Space.36「ラッキーの故郷に眠る伝説」

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 ラッキーの出自に迫る一編。同時に、新ガジェット登場編としての側面もありました。

 向かうはラッキーの育った地であるコジシ座系惑星ルース。シシレッドである彼がシシ座系出身であることは、事前に誰もが分かっていましたが、コジシ座系に身を置いていたことは今回初開示(ですよね?)。終盤に向けて様々な要素を回収していく過程で、やや性急な設定付加が行われるのは珍しいことではないですが、「キュウレンジャー」はそのキャラクターの多さにより、そういった傾向が強くなってしまっている感はありますね。やはり、もう少し前にラッキーの出自に関する謎について盛り上げておいた方が...と思ってしまう回ではありました。

ウンジェット

 モチーフはオーパーツとして有名な「コロンビアの黄金ジェット」。いわゆる「火星人」を模したと思われる「本体」以外は、正に有名なオーパーツそのもののデザインとなっていて楽しいです。「本体」はギミックによって口パクが行えるようになっており、そのキャラクター性を遺憾なく発揮できるようになっている上、咥えタバコのパイロットをイメージした造形が楽しく、数多のカローの中でも突出して印象に残りやすいものだったと思います。

 頭部のみが本体というギミックを擁する怪人は色々と居ますが、個人的に最も印象的なのは「ハリケンジャー」の幹部怪人であるサーガイン。今回のように本体が頭部そのものというわけではありませんが、頭部がコクピットになっていて、内部で小さい本体が操縦しているという点で今回のウンジェットとよく似ています。

 コジシキュータマを狙ってルースに来たというウンジェット。カローとして圧政を敷くという役割を既に逸脱しているような気もしますが(笑)、今回の流れとしては必要な振る舞いでした。単純に爆撃担当として人々を苦しめているので、それが圧政の代替になっているとも捉えられるかと思います。攻撃力も意外と高水準に描かれ、ノーマルな状態のシシレッドを窮地に追い込んだりしていました。

 巨大戦でも「本体」の行動を操演で見せるなど工夫がなされ、キュウレンオーを乗っ取るべき「機体」として捉える斬新な感覚が鮮やか。色々な面で面白いゲスト怪人になっていましたね。

シーザー

 新ガジェット・コジシボイジャーがトイのサイズに縮小したもの...と言うと身も蓋もないのですが、「ゴーオンジャー」等に代表される巨大メカの通常モードを踏襲したのが、このシーザーです。

 このパターンは、トイそのものを劇中のプロップにしてしまう発想が元になっています。アニメではありますが、恐らくは「ゴールドライタン」がそのパイオニア。劇中で主人公ロボたちがおもちゃと同スケールの物体として描かれることにより、おもちゃの所有者は劇中世界とシンクロできるという、絶妙な戦略です。「ゴールドライタン」は「子供たちが所持を許されていないライター」から変形するロボット玩具という企画の方が先行しており、タツノコプロがアニメの制作過程でその企画意図を見事に汲み取ったという事情があるそうで、マーチャンダイズ先行のコンテンツビルディングとしても、記録されるべき事象だったと言えますね。

 ちなみに、コジシ座系からシーザーというキャラクターを連想する過程では、「聖闘士星矢」が影響を及ぼしているのではないかと推測されます。こじし座自体は神話由来ではない、星図の補完を担うものであり、本来はしし座の小型版という印象でしたが、「聖闘士星矢」でこじし座(ライオネット)のセイントが登場した際、シーサー(狛犬)をモチーフとしたことで、サブカル界隈の認識が少々変化したのは間違いないと思います。こじし座=シーサーという発想の転換は実に素晴らしいものであり、本作のシーザー(シーサーだと迫力に欠けるので敢えてシーザーというネーミングにしたのでしょう)にまで影響を与えているのは、よく考えると凄いことですね。

 さて、ラッキーが父から「友達」として与えられたというシーザー。ラッキーは「唯一の友達」と称しており、彼の根源的な孤独を巧く言い表しています。ガルがその言を気にして、自分がラッキーにとって何であるのかを問うという、正に「可愛いワンちゃん」状態なシーンが設けられましたが、ラッキーは迷う事なく「大切な仲間」だと答えました。「友達」と「仲間」を区分しているところに、またラッキーの孤独感が表出しているように思えるのですが、いかがでしょうか。

