忍びの19「探せ!天空のオトモ忍」

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 「ニンニンジャー」の新ガジェット登場編としては珍しい前後編で、今回はその前編となります。

 今回は何と言っても、山形ユキオさんの存在感が強烈過ぎます。その横でクールに佇む雑賀鉄之助を演じる板垣瑞生さんも、抜群の存在感を示していて、主役を完全に食ってしまっていますね。

 しかし、各メンバーにも見せ場が多く、なかなかバランスの良い構成になっていました。

ヌエ

 正にスター級の妖怪。名だたる古書に多く登場し、日本のキメラとも言うべき合成獣のパイオニアでもあります。

 今回は、牙鬼幻月が自ら作り出した「上級妖怪」との設定になっており、その強さはパワーアップ編に相応しいものです。こういった明快な危機編でパワーバランスの不安定化を描くのは、「ニンニンジャー」では初めて。追加戦士たるキンジの登場には危機編という感覚が弱かったですし、新しいオトモ忍は「忍タリティの高まりの結果」として続々と登場して来た経緯があるので、それらはやはりイベント色の強いパワーアップ編とは言えないものでした。

 スター級でありながら、キンジが写真を撮りたがるシーンがない等、その危機感は序盤から煽り気味で、登場から間を置かずにニンニンジャーのガジェットを次々に破壊したり、変身解除に追い込んだりと、蛾眉雷蔵以上の無類の強さを発揮してしまいます。また、いきなり自らの能力で巨大化する等で、存分に能力の高さをアピール。しかも、その巨大化能力は「デンジマン」のベーダー怪物が如く可逆的なものなので、余計に恐るべき存在となっています。

 モチーフは工具箱。ヌエ自体がキメラですから、あらゆる工具を駆使して攻撃を仕掛けてくる様子とマッチします。巧い選択ですよね。味方側にも雑賀鉄之助という「カラクリ技師」が登場しますから、破壊と修繕あるいは創造という点でも、良い対比になっていると思います。

弟子入り再願

 キンジが好天に弟子入り出来るよう、天晴達が頼み込むというシーンが導入部に置かれました。

 これは前回からの流れですが、前回の時点で既に予想出来たように、即座に却下されます。ただ、非常に見事だと思ったのは、好天がちゃんと引っかかりを作っている事なんですよね。曰く、「少しでもワシを超えてからにしろ」。ここで霞の明晰な分析(?)が炸裂し、「ただ一点でも超えてみせれば良い」と解釈。これが、好天すらも手懐ける事が叶わなかった「天空のオトモ忍」へと自然な繋がりを見せていきます。しかも、キンジが事前に十六夜九衛門と会い、「天空のオトモ忍」と好天の関わりについて情報を得るというシーンが用意される事で、キンジの「答え」を伝えるという行為と、「好天を超え得る部分」が同時に示されます。このように、極めてロジカルな展開を見せるわけです。

 結構適当に流す部分も多い今シーズンですが、こういう部分の段取りが緻密なので空疎感を感じずに済む。侮れないんですよね。

怪優・山形ユキオ

 山形さんと戦隊の関わりで最も大きいトピックは、「ガオレンジャー」の主題歌でしょうか。あまりにもワイルドな歌声に本編の世界観との合致を見て、魅了されたファンは多い事と思います。今回は、正に「怪演」という言葉が似合う、強烈な存在感を放っておられます。

 OPクレジットは「謎のオッサン」という、これ以上ないインパクト(笑)。登場するやいなや、独特のワイルドボイスで若者達を畳みかけ、コミカルさと迫力とが視聴者の興味をグイグイと引いていきます。山奥の寂れた寺院に奇妙な人物が住んでいて、来訪者に様々な悪戯を仕掛けるという展開は、もう王道中の王道で、特にファンタジー系の戦隊ではよく見られるものです(それをレギュラー的にやったのが「ゲキレンジャー」)。また、この辺りは香港のカンフー映画等が特に奮っているように思います。

