第20話 怪獣漂流

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ストーリー

 太陽の活発な黒点活動により強烈な太陽風が吹き、電離層に巨大なプラズマ空域が発生、プラズマ空域に亜空間トンネルが開いた。その中より巨大な怪獣が登場。飛来した怪獣は、山口家の上空に滞空した。

 しかし、怪獣は熟睡したままやってきた為、呑気に眠ったままだ。トミオカ長官は「一度怪獣の名前を付けてみたかった」とばかりに、怪獣をクラウドスと名付けた。エリーにヘンだと言われ、DASH隊員たちに慰められる長官…。その頃、クラウドスは木枯らしに流されて、JT254方面に漂流し始めた。例の山口家の長女・美里の通う学校の方面だ。ダッシュアルファのフライトモードで追跡するカイトとミズキは、ワイアーで怪獣の方向を変えようとしたが、予想よりパワー不足。その時のショックで頭を打ったミズキは気を失ってしまう。コバのダッシュバード2が駆けつけ、怪獣の方向転換をサポート。美里の所属する吹奏楽部が応援する中、高層ビルすれすれの操舵に成功する。しかし、安心したのも束の間、覚醒に向けクラウドスは体内の重量を増加させ始めたのだ! カイトはマックススパークを取り出すが、ミズキが急に目を覚ましてしまう。

 落下するクラウドス! カイトは催眠術よろしく、ダッシュアルファを左右に振って何とか眠らせた。しかし、ヨシナガ教授はレム睡眠であることを指摘する。つまり、ちょっとした物音でも目を覚ましてしまうかもしれないのだ。DASHは市役所の助力も得て、あらゆる物音を阻止する作戦に出る。その間に、クラウドスの体内プラズマと雷の膨大なプラズマを相互作用させ、再び亜空間トンネルを発生させる、ショーン発案の「イヤーシールド&サンダー作戦」を実行する手筈だ。

 カイトとコバは、イヤーシールド、つまり巨大な耳栓をクラウドスに装着し、雷の音が聞こえないようにする任務を。ショーンとミズキは、地上からギガレーザーを照射し雷をクラウドスに誘導する任務だ。一見完璧な作戦。しかしヨシナガ教授は、クラウドスの顔に不安を覚える。

 作戦開始。イヤーシールドはクラウドスの耳に吸い寄せられるように装着された。ところが、ヨシナガ教授は突然装着を中止するよう知らせる。そこは、耳ではなく鼻だったのだ! 吸い寄せられたのは、吸気の為だったのだ! たまらずイヤーシールドを吹き飛ばすクラウドス。カイトはウルトラマンマックスに変身する。

 マツタケ狩りに出かけていた山口家の初子と孝の頭上に迫る怪獣! 間一髪でマックスがそれを止めた。覚醒したクラウドスは実に重かった。マックスのパワーを持ってしても、クラウドスの動きを止めることは出来ない。マクシウムカノンで驚かし、クラウドスの動きを止めるマックス。その隙にミズキはギガレーザーで雷を誘導。見事、亜空間トンネルは開き、クラウドスは帰っていった。

 数日後、マツタケがベース・タイタンに届けられた。クラウドスに食べさせたいと言うトミオカ長官に、DASH一同は…。

解説

 平成ウルトラシリーズで、牧歌的な変化球を放ち続ける太田愛氏の初参加作品。前作ウルトラマンネクサスでは憐編のメインライターを務めた太田氏がマックスで放ったのは、ウルトラマン第34話「空の贈り物」を想起させるユーモアたっぷりのエピソードだ。

 件のウルトラマン第34話「空の贈り物」には、スカイドンという怪獣が登場する。「スカイ・ドン」と「クラウ・ドス」、そのネーミングは殆ど同じ処から発生しているように思える。さらに、今回は「空の贈り物」と似ている部分が沢山ある。ところが、それらは決して「主張」せず、あくまで物語の隠し味として散りばめられているに過ぎない。このあたりが、実に上手いところなのだ。

