第七幕「舵木一本釣」

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 流ノ介メインで、舵木折神登場編。

 流ノ介の侍としての精神的な面は、かなり完成されている印象があったので、今回の展開はやや意外な印象。しかし、完璧にやるべきことを理解しているつもりでも、他人との交流によって、ふとした迷いが生じることがあるのも確か。今回の流ノ介の心情描写はとてもリアリティがありました。


 そして、朔太郎というキャラクターを登場させたことも、今回の重要なポイント。

 黒子の内情といった面にスポットを当てるエピソードが、そのうち作られるだろうと予想していましたが、こんなにシリアスにまとめてくるとは、正直全く予測していませんでした。

 黒子の描写は、時代錯誤だったり、ケレン味を支える存在だったりと、割とコミカルな面に集約されているので、黒子の内情描写はもっとコミカルに茶化されるものとばかり思っていたのです。


 ところが、黒子の皆さんも志葉家に仕える「人間」であり、日向の存在である丈瑠達シンケンジャーを、アイデンティティを消して影から支える存在であることが示されたのです。

 朔太郎が、ラストシーンで決意と共に己の顔を隠す描写は、この点を端的に表現していて実に素晴らしいものでした。


 朔太郎は、一度侍の世界を捨てて浮世に逃げた男であり、浮世を捨てて侍の世界に飛び込んだ流ノ介とは、対極にあります。

 対極にある者同士が出会った時、それぞれの心情にどのような変化が生じるのか。その対極が善悪のモノサシの上でのことではないだけに、今回のドラマは真に迫っています。

 侍、舵木折神といった状況は、どう視点を変えても「リアルなドラマ」ではありませんが、それぞれ社会における役割や、社会における目的に置換可能な要素として描写されているので、2人の心情や主張がよく伝わってきます。その意味では、充分リアルです。


 元々、侍としての主義主張に淀みない流ノ介は、出会いによって更なる高みへと達したと言えるでしょう。

 その高みは、頑張った末に手にしたものでなく、他者との出会いによってもたらされたもの。この場合の他者は、丈瑠であり、朔太郎です。


 「他者との関わり」を美しく描いていく「シンケンジャー」。早くも傑作シリーズの匂いに彩られています。


 今回もストーリーと見所をまとめてみました。

 冒頭は珍しい本格的な食事シーンから。

 それぞれの「行儀」で食べる図や、黒子が給仕する様子が微笑ましく描かれます。


 そこに、彦馬が慌てつつ登場。船端海岸で、舵木折神が見つかったとの情報がもたらされます。

 舵木折神は、先代の殿の戦いで行方不明になっていたもの。今はモヂカラの制御もなく、野生動物のようになってさまよっているといいます。

 同時に、スキマセンサーも反応。丈瑠は、舵木折神を捕獲し、モヂカラによって秘伝ディスクにもう一度つなぎとめるよう、流ノ介に命じます。


 籠で移動する流ノ介。

流ノ介

 そういえば、シンケンジャーってさしたる移動手段がないですね。昔の戦隊はバイクとかオフロードカーなんかを乗り回していましたが、いつしかそういったビークル系が用意されなくなってしまいました。

 籠で移動ってのは一種のギャグなんでしょうけど、基本的に「シンケンジャー」はかなりシリアスなので、こういった息抜きがあると、メリハリが付きます。籠専用の黒子は、相当足が速いのかもしれませんね。


 一方、街にヤミオロロが出現。フラフラと歩きまわっています。あんまり攻撃の意志はないものの、存在するだけで害を為すという設定は、特撮モノではよくある設定です。

ヤミオロロ

 ヤミオロロは、三途の川の「六門船(という名前らしい)」の船底に引っ掛かっていたところ、血祭ドウコクによって人間界に投げ込まれたようです。どうやら外道衆にも嫌われているらしい。

