ブレイブ9「メチャつよ!プテライデンオー」

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 キョウリュウゴールド登場編の前編といった処でしょうか。これまで、話が連続していても一話完結の体裁を崩さなかった「キョウリュウジャー」ですが、ここで純然たる連続エピソードを持ってくる辺り、気合いの入りようが窺えるというものです。

 ドゴルドの驚きの正体、生きていた先代キョウリュウジャーの一人・空蝉丸、単体変形して強さを見せつけるプテラゴードン。いわば追加戦士登場編の定番要素を貪欲に取り込んだ作風。恐らく、イメージソースとなっているのは「ガオレンジャー」のガオシルバーであり、キョウリュウゴールドとガオシルバーには、近似した部分が多く存在します。

 一方で、怒りに我を忘れて罠に落ちた空蝉丸と、どんな状況でも「信頼」を礎に余裕を崩す事のないダイゴとが、対比構造になっているのも注目すべきポイントで、先行のラミレス編と併せて、現キョウリュウジャーの「戦隊」としての強固さが強調される事となりました。

 まず、キョウリュウゴールドの、ガオシルバー=大神月麿との近似性について考えてみましょう。

 思いつくままに類似点を挙げていくと、数百年前から千年前の「先代」である事、いわゆる「侍」に近い者である事、面あるいは鎧に取り込まれて悪の幹部になった事、悪の幹部級怪人の姿のまま現代まで生き長らえている事、現代においてヒーロー化する事、独自のロボを持っており、それが巨大戦における驚異となる事...と、もう特徴の殆どが同じ傾向を示す程、両者は似ているのです。

 大神月麿というキャラクターは、特撮俳優ブームも相俟って、それまでの追加戦士と比べて扱いが大きくなり、オープニングで初めて、レギュラー5人と同じ単独顔出しクレジットが登場した追加戦士でした。ドラマ面でも、極力特別扱い(例えば戦闘時間にタイムリミットがあるとか)を避けられ、他の5人と同じフィールドで同じ活動をするキャラクターとなっており、単に千年前と現代のあまりの違いに戸惑う普通の青年として描かれていたわけです。

 つまり、月麿は、初の「純然たる増員」であり、ミスアメリカやバルイーグルが着任したままもう一人やってくるという...いや、何だかよく分からない例えですが(笑)、そういう事が初めて行われたのだと分析出来ます。それは、パワーアニマルが次々と登場しても個性が担保されている「ガオレンジャー」作風そのものを、玉山鉄二さんという類い稀なる逸材を得て、昇華させたものだと言えるでしょう。

 一方、「キョウリュウジャー」も獣電竜が次々と出てくるであろう作風であり、何となく使い捨て感が強い獣電池は置いておくとして、実際に巨大戦に登場する獣電竜達の個性は、戦隊メンバーの個性ときちんと対応しています。そして、月麿を彷彿とさせる空蝉丸の設定と来れば、今回は偉大な先人たる「ガオレンジャー」の再現という視線を注いで何ら支障ないのではないでしょうか。

 唯一異なるとすれば、月麿の悪の姿である「狼鬼」は月麿その人である(少なくとも鬼面が本体というわけではない)のに対し、ドゴルドは、空蝉丸を覆っている鎧自体が本来のドゴルドであるという点。ここが演出上も非常に巧く処理されている為、既視感に苛まれる事なく、新鮮味を感じられました。次回を見ない限りは分かりませんが、空蝉丸がキョウリュウジャーとして復活しても、ドゴルド自体が退場する必要のない設定になっているのも、好感が持てます。

 また、「キョウリュウジャー」らしい処として、まだ1クールも消化していないのにガオシルバー編をやってしまうとか、ドゴルド自体、途中から登場した「強い敵」ではなく、当初から幹部キャラとして登場しているといった、類を見ないスピード感とサービス精神、定番の中にちょっとしたパターン破りを仕込むという手法が挙げられるかと思います。

 今回のもう一つの大きなトピックは、やはりプテラゴードンが単体変形するプテライデンオー。

 巨大ロボには非常に珍しいマントを羽織り、そのマントを颯爽と振りながら街を次々と破壊していく様子は、イメージとして素晴らしく、後に正義側のロボとなるのは分かっていても、どことなく憎々しい雰囲気を漂わせていて秀逸そのものでした。

 このプテライデンオーに関する演出があまりにも先鋭化しているので、キョウリュウジンの新形態(いかにもオマケっぽいネーミングでしたが)も見事に霞んでいたものの、こてんぱんに敗北するという無様な姿は全く見せず、ダイゴの頭脳的プレー(瞬時に戦術を把握するイアンも素敵)でプテライデンオーをひとまず撃退するという華麗さ。この辺り、強さのバランスが熟慮されていると感じました。今回の巨大戦のメインはこの両ロボの激突となっており、両者を格好良く見せる工夫として、緻密なミニチュアセット、オープンとスタジオ撮影の秀逸なミキシング、クローズアップと俯瞰を巧みに繋ぐカット割り等が見られ、これまでのエピソードの中でも出色のシーンを作り上げていました。

 さて、ドゴルドが空蝉丸を取り込んでいたという流れなのですが、二人が一体化している間は、空蝉丸がドゴルドとして振る舞っていたように描かれており、いわば「怒りの戦騎」とは、空蝉丸のやり場のない怒りが肥大し具現化したものとして解釈されています。勿論、ドゴルドそのものである「鎧」がその具現化を担ってはいるものの、実体は完全に「空蝉丸の怒り」であり、その辺りがドラマ面の牽引力となっているのは間違いありません。

 とは言ったものの、このドゴルドと空蝉丸の関係は、江面とは裏腹に非常に難解なものではないかと思います。

 今回までのドゴルドは、空蝉丸の意識と、ドゴルドの意識、両方とも顕在化しておらず、第三のドゴルドとして存在していたかのような印象があります。つまり、空蝉丸でもなければ本来のドゴルドでもない、両者が融合して誕生した別の存在として成立していたかのようなのです。色々な解釈が成り立ちますが、あくまで空蝉丸(の怒り)を主体として、ドゴルドが媒介となって本来のキョウリュウジャーとしての意識を失った状態になっていた...というのが一番しっくり来るような気がしますね。

 まぁ、ドゴルドの成り立ちが云々といった部分は、本編ではあまり問題にはされていないので、むしろ「ドゴルドがキョウリュウゴールドだった!」程度で抑えておくと、より全体像を把握しやすいのではないかと思います。

 最後に、ダイゴについて。

 今回のダイゴの類い稀なる「ブレイブ」は、冒頭にも示した通り、どんな状況でも「信頼」を礎に余裕を崩す事のない「ブレイブ」でした。

 これまでの「普通の戦隊」ならば、仲間が人質になれば動揺するシーンが必ず描かれ、逡巡の後に打開策を見出すという流れがあるのですが、ダイゴの場合はその辺りを完全にすっ飛ばしてしまい、容赦なく敵を攻撃するのです。勿論、この類の容赦のなさは、以前の戦隊にも稀に見られましたが、その場合、仲間の命よりも大勢の命を...とか、仲間の犠牲があろうとも任務を果たすといった、「犠牲の美徳」を前面に出したものが多く、今回のように、一見根拠のない自信に裏打ちされた容赦のなさは非常に新鮮であり、しかも、キョウリュウジャーの強さの証明を得ると共に、余計な手順をすっ飛ばして流れを加速させるという効果が生まれていました。これは実に面白いですね。

 次回は、いよいよキョウリュウゴールド本格登場です!