忍びの33「八雲を愛したくノ一」

  • 投稿日:
  • by
  • カテゴリ:

 「ニンニンジャー」随一のネタキャラ・八雲をメインに据えて展開されるコメディ編。

 しかし、中身は意外とシリアスな部分もあって、絶妙なバランスの上に成り立っている不思議なエピソードとなりました。

 何より興味深いのは、八雲のポリシーですね。時代は正に移り変わったわけです。

スズメバチ

 今回、重要な事をサラッと...本当にサラッと言ってましたが、実は十六夜流忍者として登場したハヤブサ、イッカクサイ、クロアリ、ムジナ、そして今回のスズメバチは、牙鬼の「御庭番五人衆」で、「牙鬼流忍者」だったそうです。

 「御庭番」という言葉からすぐさま連想されるのは「暴れん坊将軍」。吉宗を秘密裏に警護している男女ペアの忍者(史実とは異なる)ですが、実は男性の御庭番に関しては、東映ヒーローOBが続々と登板した事で一部のファンには有名。初代の宮内洋御大を始め、ストロンガー、ビビューンの荒木しげるさん、(東映ではないですが)エスパー、白獅子仮面の三ツ木清隆さん、バルイーグルの五代高之さん、結城凱こと若松俊秀さん、仮面ライダーナイトの松田悟志さん...と一目瞭然の豪華メンバーです。

 ハヤブサ達は、殆ど十六夜九衛門に使い捨てにされてしまいましたが、牙鬼幻月を護る本来の御庭番としての姿も見たかったですね。

 さて、このスズメバチ、前回と前々回のムジナもそうでしたが、なかなかの手練として描かれました。声は人気声優の沖佳苗さんが担当し、スーツアクターは女形の大ベテラン蜂須賀祐一さんが担当。これで魅力的なキャラクターにならないわけがない...というわけで、やはり魅力ある敵役となりました。

 結果的にはコメディエンヌとしての役回りとなり、劇中の事情としては悲劇のヒロインの資格をも備えるキャラクターに。ただし、悲劇的な面はほぼスルーされていて、それが今回の雰囲気に大きく作用しています。

 こういった展開を擁する話の定番は、八雲への愛(あるいは恋心)がスズメバチに裏切りを促し、最後は処刑されてしまうか、あるいはロボットにされて倒されるか、といったものでした。今回のように徹頭徹尾、愛憎をボカしたまま倒されるというのは、ある意味新鮮でしたね。

天晴、霞、キンジ

 何と、珍しく最初に天晴がスズメバチの毒矢に晒され、続いて霞、キンジが被害を受けるという展開になりました。ニンニンジャーの強力な斬り込み隊長が倒れた事で霞が主導権を握り、「捜査モノ」としての側面が強くなる序盤。そしてその霞が倒れ、さらには八雲とややキャラが被るキンジが倒れ、今度は八雲と年少組で構成される「青春モノ」で後半戦を押してきます。

ロミオとジュリエット作戦

 「青春モノ」と書きましたが、いわゆる学芸会作戦に至る流れを説明するのに適当な言葉を選んだ結果であり、そのものズバリの「青春モノ」ではありません。ただ、八雲がスズメバチの想いに対して鈍感過ぎたり、傍から見ていた凪が気付いて八雲にそれを教えたりといったやり取りに、学園譚のような雰囲気が宿っており、あながち的外れなわけでもありません。

 で、学芸会作戦の題材としてロミオとジュリエットが選ばれましたが、このセンスはなかなかのもの。BGMまで劇作のような雰囲気を盛り上げるものが使用され、舞台装置の設えに余念がないですね。素晴らしいです。

 この作戦、八雲がスズメバチの感情を利用して罠を仕掛けるものなので、敵とはいえども女性を騙す事に変わりはなく、八雲には忸怩たる思いが残ったのではないかと推察されますが、巨大戦では既にそんな事はどうでも良くなっており、エピローグでも普通に大団円してました。この辺が、昔の特撮ドラマとはかなり異なる部分ですね。

 70〜80年代だと、「八雲の罪」にスポットが当たり、大小はあれど「この先、十字架を背負って戦い抜いていく」という感覚でラストを迎える話に仕上げられるのではないかと思います。ヒーローの暗部が哀しく美しく描かれるのはこの時代の特徴でした。80年代は特に改心パターンが多く、また敵の行動自体が芝居だったというパターンもあり、後者は今回とは真逆になります。90年代は悲恋がクローズアップされるパターンも多かったですね。要は、今回のようなギャグ編っぽい処理では済まされなかったという事です。

 今回、八雲は「忍びに情けは無用」といった、至極ストイックで格好良いポリシーを以てこの作戦に臨んでいます。ただ、先にスズメバチがこのポリシーに言及しているので、やや居心地が悪いのも確か。つまりここで、忍びには善悪を超越した対立構造が成立すると宣言してしまったように見えるのです。牙鬼軍団の看板がある事に加え、獅子王の件で人々の守護者としての伊賀崎流が標榜されているので、辛うじて善悪の構図は保たれていますが、今回はそれを取っ払った流派の対決にまで踏み込んでいるように思えるのです。

 そこに感情が介在しないが故に、八雲とスズメバチが完全に一対一の対決で勝敗を決する素晴らしいアクションがカタルシスを持ち、巨大戦はコミカルに仕立てられ、エピローグは単なるハッピーエンドであったわけですね。全体的にはコミカルでありながら、「一度は愛したが所詮は敵同士」という凄味が何故か香ってくる...。そんな異色のエピソードになったのではないかと思います。

次回は何と...

 戸隠流忍者が登場!

 カクレンジャー、ハリケンジャーとの共演にも驚きましたが、まさかそれを超える驚きが用意されていたとは...。これには期待せざるを得ませんね。