Space.34「謎の覆面戦士、現る」

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 帰ってきたチャンプ!

 これで遂にフルメンバーが再び揃ったことになり、いよいよジャークマター本拠に乗り込む準備ができたことになります。

 今回は、チャンプが過去に残って見聞きしてきたことが中心となって話が進むわけですが、正直なところ説明不足な感は否めないところで、並び立つ二人のチャンプ(?)のビジュアルの面白さや、ボケとツッコミの切れ味が目立っていて、肝心なチャンプの苦悩にはあまりスポットが当たらない印象になり、やや惜しいところでした。

牛型汎用破壊兵器ゼロ号

 名前のとおり、チャンプのプロトタイプとしてアントン博士によって作られた戦闘ロボット。そして、今回の分かり難いポイントその1です。

 チャンプとの共通性を見出せるシルエット、黒き猛牛(チャンプ)と対照的な白いカラーリング、肉弾戦主体のチャンプに対し武装を強調するといったデザインラインが秀逸で、一目でチャンプと表裏一体の兄弟的ロボットであることを理解させるあたり、見事です。

 戦力も強大そのものであり、ヘタをするとククルーガ以上の戦力を持っていそうな感もあります。当然ながら、ラッキーたちも手を焼いていました。迫り来るという表現がピッタリで、ジリジリと追い詰められるキュウレンジャーの様子が華麗なアクションによって彩られており、全編を通しての見所となっています。

 さて、問題の「分かり難さ」。恐らくは、うじきつよしさんとの調整における都合が色々とあるものと思われますが、今回もアントン博士の回想シーンが採用されなかったことで、チャンプとゼロ号の関係性を説明するにあたり、説得力に欠けたことが第一の要因かと思われます。ゼロ号がアントン博士の手によって作られたジャークマターの尖兵であったことは、チャンプにとって大きな衝撃となったわけですが、そのあたりが駆け足でハイテンポな筋運びも手伝って結構伝わりにくかったように思います。流し見していたら、チャンプが何故覆面で現れたのか、キュウレンジャーとして復帰することに悩んでいるのか、「暴走」とは何か等々、よく分からないのではないかと。

 これまでも含め、とかくアントン博士周りは説明不足な部分が多く、スコルピオ編でも「ジャークマターへの反逆者」という言葉のみで片付けられていたりして、「もっとうじきさんを出せ!」と言いたくもなるわけです(笑)。とりあえず、スコルピオの言は真偽が曖昧にされていたからこそ、過去に行ったチャンプは衝撃を受けたわけですから、シリーズ構成としては正解だったと言えるのですが...。

アントン博士

 結果的に、今回までで確証が取れたトピックを列挙してみましょう。

 まず、スコルピオの証言どおりジャークマターの博士でした。そして、幾度かのサイボーグ手術を経て生き長らえてきたことが明らかとなり、さながら死神博士のような不気味さを備える設定が開示されました。ゼロ号を開発し、その後継機としてチャンプを開発。可能性の範囲ですが、同ラボでククルーガとアキャンバーが改造されたと証言しているため、フクショーグンたちの再生改造を行ったのも、恐らくアントン博士でしょう。

 ああ惜しい!

 これら、すべて登場人物のセリフで説明されています。サイボーグのメイクをしたドクターマンみたいなうじきさんを出して欲しかった(笑)!! しかし、それではスコルピオに殺害された時点のアントン博士と、容姿の整合性が取れませんけど...。

 あと、ドン・アルマゲが再三復活している件に、このアントン博士が関係していたら、ちょっとシビれてしまいますが、どうなんでしょう??

 妄想は置いといて。アントン博士はその後、チャンプに「戦いに心を奪われちゃいけない。ただの機械になってしまう」と諭すなど、チャンプに志を授ける人物となるわけですが、それ以前にアントン博士に何があったのかは、まだ分かりません。しかしながら、今回「ただの機械」たる尖兵でしかないゼロ号と、「正義があれば何でもできる」と自らを焚き付けるチャンプとの対比が、アントン博士のポリシーの変化を如実に現しているのは熱いところで、特にチャンプに宿った「心」は、アントン博士自身が身体を機械化していく過程で失いそうになったものの投影だったのかも知れないと思うと、非常に響くものがあります。

