ブレイブ29「だいげきとつ!おどれカーニバル」

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 「だいげきとつ!」のサブタイトルに相応しい総力戦。

 スピリットにバイオレットも完全参戦し、9人のキョウリュウジャーが戦いを繰り広げる様は、さながら劇場版のような豪華さでした。

 そして、本当の劇場版の要素をも取り入れ、ここで一旦区切りをつけて新章突入となります。

 前回ラストの巨大戦において、トリンは自らキョウリュウジンの刃にかかり、そのまま死に至るのかと思いきや、ラッキューロのシュクシュクボールをラミレスが奪い、鉄砕の幻術で撤退するという段取りが挿入され、スピリットレンジャーの参戦を無理なくシチュエーションに取り込んでいました。

 また、巨大戦で死を覚悟したトリンがキョウリュウジャーの面々に、いかに地球の美しさを愛しているかを告げるシーンが素晴らしく、デーボス軍として生を受けたトリンがいかにして「賢神」となったかを、納得する事が出来ます。そして、トリン自体もデーボス復活の因子と成り得る事が語られ、自らの死が望ましい事であるように表現するトリンの悲壮感に、これまたグッと来るわけです。

 この辺り、今回の爽やかで明るいエピローグに至って、作劇的に敢えて忘却される事になるのですが、ラストに向けて何らかの「引っかかり」として機能してくれる事を期待しています。

 話が前後しました。

 さて、視聴者的には、ここでトリンが退場する事はないだろうと分かっているので、いかにトリンを復活させるかというストーリーに興味を引かれる事になります。ここでのキーは、当初より謎のアイテムとして印象付けられている「秘石」。ダンテツ、ダイゴ、イアン、そしてラミレスと鉄砕がそれぞれ収集した9つの秘石が、トリンに復活の契機を与えます。

 しかし、その秘石だけで復活してしまう程浅薄でないのが「キョウリュウジャー」。ここに「劇場版が何故ミュージカルだったか」というテーマを持ってきて、更に変身時に踊り出すという実に荒唐無稽な設定の根拠まで提示し、「音楽の力」でトリンの魂を「たたき起こす」のでした。

 変身時に踊り出す事に対するある種の回答は、以前にも提示されたわけですが、今回はもっと根幹に関わる「遺伝子レベルで受け継がれる超古代の音楽」に言及しており、ここに「キョウリュウジャー」が抱える超古代から現代までの時の流れを盛り込んだ事は、特筆すべきポイントだと思います。

 音楽をフィーチュアした戦隊は、過去「バトルフィーバー」しか存在せず、その「バトルフィーバー」にしても音楽(というより踊り)は当初の設定のみに留まっている事から、非常に難しいテーマである事は想像に難くありません。平成ライダーでは「響鬼」が該当し、こちらは作品評価と切り離した場合、ある程度成功していますが、「響鬼」の場合は「楽器が武器」であるに過ぎず、「キョウリュウジャー」程精神性に影響する設定とはされていませんでした。「キョウリュウジャー」は、この困難なテーマに挑戦し、一旦は「目新しさ」としてビジュアライズした上、中盤でその正当な意味を説明するという手法でそれを成功させたと言っても過言ではないでしょう。

 ただし、その試み全てが全て巧く回っているわけでもなく、今回に限っても、キョウリュウレッド・カーニバルの「真の力」の根拠については、トリン復活に「歌の力」をフィーチュアした割には「歌」の影響が希薄で、単に「等身大カミツキ合体」にダイゴが気付いただけに見えてしまいます。ダイゴ以外のメンバーに関しては、前回を含めてダイゴほどの「音楽に魂を揺さぶられる」感覚が乏しい。キョウリュウレッド・カーニバルのあまりのパワーアップ振りを見るにつけ、ダイゴと他のメンバーの温度差が少しずつ目立ってきているのは、やや心配な処でしょう。

 ところで、今回のアクションは、スピリットと弥生が焦点。

 鉄砕のスキンヘッドが実はカツラだったという、もう何が真実なのか分からないトピックはご愛敬(笑)。しかし、スキンヘッドではなくなった事で、逆に出合さんのアクションに関するスキルが存分に発揮されたような気がします。設定を活かして頭突きを多用するアクションは、頭髪がなびく事で表現されるスピード感を伴って、随一のキレの良さ。拳法の構えも非常に巧い。ラミレスのパワーファイトとのコントラストが実に映えます。

 そして、弥生のアクションも多めにフィーチュア。今回は坂本監督の趣味も全開といった処なのか、事あるごとにスカートをヒラリとさせるローアングルのカットが多数。スタンドインも殆ど違和感なく行われており、飯豊さんがかなり身体を張って頑張っている事が分かります。スカートヒラリのカットにわざわざ効果音を付けるのは、ちょっとやり過ぎか(笑)。

 更には、スピリットレンジャーとキョウリュウバイオレットの同時変身を描くというサービスに痺れる事請け合いです。

 同時変身した事で、弥生がついついスピリットレンジャーと名乗り、自らそれにツッコミを入れるというギャグも飛び出し、中盤の一大アクションシーンを見事に盛り上げてくれました。水色、灰色、紫色という、これまでの戦隊では一度も見られなかった組み合わせは、戦隊っぽくない雰囲気でありながら戦隊以外の何物でもないという、面白い画面を生み出していました。

 クライマックスのアクションは、キョウリュウレッド・カーニバルの単独戦と、他の5人による戦闘に二分され、それぞれが見せ場を作っていました。

 ダイゴ以外のメンバーによる戦闘では、「やぐらを組む」という「いかにも戦隊」でありながら、最近はあまり見られないシチュエーションを披露。これは嬉しい絵面でしたね。皮肉にも、ダイゴが「一人戦隊」をやっている間に、こちらはこちらで「物凄く戦隊らしい事」をやっていたわけでして、ちょっと考えさせられてしまいました...。

 一方のキョウリュウレッド・カーニバルは、等身大のカミツキ合体をやってしまう発想が凄い。

 ブーツの色をもわざわざ変える芸コマ振りが楽しく、戦闘スタイルのバリエーションも格段に拡がったわけですが、残念ながら今回の描写は「仲間の力」という面が非常に希薄であり、ダイゴが単独で皆の獣電池を自由に操れるという、ややもするとキョウリュウジャーにおける戦隊の定義を否定しかねない処が気になりました。私があまり好きではないアバレマックスと比べても、仲間の力を表面上必要としていない今回のカミツキ合体の方が、はるかに取っつきにくい点は否めません。等身大でカミツキ合体をやってしまうという点においての興奮度は、非常に高いんですけどね。

 次回は、またややコミカルな作風に戻るようですが、事実上の新章突入という事で、様々な面での段取りの良さを見せてくれる事を期待します。