第24話 狙われない街

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ストーリー

 北川町で突如人々が凶暴化し、さんざん暴れた後に失神する事件が多発、警察が捜査に乗り出した。そんな中、楢崎刑事がふと手にしたガラス片には不審な男が映った。暴れて確保された人々の取調べにおける証言では、暴れた記憶が全くないということだった。楢崎が禁煙の室内で煙草を吸おうとするが、すぐに篠原刑事に制止される。警察の取調べに立ち会ったミズキとカイトは、事件の概要を隊長に報告。隊長は、数十年前にも北川町で同様の事件が発生した記録があると言う。数十年前の事件では煙草が関係していた。楢崎はカイトがダッシュパッドで連絡をとるのを見て、「俺は携帯アレルギーだ」と言い、怪獣や宇宙人より恐ろしいのは人間だと呟く。

 P.S.R.I「警察科学研究所」を訪れるカイト、ミズキ、楢崎は、P.S.R.Iの研究員から、被害者の前頭葉に萎縮が見られ、それによって理性が失われたとの見解を聞く。喫煙が関係するかと訊くカイトに、特に関係ないと応える研究員は、携帯電話を手に取った途端、突如凶暴化し、倒れこんでしまう。

 北川警察署では、押収された携帯電話のアンテナが全て同じ種類のものであることにカイトが気付く。侵略者が地球外金属で製造したのではないかと推察するカイト。調べを進めるカイトはとあるビルの屋上に宇宙人の反応を確認する。屋上では、そのビルにある会社の社員が電波受信度を調査している最中だった。宇宙人の反応は既に消えており、アンテナは確かにその会社が製造したものだが、電波の受信精度を高める新製品というだけだった。社員は、最近調査の最中にヘンな電波が検出されると言った。「問題は電波だ」そう楢崎は結論付けた。携帯に翻弄されるかに見える人々を見た楢崎は「いっそのことサルになっちまえばいい」とも言った。

 その時、付近で怪しい男を目撃したカイトは、直ちに後を追う。ミズキ、楢崎もそれを追った。寺まで追ってきたカイトは、呼び出し音を鳴らし続ける携帯電話を拾う。凶暴化電波に苛まれるも、それに耐えるカイトの前に、黒服の不審な男が現れた。彼はカイトをウルトラマンマックスと呼んだ。「もう地球も、この街も狙わないさ」自らを宇宙人だと称するこの彼は、そうカイトに語りかけた。その場を去る男を、追いついた楢崎が追跡する。古いアパートで楢崎は男を「メトロン」と呼んだ。それを聞いて「ケンちゃん」と呼ぶ黒服の男。再会を喜ぶかのように抱き合う2人だったが、そこにカイトが現れると男は逃亡、カイトはさらに追跡する。

 ミズキは楢崎から突拍子もない話を聞かされる。40年前、北川町には宇宙人が住んでいて、重傷を負った宇宙人の手当てに立会い、宇宙人に「ここに住んでいることは絶対誰にも喋らない」と約束したという。宇宙人は、この街が変わってしまったことに怒りを募らせているのではないか、楢崎はそう付け加えた。そこにヒジカタ隊長より連絡が入った。

 隊長の調査報告によると、40年前、北川町で今回と同様の事件が発生、その原因は煙草に仕込まれた赤い結晶体であった。それは、人間の信頼関係を破壊せんとする侵略者の陰謀だったのだ。まだその侵略者は潜伏している! 直ちに怪電波の発信位置の特定にかかるDASH。

 一方、カイトは男に潜伏先の「怪獣倉庫」へ案内される。男はカイトに「眼兎龍(メトロン)茶」を出してもてなす。男は茶をすするとメトロン星人の正体を現わす。おとなしく地球を去れというカイトに、メトロン星人は言われなくても出て行くつもりだと言う。ジャンケンで負けたらおとなしく退散するというメトロン星人と、ジャンケン勝負をするカイト。人間は便利なツールで脳が退化し始めたから、侵略は容易だ、守る必要もなかろうというメトロン星人は余裕の振る舞い。

 最終のジャンケン勝負に虚を突いて勝ったメトロン星人は巨大化。カイトも直ちにウルトラマンマックスに変身する。夕焼けの中、対峙する両者。「日本の黄昏は美しい。陰影礼賛が何よりの土産だ」と呟くメトロン星人は、マックスと戦うこともなく、迎えの宇宙船に乗って帰って行った。

 メトロン星人が帰ったことを楢崎に告げるカイト。楢崎は「連れてって欲しかったな」と寂しげな表情をするも、「宇宙人より厄介な事件が待っている」と刑事の顔に戻って去っていった。

解説

 第22話「胡蝶の夢」に続く、実相寺昭雄監督作品・第2弾。第2弾であると同時に、ウルトラマンマックスというシリーズが方向性の一つとして打ち立てている「過去のスター怪獣登場」を主眼とした、珠玉にして問題作。

