Space.42「父か?宇宙か?ラッキーの覚悟」

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 前言撤回。アスランをここで出したのは正解でした。

 「最後のジェダイ」を観に行き、「おんな城主 直虎」の最終回を見てしまい、正直「キュウレンジャー」の印象が自分の頭の中で物凄く薄まってしまったきらいはあるのですが...(笑)。何とか文章をひねり出しています。

 それぞれがそれぞれの役割を全うするために死力を尽くすという展開は、やはり燃えるものがありますね。年末商戦編としての巨大ロボ大活躍も見られ、ビジュアルも大充実でした。

アキャチューガ

 アントン博士(またまた、うじきさんの声による「怪演」が素晴らしい)の手により、三人のフクショーグンが融合した巨大怪人が、このアキャチューガ。合体怪獣・怪人はそれこそ特撮の歴史において百出していますが、今回もその派手で強そうなデザインが良いインパクトを放っています。そして、そのボリューム感が実に素晴らしい。キュウレンジャーの巨大ロボ群を凌駕する巨体(スーツアクターさんのご苦労がしのばれます...)が圧巻で、その強敵振りを遺憾なく発揮していました。

 巨大ロボが束になってもかなわないという構図は、この巨体を擁するビジュアルによって腑に落ちるものとなり、本拠地のコアの番人という設定を得て、年末商戦対策でありながらもストーリー的に無理がなく、巧さの目立つ構成でした。総集編やコメディで乗り切る強引さも嫌いではないですが、やはり物語の盛り上がりにぶつけてくる方が見応えある画面になりますね。

 ところで、合体怪獣の嚆矢って何でしょうね。「ウルトラマンA」のジャンボキングでしょうか。私は「ウルトラマンA」はリアルタイムではないのですが、後に怪獣図鑑やケイブンシャの大百科といった書籍で、ジャンボキングの威容に衝撃を受けたクチです。かつて倒された怪獣のパーツを組み合わせて新怪獣(ジャンボキングは超獣ですけど)を創り出すという手法は、物凄く斬新だったわけですね。次作「T」でのタイラントを経て、近年ではウルトラマンですら融合してしまう時代になりましたが、依然として「威容」を演出するには適した題材になっていると思います。

 このアキャチューガは、別の意味でもインパクトがありました。それは声優陣です。フクショーグンは改めて説明するまでもないですが戦隊俳優陣が務めており、テッチュウはニンジャブルー=サイゾウこと土田大さん、アキャンバーはイエローバスター=宇佐美ヨーコこと小宮有紗さん、ククルーガはデンジグリーン=緑川達也こと内田直哉さんが担当していました。今回、このお三方が声を合わせて一人のキャラクターに声を吹き込むという、戦隊ファンにとっては恐ろしく豪華な状態になっているわけです。さながら、戦隊レジェンド三人が一体の巨大合体ロボに乗り込んでいるような感覚でした(笑)。内田さんと土田さんは洋画や海外ドラマの吹替えを多く担当されていますが、小宮さんも是非その流れに続いて欲しいところですね(最近、その美貌を武器に高頻度で披露されているグラビアも素晴らしいですが!)。

 なお、正攻法では勝てないので、作戦を練り、トリッキーな戦術で勝利をもぎ取るキュウレンジャーが実に格好良いです。元々、「スパイ大作戦」に端を発した戦隊に、「スタートレック」の要素を導入した「キュウレンジャー」ですから、この展開には凄く納得できました。

ドン・アスランの猛攻!

 オリオンバトルシップに乗り込んで来るドン・アスラン! ドン・アルマゲに憑依されているとはいえ、そのフィジカルな能力はアスラン王そのものに依存しているに違いないわけで、改めてアスラン王の武人としての卓越した能力が垣間見られるというものです。

 前回は、ここでラッキーの物語に落としていくための方便としては、やや弱いのではないかという感想を持ちましたが、今回、改めてラッキーの迷いと克服を描くには、これほど理に適った人選はないと感じた次第です。