 体中から毒を吹き出し、それを人間が吸いこめば、散々苦しんで死ぬという、迷惑千万なヤミオロロ。


「俺の足臭いよ~」

「俺のよだれ渋いよ~飲む?」

「俺の息、甘酸っぱいよ~」


という、実に気持悪いセリフのオンパレードですが、梅津秀行さん独特のユーモラスな声によって、愛嬌すら感じられます。

 梅津秀行さんは「ゲキレンジャー」の幻獣バジリスク拳のサンヨ役が、最近では個人的に印象深いです。


 シンケンジャーは流ノ介を欠いた4人で迎撃しますが、ヤミオロロの毒霧攻撃により、苦しみながら倒れてしまいます。

ヤミオロロとシンケングリーン

 次々と倒れていくシンケンジャー達。

倒れるシンケンジャー達

 良く見ると、今回茉子の髪型が変わっています。今回のように耳出しの方が、より可愛いですねぇ。


 その頃、船端海岸に到着した流ノ介は、竿のモヂカラで釣竿を出し、「捕」の白い秘伝ディスクをセットして、モヂカラで舵木折神を釣るべく奮闘を開始します。

旨

 餌は、「旨」のモヂカラを込めた木札。う~ん、納得。モヂカラが巧く描写されているからこその説得力です。

 これならば、舵木折神以外引っ掛かることはない筈ですが、流ノ介はゴミを次々と釣り上げてます(笑)。しかし、ゴミの釣り上げがあまりギャグとして機能してません。それだけ今回はシリアスな雰囲気です。


 そこに偶然居合わせた一人の男。

朔太郎

 彼は今回のキーパーソンである、小松朔太郎。綱島郷太郎さんが演じてます。渋くてカッコいい、青年座の中堅俳優さんです。

 はしのえみさんとの結婚が報じられて、先日話題になりましたね。


 朔太郎は、流ノ介が秘伝ディスクを回すのを見て、「侍」と呟きます。

 途端、モヂカラを使いすぎて倒れる流ノ介。


 倒れた流ノ介は、朔太郎によって寝かされていました。

流ノ介

 目覚めた流ノ介は、朔太郎がモヂカラを知っていることに驚きます。


「全く、侍だの何だのと偉そうにしてたくせに、結局殿様も守れなかったんだ。一体何の為に戦ったんだか...」


と言う朔太郎は、先代の殿に仕えた侍を知っているといいます。

 侍の存在意義への疑問を、はっきりと発する朔太郎に、流ノ介の戸惑いは隠せません。


 その時、流ノ介のショドウフォンに、丈瑠達が高熱を発して倒れたと連絡が入ります。しかも、舵木折神の持つ海の浄化作用を以てすれば、その症状も治まるらしい。

 これで、益々舵木折神の重要性と緊急性が増したわけです。タイムリミット作劇の常套手段ではありますが、今回主眼となるテーマは、舵木折神を早く捕まえることより、流ノ介と朔太郎の侍に対する意識ですから、それほど危機感を煽っていません。

 流ノ介は再び舵木折神との格闘を開始。

流ノ介

 朔太郎は、


「何故だ。何故侍は戦わなければならない?」


と問うのですが、流ノ介は志葉家に仕えるのが役目だと答えます。


「そんなの親に刷り込まれただけだ!侍も殿も、あんたが決めたことじゃない。教科書通りに生きてると、それが崩れた時、どうしようもなくなる。虚しさだけが残る」


 朔太郎の辛辣な指摘を受けるも、流ノ介はなお続けます。

 しかし、流ノ介は朔太郎の言葉に、少しばかりの迷いを生じていたのです。


 流ノ介は、伝統を重んじる古風な家庭に育った為、志葉家に仕えることに疑問を持ちません。当初は丈瑠の冷淡な態度(本当は思いやりが根底にあったのですが)に反感を覚えたこともあったものの、基本的に侍であることに疑念はないわけです。

