ブレイブ28「ああトリン!1おくねんのうらみ」

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 キョウリュウレッドのパワーアップ編に続き、今度はキョウリュウジャーの礎とも言うべきトリンに関する一大展開!

 一応、前回からのデーボ・カリュードス続投という事で、まだまだキョウリュウレッドの、あるいはキョウリュウジャーのパワーアップ編は継続中でもあります。

 それにしても物凄い畳みかけですが、丁度3クール序盤というのは踏ん張り時という側面が強いので、この怒濤の展開は嬉しいかも。トリンの秘密については、まさかの「カオスの弟」というものでしたが、トリンがデーボスと深く関わっている事は大方予想出来たのではないかと思います。

 今回のトピック、まずは何と言ってもトリンでしょう。

 カオスの弟と言うには、あまりに姿形が違い過ぎるのはご愛敬ですが、元々レギュラーの割には得体の知れないキャラクターなので、色々と納得出来る側面もあります。出自は不明、地球上の生物とは一線を画する鳥人の姿、スピリットレンジャーのような「魂の存在」ではないが長命。これらのトピックは、デーボス軍の属性との近似性を強く感じさせます。

 しかしながら、デーボス軍の描写が当初より一貫して「分かり易い悪」となっていて、特異なキャンデリラやラッキューロですら、「倒す行為」については躊躇されるような場面があったにしても、その「悪」の存在感は徹底されていただけに、トリンのミステリアスなキャラクター性の中に見え隠れする「分かり易い正義」が、デーボスとは全く異なるものである事もまた確か。

 従って、新たに判明した「カオスの弟」というトリンの属性には、言い尽くせない違和感があるわけで、それが劇中の各キャラクターと驚きを共有する格好の理由となっているのは見事です。

 いわゆる「戦隊司令官」にあたる人物が、元々敵側に属する者だったという「仕掛け」は、「ダイナマン」の夢野博士が、ジャシンカ帝国の進化に関する発見を隠蔽する為に隠遁するという展開を源流とし、「チェンジマン」で伊吹長官の正体がゴズマの侵略を受けた宇宙人だったという展開を経て、「ダイレンジャー」の道士・嘉挧が実は敵であるゴーマ族の離反者だったというエピソードで完成を見ます。その後、「タイムレンジャー」で戦隊を組織した人間(リュウヤ)自体が一連の事件の仕掛け人だったり、「ゲキレンジャー」にて敵味方隔てなく「拳の師匠」を仰がせたりと、割と「異色作」たるシリーズで、この「仕掛け」の変形を見る事が出来ました。そして今回、満を持して(?)道士・嘉挧の直系と相成ったわけです。

 興味深い事に、「ダイレンジャー」ではクライマックス編の序盤で嘉挧の正体が明らかになっており、しかも、クライマックスだけあって、ダイレンジャーの面々は嘉挧に「裏切られた」という気持ちを抱きつつ、結局嘉挧の死までそれを完全には払拭出来ませんでした。つまり、これはクライマックスを最大限に盛り上げる為の「仕掛け」であり、「ダイレンジャー」の精神性とは別次元の「堕とし」の手法だったわけです。ホウオウレンジャー=天風星・リンは嘉挧の姪であるという設定があるように、当初より嘉挧がゴーマ族であるという設定だったかどうかは少々疑わしく、キバレンジャー=吼新星・コウがダイ族とゴーマ族の血を引いているとか、大神龍出現に際しての停戦といった挑戦的なトピックを立て続けに投入した残滓に、最後の大花火の導火線として用意したのが、「嘉挧の正体」だったように感じられます。

 その嘉挧に対し、トリンの場合は中盤の仕掛けとして投入されたという部分がまず異なります。要するに、これ以上の衝撃を持つトピックを終盤に盛り込む自信があるというわけです。また、トリンの正体を知り、そしてデーボスとしての姿を見せたトリンに肉体的苦痛を与えられつつも、トリンを信じたいという強い念を抱くダイゴ(父・ダンテツの言葉が響いている)を筆頭に、トリンを救おうとするキョウリュウジャーの姿勢は、明らかにダイレンジャーのそれとは一線を画します。