 更に、雑賀鉄之助を訪ねてきたら、この「謎のオッサン」が登場した事で、まずはこの人物が雑賀鉄之助ではないかと思わせる仕掛けになっています。しかし、少年が出て来た時点で、こういう展開に慣れている視聴者ならばすぐにピンと来る辺りも小気味良いのです。

 さて、この「謎のオッサン」は「獅子王」という、天空のオトモ忍の精霊だったわけですが、この「正体」についてもピンと来る辺りが長年のファンの悲しい性(笑)。件の「ガオレンジャー」にしても、ガオゴッドの化身が子供の姿で登場するといった「前例」があるので、推測は容易なのでした。ただ、ライオンハオージョウというこの天空のオトモ忍は、その威容から人格をイメージしにくい側面があるので、この獅子王を設定したのは大正解でしょう。「ダイレンジャー」には戦隊母艦のようなダイムゲンが登場しますが、その普段の姿が亀夫という人間なのも、そういう側面を考慮した結果なのではないかと思います。

 ちなみに、獅子王は凪からもらった握り飯のお礼として一時的に力を貸しましたが、天晴が好天と同様の言葉で協力を要請した際には、断ってしまいます。何が気に入らないのか、また天晴達が何を意識する必要があるのか、その辺りが後編への引きになっています。

雑賀鉄之助

 カラクリ技師というのは巧い設定ですね。

 キンジが好天の著書からどうやってオトモ忍を製造したのかという、スルーしていた疑問に今頃になって答える辺りも痛快です。キンジ曰く、インターネットで注文したと...。この辺り、時代錯誤な感覚と現代的な感覚の交差点が実に絶妙でした。

 ところで演者の板垣瑞生さんって、まだ中学生なんですか!! この佇まいは凄いですね。ちゃんと手練の技師という雰囲気が醸し出されていて、ガジェットを修繕済の状態でいきなり取り出してみせるシーンにも全く違和感がありませんでした。

 22代目というのも巧い処で、歴史を感じさせる事でオトモ忍の実現性に説得力を加えています。

ニンニンジャーの弱点

 獅子王の項から敢えて独立させたのですが、獅子王が巧みな体術でニンニンジャー達を翻弄しつつ、彼等の弱点を暴き出すという秀逸なシーンがありました。

 天晴は力のみが突出していて他がない。八雲と霞は頭脳派だが敵の動きを読むまでが弱い。凪と風花は身軽だが他の面々に頼りすぎ。キンジは心の揺らぎが大きい。このように並べてみると、これまでのキャラクターの積み重ねが巧く機能している事が分かります。ただ今回は弱点克服譚というわけではないので、ここでは獅子王の凄さをアピールしているに過ぎません。

 俯瞰すると、天晴とキンジは単独なのですが、八雲と霞、凪と風花といった具合に、他の四人が巧くカップリングされているんですよね。多分カップルが誕生するような展開はないと思いますが(一応いとこなので現行法的に結婚は可能)、気の合うペアではありそうです。何となくレッドだけ蚊帳の外だった「メガレンジャー」を思い出したり(笑)。

ライオンハオージョウ

 ライオンと城とを組み合わせた威容で、いかにも派手で強そうな外観ですが、やっぱり可動部に乏しいので母艦系の印象ですね。このテの母艦系はパワーアップ合体シリーズの最終兵器として登場する事が多いのですが、まだまだ2クール目ですからね。今後どんな展開になるのか全く想像もつきません。

 今回は銃撃のみで敵を退散させるという活躍を見せましたが、「東映スパイダーマン」のマーベラーに匹敵する描写で、曳光弾の物理的な迫力と相俟ってその強さを饒舌に描き出していたと思います。そういえばマーベラーもネコ科でした。

次回は後編!

 色々な引きが仕込まれているので、ある程度流れが見えているにしろ、細かい部分の解決が楽しみですね。こういったギミックでドラマを見せていく手法は、もっと評価されて然るべきだと思います。