第六幕「悪口王」

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 千明とことはがメインを張ります。

 千明は単独メイン編を既に消化していた為か、サポート的な役割に。ことはに関しては、単独メイン編に匹敵する充実振りで見せてくれます。


 今回はズボシメシなるアヤカシが物語を牽引していきます。サブタイトルの「悪口王」も、このズボシメシそのものを示しており、その存在感は抜群です。


 悪役が目立つと、ヒーロー側が霞むのはよくあることですが、今回はそういったパターンに陥ることなく、ことはも千明もその存在感を遺憾なく発揮。キャラクターの内面描写も深く無駄なく成立しており、その完成度は非常に高いものとなっています。

 悪口がフィーチュアされる為、シンケンジャーの面の図星な部分を示しているのもポイント。

 これがまた絶妙で、各キャラクターの性質を端的に表現し、更には心の隙のなさそうな丈瑠にまで及ばせて、前回との繋がりをも示すといった、ある意味アクロバティックで、しかも実に効果的な演出が光ります。


 また、ことはの健気さが破壊的に可愛らしく、とっても強いのに守ってあげたい的な、もはや何を書いてるんだか分からない状態に追い込まれます(笑)。

 千明のキレキャラ振りも爽やかで、本当に演出が丁寧です。


 では、今回も見所を中心に追ってみます。

 稽古に励む面々。

 流ノ介と茉子が手合わせし、千明とことはが手合わせしており、千明はことはの剣術に圧倒されています。


彦馬「ことはの剣はいいですなぁ。素直で迷いがない」

丈瑠「千明じゃ、まだ歯が立たなくて当然か」

彦馬「ただことはは、武術以外はさっぱりですからな」

丈瑠「まぁ、確かになぁ...」


 これまで、ことはが武術以外ダメだという話はあまり強調されておらず、ことはのドジっぷりが描かれるのは、今回が初ということになります。

 また、剣術に秀でていることの直接的な描写も今回が初めてです。なお、ことは役の森田涼花さんは柔道が得意らしい。


 稽古で千明を突き転ばしてしまったことはは、姉から教えてもらったという小麦粉の湿布を作って千明を手当しようとしますが、転んだり、バケツをひっくり返したりして、失敗ばかり。

ことは

 ことはは、


「ほんまアホやな、うち...」


と笑い、千明はちょっとイヤな顔をします。

 それにしても、顔を真っ白にしたり、転んだり、そのまま凄い格好で固まったりと、なかなかの体当たり演技です。まずは拍手。

 あと、民間療法的な要素を導入することで、ことはの出自と千明の出自のギャップを表現することにも成功しています。


 さて、今回のアヤカシはズボシメシ。

 ズボシメシの口は災いの元。骨のシタリは、喋らせないようズボシメシの口を塞ぎます。

 喋っただけで何かが起こる。そんな感じが端的に示されています。


 ズボシメシの声は二又一成さん。「サザエさん」の三河屋のサブちゃんですね。

 ズボシメシは「キン肉マン」のキン骨マンを彷彿させる演技で、この罵詈雑言に満ちたイヤな奴を、ユーモラスな感覚に味付けしてます。


 一方、ことはは小麦粉湿布の大失敗の後片付け中。しかし、ことはが顔を洗って服までずぶ濡れになっている間に、黒子たちが殆ど片付けてしまったらしい。


ことは「あ~あ。茉子ちゃんなんて、綺麗で賢くて、料理も出来るのになぁ」

千明「いや、料理は違ぇだろ」


 茉子の料理の腕に関するギャグがさりげなく挿入されているのがイイですね。

 ことはが、


「うちアホやし」

ことは

と笑って言うのを見て、千明はその態度に少々の苛立ちを覚えます。


 やがて、ズボシメシが街のあらゆる場所に現れ、悪口を連発し、図星を突かれた人々を吹き飛ばしまくります。

 この様子はかなりコミカルに描かれるのですが、この攻撃を受けた人間は、致死レベルの吹っ飛ばされ方を呈しており、実はかなり凄惨です。

 「シンケンジャー」は、三途の川増水の為に必要な人の痛みを描かなければならないので、例年に比べて非常にハードな描写となっており、それに立ち向かうヒーロー側の苦闘も浮き彫りになります。