 その極端なキャラクターであるからこそ、ここで表情を曇らせるだけで、侍という存在への疑問を少しばかり抱いたように見えるのだと思います。これは巧い。


 流ノ介の小さな疑念は、流ノ介自身を捧げる対象である、丈瑠によって晴らされることになります。


 ヤミオロロ再出現に際し、丈瑠は病を押して出ようとするのです。彦馬は、流ノ介に急げと連絡。

 ここでの彦馬は、流ノ介はおろか、丈瑠にまでドスの効いた声で、殆ど恫喝状態。まるで悪人に印籠を見せる時の口上のような、凄い迫力。


 しかし、丈瑠は彦馬のショドウフォンを奪い、流ノ介に違う形でハッパをかけます。

丈瑠

「流ノ介!ジイは大袈裟に言ってるんだ。余計なことは気にしないで、お前は舵木だけに集中しろ!」

「しかし、殿!」

「いいか、俺は適当に選んでお前を行かせたんじゃない。お前なら出来ると思ったからだ」

「殿...」

「それまで、少しでも被害を減らしておく」


 重篤な状態にも関わらず平静を装う丈瑠は、やはり「嘘つき」なのですが、ここで重要なのは、丈瑠が流ノ介を信頼しているということ。

 丈瑠はあらゆる面で他の4人を凌駕する実力を持っていますが、それを以って他の面々を見下すようなことはしません。一般の人々に被害が及ぶような重大な場面では、失敗に対して厳しい態度をとることはありますが、基本的に4人を信頼しているのです。

 ここで、初めて丈瑠の口からその信頼感が語られたことになります。


 流ノ介は、丈瑠の苦しみを察し、なおも釣竿を振り続けます。

 殿に信頼された以上、その期待には応えなければならないと思ったのも確かでしょうが、それ以上に、丈瑠も身を削って戦っているという「仲間意識」が、流ノ介の迷いを霧散させたのだと思います。

 上下関係だけでなく、若い侍としての横の関係も、流ノ介ははっきりと感じ取ったのだと、私は想像します。


 ヤミオロロに立ち向かう丈瑠。

シンケンレッド VS ヤミオロロ


 そして、モヂカラを極限まで搾り出して舵木折神を釣り上げようとする流ノ介。朔太郎は見かねて制止しますが、流ノ介は釣竿を投げ出すようなことはしません。

 侍の事は、確かに親に教えられた事とは言え、戦っているのは、外道衆からこの世を守る為だということが、はっきりと分かったと答える流ノ介。それは、丈瑠の声を聞いた結果でもあります。


「あの殿なら、命を預けて一緒に戦える。そう決めたのは自分です!親じゃない。その戦いがどんな結果でも、空しい筈なんてないです!絶対にないです!」


と流ノ介。

 「命を預けて一緒に」の部分が重要です。「命を懸けて仕える」ではダメなんです。

 朔太郎が虚しさを感じたのは、「命を懸けて仕えていた」からだと、私は思います。つまり、目的を失った(=殿が死んだ)時、自分の命を懸けていた対象をも同時に失うことになるわけで、後には自分の存在意義の真ん中に穴の開いてしまった自分が残されます。

 流ノ介の場合、一緒に戦う仲間という意識も加わっているのであって、最悪丈瑠に何かあっても、外道衆から人々を守るという、丈瑠と共有した意志がある限り、流ノ介は侍で居られるのです。

 ただ、


「勿論勝つつもりで居ますけどね!その為にも、こいつは...こいつは!」


と、流ノ介はそんな「最悪のこと」を考えていないのがミソ。ここらへんのポジティヴさに、朔太郎は心を動かされることになるのです。


「モヂカラに集中しろ!」

「はい!」


 思わず、朔太郎は流ノ介に手を貸します。

流ノ介と朔太郎

 この一連のシーン、朔太郎の表情の変化が実に素晴らしい。丁寧な演出と、さすが舞台俳優といった貫禄と実力で、感情面から物語にリアリティを与えています。

 朔太郎の助力も合って、とうとう舵木折神のの捕獲に成功します。

舵木一本釣

 流ノ介は、すぐさま秘伝ディスクにつなぎとめます。ディスクは、舵木ディスクへと変化しました。

流ノ介

 朔太郎は清々しさを感じている様子。


 流ノ介単独で釣り上げなかった点については、私は批判しません。

 朔太郎が「モヂカラに集中しろ!」と言ったことから、この舵木折神を釣り上げる為には、モヂカラと腕力が必要なのだと思われます。丈瑠が流ノ介を信頼したのは、腕力ではなくモヂカラに対してだと考えるのは自然です。

 従って、苦闘しつつモヂカラを最大限に発揮した流ノ介が、丈瑠の信頼の一部を裏切ったことにはなりません。


 丈瑠達4人が、ヤミオロロと生身で戦おうとしているところに、流ノ介が登場!

