epic27 「目覚めろ、アグリ!」

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 前回は、コミカルな展開で傑作たり得たわけですが、密かに期待していた「傑作シリアス回」が出現しました。

 幽魔獣編は、ゴセイナイト登場編を消化した後、ゴセイジャーのメンバー個々とゴセイナイトの関わりを描いているわけですが、今回はアグリがメインとなります。

 ゴセイジャーのメンバーは、あまり悩まないタイプが多く、アグリにしても例外ではないのですが、楽天的なスカイック族の二人、沈着冷静ながらキャラが壊れる事も多いハイド、基本的にアゲアゲなモネと比べれば、アグリは思慮に富んでいるというか、割と苦悩が似合うタイプであると言えます。

 今回の巧い処は、アグリの苦悩が自発的なものではなく、基本的に他発的なものになっていて、普段ならば悩む必要のないような事を、幽魔獣の所為で悩まなければならなくなってしまう処です。これにより、アグリ本来が持つ精神的な強さと、ゴセイジャーの内包するおおらかさがスポイルされないようになっています。

 同時に、アグリが深層で抱えているコンプレックスを表層に持ち上げて来るという作劇となり、アグリがそれを克服するという展開も可能にしています。

 また、ゴセイナイトの使い方が巧い。ゴセイナイトは人間でも護星天使でもなく、あくまでヘッダーの進化系なので、基本的に建前で物事を言わない。結局、アグリの耳にはゴセイナイトの言い草が全てダイレクトに入ることになり、そこには他者の介在が一切存在しないわけです。正に、魂の言葉が届いている感覚なのです。

 その他にも色々と見所がありますので、続きの方で無駄話共々述べてみようと思います。

 今回登場の幽魔獣は、人魚のジョ言(ジョゴン)。遂に人魚モチーフが来ました。しかも、いわゆる西洋童話の「マーメイド」ではなく、いかがわしい「人魚のミイラ」の類がモチーフ。結構気持ち悪いデザインで仕上げられていて、これぞUMAな雰囲気たっぷりなのです。

 人魚と言えば水場というのが相場なのですが、残念ながらランディック族相手なので、海や川といった場所での活躍はありません。ただし、地面が水面であるかの如く振舞うという特殊能力を持っており、そのシーンはCGによる先進的表現と、頭部造形物を地面に置くというアナログな表現を併用し、雰囲気たっぷりに描写されます。

 問題はネーミングソースですが、これは既に映画モチーフではないような気がします。人魚と言えば、ジュゴンを誤認したという説が有名ですから、ジョ言という名前はジュゴンから強くインスパイアされていると考えるべきで、そこに「言葉による心理攻撃」という特殊能力を引っ掛けて「言」の文字を当てているのではないでしょうか。多分、こじつけ的に映画モチーフもあると思いますが、少なくともジュゴンの語感とイメージの方がはるかに鮮明です。ま、モチーフとなった映画が分からなかった事への言い訳ですけど(笑)。

 前段でも少し触れましたが、このジョ言は「言葉による心理攻撃」を得意とします。ただ、その言葉を発するのはジョ言ではなく、他の誰でも有りません。ジョ言は特殊な鱗を人間に付着させるだけ。この鱗が付着すると、その人のコンプレックスに、他人の言葉がダイレクトに響くようになります。つまり、他人の言葉が自分の悪意であるように改変されて聞こえるわけです。

 この特殊能力によって街は大混乱。しかし、地球を汚すという大義からは、完全に乖離していますな。個人的には、こういうチマチマとした心理攻撃の方が現実感があり、より東映ヒーローらしくて良いと思っていますが。

 さて、このジョ言の鱗はアグリにも付着。ここからアグリの苦闘が始まるわけです。

 アグリに聞こえる、他人の言葉は結構エグい。アグリが深層に抱えているコンプレックスは、平たく言えば自分に特徴がないということ。ゴセイジャーの中で、自分の役割がいったい何なのかが、今一つ掴みきれていないという事なのですが、基本的にアグリは自信家なので、これまで表層には出てこなかったという設定のようです。