 なお、本項冒頭に記したとおり、シーザーの正体(というより覚醒した姿)はコジシボイジャーなのですが、ラッキーの父はそれを見越して手渡しているものと思われ、次回以降のポイントとなる要素になることは、ほぼ確実でしょう。今回もラッキーの危機を見事に救い、スーパーキュウレンオーへの合体を可能としました。ポッと出ていきなり最終形まで披露してしまったので、折角の「スーパー」を冠するロボットとしてはインパクトが弱めになってしまいましたが、ガジェット過多な昨今ではもう当たり前な感もありますね...。

 それでも、この時期に及んで基本ロボが武装合体で「スーパー」を冠する形態になるというのは、燃えるものがあります。多数のモライマーズ襲来に際して、速射砲の如く対応する勇姿はシンプルな格好良さに溢れていましたし、シシボイジャーの強化がキュウレンオーの強化へとダイレクトに繋がる設計が実に巧く活かされていました。

王子ラッキー

 王子様だと明かされても、「よっしゃラッキー!」とは手放しで喜べないのが勘所。出自について記憶が殆どないラッキーにとって、それは戸惑いを喚起するものでしかないわけです。しかも、ラッキーは故郷を追われた者であり、故郷を象徴する王家の血筋は非常にネガティヴな要素として受け取られるものでした。

 そして興味深いのは、「王家だから、こうなのだ」というロジックが、「キュウレンジャー」本編に殆ど出て来ていないことです。王家故に特殊な能力を持ったり、謎の血統が色々な困難を解決する展開は割と多くの作品に見られますし、英雄譚では「ドラゴンクエスト」シリーズを持ち出すまでもなく、定番中の定番になります。ところが、ラッキーに関してはオライオンの血を引いているということ以外に自身を強化する要素がない。幸運の持ち主という設定こそが、実は王家の血の証かも知れない...という予測自体は成立するものの、その幸運にしてもラッキーのポジティヴシンキングの結果として、謂わばラッキーのポリシーが結実したものとして描かれてきた経緯があるわけで、血統にその所以を求めるというのは少し違って来ます。

 王族とされたことで、そのリーダー性の基盤が垣間見られるという程度に解釈するのが、「現時点では」妥当な感じがしますね。

 ところで、王族レッドは「ジュウレンジャー」におけるティラノレンジャーこと、ヤマト族プリンス・ゲキがパイオニアにしてピークではありますが、ジュウレンジャーは王族と騎士の混成チームでありながらメンバー間に上下関係はなく、王族関連のエピソードも太古にプリンスの地位を巡って一悶着あった(ドラゴンレンジャー・ブライの一件)程度に留められ、更には元々王族直系の血統でもないということが明らかになるなど、様々に「配慮」されたキャラクターでした。この頃の戦隊はメンバー間の序列を排除する傾向があり、特に次作「ダイレンジャー」では単独ロボを所有しているか否か程度の差異で全員同列、「カクレンジャー」に至ってはヒロインが正統なお姫様なのに、あまり大事に扱われないというギャグに彩られ、「オーレンジャー」で少し軍の階級としての序列が復活したと思ったら、「カーレンジャー」で見事に崩壊したりといった具合。それは現在に至っても少数の例外を挟みつつ継承されていると言えます。

 もう一つ、今回のポイントは、父たる王がまだ存命であり、しかも故郷をジャークマターに売り渡して配下となっているという、非常に重苦しい背景を与えられていることです。父捜しがラッキーの「家出」の目的だったという話は、彼の孤独をさらに強化していますが、そこに「裏切り」が加わることで、より強力な孤独感を強いる構図になっており、追い込み方が急激かつ凄まじい。実にキツいですね。

 父が敵になっているという話は割と多く、前述の「ダイレンジャー」でも「カクレンジャー」でもドラマティックに描かれましたし、近年でも「キョウリュウジャー」にて意図の読めない父親に翻弄される主人公の姿が劇的に描かれたのは記憶に新しいところ。「マジレンジャー」では、敵幹部としてレギュラー出演しているキャラクターが実は父親だったという構図でしたし、やはりドラマを紡ぐには適した題材だと言えるでしょう。

 今回はラッキーの父・アスランに山崎銀之丞さんがキャスティングされており、一筋縄では行かないキャラクターを既に感じさせています。シーザーの件があったりと、劇中にも色々な仕掛けが用意されている節があるので、恐らく単純明快な敵にはならないでしょう。前例たちがそうであったように、今後のラッキーの「生き方」に関わるような、重大なテーマを与える人物になる可能性が高いので、色々と期待してしまいますね。

次回

 父との再会がテーマ。やっぱりハイテンポで展開して来ますね。劇的になるのは間違いないので期待度はMAX。しかしながら、一週お休みを挟みます。このあたり、今シーズンのスケジューリングは巧み過ぎて思わず笑ってしまいますね。