 「空の贈り物」からは、全体的にドタバタな雰囲気を丸ごと継承している。ヒジカタ隊長が事態の進行に一喜一憂しすぎて気を病んでしまうところ(最近、隊長の暴走振りが加速している)や、ミズキがカイトの傍らで気絶したり目を回したりといったシーンにそれは現れている。ヒジカタ隊長とは正反対に「事態は好転した!」と事あるごとに叫ぶ、ある意味呑気に描かれたトミオカ長官の存在が、それをさらにドタバタ化している。あからさまになり過ぎず、自然な笑いを提供する手腕は評価に値するだろう。

 一方で、「空の贈り物」では皆無だった、太田氏ならではの「生活密着シーン」も随所に登場。芳本美代子氏、小野寺丈氏といった、やけに豪華なキャストが印象的な山口家がその主役だ。怪獣によって、スレスレまで生活を脅かされるものの、意外に余裕で生活しているあたりが、実に可笑しく微笑ましい。偶然家の上空にクラウドスが出現、偶然長女・美里の学校にクラウドスが漂流、偶然踏切で停止した父・武雄の頭上で目を覚まさんとするクラウドス、偶然マツタケ狩りの現場でクラウドス落下の危機に遭遇する初子と孝親子。この偶然に翻弄されまくる山口家という構成のパワーは、無理があるとか不自然だとかいう議論を受け付けないレベルだ。却って、こういうこともあるかも知れないと思わせる流れが素晴らしい。

 では「主張」しない隠し味としての、「空の贈り物」からの拝借シーンとは何だったか。ウルトラファンのみが味わえる、トリビア的なシーンが満載だ。

 まずは、ワイアーでクラウドスを牽引するシーン。絵的な印象は、スカイドンに対して実行された「ワイアーロック作戦」に酷似。ワイアーの切れ方まで似ているという凝り様だ。続いて、ヒジカタ隊長が事態の暗転に際して「イカン!」と叫ぶシーン。これは、スカイドンが不慮の事故で落下を始めた際、ハヤタが咄嗟に叫んだセリフだ。ヒジカタ隊長が執拗に繰り返しているということは、ちゃんと意図があったのではと予想できる。さらに、上官が道化を演じる部分は「空の贈り物」でのムラマツキャップの言動の拡大解釈である。

 ウルトラマンマックスの登場シーンでは、クラウドスの重量が最大になったのもあって、スカイドン VS ウルトラマンの雰囲気がそのまま持ち込まれている。重量に苦戦し、パワー不足を露呈する場面ではBGMがスローアウト。この一連はそっくりそのままだ。引っこ抜いてしまったご神木を思わず元に戻す行動は、流石にオリジナルだが…。また、クラウドスの「寝ている」「とても重い」という要素は、スカイドンそのままだ。

 一方で、「空の贈り物」とは全く異なる部分がある。それは「作戦」だ。結局、今回明確に「作戦」と呼べるものは、ショーン発案の「イヤーシールド&サンダー作戦」のみであり、スカイドンに対して4つの作戦が実行され、最終的には全て失敗してしまった「空の贈り物」とは、全く趣向が異なる。つまり、話の流れとしてはスカイドンのエピソードを踏襲していないが、雰囲気は見事に踏襲しているのである。

 コメディ色の強いエピソードが強烈な印象を残すため、マックスというシリーズ自体がコメディ寄りの印象を放ちつつある。しかしながら、決してそれが間違った方向性でないということは、本エピソードから感じられる雰囲気で納得できるのではないだろうか。

オマケ

 DASHが物音を防止するために奔走するシーンでは、赤星昇一郎氏が大活躍。赤星氏と言えば、平成ウルトラシリーズに頻繁に登場し、妖怪役などを楽しそうに演じる個性派だ。オープニングに赤星氏のテロップがあったときは、何の役か全く予想できなかったが…。

 何と、物音を阻止される全ての役で登場というトンデモないことに。今まさに鐘をつかんとする住職(これは本来の姿であるスキンヘッドで登場!)、街路で営業中のあまり売れていない歌手、妙に真面目で律儀なヤンキーの頭の3役で登場。パッと見た目、赤星氏をよく知らない人にとっては、同一人物に見えないところが凄い。