 ズボシメシの出現に際し、シンケンジャーが参上するものの、それぞれ悪口攻撃に苦戦。

ズボシメシ

 千明は、「落ちこぼれ」と言われます。まぁ、今のところ図星でしょう。分かり易い。

シンケンジャー

 流ノ介は、「ファザコン」と罵られます。歌舞伎の世界における師匠は絶対的な存在だと想像されますからね。ただ、それはそれで、ファザコンとはちょっと違うような...。

 茉子は、「一生独身」と言われてしまいます。普通のお嫁さんになるのが夢の茉子。「普通のお嫁さん」が夢であるということは、それが「夢」になるだけのコンプレックスが? 深層心理では、料理が下手なことを気にしているのかも知れません。

 丈瑠は、「嘘つき」で踏ん張り、「大嘘つき」で吹き飛ばされてしまいます。これは前回描かれたように、丈瑠が他の4人をリードしなければならない立場故に、強い殿を演じなければならないということを指しています。本当は丈瑠もかなり辛い思いをしており、それを何としても隠し通したい彼は、虚を突かれたわけですね。

 ことはは、「ドジ」「アホ」「バカ」「間抜け」「ドンクサ女」と罵詈雑言の嵐を受けますが、吹き飛ぶことも、ましてや怯むこともなく、ズボシメシを撃退します。


 この、ことはの快進撃が実に小気味良く、悪口をはねつけてズボシメシを追い詰めていく様子が、テンポの良いアクションで描かれます。


 彦馬は、言葉の暴力によってもたらされた精神的ダメージが、物理的ダメージに変換されると推測。

 侍として平常心を忘れなければ、恐るるに足らない、と付け加えます。


 次こそはと意気込む面々の中、流ノ介は「ファザコン」と罵られたことをかなり気にしており、かなりヘコんでいました。流ノ介のキャラクターを生かした、秀逸なギャグです。

 一応、丈瑠が、


「歌舞伎の世界で、親子関係が特別なのは仕方がない」


とフォローするのがイイ感じ。突き放すのではなく、さりげなく心配するあたり、いい殿様像が出来上がってきています。

 千明は、ことはだけが悪口攻撃に耐性を持っていたことに疑問を持ちます。

 しかし、ことはは「特別な力」を否定。


「うち、慣れてるから。うち、昔からアホとか鈍くさいって言われてたし。別にアヤカシに言われたからって、何とも。大体、ホンマのことやし」


とことはは笑います。千明はすぐさま、


「笑ってんじゃねぇよ。お前すぐ自分のことアホとか言うけどさ、それでヘラヘラ笑ってんのって、信じられねぇよ。何かイラつく」

千明、ことは、茉子、流ノ介

とキレ始め、


「(自分がバカだと)本気で思ってんなら、マジでバカだな」


と非難します。茉子は言いすぎだと千明を制止しますが、ことはは「ご免」と一言言い残して出て行ってしまいます。

 このシーン、ことはと千明の心情描写が実に素晴らしく、後からもう一度見ると、ことはは若干不自然な笑顔を作っており、千明はことはに苛立ちをぶつけるというより、自分自身に苛立っているようにちゃんと見えるのです。

