第29駅「対向車との合流点」

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 シュバルツの策略と、それにまんまと騙されるライトのお話(笑)。

 導入部の雰囲気は非常に硬質で、「裏切り者」だの「停戦協定」だの「ネロの腹心」だの、格好良いタームが山程出てくるのですが、いざストーリーが進行していくと、実はそうでもないという...。文芸的にも不徹底な部分が割と目について、あまり入り込めない感じでした。

 今回は、「敵の敵は味方」というロジックをかざしてシュバルツとトッキュウジャーを共闘させる...という触れ込み。結局、それは明の持つドリルレッシャー(=ドリルクライナー)を奪う為にシュバルツが展開した策略だったわけですが、途中まではもしかして本当に共闘するのかも...と思わせる演出となっていて、なかなかサスペンスフルな展開になっています。

 敵味方が利害を一致させて共闘するという展開は、戦隊に限らず色々なドラマやアニメで散見されますが、手放しで傑作と呼べるものは少ないように思います。ごくごく私的なセレクトで挙げたい「傑作」は、今回と同じ展開となる「仮面ライダー」第79話「地獄大使!! 恐怖の正体?」、複雑な人間模様が敵をも巻き込んで展開する「ジェットマン」第18話「凱、死す!」、及び第47話「帝王トランザの栄光」、そして、「トランスフォーマー2010」の最終話です。

 最初のライダー第79話は、ショッカー大幹部・地獄大使が度重なる失敗からショッカーを追われ、ライダー=本郷猛の元に投降してくるという、その駆け引きが非常に見応えのある名編。これは結局、後のなくなった地獄大使が捨て身で懐に飛び込むという作戦だったわけですが、既に首領は次なる組織・ゲルショッカーを完成させつつある状態であり、ゲルショッカーのエージェントが暗躍する中、地獄大使が本当に背水の陣で臨んでいるという状況に悲哀が感じられ、ショッカー壊滅という怒濤の展開の中に飲まれて滅んでいく大幹部を、見事に活写していました。それでいて、主人公は本郷に徹底されているという神懸りよう。潮健児さんという希有な個性派俳優の魅力が生きています。

 今回のシュバルツの行動は、「後がない」わけではなく自らの復讐の為とされているので、よりポジティヴな動機故に憎々しさも倍増しています。ただ、そこには単なる策士としての貌しか浮かんで来ないので、ちょっと深みに欠けるんですよねぇ。

 続いてのジェットマンですが、これはリアルタイムで観て衝撃を受けたエピソードでした。それまでも、戦隊が敵幹部の思惑に飲まれて他の幹部の抹殺に利用されるといった展開こそありましたが、なんせ、敵幹部であるラディゲが記憶喪失となって素面でラブストーリーを繰り広げるという、異色作の中にあっても異色のエピソードなのです。

 この回の最終的なラディゲの行動は、女帝ジューザに粛正されたのを恨んで復讐する為にジェットマンと共闘するというものなので、今回のシュバルツの動機にやや近いものがあります。ただ、ラディゲが記憶を取り戻した際に見せる狂気には鬼気迫るものがあり、今回の雰囲気とはかなり趣を異にしています。

 ジェットマン二つ目は、前述のラディゲによる、自らを貶めたトランザなる幹部への復讐劇。この回は、クロージングに挿入されたあまりにも悲惨なトランザの末路が物凄いインパクトを放っているので、多くの特撮ファンの間で記憶されています。しかしながら、途中で素面のラディゲとレッドホークが共闘するシーンは、いわゆる戦隊の定番アクションに即しており、異様なまでにヒロイック。またラディゲ役の舘大介(現・舘正貴)さんが精悍な風貌で普通に格好良い為、余計にヒロイックに見えます。この回でも、トランザへの粛正シーンでその類い稀なる狂気を見せ、ラディゲというキャラクターの凄味を見せていました。

 最後の「トランスフォーマー2010」最終話は、全宇宙に破滅をもたらす宇宙ペストに対抗すべく、利害の一致したサイバトロンとデストロン、そして第三勢力のクインテッサ星人が手を組み、宇宙ペスト撲滅の鍵となる人物・コンボイ司令官の復活と、耐熱合金の入手の為に協力し合うという展開。アメリカではこの後に3話分のミニシーズンを以て完結となりますが、敵味方が完全に手を組み、最後にデストロンのボスであるガルバトロンがコンボイに対して敬服の意を表すというラストのある「2010」こそが完結編っぽさのあるエピソードに相応しいと思います。