 舵木ディスクをウォーターアローにセットし、舵木折神の清浄なる海水の力で、4人の病を完治させます。


 勢揃いしたシンケンジャー。今回は斬り付ける瞬間をスローモーション処理したりと、アクションに変化をつけています。

一筆奏上

 シンケンマル・水流之舞で、ヤミオロロの戦意を喪失させる流ノ介。

水流之舞

「流ノ介、一緒に行くぞ!」


と丈瑠。これまで、烈火大斬刀の大筒モードは丈瑠の独壇場でしたから、新鮮な画です。

 舵木五輪弾で止めを刺す丈瑠と流ノ介。兜五輪弾とはディスクが変わっただけで、殆ど同じですが、エフェクト自体は著しく異なります。


 「成敗!」を流ノ介が言うのもポイント。今後、秘伝ディスク追加に応じて、「○○五輪弾」が登場するかも知れません。

舵木五輪弾


 ヤミオロロは二の目で巨大化。シンケンオーは霧による目くらまし攻撃に翻弄されます。毒霧攻撃にしなかったのには感心しました。シンケンオーが苦悶しても珍妙なだけですからね。

 流ノ介は、舵木折神を使って攻撃し、霧を晴らします。魚雷発射等の機能性が楽しいです。

舵木折神

 そして、侍武装でカジキシンケンオーに!

カジキシンケンオー

 カブトシンケンオーと同様に、ヘッドチェンジ系で武装します。頭部のカラーリングがガラっと変わるので、結構印象が変わります。

 ダイシンケン・長刀モードも登場。これはやや唐突。カジキシンケンオーだから長刀というわけではないと思いますが...。ちなみに、DXトイでは再現できないらしいです。


 必殺技は、ダイシンケンを頭頂に装備し、頭を振り下ろして敵を斬り捨てる「舵木一刀両断」。

舵木一刀両断

 頭を振り回すのは、日本舞踊における鏡獅子など、長髪を振り回す動作に由来しているものと思われます。「メガロマン」を思い出してしまいました。


 流ノ介が海岸に戻ると、そこに置手紙が。


「若い侍へ。あんたのおかげで大切なものを思い出した。自分のするべきこともな。ありがとう」


と朔太郎の綴られており、流ノ介は、


「お名前も聞けませんでしたが、私も、自分の気持ちを見つめ直すことができました。ありがとうございました」


と丁寧にお辞儀をして礼を述べるのでした。

 流ノ介と朔太郎。互いに全く違う主張を持ちつつも、それぞれに今の在り方に少しばかりの疑問を持つ者同士でした。2人が出会い、一緒に舵木折神を釣り上げたのは、運命だったのでしょう。

 そして、朔太郎の正体は...。


 志葉家の屋敷。彦馬と黒子が会話しています。


「よく戻ってくれたな。先代殿の死で、何もかも捨ててしまったお前が」

「もう一度、負けることなど考えなかったあの頃に戻ってみようかという気になりました」

「共に、侍達の影の支えに」

「はい!日下部様、良い侍達ですな」


 そう、朔太郎はかつて黒子だったのです。そして今また、朔太郎は黒子へと戻りました。

朔太郎

 この後、黒いベールを自ら被るカットがあるのですが、思わずジーンと来てしまいました。

 黒子の最大の存在意義は、「滅私奉公」。朔太郎は、流ノ介と出会ったことをも隠し、流ノ介達の影の支えとなって働くのです。朔太郎は若い侍である流ノ介の信念を知り、流ノ介はそんな朔太郎に気付くことなく支えられる。何とも崇高でドラマチックな幕切れでした。


 で、朔太郎はこれから「命を懸けて仕える」のか。

 私は、「命を懸けて仕える」のではなく、流ノ介達若い侍を見守りたいという気持ち故に、戻ってきたのだと思います。「負けることなど考えなかったあの頃」を、現在のシンケンジャーに託す思いなのでしょう。


 一方、シンケンジャーの戦いを影から見ていた謎の怪人は、


「シンケンジャーか...」


と呟いて歩いていきます。

謎の怪人

 見たところ、刀を装備しているようですが、外道衆なのでしょうか?

 次回予告にも登場していました。レギュラーっぽいですね。