第9話 龍の恋人

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ストーリー

 奈津川村は奈津川湖畔の美しい自然が残る村。そこへスパリゾート建設の計画が持ち込まれていた。温泉が湧き出るポイントには、龍の祠と呼ばれる小さな祠があり、それが計画にとって邪魔な存在だった。伝承を重んじる村長・水上は、村の活性化と伝承の間で揺れていた。水上の息子・五郎は、そんな水上を優柔不断だとなじる。観光客さえ増えれば考えると言う水上に、五郎は一計を案じる。

 五郎は奈津川湖の龍伝説を利用し、野次馬による集客に成功した。DASHはナツノメリュウが実在するのではという噂を聞きつけ、カイトとミズキを調査に派遣した。カイトはそこで、不思議な少女を目撃する。

 少女の後を追ったカイトは、少女からナツノメリュウの伝説を聞く。かつて、村が乱れ湖が汚されたとき、ナツノメリュウが怒って村を焼き払おうとした。そこに村の英雄が現れ、龍の祠に封印したのだと。少女は、同じことを繰り返そうとしている現状を憂い、村を助けて欲しいとカイトに告げる。

 一方その頃、エリーによってナツノメリュウの映像が解析された。結果は人工物。つまり偽物であった。詰め寄るカイトとミズキに、五郎は騙されるほうが悪いと悪態をつく。水上は年に一度の花火大会を成功させるため、敢えて真実を伏せてくれと要請した。

 しかし、ナツノメリュウは本当に現れた。再びカイトの目前に現れた少女は、祠を守ってくれと懇願する。そして先頃のナツノメリュウ出現は警告だと告げた。ミズキに話すカイトだったが、ミズキには少女の姿が見えていなかった。

 その夜、花火大会に乗じて祠を壊そうとする五郎の行動を感知したカイトは祠へと急ぐが、止めることもままならぬうちに五郎によって龍の祠が壊されてしまった。すると、ナツノメリュウは湖より姿を現わし、村を焼き払い始めた!

 カイトはウルトラマンマックスに変身し、ナツノメリュウを止めることを決意する。「悪いのは人間よ」とカイトを止める少女だったが、やはりナツノメリュウを止めなければ人々が危険だ。カイトは変身する。

 マックスはナツノメリュウと激しい戦いを展開する。一向に怒りの収まらないナツノメリュウに対し、マクシウムカノンを放とうとするマックス。その時ナツノメリュウの涙の中に少女が現れ、ナツノメリュウを鎮めた。マックスは七色の光の中にナツノメリュウを封印するのだった。水上はマックスを伝説の英雄と呼んだ。そして、村には新たに龍の祠が再建され、ホテルの誘致は中止された。

 後に、カイトは湖に花を手向ける女性に出会う。女性の持つロケットには、あの少女と同じ顔写真が入っていた。少女は、20年も前に亡くなっていたと言う…。

解説

 早くも登場した「お伽噺系」のエピソード。ウルトラシリーズ全体を見渡しても、世界観が固まるまで十分に待ってから、このようなエピソードが制作されている場合が多い。裏を返せば、マックスが当初から迷いのない方針の元にスタートしたことが伺える。1クールを待たずして、バリエーション豊かなエピソードを畳み掛けるパワーは凄いものがある。

 今回は「お伽噺系」であり、「信仰と近代化の対立」であり、「霊的なシャーマンの登場」である。ウルトラシリーズで数多展開されてきたこれらの要素を一気に凝縮した結果、ビジュアル的にも冴え渡った傑作となったようだ。

 まずは「お伽噺系」の要素。登場する怪獣が伝説の龍であり、ナツノメリュウの造形自体も、昔話に登場する龍の雰囲気を湛え、ウルトラ怪獣的なモダンアートの要素を意図的に廃しているように見える。また、今回の特撮シーンの白眉とも言うべき美しい飛翔シーンが素晴らしい。炎の翼に青い熱線、往年の東宝怪獣映画のようなパワーが漲る。

 次は「信仰と近代化の対立」。このテーマ自身は既に使い古された感がある上、リゾート開発という現在の情勢にそぐわない状況は、かなりリアリティを殺いでいるように思える。しかし、その現実離れした感覚が、今回の少し浮世離れした雰囲気を創出していることを忘れてはならない。

 最後に「霊的なシャーマンの登場」。これはオリジンをウルトラマン第20話「恐怖のルート87」やウルトラセブン第42話「ノンマルトの使者」に求めることが出来る。中でもノンマルトのエピソードはセブンの中でも問題作・野心作として扱われており、その独特な雰囲気と重苦しいテーマで見る者を釘付けにする。今回は重苦しいテーマを扱っているわけではないので、オマージュ的にアイデアを拝借したという程度の解釈でいいだろう。ただし、今回は佐野史郎氏のナレーションを使用せず、カイトや少女のモノローグで全体を貫いており、重量感を出そうとする意図も汲み取れる。

 正直なところ、特に今回のストーリーにおいて秀逸な面が見られるわけではなく、前述の三要素を組み合わせて幻想的な山間部を舞台とする基礎を築いたに過ぎない。要は、その基礎の上でどれだけ幻想的な映像を作り上げるか。そこに今回の命題があるように思うのである。

 映像に主眼を置いた結果は、見ての通り美しい合成に彩られ、特異なアングルを多用した幻想的な映像のオンパレード。テーマを追いすぎてジレンマに陥ることなく、映像的な説得力で押すという選択が功を奏した結果である。映像的な見所は、今回下のオマケに列挙することにした。

オマケ

 何といっても素晴らしいのは、ナツノメリュウのビジュアル。特に炎の翼が美しく、着ぐるみによる演技と操演がベースとなっているため、特撮の丁寧さが際立っている。また、青白い熱線が村を焼いていく様子も意図的に美しく演出されているように思える。湖から出現するシーンもうまく合成されており、さながら怪獣映画のよう。

 マックスとのバトルは、照明をギリギリまで落とし、深いナイトシーンで展開される。マックスの電飾はナイトシーンに実に映える。大きさがかなり異なる両者の格闘も工夫され、立体的な殺陣を展開している。

 また、花火大会という舞台を利用して、ナツノメリュウやマックスの背後に花火を配するなど、日本の風俗を取り入れた野心的で美しい画面作りに好感が持てる。