GP-47「内閣カイゾウ」

 キレイズキーのムゲンゴミバコを通じ、総裏大臣ヨゴシマクリタインとその側近である危官房長官チラカソーネがやって来た。突然の来訪者に驚くケガレシアとキタネイダスだが、ヨゴシマクリタインが自分達より上の地位にあることを知り平身低頭となる。

 その頃、軍平はお見合い話を避けるべく、範人に女装をさせ、その写真を撮ることを画策していた。範人はその前にガールフレンドを作る努力をしろと言い、 2人は喧嘩になってしまう。そこに、ガイアーク反応の報が入った。いつもよりずっと強力だとボンパーは警鐘を鳴らす。走輔達は直ちに出撃した。

 街はヨゴシマクリタインらの大規模な破壊による宣戦布告で恐怖に陥れられていた。現れたゴーオンジャーとゴーオンウイングスはケガレシアとキタネイダスの攻撃を受け、ヨゴシマクリタインには近づけない。範人はバルカソウルをマンタンガンにセットして使おうとするが、キャリゲーターソウルが勝手にマンタンガンに入り、唸り声をあげて暴走し始める。キャリゲーターがマンタンガンから放ったエネルギーは、チラカソーネによって逆転され、範人と軍平を襲った。チラカソーネはなおも攻撃の手を緩めることなく、ゴーオンジャー達に襲いかかった。

 キャリゲーターによれば、ジャイアン族の大半を滅ぼした者こそ、ヨゴシマクリタインなのだという。キャリゲーターは敵であるヨゴシマクリタインを目の当たりにし、我慢が出来なくなったのだ。範人と軍平は先程の喧嘩を直ちに清算してヨゴシマクリタイン打倒を誓う。決意を固めた範人と軍平の攻撃はチラカソーネを一時制止し、スーパーハイウェイバスターとウイングブースターの照準がヨゴシマクリタインをとらえる。ところが、チラカソーネが再び立ちはだかり、必殺武器をまたもや逆転させてしまった。とりあえず「マニフェスト」発表を終えたヨゴシマクリタイン達は、一時的に退却していく。

 辛くも危機を脱した走輔達。チラカソーネ対策を考えるものの良い案は浮かばない。範人と軍平は傷に効く薬湯があるという銭湯に行った。範人と軍平は身体に刻まれた傷痕を見て、互いの頑張りを称えるのだった。バルカ、ガンパード、キャリゲーターも入浴でしばしの休息を楽しんでいる。範人は軍平のことを実はずっと尊敬していたと告白、それを聞いた軍平は照れっぱなし。やがて、話はチラカソーネ対策へと転じていくが、ここでも良い作戦は浮かんでこない。その頃、走輔達はある結論に達していた。チラカソーネがエネルギーを吸収し、反撃している間は、完全に無防備状態になる。したがって、一方からわざと攻撃を吸収させ、他方から反撃で生じる隙を狙って攻撃すれば良い。だが、それは反撃による犠牲を前提とする危険な作戦でもあった。

 一方、チラカソーネはヒューマンワールド全てを散らかしてやると意気込み、ケガレシアとキタネイダスの出番はなくなってしまっていた。宣言通りチラカソーネは高層ビル群をことごとく破壊していく。立ちはだかる範人と軍平は、すぐさま変身して見事なコンビネーション攻撃を開始。隙を見てジャンクションライフルを完成させ、到着した走輔達が止めるのを無視してチラカソーネに発射した。走輔達は範人と軍平の振る舞いから、2人が自己犠牲を覚悟していると察し、ただちに必殺武器発射態勢をとる。範人と軍平の思惑通り、チラカソーネはジャンクションライフルの一撃を逆転させた。走輔達は隙を見て必殺武器を発射し、チラカソーネを撃退する。範人と軍平はチラカソーネの反撃を受けてしまったものの、何とか無事であった。

 ヨゴシマクリタインの命により、敗れたチラカソーネはドッキリウムを飲み干して巨大化。走輔達はダメージを追った範人と軍平を休ませ、エンジンオーとセイクウオーで迎撃する。ところがチラカソーネは巨大化してもやはり強力であった。エンジンオーとセイクウオーはバラバラになってしまい、走輔達の変身も解除されてしまう。範人と軍平はダメージを押してガンバルオーで出撃する。ガンバルオーは気合でチラカソーネを圧倒し、遂にはガンバルグランプリのエネルギーをその気合で数倍に高めてチラカソーネにぶつけた。チラカソーネはそのエネルギーを吸収できずに爆発四散する。