 演出面、キャスト陣、共に凄く頑張っていますね。素晴らしいです。


 その頃、ズボシメシは薄皮太夫に悪口攻撃をし、自分の能力を確かめています。

 薄皮太夫は、ズボシメシに反撃しようとしますが、血祭ドウコクは「今は耐えろ」と止めるのでした。

薄皮太夫

 ここで薄皮太夫が何を言われたかは明かされませんが、薄皮太夫はアヤカシの連中にとって疎ましい存在であるらしいことは確か。

 この点を印象付ける為か、結構毎回のように軋轢が描かれるので、絶対に何かの伏線(明らか過ぎて伏線とは言えませんけど)になっている筈です。


 ズボシメシの活動によって、確実に三途の川の水は増えていましたが、ズボシメシは、ことはに自分の悪口攻撃が効かないのがどうにも気持ち悪い様子。

 血祭ドウコク達が命令を下すわけではなく、アヤカシが暴れた結果として三途の川が増水すればいいという設定を作ったことで、アヤカシ達の行動の自由度が格段にアップしています。

 「バトルフィーバーJ」の怪人製造カプセルは、話に合わせた怪人を劇中で作り出せるという点で大発明だったと、脚本家の上原正三さんが振り返っていますが、この三途の川の設定もかなりの発明だと思います。


 さて、飛び出して笛を吹いていたことはに、千明は謝るのでした。

ことはと千明

 ことはは幼い頃の自分について語り始めます。


 それによると、ことはは昔泣いてばかりで、何をやっても巧く行かず、学校でいじめられていたらしい。

 姉のみつばは、そんなことはに笛を聞かせて元気づけてくれました。ところが、病弱な姉の代わりにことはが侍になることが決まった時から、姉が良く泣くようになってしまったといいます。

ことはとみつば

「その時、もう泣いたらあかんと思った。泣いたら、お姉ちゃんが心配して、もっと泣かはる。そやから、笑うんや、何があっても。アホって言われても、自分で分かってたら何ともないし。でも、自分でアホって思うことがホンマのアホやっていうのは、気づかへんかったわ」

「ことは...」

「うち、やっぱりあかんな」

「ゴメン!」

「え?」

「バカなのは俺だ。お前にイラついてたのは、全部俺の所為なんだよ。お前が、強いから」


 千明は、年下のことはにボロ負けしているのに、ことはが自分を卑下する態度をとり続ける為、「じゃあ自分はどうなるんだ」と八つ当たりしていたのです。

 実にいい構成ですね。千明の言ったことは、ことはに対する悪口だったのですが、ことはは悪口に対する耐性を持っている(本当は一生懸命我慢している)が故に、その悪口の中に教訓を見出せるのです。

 このままでは千明はズボシメシと同じになってしまうのですが、ことはに素直に謝ることで、自分自身の中の弱さに改めて向き合い、結果、ことはと千明は共に成長していくのです。


 そこに、アヤカシの報が入ります。


「千明、うち、千明の剣好きや。まっすぐで千明らしい。きっと、もっと強くなる」

「サンキュ」

ことはと千明

 「千明の剣が好き」という、「シンケンジャー」ならではのセリフ。武術に長けつつも不器用なことはだからこそ、その言葉で本当に千明を励ますことができる。そういった感覚が実に巧く表現されています。


 ズボシメシは相変わらず悪口で大きな被害をもらしていました。

 そこに、シンケンジャー参る!

一筆奏上

 ズボシメシの力は健在で、流ノ介は「マザコン」と言われ、またも吹き飛ばされます。

流ノ介

 他の面々は呆れ気味。

シンケンジャー VS ズボシメシ

 流ノ介を使ったギャグは冴えに冴えています。「流ノ介...」と頭を抱えるシンケンレッドが実に可笑しい。実は丈瑠にとって、流ノ介は千明以上に頭の痛い人物だったりして(笑)。


 ズボシメシは、ことはを名指しして勝負を挑み、他のメンバーにはナナシ連中をぶつけます。

 それぞれ、一大アクションを繰り広げてくれますが、当初に比べてチャンバラ劇の要素が薄まり、普通の戦隊アクションに戻ってきたような気がします。もう少しケレン味が欲しいところではありますね。


