第13話 ゼットンの娘

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ストーリー

 得体の知れない侵略者の群れが、不気味に地球へ接近していた。UDFは宇宙からの脅威に対抗すべく、世界中の上空域に32基の監視衛星を配備。その監視能力の高さに嬉々とするDASHの面々だが、ヒジカタ隊長は「侵略者を甘く見るな!」と一喝。

 その頃、「ゼットンの娘」と名乗る女性がヨシナガ教授に面会を申し出ていた。ヨシナガ教授は彼女を「ナッちゃん」と呼び、10年振りの再会を喜んだ。彼女の名前は小田夏美。夏美は宇宙からゼットン怪獣が送り込まれ、ウルトラマンマックスが殺されると告げる。そしてゼットン星人は自分の父であり、ベース・タイタンの機密も狙われていると警告した。ヨシナガ教授は、夏美がかつて超能力少女だったのだと言う。しかし一時的なトランス状態を経てその能力は失われてしまったと語る。その時、突如モニターに現れるゼットン星人。ゼットン星人は、エリーの音声を利用してUDFとウルトラマンマックスに挑戦してきた。エリーはエリアJT112からの不振な電波をキャッチ。ヒジカタ隊長はただちにカイトとミズキを現場に向かわせる。

 ダッシュアルファで現場付近に到着したカイトとミズキの目前で、夏美が交通事故に遭う。カイトは治療の為、夏美に血液を提供。翌日、なんと夏美は完全に回復して普通に生活していた。夏美の身辺調査を命じられたカイトたちは、近所の評判の良さと、夏美の献身的な行動を目の当たりにする。

 その夜、ゼットン星人が夏美の前に現れ「お前は私が1万年かけて作った奇跡の娘」と告げる。ゼットン星人は、1万年前にゼットン・ナノ遺伝子を移植した人間の直系の子孫が夏美だと言い、遂にゼットンの娘が誕生したとして、夏美に憑依してしまった。

 ゼットン星人の拠代となった夏美は忍者装束で夜の闇を駆ける。ベース・タイタンに易々と進入した夏美は、コンソールからデータを盗み出し、DASHの追撃をものともせず闇に消えた。その際、盗み出したデータは上空へ転送されてしまった。その直後、東アジア上空の監視衛星は破壊されてしまう。

 追撃の際に追わせた手の甲の傷を確かめるべく、夏美に会いに行くカイトとミズキ。しかし、夏美の手の甲に傷はなかった。そこへ落下する青い流星! 流星はゼットンだった。DASHは直ちに出動、カイトもウルトラマンマックスに変身して立ち向かう。しかしゼットンはあまりにも強力な侵略用怪獣で、防御壁ゼットンシャッターは、マクシウムカノンですら破壊不可能な鉄壁の光波バリアであった。

 絶体絶命に陥ったマックスの前に、突如現れる新たな巨人! 新たな巨人=ウルトラマンゼノンはゼットンに立ち向かうが、やはりゼットンシャッターの前に攻撃を阻まれる。ゼノンは、マックスギャラクシーを召喚、マックスギャラクシーはマックスの右腕に装備され、新必殺光線ギャラクシーカノンでゼットンを粉砕した!

 ゼノンは異空間の中でマックスに、正体不明の宇宙戦闘機4機の地球侵入を警告し、地球を頼むと言い残して去っていった。

解説

 ウルトラ最強怪獣として名を轟かせる人気怪獣ゼットンが、遂に登場! しかもゼットン星人までが登場するというサービス振りだ。その上、ウルトラマンゼノン登場、マックスギャラクシー登場というイベントも重なり、一大イベント編としての性格も持ち合わせている。そして、今回の脚本は上原正三氏という、ファン待望の一編でもあり、これだけの盛り沢山要素を1話の中にまとめて見せ、作家の個性までも魅せているのは流石と言えよう。

 まずは、構成の面から本エピソードを眺めてみたい。ゼットン登場ということで、初代マンや帰マンで展開された基地壊滅、ウルトラマンの悲壮感あふれる戦いなどを想像してしまうが、当然最終回ではないので有り得ない。むしろゼットンという超メジャー級の怪獣を配することによって、じわりと襲い来る侵略者の恐ろしさを描いたと見るのが正当。この「じわりと」の感覚こそが上原氏の真骨頂だ。

