Space.10「小さな巨人、ビッグスター!」

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 11人目の戦士、コグマスカイブルー登場!

 前回はリュウコマンダーが登場して話題をさらっていきましたが、今回はそのインパクトを超えると言っても過言ではない、少年戦士の誕生となります。

 ストーリー自体は、オリオン号が遭遇する未曾有の危機を描くものでしたが、実に緊張感のない演出が凄まじいインパクト(笑)。最初に巨大戦を持ってきて、あとはじっくりとラッキーと小太郎にスポットを当てた作劇とするなど、見せ方自体も面白いエピソードでした。

モズマ

 今回のダイカーンであるモズマは、蛾がモチーフとなっている異形の怪人。長い腕が特異なシルエットを生み出し、形容しがたい不気味さを醸し出しています。ところが、そのシルエットとは裏腹に言動は非常にコミカル。ダイカーンのくせにコソコソと逃げ回るのが実に可笑しく、飛田展男さんの声でさらに笑いのレベルが上がっています。

 このモズマ、圧政を敷く支配層というよりは、完全に「普通の怪人」としての役割に徹しています。というのも、オリオン号を危機に陥れるという一点のみがドラマにおける役割だからです。故に「キュウレンジャー」では珍しいタイプのダイカーンだと言えるでしょう。「普通」だったが故に、新戦士誕生編をオーソドックスに展開できるメリットを生み出しています。

 ミクロの分身(実は鱗粉らしい)をオリオン号に付着させて制御系をハッキングし、太陽に突っ込ませるという、卓越した能力の持ち主ながら、本体はコソコソ逃げ回っているというギャップがこれまた素晴らしい。モズマが生きている限りは分身も機能しているわけですから、どうにかして生き延びるというのが目的になっているあたり、巧いですね。

オリオン号の危機!

 というわけで、オリオン号は太陽へのコースまっしぐら。

 これ以上ないほどの危機的状況なのですが、見当外れの探偵ごっこや、お調子者な機械生命体(バランス)とパニック体質アンドロイド(ラプター)のコンビによるオペレーション、そして暑さでダウンする有機生命体群によって、まったく解決の糸口が見えない上に、物凄くテキトーなショウ・ロンポーが筆頭で危機感をスポイル! この作劇は衝撃でした。

 まずは、ナーガが謎の昏倒から始まります。これがジャークマターの侵入者による仕業と誤解されたところから、オリオン号の迷走は始まるわけです。実は、ナーガは無理な姿勢で(既にここが可笑しい)笑顔の練習をしていて転倒しただけと判明。ルーレットで犯人探しをするという暴挙に出た挙句、自分が「犯人」になってしまったショウ・ロンポーが捕縛され、その間にオリオン号は太陽に急接近。まさに、遊んでいる間に取り返しの付かない事態に突入してしまったわけで、本当にどうしようもない人達です(笑)。

 バランスとラプターが原因を究明するくだりは、なかなかにSF(特にスター・トレック)的な描写で満足度は高く、知恵を振り絞って事態を解決するのか...と思いきや、なんと原因が分かった後はショウ・ロンポーも情けない声で絶叫(!)するしかないという可笑しさ。色々な意味で衝撃的でした。

あの格好良いリュウコマンダーはどこへ...

 そんな感じでひたすらダメな人だったショウ・ロンポー。前回のリュウコマンダーの格好良さとは真逆のキャラクター描写となっており、そのギャップが大きな魅力になっていました。

 前回、凄絶な経験を経て道化芝居を覚えたという論旨でショウ・ロンポーを分析してみましたが、前言撤回です(笑)。これがショウ・ロンポーの本質!

ビッグベア総司令

 ショウ・ロンポーがこんな感じに演出された理由は、ビッグベア総司令の霊体を登場させるためのエクスキューズでもあったようです。

 前回、ショウ・ロンポー視点で語られたビッグベア総司令の壮絶な死は、非常にシリアスに描かれてリュウコマンダー誕生に重厚感を付与しました。後がないリベリオンの状況にも言及し、キュウレンジャーの存在価値、そしてリュウコマンダーの存在価値を高めた見事な語り口でしたね。

 ところが、ビッグベア視点からすると、実はちょっと違っていたという(笑)。やはり昔からショウ・ロンポーは「いい加減なヤツ」というのがビッグベアの評であり、ショウ・ロンポーがテキトーでなければ自分も命を落とすことはなかったというのです。故に、現在ショウ・ロンポーがキュウレンジャーを率いている現状が心配でたまらないという...。