 アグリが把握している個々の特徴は、アラタが不思議な魅力、エリが明るさ、モネが集中力、ハイドが冷静さ。

 …アラタの「不思議な魅力」って何だよ(笑)。

 話は逸れますが、このアラタに対する評価こそが、「ゴセイジャー」の迷走を物語っている気がします。

 確かにアラタには「不思議な魅力」があります。それは視聴者からすると素直な感想でしょう。しかし、その魅力の正体は何かと問われると、ふと考えてしまうのです。

 私が考えるに、アラタの不思議な魅力の源は、演ずる千葉さんの醸しだす雰囲気がほぼ全てであり、「ゴセイジャー」という番組そのものが創り上げたアラタ像ではないのではないかという事です。つまり、制作側としてはアラタというキャラクターを使いあぐねているわけです。千葉さんという、超個性的な強力キャストを得たことで、「ゴセイジャー」という番組が得たものは大きかった筈ですが、逆に強力過ぎて転がすのが難しくなってしまった、それがアラタです。

 勿論、これまでの戦隊シリーズでも、キャストの魅力に強力に牽引されたメンバーは存在しました。最も顕著な例で言えば、「ゴレンジャー」のアオレンジャーこと新命明。宮内洋御大が好き勝手に(褒め言葉ですよ)演じた事により、もはや新命明=宮内洋しか有り得ないキャラクターになりました。また、「ジェットマン」でのブラックコンドル=結城凱も好例です。若松俊秀さんの洗練されたおしゃれな雰囲気により、凱は熱くクサいセリフを言わせる脚本の中にあっても、クール・スタイリッシュに振舞うキャラクターとなりました。

 しかし、これらの好例はあくまで「レッドじゃない」事に注意しなければなりません。どんなに各キャラクターに工夫があっても、あくまで戦隊の顔はレッド。レッドの魅力は直接シリーズの魅力に直結します。

 基本的に戦隊レッドは、ビジュアル的に(キャストの見た目という意味ではなく、演出や見せ方の上で)納得させられるのが常でした。なので、割とステロタイプなキャラクターになります。そして、それがそのシリーズのカラーとなります。しかし、アラタはビジュアルではなく、香るタイプと言えば適切でしょうか、とにかくキャラクター付けにも演出にも迷いが見られ、その分解寸前のキャラクター性を、千葉さんの雰囲気が強力に一つのキャラクターにまとめあげている感じなのです。

 ああ、ようやくアラタに感じていた違和感の正体が分かりました。アグリの「不思議な魅力」という言葉が、憑き物を落としてくれたような気がします。

 さて、話は大幅に逸れてしまいましたが、ここでアグリに関する話題に戻します。

 アグリはジョ言の鱗に翻弄され続け、モネに「元お兄ちゃん」と言われてしまい(いや、そう聞こえているだけなんですが)、そのダメージは決定的に。

 完全に自分を「要らない子」として認識してしまったアグリ。そんな彼の前にゴセイナイトが現れます。

 ゴセイナイトは、元々本音も建前もない、歯に衣着せぬ物言いでゴセイジャーの弱点を指摘するキャラクターですから、アグリに対しても容赦はありません。ただ、それがアグリを貶める語句ではなく、あくまで檄を飛ばす語句なのが熱く、それ故にジョ言の鱗のフィルターで改変される事もなく、アグリの心に届きます。

 キャラクターの特徴を活かすというのは、こういう事です。もしかすると、ゴセイナイトはもう少し柔らかい言い方をしたかも知れませんが、結局、言いたい事の中身は全く改変されずにアグリに届いたわけで、ゴセイナイトの特殊性が存分に活かされた形となりました。

 ゴセイナイトの言葉に奮起したアグリは、いかなる風評にも信念を曲げない、真に強い男となり、いきなり生身からスーパーゴセイブラックになるというワザまでやってのけます。これは燃える展開でした。アグリの強さをゴセイナイトも認識し、これで両者の絆も深まりました。

 一方で、シリーズの流れに関わる要素も盛り込まれます。

 武レドランが、密かに筋グゴンを陥れるのです。ジョ言の鱗の付着した筋グゴンは、膜インに知性の無さを貶められたと勘違いし、キレてしまうのです。そして、勢い付いたゴセイジャーによって大きなダメージを負ってしまいます。

 武レドランの真意は不明ですが、これも彼の作戦の中のひとコマに過ぎないものと思われます。

 色々と面白くなってまいりましたね。思わず、いつもより長く書いてしまいました。