忍びの32「ゲキアツ忍者!アチャー!」

  • 投稿日:
  • by
  • カテゴリ:

 一大危機編とパワーアップ編を、一話で済ませてしまう勢いが凄まじい一編。

 今回はメインを誰が張るかというパターンではなく、全員が一丸となって危機に立ち向かう筋運びになっており、戦隊らしさが前面に出ていたと思います。

 十六夜流忍者編は、コミカルである事を命題としていたかのような雰囲気で推移してきましたが、今回はムジナが定番ギャグを連発する以外は、ほぼシリアスに進行。物語のターニングポイントとまではいかないものの、新要素を携えて季節の変わり目を乗り切りました。

ムジナ再び

 十六夜九衛門の企みに気付いたムジナが、実は忍術で生き延びていたという設定。ようやく、十六夜流忍者にも手練と呼べる者が出て来たという印象です。

 実際、ニンニンジャーを超絶抜きであったとはいえ実力で押していた場面もあり、それが特殊能力故でなく純粋な戦闘力に裏打ちされたものとして描写されていて、驚いた次第です。

 今回はドラマ面では語るべき要素が少なめだった為か、アクションの比重が高めとなっており、それ故にムジナが活躍する場面も多くなっていたものと思われます。ここ最近の瞬殺パターンとは異なり、ニンニンジャー側も個々のアクション描写が非常に丁寧に演出され、久々に個性を感じるアクションを堪能出来ました。ドラマに見応えがあるのも嬉しいですが、今回のような配分もやはり嬉しいですよね。

 ムジナは相変わらず、タヌキと呼ばれて怒るギャグを連発していましたが、今回はこのギャグと、天晴の「よく分からない表現」を笑うくらいしかコメディ要素がなかったわけで、やはり天晴達の成長をシリアスに、かつストレートに描く事に重点が置かれたと言えるでしょう。

十六夜九衛門

 カラクリキュウビは前回のラストに引き続き、圧倒的な強さを発揮します。ただし、これは「敵戦力の研究成果」の宿命で、新しい戦力には全く太刀打ち出来ないという弱点を露呈。この辺りは東映特撮でも大定番ですね。80年代には精神力が体力を超越するというパターンも多く見られましたが、近年は新ガジェットと絡められる場合が多いので、避けられる傾向にあるようですね。

 今回、十六夜九衛門の企みがムジナに暴露された事で、牙鬼軍団の中での立場も危うくなった...? と思いきや、相変わらず有明の方は肌の調子のみが気になる様子。晦正影は若造のやる事なぞどこ吹く風といった態度。このポジショニングが絶妙で、十六夜九衛門の小物振りが強調される事となりました。更には好天との対決でそれが補足され、「真の敵」の器にはまだ遠いという印象が与えられました。

 ただし、好天の言によるまでもなく実力の程は高く、天晴達は生身だったとはいえ為す術もなく...。現在に至り、十六夜九衛門の魅力はその実力と精神のアンバランスな「危うさ」になってきたと言えるでしょう。

好天見参!

 遂にこの時がやって来ました。ラストニンジャ=伊賀崎好天の実力披露。

 後見人がその凄まじい実力を発揮するシーンが登場したのは、「ジャッカー」のビッグワンが最初ですが、これは追加ヒーローの範疇なので例外。さすれば、「バトルフィーバー」の鉄山将軍となるわけです。バトルフィーバー隊の必殺技すら跳ね返す四面怪人を「鉄山流電光剣」で一刀両断し、敵の指揮官ヘッダーと対決して倒してしまう等、その実力はバトルフィーバー不要論という冗談まで呼ぶもの。これは鉄山将軍を演じた東千代之介さんが東映時代劇の大スターだった事に起因する、いわばサービスだったわけですが、やはり往年の大スターの立ち回りには問答無用の迫力がありました。

 ところで、鉄山将軍とヘッダー指揮官の関係ですが、鉄山は「一光流」という流派を極めた武人で、ヘッダーは一光流から分離した「邪心流」の極意を会得した者であるという設定(対決話で突如出て来た設定である辺り、当時のユルさが伺えて嬉しい処)になっており、伊賀崎流と十六夜流の関係によく似たものとなっています。