 その時、戦場にヨゴシマクリタインが登場。怒りに燃えるキャリゲーターはガンバルオーの足で踏みつぶそうとするが、ヨゴシマクリタインは「正義解散」なる技を使って反撃する。ガンバルオーはバラバラになり、バルカ、ガンパード、キャリゲーターは光の粒子と化して消滅してしまった。そして、範人と軍平も相棒達と同じ末路を辿るのだった...。

今回のアイキャッチ・レースのGRAND PRIX

 バルカ!

監督・脚本
監督
諸田敏
脚本
武上純希
解説

 最終決戦開始ムード満点の一大危機編。一応範人と軍平がメインとなっているが、あまりにも二人の絆(というより仲の良さ)を強調していて「イイ話」になっているので、ラストの「消滅」が容易に予想できてしまうという、ちょっとした平成仮面ライダーテイストな一本でもある。

 しかしながら、さすがにこの2人の雰囲気と末路に涙腺を刺激された方、あるいは呆気にとられた方は多かったのではないだろうか。後でも触れるが、特に最後に互いの手を伸ばしあいつつ消滅していく様は、特殊効果前提の演技であるということを全く感じさせないほど素晴らしいものだった。実は2人を心底信頼している走輔の、素直になれない様子も程良く描写されており、雰囲気作りの巧さは最終局面に望む気概を存分に感じさせてくれる。

 実際のところ、前回が連と早輝とボンパーの絆のお話といった雰囲気だった為に、今回は単に範人と軍平にスポットがあてられただけのエピソードという感覚を、特に前半に関しては持ってしまったのを正直に告白しておきたい。その意味では、ラストにおける衝撃の展開は、結果的に更なる衝撃を伴って見せられたものだとも言える。ということは、「ゴーオンジャー」というシリーズの雰囲気に飲まれ、範人と軍平に降りかかる「大変な出来事」を予想できつつも、どこかで否定したい気分になっていたのだろう。終盤で一気に危機感を煽っていくというこの図式は、常に危機感を湛えたシリーズでは、そもそも危機感の上乗せになるだけで大した意味を成さず、逆に危機感がまるでないシリーズにおいても、簡単には展開しづらいものだ。前者は盛り上がりに欠けた感じになってしまい、後者は突如の路線変更を思わせる、唐突な展開を印象付けてしまう。「ゴーオンジャー」は後者に近いシリーズでありながら、微妙なラインを走ることで違和感を回避している。その肝は、敵側に感じられるギャグテイストと、正義側で繰り返し描かれてきた「仲間の存在」だ。敵側のギャグテイストは、危機感による殺伐とした感覚を緩和することで、それまでのエピソードと折り合いを付けている。正義側の連帯感は、強固であればあるほどその構成要素の一部が失われた時の衝撃度が増す。その2つの面を過不足無く描くことで、シリーズの連続性を保持しつつ迫力ある危機感を醸し出しているのだ。

 さて、今回の魅力は範人と軍平の動きを追っていくことで、ほぼ網羅できるものと確信する。従って、その前に周囲の要素に触れておく必要があろう。

 特に言及すべきは、やはりヨゴシマクリタインだ。梁田氏人気も手伝ってヨゴシュタイン再登場の期待度は大きく、やはりガイアークは三悪揃ってこそ魅力を発揮すると、ここ最近何となく感じていた方も多い筈。ヨゴシュタイン本人の登場は叶わなかったものの、同じ梁田氏の演ずる、ヨゴシュタインの血縁(?)であるヨゴシマクリタインの登場は、かなり嬉しいものとなった。ただ、ヨゴシマクリタインはキタネイダスやケガレシアの上役にあたるキャラクターである為、残念ながらかつてのバランスを取り戻すことはできない。別の見方をすれば、かつては同格だった梁田氏のキャラクターが上役に回ることで、キタネイダスやケガレシアの腰が低くなる可笑しさが出てくるという、異なる効果はあると気付く。