 というのも、私自身はラッキーに完全無欠な幸運のヒーロー像を勝手に投射していたのですが、今時それでは「次」がないわけで、その「次」を実現するために最適なアイディアを実践した結果だと納得したんですね。一応、表面的には完全無欠なヒーローであるラッキーにとって、アスラン王はその精神性を担う唯一の人物。男性ですがアニマを司るキャラクターと言って良いと思います。それ故に、揺さぶられる心から生じる迷いはリアルなものですし、例えドン・アスラン自体が「ポッと出」なキャラクターだとしても、否、「ポッと出」だからこそ突然の揺れ幅が大きくなるという自体もあろうかと思うわけです。

 惜しむらくは、もう少し親子の情を掻き立てるような描写が欲しかったところでしょうか。「宇宙刑事ギャバン」で頻繁に、時には物語のスムーズな流れを分断してまで挿入された幼少期の回想シーンは、その挿入歌とのベストマッチングも相俟って印象に強く残ったわけですが、そのような描写には恵まれなかったようですね。戦隊は群像劇ですから、たとえヒエラルキーの頂点たるキャラクターであっても、そこまで潤沢な尺を与えられる余裕はなかったということでしょう。

 オリオンバトルシップ内でのラッキーとの一騎討ちは、ラッキーがシシレッドオリオンになっても劣勢という、凄絶なシチュエーションとなりました。ラッキーに迷いがあったというのも理由の一つですが、やはりアスラン王の能力が群を抜いて秀でているという説を採りたいところ。ツルギが割って入り、何とかその場をしのぐという展開も良いです。

 ツルギはこの戦闘を俯瞰してラッキーの迷いを見透かし、敢えて辛辣な選択肢(父の命か、宇宙の平和か)を与えて覚悟を問うのも熱いですね。そして、ツルギは二兎を追うことの愚かさまで持ち出してラッキーを詰り、ラッキーをして「父を倒す」とまで言わしめる追い詰め方を為します。ここで、ハミィがそれを全力で否定しにかかるところがまた良い。ヒロインがヒーローのアニマたるポジションを獲得することは多いですが、ここでもそれが成立しています。ハミィ自体に確固たるヒロインのポジションは与えられていない(乱暴な言い方をすれば小太郎に近いマスコット的なポジションでしょう)ので、こういった発言は逆に視聴者へ「刺さる」ような気がしました。

ラッキー

 そして、ラッキーは迷いを捨てます。二者択一ではなく、二者択二を選ぶのがラッキー流。それはラッキー以外の誰もがラッキーに期待する態度でした。

 スティンガーが迷っているラッキーに詰め寄り、かつての自分を重ねてラッキーにそのポリシーを問うシーンは、さながら芝居合戦の様相を呈していて素晴らしいものでしたね。ここではスティンガーですらラッキーのアニマとして機能しています。ヒロインポジションの多いこと(笑)。とまあ冗談はさておき、12人の中で最も迷いを体現してきたキャラクターが、今まさに迷っているキャラクターに助言するという構図は、群像劇の正当派として評価されるべき部分でしょう。やや乱暴なスティンガーの言動に、ただ沈黙するしかないラッキーの迷いの深さも、また凄まじい迫力でした。

 覚悟を決めた(同期の「ウルトラマンジード」のキャッチフレーズに重なるところもあって、個人的に熱いんですけど)ラッキーは、正に猛進する獅子になります。その裏で、静かにテクニカルな作戦の立案と進行がなされ、静かにツルギとドン・アルマゲの対峙が描かれます。この鮮やかな対比が実に不穏(さらにツルギは体に変調を来しています)で、このまますんなり事が運ぶわけがない(スター・ウォーズ的に言えば「嫌な予感がする」)。恐らく近年の慣例に則って、年内に一旦カタを付けるシリーズ構成になっているものと思われますが、何か一波乱が期待される流れですね。

次回

 ツルギとドン・アルマゲの「会談」が最も興味を引くところですね。親子の対決は彼らに救いをもたらすのか、それとも...という部分も大きな期待要素になっています。俄然盛り上がってきたのが見て取れますね。一応、クリスマス編を兼ねているようなサブタイトルなので、その辺の織り交ぜ方も楽しみです。