば、何ら不満はなかった...とは言いすぎか。いずれにせよ、今回は半田氏の登場も相俟って盛り上がりが大きく、前回くすぶっていた不満はかなり霧散してしまったことを白状しておかなければなるまい。

 それにしても、劇場版の映像とストーリー紹介がほんの少し挿入されただけで、非常に見通しが良くなった上、これから起こる事への期待感を煽られたのだから面白い。また、烈鷹の魂が宿った剣は、造形自体が炎神大将軍の持つ炎神剣と同一(子供が持つ為大きさは変えてあるようだが)であり、そこに謎を含ませているのかと思いきや、単純に「烈鷹の魂が込められた剣」という小道具とされていて、前回の不満は見事にあしらわれてしまった。結局、劇場版を見ている/見ていないに関わらず、単純にストーリーだけを楽しめる趣向には、一応なっていた訳である。配慮が不足しているとの批判は、私自身の認識不足という面、そして後編を見ずして結論を急いだという面から滲出したもので、制作上の落ち度とは決して言えなくなってしまった。結局は勝手に憤慨して損をしてしまった訳だが、それでもやはり劇場版を見ているか否かによっては、烈鷹登場のインパクト自体が変わってくるだろうし、雷々剱と獄々丸にしても同様であろう。皆さん、注目した戦隊に関しては、劇場版もちゃんと見に行きましょうね(笑)。

 さて、今回はシリアス版の「ゴーオンジャー」を作ればどうなるかを示したのではないかと思われるほど、ギャグが控えめであり、極論すればギャグの部分はケガレシアとキタネイダスが蛮機獣製造ブースに幽閉されるというくだりしかない。しかも、ガイアークの出番は前述の場面とエピローグの一部しかなく、劇中共々本当に邪魔者扱いされてしまっている。即ち、今回はガイアークと戦わない「ゴーオンジャー」であるということだ。烈鷹の存在感を考慮すれば、ギャグになりようがないということもあるが、実は4クールを迎えるにあたってシリアスな面も描いておき、最終局面への違和感のない導入を狙ったのではないかと深読みすることも可能である。というのも、今回は意外に各々のキャラが立っており、特にギャグを挟まなくとも、各人の魅力を発揮できるような計らいが見られるからだ。

 実際に最も目立っているのは走輔であり、烈鷹似の青年との壮絶な取っ組み合い等、迫力ある場面を見せ盛り上げてくれる。烈鷹への思い入れの深さは画面から非常に良く伝わってくるが、劇場版を見ていればこのあたりが更に鮮明になるものと思われる。その烈鷹への想いと、烈鷹似の青年に対する怒りが複雑に混ざり合って、走輔の中で葛藤を生む作劇は非常に見応えがあり、図らずも(いや、意図的かもしれないが)走輔のヒロイックな面を一層推し進めている。特に「お前だって、本当はヒーローになれるんだ」という訴えは、これまで自分こそがヒーローだという自信と共に突っ走ってきた感の強い走輔が、実はかなり広い視点を持っていることを伺わせ、彼の成長振りを垣間見せている。また、烈鷹似の青年の説得だけに時間を費やせないこともちゃんと理解しており、ひと通り訴えかけた後は、一人自らの手で炎神大将軍を止めてみせるとも発言。しかも、ただキレてそういった結論に達したわけではなく、炎神大将軍に残っているであろう烈鷹の心を信じての決意であることを描出している点が秀逸なのだ。烈鷹を想う心情描写と戦う姿勢のバランスが巧妙である。

 他のメンバーも出番は少ないものの、それぞれが的確なキャラクター性を発現しており、演技プランも演技自体も完成度が高い。

 連と早輝は基本的に走輔と行動を共にしており、シリーズ開始時点を彷彿とさせる3人編成による戦隊を見せる。個々人の主義主張は殆ど皆無に近いが、烈鷹に走輔ほどの思い入れがない様子や、まず街の破壊を防がなければならないという使命感の強さは、よく描き出されていたように思う。この3人編成を目立たせた事に関する真価は、クライマックスの炎神大将軍にて発揮される。炎神大将軍はエンジンオーのバリエーションであり、エンジンオーに乗り込む走輔、連、早輝が搭乗を果たさなければ意味がない(というより違和感がある)わけだ。この炎神大将軍が活躍するシーンは、劇場版のものを流用したと思しきカットのみならず、新撮のカットもふんだんに登場。スペシャルな登場ということでパワーも桁違いに表現されており、カタルシスの度合いは異様に高い。また、炎神剣轟音紅蓮斬りに関しては、普段ゴーオンジャーが行わない、「ポーズを伴う必殺技コール」を決めており、更には半田健人氏が炎神大将軍の声として必殺技の名を叫ぶという演出が際立つ。これは古くは「太陽戦隊サンバルカン」のサンバルカンロボ、「大戦隊ゴーグルファイブ」のゴーグルロボにて用いられた、いわゆる「しつこいまでの必殺技コール」である。今回のこのシーンは恐らく、これら黎明期へのオマージュと思われる。私としては、懐かしさと共に、こういった過剰な演出も現代においてカッコ良さとして通用するものだと再認識させられた。