 そして、横に控えしチラカソーネにも注目。島田敏氏という名優がキャスティングされ、幹部級に相応しいキャラクターだったが、結局は「三悪以外の悲しきゲスト幹部」のパターンを脱することは無かった。超強力な様子を描かれつつも、1~2話で退場させるという例のパターンだ。このチラカソーネ、技の名前等に語呂合わせ感覚が満ち溢れており、どことなく前作「獣拳戦隊ゲキレンジャー」を彷彿させる。制作タイミングを考えると特に狙ったわけではないだろうが、奇しくも本エピソードはゲキレンジャーが登場する劇場版公開アナウンス中の放映であり、さり気なくアピールしているような印象を受けないでもない。まぁ、これは深読みだろうが。

 この2人が宣戦布告するシーンでは、かなり派手な破壊シーンが作られている。高層ビルにヨゴシマクリタインの顔が大写しになる等のイメージは、さながらハリウッドSFアクションのような演出だ。「内閣改造」「チェンジする」「イエス・ウィ・キャン」など、国内外情勢をパロディ化したセリフも好調。そして、このように実力を誇示するヨゴシマクリタインの元、キタネイダスとケガレシアも久々にアクションを披露。敵がメインというわけではないが、ガイアーク側が充実すると、やはり「ゴーオンジャー」は面白くなるようだ。

 ここからは、範人と軍平の動きを追ってみよう。勿論、ツッコミどころは沢山する。しかし、それが「ゴーオンジャー」を見る上での一つの楽しみ方になっているのを、否定する人はあまりいないのではないかと思う。

 冒頭、軍平は範人に女装をさせようと躍起になっている。軍平役の海老澤氏渾身の「変態演技」が素晴らしい(笑)。軍平は範人がやむなく女装したのを見て以来、すっかりそれが気に入ってしまったようで、事あるごとに範人に女装を促すようになってしまった。最初の反応時につけられたアドリブであろう演技(妙な笑みを浮かべるというもの)が、後々まで波及したものと思われる。大翔の「お化け嫌い」と並ぶ代表的な後付け設定であり、軍平のキャラクター性をいつの間にか象徴してしまう要素にまで昇華されてしまった。範人に女装を強要する際の理由も傑作。軍平にお見合いの話が来ているというのがそれだ。範人を女装させて写真を撮り、彼女だと偽るというのが軍平の魂胆であり、彼の妙に歪曲した思考を伺える。これはギャグなので、そんな志向性を云々論ずるのは筋違いかも知れないが、少なくとも常人の思考を逸脱しているのは確かだ。ただし、ここで「彼女役」が何故早輝ではなく範人なのかを考えると、範人と軍平2人の特殊な関係性を見ることが出来る。彼等には後から自らの意志でゴーオンジャーに飛び込んだという経緯があり、変身アイテムも単独仕様。ガンバルオーという単体ロボも有するという、特殊なペアだ。ゴーオンジャーがいくら5人(または7人)で形成されるとは言え、走輔達3人とはそもそも出発点も違えばガジェットも違う。シリーズ開始当初盛んに描写されていた、3人+2人体制が、さりげなくこの冒頭のシーンで再現されたと言っては言い過ぎだろうか。早輝は別チームなので頼み難い。ならば身内の範人に頼もうという思考は、深読みに過ぎるかも知れないが充分納得できるレベルにありそうな気がする。軍平の趣味的なものは除いたとして。

 この深読みが許される本当の理由は、ラストでこの2人が消滅してしまうことにある。強固な5人体制ならば、任意の2人を退場させるにあたり、誰を退場させても違和感を拭えない。その為、スーパー戦隊シリーズではレッド1人を残して他のメンバーが捕らわれるといった展開が多いのだ。レッドは一部の例外を除けば絶対的な主人公であり、1人+4人という図式は充分通用するからだ。その点、ゴーオンジャーは3人+2人という緩い5人体制をとっている為、言い方は少々悪いがレッドのいないチームが退場してもやっていける。この終盤の展開が当初から予定されていたものかどうかは判然としないが、私は終盤を迎えるにあたって改めて練られたものだと推測している。うまく3人+2人の5人体制あるいは更に+2の7人体制が構築できたことで、当初の3人体制を生かしていく構成に踏み込めたのではないかと思うのだ(ウイングスが退場するかどうかは現時点で分からないけれども)。

