ブレイブ16「モグモグーン!おれのたからもの」

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 イアン編。しばらく続いていた空蝉丸フィーチュアを廃す事で、より一体感とシリアスさを増した一編となりました。

 ただし、今回はキャラクターの描き分けが割と凡庸であり、あまり印象に残らなかったのは否めません。2クール目からは、積極的なゲスト投入等でキャラクターを掘り下げていく手法がよく採用されますが、今回は特にそういった措置もなく、出揃った駒でイアンの過去の仕切り直しを行う構図になっており、しかも、イアンの親友・御船士郎を殺害した真犯人がアイガロンだったという、題材としては衝撃的なものを用意しつつも、大した展開がないので、実にアッサリ味。

 イアンには、キレるといつものクールなイアンではなくなるという要素が、改めて付加あるいは確認されたものの、士郎に関する感情の根拠が妙に弱い為に、空回りしてしまった印象が強く、やや残念なエピソードでした。

 今回は恐らく、次回のキョウリュウグレー登場という一大イベントの前に、色々な要素を整理しておく意義があったものと思われます。最もフィーチュアの少なかったイアンをメインに据え、失われた宝を取り戻す展開を用意し、ダイゴの持つペンダントとの共通性を伏線として張るというドラマ面での整理と共に、次回のイベント編で埋没しないよう、事前に新武器の存在感をアピールしておく狙いが見て取れます。

 新武器に関しては、異様なまでに充実したアクション描写によって、アピールに成功していました。

 全体的に今回のアクションは、スローモーションを多用した重量感ある打撃描写に加え、武器を効果的に使用したアクロバティックな動きが印象的で、チーム戦よりもむしろ個人戦を華やかに彩る方針により、個々人の強さを遺憾なく表現していました。

 そんな中で、新しい獣電池であるディノスグランダーを駆使して、地中へ空中へ縦横無尽に飛び回るキョウリュウブラックの格好良さは、筆舌に尽くしがたいものがあります。また、凄まじい飛び降りや新武器を装備した上でのカンフーっぽいアクションも挿入され、より充実度を増していました。これは凄い。

 巨大戦に突入しても、そのテンションは維持されたままで、矢継ぎ早に繰り出される敵の攻撃と、対処を迫られるキョウリュウジン。さらには、そのキョウリュウジンがプテラゴードンの助力で空中戦を繰り広げる等、縦方向の動きを強調した場面構成が秀逸でした。今回の等身大戦、巨大戦共に、バトル描写に関しては、文句の付け処がありません。

 一方、ドラマの方はというと、整理の為に色々な要素に言及しすぎた所為か、やや散漫な印象となりました。それら要素一つ一つに関しては、よく考えられていて良いのですが...。

 まず、イアンとソウジのコンビネーションを、一歩踏み込ませる描写がありました。イアンは自身の復讐心の発露によって、ダイゴを危険に晒してしまった事を悔やみ、キョウリュウジャーとしての自信すらも失いかけるわけですが、ソウジはダイゴの言葉を借りて「イアンの魂に火を付ける」のです。ダイゴは一時の失敗など意に介さないし、「その次」にいつも期待し信用しているという感覚が、ダイゴと年の近いイアンよりも最年少のソウジの方により理解されていたという事なのですが、それはごく自然な事ですし、「年下に気付かされる」という構図が、逆にイアン本来の爽やかさを引き立てているのは、見事だと思います。

 続いて、イアンの親友・士郎の真の仇敵が、アイガロンだったという事実。「レギュラーキャラが、実は...」という展開は、場や感情を盛り上げる為の常套手段ですが、予想の付きにくい展開だった為に意外性は高く、イアンの感情の爆発にも一定の説得力を与えています。しかしながら、後述する「宝を取り戻す」という展開によって、この話に一旦決着が付いてしまったかのような印象になり、イアン個人のドラマとしては、やや勿体ない完結になってしまいました。

 勿論、イアンは個人的な復讐よりも、戦隊の一員として仲間の救出を優先すべきだという結論に至った上で、二度と友を失わないという、彼の固い決意に沿った結果を生み出した処は熱いわけですが、その「乗り越え方」よりも「親友の仇討ち」という側面にドラマの魅力がより強く感じられてしまうのは否めない処で、「乗り越え方」を選択した完成作品に、やや寂しい雰囲気を感じるに至ってしまったのは残念です。「キョウリュウジャー」としては、イアンの動きは絶対的に正しいんですけどね。

 次に、ダイゴのペンダントとイアンの奪われた宝とが、何らかの結びつきを持っている事。これに関しては、次回以降への「引き」として機能する以外、特に言及すべき部分はないのですが、興味深いのは、奪われた宝を奪回するのが、イアン本人ではなくソウジである事でしょう。イアンは宝に敢えて目を向けず、ごく個人的な目的意識を捨て去って、戦隊の一員としてのメンタリティを体現する事を強く意識して戦闘に臨んでおり、そんなイアンをソウジがリスペクトしているという構図が見て取れます。こういった構図をセリフで語らせるのではなく、アクションで語らせる手腕には、もっとスポットが当たって然るべきでしょう。

 もう一つは、前述のディノスグランダーです。新装備として華々しく描かれ、アクションの大充実にも一役買っており、割と没個性な獣電池の中にあって、強い印象を与える事に成功した例として記憶されるべきでしょう。

 これら一つ一つの要素は非常に充実していて、しかもそれぞれがテーマ性をちゃんと有したトピックで、更にはダイゴ達を救出するという目的に対して一斉に同じベクトルを向いているのです。にも関わらず、散漫に感じられるのは、ちょっと欲張りすぎてしまったから...なのだと思います。イアンの復讐心の氷塊がアッサリしてしまったのには、尺の不足がはっきり感じられましたし、アッサリしてしまった事で、イアンのドラマがやや薄味になってしまったのだと考えられます。

 その「欲張り」感こそ、「キョウリュウジャー」の魅力なんですけどねー!

 それでは次回、キョウリュウグレーの登場に心躍らせましょう!