 前作「胡蝶の夢」において、怪獣モノという図式を見事に解体しつくしてみせた監督は、今回、「ウルトラセブン」で自らが垣間見せたエスプリを見事に皮肉ってしまった。「ウルトラセブン」をご存じない方の為に敢えて説明させていただくが、今回登場のメトロン星人は、ウルトラセブン・第8話「狙われた街」に登場した宇宙人。紳士的な語り口とは裏腹に、「北川町」の住人を煙草に仕込んだ特殊な結晶体によって狂わせ、メトロン星人自身が高評価する「地球人の信頼関係」を失わせるべく暗躍した。実相寺監督は、この「狙われた街」のエンディングで、「ご安心ください、これは遠い未来の話。我々は今、宇宙人が狙うほど互いを信頼してはいません。」という一流のエスプリを効かせていた。

 同じ北川町を舞台とし、同じメトロン星人が登場する今回。「狙われた街」がいかにして「狙われない街」となったのか。蛇足とは思いつつ補足しておきたいのは、今回のメトロン星人は、Jr.でもなければ2代目でもない、ご本人の「再登場」だということだ。つまり、ご本人が「狙っていた」北川町を、時を経て「狙うのを止めた」話として、今回は成立しているのである。本エピソードは、高度成長期の真っ只中に制作されたウルトラセブンの当時より、さらに辛辣な皮肉としてファンに投げかけられる。しかも、メトロン星人自身の存在を適当に茶化しつつだ! では、今回の見所から挙げてみたい。

 まずメトロン星人の扱いが、一級のファンタジーとして処理されているのが面白い。「胡蝶の夢」で弩級に展開されたメタフィクションの視点がここでも登場する。40年前、「何者か」に切り裂かれて傷を負ったメトロン星人は、どう見ても着ぐるみのメンテナンスを受けて治癒している! 携帯に狂電波を送るという、怪奇大作戦な恐ろしさを作戦上は匂わせるにも関わらず、ここでメトロン星人から恐ろしさを徹底的にスポイルしてしまうのだ。また、カイトとの爆笑モノのジャンケンや、楢崎との人情に溢れた対峙、巨大化後も一切暴挙を働くことなく、その場で「腿上げ」! 徹底的に侵略者としてのイメージを削ぎ落とし、メトロン星人の造形から抱く「可愛げ」なイメージを極大化させるという、実相寺流のアクロバティックな手法が光る。

 さらに、「狙われた街」を彷彿させるシーンが続出。携帯で「サル化」するシーンでは、赤い照明と「シューー」という効果音が旧作と同一のものを使用。また、旧作ではもはや伝説として語り継がれる「ちゃぶ台会談」が今回も場所や散らかり具合は違えど登場。さらに巨大化したメトロン星人とマックスの対峙(?)シーンは、これまた伝説の夕焼けシーンの再現。水面に映る両者まで再現。この夕焼けシーンが、旧作の色合いを忠実に出そうとの努力に溢れ、旧作ファンならば涙なしに見られないシーンに仕上がっていた。最後は、旧作では撃墜されてしまったメトロン円盤の登場。色や形状が見事に、ブラッシュアップやディテールアップされることなく、そのままの姿で登場したのは嬉しい。

 さて、随所で旧作の雰囲気を再現した上、旧作フィルムを流用することで、続編であることを印象付けた今回。ところが、マックスの世界は他のウルトラシリーズとは当然切り離された世界。そこにどう折り合いを付けていくかが当然注目された。

 答えは、明瞭。メタフィクション的な描写でボかされてこそいるものの、それはストーリーを進める上での方便として受け止めておく。そう。マックスの40年前(セブン自体が当時の「近未来」の話なので、マックスも近未来的であるとすれば良い)に、確かにメトロン星人は赤い結晶体の事件を起こした。警察の手に追えず、ウルトラ警備隊が捜査した。ウルトラセブンがアイスラッガーでメトロン星人の身体を両断した…。「セブンはマックスの世界にいないじゃないか」いや、それは分からない。M78星雲が存在する限り、セブンは存在するかも知れない。「ウルトラ警備隊があったなら、UDF結成の必要はないじゃないか」いや、そんなことはない。政府レベルの組織など、水泡の如しではないか。ちょっと前の総理大臣すら、覚えていない人も多いではないか。

 40年。この時の流れは、メトロン星人の地球人への興味を殺いだだけではなく、地球人の、宇宙からの脅威に晒された記憶をも、薄ボンヤリとした霞の彼方へ追いやってしまった。そんな解釈が成り立つ。否、そんな解釈を実相寺監督に強要されているような気すらするのだ。まるで半ば道化と化したメトロン星人の姿を借りて、人類を嘲笑しているかのように…。

オマケ

 今回はオマケを割愛しようかと思ったが、とりあえず、本当にオマケの部分を。

 メインタイトルには、割り込むように効果音が被る。この既成のルールを破らんとする実相寺監督の意気込み(イタズラ?)が見て取れる。サブタイトルは「胡蝶の夢」の時より、さらに主題歌のイントロを邪魔する勢いの効果音。これは少々イヤミ(笑)。

 また、メトロン星人がテロップ上「再登場」となっているところに、今回のメトロン星人のポジションへのこだわりが感じられる。尚、現在の嫌煙志向を、一流の語り口で皮肉っているところもある意味爽快。

 なお、メトロン潜伏先の怪獣倉庫では、シーボーズ、メフィラス星人、ゴドラ星人、ミクラスなどを確認出来る。