 私自身は、感情的なものは完全に度外視して、ここまで理性的かつ論理のみで敵味方が共闘するエピソードは他に知りませんし、そもそも日本では制作困難なのではないかと思います(その証拠に、スタートレック等には散見される)。今でも、ちょっとヘコむような事があると、つい観返してしまいますね(笑)。理性的解決の為に何が必要かという事を教えてくれます。

 「トッキュウジャー」から脱線しまくりましたので、この辺で軌道修正。

 今回は残念ながら、これら傑作群に列挙出来るような完成度ではなかったと思うのが正直な処。見所となるシーンは沢山あって、ライトと一緒にご飯を食べ...ようとするシーンや、シュバルツの立てた作戦に同意するシーンの緊張感、ボトルシャドー戦でのシュバルツを含めた連携プレーの美しさ、状況が急激に変転するシュバルツの裏切り...。枚挙に暇がないとはこの事です。

 ライトの「一緒に食事をすれば相手が分かる」というポリシーが、今回遂に崩れる事になったように見えますが、実はシュバルツは一口もお膳に手を付けておらず、一緒に食事をしないまま、ライトが何となく信用してしまった事自体に、その失敗がありました。つまり、今回そのポリシーに正直に従わなかったからこそ、ライトは失敗したわけです。それ故に、特に悩む事なく素直に仲間に謝るライトには好感が持てますし、それを許す仲間達にも爽やかな雰囲気がありました。

 シュバルツの「作戦会議」では、自らの知識と照らしてその作戦を評価する明と、作戦自体の有効性をその頭脳で精査するヒカリが大人っぽい雰囲気を醸しだし、「トッキュウジャー」におけるクールな面を浮き彫りにしてくれました。私としては、このシーンを今回の白眉としたい処ですね。ちなみに、「復讐」という言葉を口にした時、ミオだけグリッタの事を想起しているシーンが非常に印象的でしたね。敵味方を超えて女性同士の共感があった事を示していて、ミオなりの特別感が出ていて良かったと思います。

 ボトルシャドー戦では、ボトルシャドーのソムリエ風蘊蓄がかな~り浮いていた(声は中原茂さんで、さすがに雰囲気作りが巧い)ものの、浮いていたおかげで緊張感を失う事もなく(笑)、次々と技をヒットさせる面々の格好良さが引き立っていました。シュバルツがちゃんと溶け込んでいる辺りが良いです(笑)。このままブラックカラーのトッキュウ0号が誕生してもおかしくない程の、ヒロイックな戦い振り。元々シュバルツは、将軍の肩書きに相応しく軍人気質で硬質なアクションを見せていましたが、ダッシュを伴うアクションでも見栄えしてますよね。

 そして、ボトルシャドーの「奥の手」を予測してトッキュウジャーを陥れるシュバルツの手練っぷり。これぞインテリゲンチャといった雰囲気の策略家。やっぱりシュバルツの格好良さは筆舌に尽くしがたい。そんな感想でした。ライトや仲間達、特に明にとっては腹立たしい事この上ない裏切り行為ですが、ここではシュバルツの格好良さに惹かれてしまいますね、やはり。ドリルシャドー奪取により、シャドーラインへの乗り入れ手段を封じられるという展開にも驚きました。

 今回はこんな感じで非常にビジュアル面が良かったのですが、如何せん、ライトが接触する事で心情的なリアリティを欠いてしまうきらいがありましたね。あと、いきなりヒカリがハイパートッキュウ4号になってしまう脈絡のなさも気になりました。私は完全にライト専用だと思っていたし、そもそものハイパートッキュウ1号誕生編がライトのイマジネーションなくしては有り得ないというものだったので、他の面々が簡単に使えるようになってしまう辺りに段取りの悪さを感じてしまいます。もう少し掘り下げて欲しかったですねぇ。

 次回はシチュエーション・コメディっぽい感じですが、弾けた面白さを期待しています!