ブレイブ8「ココドコ?めいろをぶっとばせ」

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 ようやく登場した、本格ノブハル編。完全にノブハルの周囲の人物だけでドラマが進行し、ダイゴ達他の四人は、文字通り蚊帳の外。その「蚊帳」を如何に破るかというダイゴ達の尽力と並行して、ノブハルによる妹・優子の救出劇が展開し、双方がノブハルの姪・理香によって解決に導かれるという、シンプルながら凝った構成となっています。

 定番の迷路モノとしての要素も満載で、秀逸なカット割りに基づいた場面転換の見事さは、宇宙刑事シリーズのような醍醐味がありました。

 メインに据えた要素として、ノブハルの「オヤジギャグ」がありますが、こちらは有働家の精神性を象徴する小道具として機能。特に、故人である優子の夫・賢一に響くか否かという点で、ドラマの転機に使われており、単なるコミカルな要素を超える側面を得る事になりました。

 今回の興味深い処は、デーボ・ココドーコの繰り出す「迷路」が、単なる迷路ではなく、「縁の故人の幻を見せる」という、近年では稀な、実にヘヴィな題材に基づいて展開される点です。

 特に、優子にとっての賢一の幻は非常に酷であり、木下あゆ美さんの素晴らしい演技も相俟って、良い意味で完全に子供向け番組を逸脱していました。この悲しみの感情の高ぶりがあるからこそ、クライマックスに向かってのカタルシスがあるのだとすれば、これは人の死が頻繁に描かれていた、往年の東映特撮TVドラマの現代版解釈とも言うべきものです。死を忌避する現在にあって、このような悲しみの感情に訴えるドラマが子供向けコンテンツに導入される意義を、今考えてみる必要があるかも知れません。ある意味、前作「ゴーバスターズ」には、親世代との死別がテーマだった部分もありましたので、死への過度な忌避を否定する思想が蘇りつつあるのかも知れません。

 我々の生活する現実では、既に「死」自体が仮想化してしまい、身近でそれを感じ取る事も非常に少なくなってしまいました。これが正しいかどうかという議論はしませんが、少なくとも、疑似体験としてドラマを鑑賞する機会を子供達から奪う事に関しては、私としてはあまり賛成出来ません。

 今回感心したのは、回想シーンにおける賢一の死の描写が、舞台を病院としていて、「顔を見てはいけない」という理香への指示があり、さらに白い布で顔を覆われているという、割とリアリティのある描写であった事。これは疑似体験の描写としては正に強烈であり、前作ですら「データの断片となって消滅していく」という、ある意味「美化」された描写であったのに対し、非常にキレのある、また生活に切り込んでくる感のある、戦隊シリーズとしてはショッキングなものだったと思います。ここまで「厳かな人の死」を描写したのは、「バトルフィーバー」での倉間鉄山将軍の師匠・藤波白雲の通夜(?)のシーン以来ではないかと思うのですが...。

 ところで、「死別の悲しみ」一辺倒ではなく、そこにコミカルな味付けと、「救い」を設ける事により、戦隊シリーズの明るさをキッチリとキープしているのも美点でした。

 まず、迷路に取り込まれた殆どの人物が、近しい故人を追いかけるような描写になっている中、一人だけ、飼い猫らしき名前を呼んでいる人物がいたり。勿論、ペットというかコンパニオンアニマルを失った際の精神的ショックは、筆舌に尽くしがたい事は承知しているのですが、何となくユーモラスに描かれていて、ちょっとだけホッと出来る瞬間を提供しています。

 そして、「救い」の部分は、理香が担っています。

 実際、往年の特撮ドラマだと、亡き父を追って彷徨うのは子供の役目であるわけですが、理香は賢一の死を既に克服しており、実際に賢一の影を追っているのは優子だったという、今回の役割のシフトは、意外性に富んでいて見事だったと思います。この理香の健気さは劇中で「ブレイブ」と称されましたが、優子のドラマにも増して、涙を誘うものだったに違いありません。ここに、キョウリュウブルーの姪だから強いという理由付けが、ほんの少しだけ仄かに香っているのも面白い処で、しかも、実は慎重派なのではと思わせるノブハルと違い、むしろダイゴっぽい行動(バリアに突っ込もうとしてコケる)をとるという描写すらもあり、理香の「ブレイブ」が強調されている感もありました。この理香の「ブレイブ」な描写があった事により、一方の優子の弱さが強調される事にもなりました。

 そして、(オヤジギャグで)優子を救ったのは、その兄であるノブハルで、しかもノブハルは過去に賢一をも(オヤジギャグで)救っている事が回想シーンで明らかになります。つまり、ノブハルは悲しみや失望の底にある者を、手段はどうであれ、力一杯引き上げるブレイブの持ち主という事であり、それ故にキョウリュウジャーであると、今回語られたように思えます。

 実は、優子と理香の差異にはちょっと意地悪な感触があり、キョウリュウブルーをノブハルだと知って全面的に信頼している理香と、そうでない優子とでは、精神的な強さに隔たりがあるように描かれています。前述した「キョウリュウブルーの姪」という理香の自覚は、この差異を浮き彫りにしています。とはいえ、やはりこの二人に関しては、サイドストーリーを逸脱する事はないでしょうし、ノブハルというキャラクターを形成するエッセンスの一つとして、今後少しずつ変化が語られていくのではないでしょうか。

 さて、プテラゴードン関係も進展。

 トリンの脳裏に浮かぶ謎の戦士、獣電池を使う事が出来るドゴルド、非常に強力なプテラゴードンのパワー。これらが断片的に描写され、次回以降への引きとして強力に作用しています。個々のエピソードにバラエティ感があって、それぞれがパワフルな「キョウリュウジャー」ですが、前回も今回も、そのエピソードが抱えるテーマを重視しつつ、イベントに向けての段取りが少しずつ行われる構成になっていて見事。プテラゴードンに巨大化したデーボ・ココドーコをぶつけて撃破させるという、頭脳的な危機回避法にもシビれました。さながらグドンとツインテールのようで(笑)。

 まぁ、断片的とはいえ、ここまで要素が提示されると、「ドゴルドがアレなのね」と大体予測が付いてしまうのですが、これまでのエピソードを見る限り、仕掛けはシンプル、テーマは深くといった制作意図が感じられるので、むしろドラマ面での意外性が期待出来るのではないかと思います。今回の優子と理香のポジションも、そうとう意外でしたからね。

 次回は、完全新規の新ロボが登場...って、まだ1クールも終わってないですが(笑)。ホント、突っ走りますねぇ~。