 上述の展開に向けて、範人と軍平の仲の強調はこれでもかといった感じで行われる。その中で最も強力なインパクトをもたらすのが銭湯だ。男性ファン向けの入浴シーンは数あれど、女性ファン向け(?)の入浴シーンは珍しい。背中を流し合ったりといったあまりにも仲睦まじい様子は、一歩間違えればかなり間違えてしまいそうな (笑)勢いであり、一定以上の衝撃度を伴っている。しかしながら、これもまた2人の関係性を補強するシーンとして重要な役割を果たしていることに、異論を挟む余地はないだろう。

 戦闘においても、2人の単独体制が強調される。全ては2人の消滅シーンに至るまでの布石であることを考えれば、再見した際のやるせなさは一際高まるが、それでもその充実度は間違いなく満足できるレベルにある。最初の一戦では、キャリゲーターの暴走から2人のコンビネーションはガタガタになってしまうが、次の一戦では見事にコンビネーションを取り戻している。ここでのコンビネーションプレイの流麗さは、さながらダンスを魅せるかのような魅力に溢れていた。更に、走輔達がどのような作戦を立てたかを知らずとも、範人と軍平は自分たちが犠牲になる作戦を立案(まるで主役は走輔達だと自ら宣言しているようだ)し、チラカソーネを撃破するに至る。2人の関係性を大々的に強調しつつも、それは閉じた世界ではなく、走輔達「別チーム」との関係性も何らスポイルすることがないということを、きちんと示していて非常に好感度が高い。さらにその後、チラカソーネの強大な力に敗れたエンジンオーとセイクウオーに代わり、ガンバルオーを出撃させて立ち向かう一幕で、2人チームをダメ押し的に強調するあたりがニクイ。しかも、ガンバルオーは単独で、気合と共にチラカソーネが吸収できない高エネルギーを照射し、勝利を収めるのである。2人の圧倒的な絆の深さを象徴するシーンだ。

 そして、2人の関係性強調が最高潮に達したところで、一気に地獄に突き落とされるという、この感情演出が素晴らしい。危機に次ぐ危機、そしてカタルシス、しかし絶望という流れは王道だが、意外に狙って出来るものではなく、かなり複合的な要因が幸運と共に重なり合って生み出されるのが常だ。今回はそれが見事に達成されていると見ていいだろう。

 勿論、地獄・絶望とは範人と軍平(そしてガンバルオーの炎神達)の「消滅」という衝撃シーンだ。「消滅」自体は特殊効果で実現する為、本当に目前の人間が消えていくのを見つつ演技するわけにはいかない。この難しい状況を表現しきった碓井氏と海老澤氏の気概にまず拍手を送りたい。必死に手を伸ばす姿は、本エピソードの中で2人の絆を強調し続けたからこそ説得力があり、手を伸ばした方向が走輔達ではなく互いの方を向いていたのは象徴的ですらある。また、光の粒子と化した2人を、走輔が懸命に集め取ろうとするスローモーションのシーンが異様な迫力を醸し出す。連の絶叫、早輝、美羽の呆然たる表情、そして大翔の絶句した様子も凄い迫力だ。走輔がブロンズ化した際の各々の表情も良かったが、今回の鬼気迫る様子には、各役者陣の素晴らしい成長振りが見て取れる。特に取り乱す走輔の様子は、子供番組という枠を逸脱する感覚だと言っても過言ではなかろう。

 本編のみならず、衝撃は続く。ゴーオンゼミナールは、本編とは離れたところで何気なく披露されるものだと、私は漠然と思っていたのだが、今回何と範人と軍平不在のままでコーナーが進行されているのだ。勿論、内容的には本編の雰囲気をあまり引きずってはいないものの、範人と軍平がいないという状況にはある種の戦慄を感じざるを得ない。確かに本編で消えたのに、何事も無かったように2人が登場するのはおかしい。それ故に、今回のゴーオンゼミナールは何となく重苦しい雰囲気となっている。図らずも、ゴーオンゼミナールのジレンマを垣間見た気がした。