 そして、そんなショウ・ロンポーを止められなかったことも悔いているため、テキトーではないものの、子供なのに無鉄砲に飛び出していこうとする小太郎を全力で止めに来ます。キャラクターとキャラクターを重ね合わせてドラマを紡いでいく手法が今回も採用されていて、宇宙規模でありながら知的生命体の倫理や論理は繋がっていることを巧く見せ、マクロとミクロで饒舌に語る手法が光っていると思います。

 結局のところ、ショウ・ロンポーがテキトーな人であることは覆らないのですが、それでもラッキーは、キュウレンジャーを見事に招集してみせた司令として全幅の信頼を寄せていることを告白し、ビッグベアを少しばかり安心させました。さらに、小太郎の真摯な姿勢にも心を動かされるというシーンも迎えることとなります。「結果」として、コグマスカイブルーが誕生することになるわけですが、そこからの逆算に感じられない流れが良いですね。こういうのは、得てしてあざとい感じになるきらいがありますけど、今回そういった雰囲気は皆無でした。

スティンガー

 小太郎をオリオン号に一時避難させたスティンガーですが、キュウレンジャーへの憧れが止まらない小太郎に対しては、少々冷たいと思える態度で接します。

 クールキャラの宿命と言っても良い言動ですが、恐らくは、子供を戦いに巻き込むことを避けたいという思いと、現在の小太郎が弟の庇護者として行動していないことへの心配があるのでしょう。小太郎目線では、この瞬間スティンガーがイヤなヤツとして映りますが、これは対立劇を年齢差に落とし込んで機能させる手法ですね。小太郎の年齢が無邪気な主張を可能にしているため、スティンガーの大人目線が厭味にならないわけです。

ビッグスター・コグマスカイブルー!

 小太郎の憧れはやがて目標となり、さらには目前の現実への対抗策になっていきます。ラッキーによって「チキュウに送り返される」際、セイザブラスターを勝手に持ち出しており、コクピットを混乱に陥れるというアグレッシヴさはオーソドックスですが、やはり「やんちゃな少年」系キャラクターの真骨頂でしょう。

 ビッグベアが憑依した姿は電王っぽくて笑えますが、まあ小太郎役・田口翔大さんの巧いこと! 可愛らしい見た目で油断していると痛い目に遭います(笑)。そして、オオグマ座の総司令からの助力を得て、コグマ座のチェンジ能力を得るというロジックの巧さ、そしてコグマが「ビッグスター」と名乗る痛快さが抜群。変身後のアフレコまで巧いと来ていて、鮮烈な新戦士デビューとなりましたね。

 少年戦士は、「ダイレンジャー」のキバレンジャーが嚆矢ですが、キバレンジャーは変身と共に体格が大人になるという点でイレギュラーな存在。「オーレンジャー」のキングレンジャーも少年でしたが、体格自体は成人男性とあまり変わらない年頃でした。以降、「ゲキレンジャー」に小さいゲキレッドが出現したり、「トッキュウジャー」における子供のまま全員変身といった例外的な登場はあったものの、今回のように本格的な少年戦士は皆無でした。電王のごとく、ビッグベアが憑依したまま変身するものと予想してましたが、まさかの本人のままでの変身とあって、そのインパクトは絶大でしたね。

 変身後のスーツアクターは務めるのは神尾直子さんで、少年っぽさを表現する体術はさすがの一言。前年ではラスボス(!)を演じておられたのですから、その幅の広さたるや凄いですよね。マフラーを駆使したアクションというのも新しい感覚です。あのマフラーは、やはりこぐま座の長い尻尾をイメージしているのでしょうか? 一方で、オオグマキュータマの力で巨大化するというのも、小ささを逆手に取った楽しい能力。まさに小さな巨人ですね。

 それにしても、小太郎は今後どういう扱いになるんでしょうか。気付けば今回、等身大戦ではラッキーと小太郎しか変身していないという状況が象徴するように、変身後のメンバーが揃わないのはすでに当たり前になってきているため、小太郎が登場し続ける必要すら薄くなってしまうわけですが、レギュラーとして抱えるか否かで随分雰囲気を左右すると思うので、動向に注目したいところです。

次回

 「アルゴ船」という、星座モチーフならではのワクワクするキーワードが登場してきて、ますます盛り上がって参りました! オリオン号とは別の巨大母艦なのか、それとも新ガジェットなのか...。興味は尽きません。アンラッキーなラッキーというキャッチーな題材も楽しみですね。