 邪心流は「卑怯も兵法なり」と説き、「師殺し」を修行の完成とするもので、「スター・ウォーズ」のシスとよく似た感覚を有しています。十六夜流は、他者を捨て駒とし利己的である事を旨とするようで、シス程の凄味はありませんが、好天との論戦に見られるように、充分に非道であるとの印象を与える事に成功しています。故に、対する好天の主義と悔恨がより強く伝わるものとなりました。

 肝心の好天の実力の程はというと、やはりラストニンジャと称されるだけあって、十六夜九衛門に一歩も引けを取らず。ただし、ところどころ後れを取る部分を入れて来るのがポイントで、好天の凄さを描きつつ、十六夜九衛門の実力描写にも余念がない辺り見事ですね。好天のアクションは、スタンドインを駆使しつつも要所要所で実際に笹野さんが動いているカットが多く見られ、撮影の大変さが伺えるというもの。そしてやはり笹野さんの巧さが光っており、捉えられる表情はどれも手練のもの。本当に素晴らしいです。

 ちゃんと今後の展開の為に謎を提供しているのもポイント。終わりの手裏剣を思わせる輝きを放つシーンがあり、好天にまたミステリアスな魅力を付加しました。ひょっとして、好天こそが終わりの手裏剣の化身だったりして...??

新たなオトモ忍

 雑賀鉄之助の再登場がまずは嬉しいトピック。物静かな雰囲気が、賑やかな連中とのコントラストを生んでいて、画面の空気感を変化させてくれます。

 オトモ忍を自分達で作るという発想の転換も見事。新ガジェットをどうやって登場させるかという難題は常に付きまといますが、工夫が光っています。図面を引いて自分達で彫像するくだりには、「図画工作」の雰囲気が漂っていて、一応ここの処の「子供にとって身近な事象」に則していると言えそうです。

 獅子王の時点で分かっていた事ですが、オトモ忍は「器に精霊が宿っている」という状態で動いており、今回はその設定がより明確に分かり易く提示されたように思います。好天や鉄之助は自在に精霊を込める事が出来る一方、天晴達にはそこまでの技能がないというのも秀逸で、好天と天晴達を隔てるものが何かという部分についても、明確に提示されたわけです。

 私自身、アニミズムに興味があって色々と考えた事もあるのですが、優れた器物には魂が宿るという論理が、このオトモ忍にも適用出来そうですね。つまり、その道の達人ではない天晴達は、優れた器物を生み出す迄には至らなかった...という事なんですよね。天晴は「じいちゃんのやり方」と言ってましたが、私としては、鉄之助が手伝ったにしろ、天晴達のカラクリ技師としての技能が不足していたのだと解釈しています。

 天晴達が見出した解決策は、凪が前回見せた上級シュリケン忍法を応用して、自らがオトモ忍に憑依するという方法でした。前回の該当シーンが伏線になっていたなんて、誰も思いもしませんよね(笑)。積み上げた要素が形を為す、新鮮な驚きを享受出来て嬉しい限りです。この解決策に至るまでは、それぞれがそれぞれのやり方を重視して動いていくキャラクター描写の良さが光りました。凪が慎重派ではなく、とりあえず動いてみるというタイプに分類されたのは、彼の何でもトライしてみる姿勢を反映したものでしょう。

ゲキアツダイオー

 巨大戦は、前半をロデオマルの奮闘に当て、危機感を煽っていましたが、新オトモ忍完成を見てからは、正に一気呵成。

 朱雀(鳳凰)、青龍、玄武、白虎といった四神をモチーフとし、そこにパンダと真鯉を加えるという、何だかよく分からない軍団ですが、それぞれが結構可愛らしくまとめられていて良いですね。合体して新ロボゲキアツダイオーになりますが、基本的に憑依している状態なので、明確な「操縦席」はなく、異空間にて円陣を組んだ状態で動きを合わせるという操縦法がとられており、こちらも良い効果を生み出しています。効果音(「アチャー」の音声)はちょっとうるさいですが(笑)。

 ロボ戦としてはあまり面白味がない(というより、本作の巨大戦はビジュアル重視で戦闘形式自体にあまり特徴はない)のですが、必殺技で自らが弾丸となって飛び出すという画は衝撃的。「ダイナマン」のスーパーダイナマイトを巨大戦でやってしまったという感じですかね。

次回

 十六夜流忍者編もこれで終わりかと思いきや、まだ残っているようで、またもや八雲がターゲットになるようです。ネタキャラ化した八雲編は面白いので楽しみですね。くノ一(蜂女!!)という点にも注目です。