 ズボシメシは、ことはに悪口を連発。「アホ」「バカ」「マヌケ」「いじめられっ子」「鈍感女」と来ます。勿論、ことはは動じずに進撃を続けます。

シンケンイエロー VS ズボシメシ

 続いて、「姉ちゃんの補欠」と言ったところで、一瞬表情が曇ることは。

ことは

 ズボシメシの、人の事情まで読み取る力が示され、一瞬戦慄を覚えるセリフです。

 ことはの弱点が、姉であるみつばかも知れないと思わせるあたりも見事です。にしても、「姉ちゃんの補欠」は本当に酷い。


 ここで危機が訪れるか、と思われたところで、千明がウッドスピア・木の葉隠しを使用。ズボシメシを翻弄して羽交い絞めにします。

 その隙に、ことはが石のモヂカラを使い、ズボシメシの口に石を詰めます。

シンケンイエロー

ズボシメシ

 今回のメインを飾る2人の共同攻撃が、アタック&サポートで示される爽快感。また、モヂカラも効果的に使われ、素晴らしい流れを生んでいます。


「言葉で人を傷つけるなんて、あんたみたいなん、最低や!」


 ことはは、シンケンマル・土の字斬りでズボシメシの戦意を喪失させます。

シンケンイエロー

 これ、ことはの本音なんですよね。

 ことはも充分傷ついていた事は、終盤でチラッと明かされますが、それを前提に見ると、ことはの怒りや痛みが分かって異様な迫力を生むのです。

 このお話、2回以上見た方がいいですよ(笑)。


 怯んだズボシメシは、兜五輪弾で粉砕されます。ことはと千明の主役回だからといって、安易に兜ディスクを使わせない配慮は評価したいところ。


 ズボシメシは、二の目で巨大化。

 巨大戦の工夫は毎回のように見られ、飽きさせません。

 今回は、ズボシメシの一刀を猿折神の分離で回避。それだけでなく、猿折神のエンブレムモードを、サッカーボールのように熊折神で蹴って攻撃するという、トリッキーなシーンを見せてくれます。

シンケンオー

 巨大戦でも、ことはと千明のコンビネーションが描かれています。巨大戦では5人で1つの巨大ロボを操る為、メインを張るキャラクターがどうしても目立たなくなってしまいますが、これは巧い。


 勝機を見出したシンケンジャーは、カブトシンケンオーで止めを刺します。

 しかし、ことはは昏倒してしまいました。

シンケンジャー


 エピローグは、セリフ完全採録で。


茉子「ことは、平気だなんて言ってたけど、アヤカシの言葉に傷ついてたんだよね、思いっきり」

丈瑠「それを全部封じ込めてたんだ。無意識にな」

流ノ介「ことはは強い。あんなに簡単にダメージを受けていた自分が恥ずかしい!」

茉子「でも、マザコンはダメージ大きいかもねぇ。ホントなの?」

流ノ介「うぅっ...!」

丈瑠「やめとけ。誰にでも触れられたくないことだってあるだろ」

茉子「ふ~ん。嘘つきも?」

丈瑠「そういうことだ」

茉子「まぁ、そうだよね。殿様も、それぐらいはね」

ことはと千明

千明「ったく、こんなになるまで。お前、やっぱバカだな。けど、すげぇ。お前はすげぇよ」

ことは「ありがとう」


 これ、ちゃんと第二幕での丈瑠のセリフ「お前は強かった」とリンクしてます。

 丈瑠はちゃんと、ことはの強さを見抜いていたのです。しかも、ことはは自覚しないままその精神的な強さを発揮しており、その強さは、時に丈瑠をも凌駕しているのです。

 丈瑠は「嘘つき」であることに触れられたくないと、ほぼ明言してます。ことはは、触れられたくない事に言及されても、それでもなお前進する強さを持っているというわけです。

 ちなみに、茉子がやっぱり鋭い感性の持ち主であり、また根底に深い優しさがあるということも、さり気なく示されていますね。


 千明がことはをおんぶするという図は、発展途上の2人組という印象を抱かせて爽やかです。

 前々回は流ノ介と茉子のカップリングでしたが、随分と印象の異なるエピローグに仕上げてます。こういった懐の深さも魅力ですね。