 そのために、敢えて生活感に溢れた「東京の下町」という舞台を用意し、「気立てのいい孝行娘」という前時代的なキャラクター・夏美を意図的に配している。この感覚は、上原氏がメインライターを務めた「帰ってきたウルトラマン」の感覚に程近いものがあり、「日常の中の非日常」をポリシーとする上原氏の作風が見事に生きている。ここで一つディープなファンとして指摘したいことがある。かつて、帰マンで市川森一氏が「強烈な変化球」としてウルトラセブンを登場させたことがあったが、その帰マンのメインライターであった上原氏が、今回はゲストウルトラマン登場のエピソードを書いているのだ。何となく因縁めいたものを感じずにはいられない。

 次に、キャラクター面から眺めてみる。特筆キャラは、やはり夏美に尽きる。特撮モノを経験した夏美役の長澤氏の目線や表情、アクションもあってか、「ゼットンの娘」を名乗るに十分な存在感を持っている。夏美にとっての「日常と非日常」のギャップが見事に表現されており、やり過ぎ感は否めないもののイメージたっぷりの忍者装束も実にカッコいい。

 ゼットンは、アントラーに続いて造形美が感じられ、電飾の美しさ、甲殻の硬度を感じさせる素材など、合格点以上。帰マンのゼットン(あれはあれで実に味わい深いのだが)に声を失ったファンも納得の造形であった。鳴き声というか作動音というか、あの独特な「シュワシュワシュワ ゼェーットォン ピポポポポポ…」もオリジナルどおりで嬉しい。動きの面では、初代マン版と帰マン版の折衷とも言える動きで、仁王立ちで微動だにしない初代マン版と、徹底的な格闘戦を仕掛ける帰マン版の中間を採ったような動きを見せていた。ゼットン星人は、初代マンに登場したケムール人似の宇宙人が踏襲されているが、あからさまに一つ目というデザインは少し違和感を感じる。

 さて、本来の目玉キャラは当然ウルトラマンゼノンということになろうか。赤い光球での出現、特に会話がなくともすぐさま敵に立ち向かう勇姿、主役ウルトラマンに勝機を与えて去っていく…。ゼノン登場を事前に情報として得た時点では、帰マン登場時のセブンのように、直接戦闘には参加せずにマックスギャラクシーを与えるのだろうと想像していたので、今回の登場にはかなり意表を突かれた。一番近いキャラクターを探すと、レオの弟アストラが該当する。レオ第22話「レオ兄弟対怪獣兄弟」における、アストラ初登場シーンにとてもよく似ているのに気付く。ゼノンは純粋な助っ人キャラとして設定された、珍しいウルトラマンの一人ではないだろうか。今後の登場も期待したいところだ。

 総じて、今回はゼットンというキャラクターと、そのイメージを敢えて利用した上で全く別の流れを構築しようとしたストーリーの相克が、ギリギリのバランスで成立しているという、職人芸を感じさせる一編であった。次のキングジョー登場編に繋げてしまうというのも凄い…。

オマケ

 「ウルトラマンゼノン登場」の文字が、ショッキングにおどるオープニング。こういった「煽り」の演出は、昨今の特撮ドラマでは非常に少ないため、相当に新鮮。思い起こせば、ウルトラシリーズでゲストウルトラマンが登場する際は、「○○登場」が怪獣と同列に並べられていた。この辺りはウルトラ独特の観点の上に成り立っている演出であろう。

 今回のゼットンによる破壊シーンはミニチュアと炎の使い方が抜群。ナイトシーンというのも手伝って、小規模な破壊でありつつもリアルなシーンとなっていた。ダッシュアルファによる救急搬送も、いきなり空を飛ばすというシーンによって、DASHの特殊性をアピール。このシーンはかなりカッコいいシーンなので必見である。

 なお、トミオカ長官が、「ゼットン」という言葉に対して妙にピリピリとしているのは、ファンサービスの一つだと思われる。…と、わざわざ書く事もないが、面白かったので一応明記しておく。