 範人と軍平は、前回のメイン級であった為に今回の出番は少な目。しかし、晴之助と昭之助に最も近いキャラクターとしてのポジションはちゃんと描かれており、エピローグにおける見送りの際も、炎神大将軍の炎神キャストは軍平が2 人に手渡している。私はこの配慮ある演出にとても感心した。範人がお菓子を手渡しているのも実に良い。大翔と美羽は、あまり物語に関わってこないものの、要所要所で登場。特に大翔が烈鷹似の青年に「剣を返せ」と強い調子で訴えかけるシーンは、クールなだけでない大翔の熱いヒーロー性を垣間見せる。

 炎神大将軍登場ということで、エンジンオーG12は登場しなかったが、その代わりにエンジンオー、ガンバルオー、セイクウオーが登場。また、等身大戦ではこれでもかとばかりに各陣営の必殺技連発状態になっており、バトルシーンにおけるテンポの速さは半端でない。しかも、わざわざ走輔、連、早輝の3人をメインに据える為に、ジャンクションライフルとウイングブースターの合同技を登場させたり、ロードサーベル、ガレージランチャー、レーシングバレットをそれぞれが使用したり、ハイウェイバスターから3大炎神のエネルギーを発射したりと、実に凝っている。意地悪な見方をすれば、各種武器のプロモーションを一気にやった感じも受けるが(炎神大将軍の登場自体がプロモーション的なのだが)、そのプロモーションの訴求具合がどうであれ、概ねこの連発描写は成功しているのではないだろうか。

 さて、今回のメインに据えられているのは、勿論OPクレジットに従えば「青年/烈鷹」である。「仮面ライダー555」の主演として特撮ファンに浸透している半田健人氏が、ヒネた青年を独特の雰囲気で演じている。また、剣を鍛える烈鷹のシーンや晴之助、昭之助との会話シーン等を新撮しており、鋭い眼光と落ち着いた雰囲気が特徴の烈鷹も的確な演技で魅せる。この、相反するとも言える両キャラクターを、同じ姿と魂の持ち主とする作劇故に、演技プランに関する考慮は相当深かったものと推測できるが、半田氏のある種飄々とした雰囲気にはピッタリとハマっており、キャスティングや設定そのものにおいても成功を収めていると言える。

 ただし、烈鷹似の青年が1エピソードにのみの登場にとどまったことで、些か急ぎ足な感が否めないところもある。例えば、あれだけ荒んでいた青年の心情が、夜明けと共に一変したように見受けられたり、自分の所為で街にかなり甚大な被害をもたらしたにも関わらず、それについては一切の言及もないこと等が挙げられる。1つ目の心情変化は、走輔の言葉が少なからず心に響いており、烈鷹の魂が揺さぶられた故のものであると好意的に解釈することはできる。2つ目は、所謂「ジャリ番」の「なかったこと」に該当するのだが、事はそう簡単ではない。実は昔の「なかったこと」は意外にもシビアで、自ら明確な意思を持って悪に手を染めた者は、死んだり傷ついたり、あるいは償いの為の行動を起こしたりと、結構「落とし前」について厳格であった。特に東映特撮TVドラマは時代劇のエッセンスが取り入れられた面が大きいのか、この傾向が強かった。「なかったこと」にされるのは、完全に意思を奪われた人間が図らずも悪の意のままに行動したり、子供のささやかな罪に限られていたように思う。今回のように、大人である青年の意志が炎神大将軍を破壊者として動かし、それを青年自身も歓迎している構図からすれば、「なかったこと」には到底出来ない筈であり、この点についてはどう解釈しても不満が残る。あくまで烈鷹の魂の発現にスポットを当てた作劇であることは否定しないし、そこに至る盛り上がりは尋常でないが、やはりこの点は引っ掛かる。勿論、半田氏の魅力を最大限に生かす為には、最後に悲しい末路を辿らせるわけにはいかない。となれば、青年の心が炎神大将軍を破壊者にしたという展開が問題だったのではないか。剣を入手した雷々剱と獄々丸が炎神大将軍を破壊者に仕立て上げ、烈鷹似の青年だけがそれを止める力を持っているのに、なかなか動こうとしないという展開の方がベターだったように思うが、いかがだろうか。

 ところで、これは余談だが、半田健人氏は相当な高層ビルマニアであることがよく知られている。今回奇しくも高層ビルを破壊しまくるという役柄になったが、そのあたりを演ずるにあたって、どのような印象を抱いたか、是非訊いてみたいところだ(笑)。