 先に挙げたドクターマンとは、「バイオマン」のボスキャラに当たる人物ですが、彼は冷たい機械を愛し徹底的に人の心を拒絶したものの、結局地球を破滅から救ったのは彼の実の息子に対する一欠片の情でした。アントン博士の推移について詳細は殆ど語られていませんが、何となく、ドクターマンに重なる哀しさが感じられますね。

ヤギュウジュウベエ

 ジャークマターの博士であることが明確となったアントン博士。そのアントン博士に作られたチャンプは、出自がジャークマターであるも同じ...。

 そんなわけで、キュウレンジャーへの復帰をためらうチャンプは覆面を被ってヤギュウジュウベエ(「野牛」のダジャレになっているところが巧い)と名乗ることにしたのですが、ガル以外の誰もが正体に気付いているという分かり易いギャグが切れ味抜群。一人称を何回も言い直したりと、チャンプの方も全くダメなのですが、何と言っても一番ダメなのはガルであり、本当に正体に気付いていなかったというのが素晴らしいギャグになっていて、重苦しいテーマをくるっとひっくり返すパワーを発揮していました。アドリブと思われるセリフも多々入っていたりして、もう癒やし系ワンちゃん以外の何物でもない(笑)。

 さて、チャンプがジャークマター出身というロジックは、アントン博士に作られた以上、確かにそうなりますが、果たしてそれが真だと言えるかどうかは、解釈によって異なってくると思います。しかし、ここはチャンプの捉え方として、敵側のテクノロジーで作られたロボットであることに負い目を感じていることも充分理解できます。例えば、ラプターがツルギのテクノロジーの後継であることとは、対照的であるわけです。

 いわゆる「抜け忍」がメンバーに存在するチームというのは、「忍者キャプター」に代表されるように定番と言えますが、チャンプの場合は出自が後から判明したので、厳密にはこのパターンから外れています。しかし今回、「暴走」という付加要素が一つの契機となって、抜け忍的な扱いがあるのかも知れないと思うと、なかなか胸躍るものがあるわけです。しかし、既に残り話数が結構少ないのであまり期待できないのが...(笑)。

 その「暴走」ですが、アントン博士が破壊兵器たるものとして意図的に仕込んだものなのか否かは、判然としない部分があり、ここが分かり難いポイントその2。ジャークマター製らしさを演出するにも、やや弱い要素であることは否めないでしょう。この「暴走」が何故起こるのかといった疑問に対して、ちゃんと答えが用意されているのならば凄いですけど、何となくスルーされそうなのが...。

 ただ、「暴走」の要素が、スティンガーとの相棒たる関係性の再確認として作用(「一人で抱えるな」というチャンプに対する、スティンガーの返歌になっているところが実に見事)したのは、巧いところです。ついでに今回のムードメーカーとして抜群の存在感を発揮したガルも加わって、「暴走」の秘密を共有するトリオが成立します。一旦暴走したチャンプをガルのキックで正気に戻させるあたり、説得力も抜群ですし、彼らの信頼関係を如実に語るシーンになっていました。しかし、秘密にすること自体の是非は別問題。今後のフックとなるべく逆算されたものかも知れませんが、ドン・アルマゲ討伐に盛り上がる面々に水を差さないようにしたスティンガーの配慮は、彼の判断にしてはちょっと軽率のようにも思えました。

巨大バズーカ

 巨大戦における必殺バズーカっぽいものは、戦隊シリーズでも「ジェットマン」のテトラボーイや「オーレンジャー」のレッドパンチャーといった具合に、それなりに見られるものですが、今回のように、明確に等身大戦における必殺バズーカをそのままスケールアップしたようなものは、初ではないでしょうか。

 オリオンバトルシップが変形した、オリオンビッグバンキャノンと称される巨砲を、三台ロボが保持して発射するという構図は、遂に巨大戦にも必殺バズーカが出現した瞬間を捉えたものです。これには驚きましたね。アイデア自体は「宇宙刑事シャイダー」のバビロスと同様のものですが、複数の巨大ロボが保持するという点が非常に目新しく映りました。終盤にこういった新しさが出てくるのは良いですね。

 それにしても、大して強くないのにフクショーグンたちはしつこいですね...。

次回

 再びナーガの頭脳に潜入したバランスによって、サザンクロスがジャークマター本拠であると突き止めたキュウレンジャー。いよいよチキュウを飛び立ちます。

 そして一大攻略戦が始まるのかと思いきや、まさかのアイドルパロディ編! 意外にメイン回の印象が薄いハミィですが、次回は確実にファンの脳裏に刻まれることになるでしょう(笑)。