 勿論、ダイレンジャーは嘉挧の脱走と共に変身能力を失い、完全にそれまでの戦いを否定された格好になった為に、今回のキョウリュウジャーの境遇より遙かに重く、一概には比較出来ません。しかしながら、導き手が実は敵の種族だったという、根底の部分は同種であり、「信じていたのに嘉挧に裏切られた」という展開の「ダイレンジャー」と、「例え敵の種族であってもトリンはトリンだ」という想念を持ってきた「キョウリュウジャー」の作風の違いは如実です。

 そして、トリンがデーボスである事は、巨大戦に持ち込まれる事で決定的となり、キョウリュウジャーはトリンを助ける為にキョウリュウジンを完成させ、そしてトリンはわずかに残る本来の正義の意志で自己犠牲に導くという、非常に見応えのあるクリフハンガーに持ち込まれます。今回の巨大戦は、そのいつもとは違う意義が明確化され、その上いつもとは違う悲壮感を纏っており、オープンで撮影されたカットの爽快感とのギャップが、また違和感を生んでキョウリュウジャーの「揺らぎ」を表現しているようで面白いですねぇ。

 そういえば、「同種族じゃない」→「でもあなたはあなた」→「自己犠牲」という流れ、「ウルトラセブン」の最終話そのままですね。この展開は、やはり強い求心力を持つのだと思います。

 さて、前回に引き続いて坂本監督の演出という事もあり、アクション面で面白い工夫が見られます。

 とその前に、監督らしいというか、はたまた俳優陣を巻き込んだ制作陣の遊びというか、冒頭のキャンデリラの売り込みシーンのマニア度がやたら高い(笑)。

 まず、戸松遥さんをまたまた登場させました。一応、この人間態はどこぞやのアイドルのコピーという設定なのですが(今回もわざわざそこに言及している辺りが可笑しい)、今ではすっかりキャンデリラ本人としての存在感を増しています。後半では、「黒い戸松遥」を登場させ、そのあまりの妖艶さに「このまま顔出し幹部にして欲しい」と思った「大きなお友達」は多数にのぼるのではないでしょうか(笑)。いわゆる「黒戸松」の歌唱シーンでは、キャンデリラのカットが挿入されるエキセントリックな演出が施され、印象的なシーンに仕上がっていました。

 続いて、アイガロン役の水島裕さんもまさかの顔出し! その上、持ち役であるサモ・ハン・キンポーの髪型で! しかもアイガロンの声そのままなのにアイガロンの人間態じゃないという(笑)。デーボスの長はカオスですが、既に水島さんの出演シーンがカオス。

 その後、水島さん扮する人物は、喜び+恨みを発する者としてダイゴの前に再登場しますが、この時はてっきりアイガロンの変身かと思いました。今回、アイガロンは全く関係なかった(笑)。この人物、ダイゴにデコピンされて卒倒しますが、「人間であれば誰も罪はない」という薄っぺらな正義ではなく、ちゃんと「人間の罪」も認めるダイゴは超格好良かったですね。このシーンでは、サモ・ハンをイメージした声で演技されていて、水島さんさすがです。

 また、冒頭の売り込みシーンでは、部屋のポスターにハリケンブルー(芸能活動時の「野乃ナナ」名義)、イエローバスター(にそっくりの「アンジー・スー」)、そして「劇場版キョウリュウジャー」の美琴の姿が。こういうネタ仕込みに熱心なエピソード、時々ありますよね。

 アクションに話を戻すと、前回が素面中心だった為か、今回はスーツアクションが中心。しかも、戦闘中に名乗らせるとか、ダメージ表現にワイヤーアクションを多用するとか、ケレン味を感じさせるカットが贅沢に詰め込まれており、あまり素面では展開出来ないスーパーハードなアクション描写は、スーツで惜しげなく見せようという気概が感じられます。

 キョウリュウレッド・カーニバルも流れ的に無理のない箇所に採用されており、段取りの良さが光りますね。「キョウリュウジャー」は、新要素の採用が常に巧いです。

 次週まで、「どうなるトリン!?」で引っ張りますが、「キョウリュウジャー」の事ですから、きっと意外な展開が待っているものと思います。