第4駅「忘れ物にご注意を」

  • 投稿日:
  • by
  • カテゴリ:

 サブタイトルを体現したのはトカッチですが、実はミオとのデュオ編。「コンプレックスがある者同士」というストーリー上の意外性と相俟って、これまでのやや暗い印象とは異なる陽性の雰囲気を湛えていました。

 記憶がほんの少しずつ蘇ってくる構成も巧く定着してきたようで、前回のように町の場所に関するヒントとまでは至らなかったものの、トカッチとミオが互いに抱く印象を左右する重要なシーンとして登場しています。

 今回のメインを張るトカッチとミオの二人は、頭で考え過ぎるタイプと、体力勝負に出るタイプの組み合わせとなっていて、いわゆる正反対キャラというパターンです。

 しかし、トカッチは劇中で告白していたとおり、実はヒカリの方が「頭のキレ」が良く、メンバー随一の頭脳派というわけではないとされています。ただし、イマジネーションの糧となる図書や家電を買い漁る様子からすると、結構な努力家ではあるようです。

 一方、ミオはと言うと、その体力を根拠に戦力はメンバーの中でも随一でありながら、実はトッキュウジャーのパワーソースとして最も重要なイマジネーションが弱いとされています。確かに、これまでの三話分でミオのイマジネーションが発揮されたシーンは殆どありませんでした。

 ただ、今回私がそういった設定よりも重要であると感じたのは、ミオというキャラクターの持つギャップです。ミオは、体力系であるとの設定の割には結構柔らかめの雰囲気を湛えている印象ですし、暴走気味なライトの批判者(ブレーキ担当)という性格も弱め。この辺りは設定の問題というより、ミオ役の梨里杏さんの類い稀な雰囲気が画面を喰っているから、という感じを受けます。これは、キャスティングのミスマッチという事ではなく、むしろシリーズにとっては好ましい事であり、今後はステレオタイプではない深みのあるキャラクターが完成していく筈です。

 4話目で、早くもこのように後天的「ズラシ」が見られる事は、恐らく今回のシナリオ執筆時には意図していなかったと思いますが、今回のコンプレックスのように設定の「ズラシ」を前提に書かれたホンが、実際の現象とこの上ないマッチングを起こし、得も言われぬ深みを感じる事が出来たのは、「トッキュウジャー」にとって幸先の良い事ではないでしょうか。

 客観的に見ると、トカッチはビジュアル面でも設定面でも、コメディリリーフである事が一発で分かる「理解しやすい」キャラクターとして既に初回からほぼ「完品」となっているのに対し、ミオはアクションの描写で武道を嗜んでいる事が分かる程度に留まり、初回から掴み所の無いキャラクターとなっていたように思います。つまり、ミオはこれからいくらでも変化を望めるキャラクターであると言えるわけで、近年の分かり易いキャラクター作りの傾向とは一線を画しています。実に楽しみですねー。

 さて、そんな二人が紡ぎ出す物語ですが、その前に、トカッチがパスを紛失した事でレッシャーによる移動が叶わなくなり、ミオが見かねて別の交通手段による移動を提案しつつ同行するという状況を作り出しているのが秀逸。このやり取りだけで、トカッチの狼狽振りと、ミオの状況判断力が見事に活写され、更に他のメンバーがそれを「現実的だ」と評価するくだりで、ミオの提案がイマジネーション由来ではない事までが示されます。もしカグラであったら、全く別の突飛な解を導いていたかも知れませんね。ライトに至っては改札を撤去しようとしますし(笑)。

 この状況によって、トカッチとミオがレッシャーによる移動組と断絶される事になると同時に、レッシャーが移動可能なエリアには、徒歩を含めた他の手段でも移動が可能であると示され、シャドーラインによる事件が現実の地理上で発生しているという現実感を、巧く感じさせるに至っています。さらには、冒頭でレッシャーが想像力を無くした大人には不可視である事も描かれ、現実世界で起きていながら、トッキュウジャーの戦いは基本的に世間から断絶されているという事実がスパッと斬り込んで来るわけです。この切れ味の鋭さは素晴らしいと思います。

 そして、レッシャーのスピード感と、他の手段ののんびりした感覚の対比までもが行われます。

 バスに乗ったり、タクシーに乗ったり、徒歩による山越えを敢行したり...と、トカッチとミオの二人による道程は、レッシャーの持つスピード感とは正反対に描写されていて、同時に並行して進行している事象であるにも関わらず、二人の時間が他の三人よりも長いものであるかのような錯覚を起こさせます。それ故に、二人は互いのコンプレックスを知る事になったのであり、記憶の断片を得る事が出来たのだと、納得させられる構成になっています。

 結局、パスはレッシャー内に落としていた事が明らかになり(降車時はパスが不要らしい...)、二人はレッシャーでの移動で戦場へと駆け付ける事になりますが、前述の「遅さ」が巧く作用して、「速さ」のカタルシスが勝利のカタルシスの前に導入される事となり、素晴らしい高揚感を生んでいます。何だか構成が神懸かっている感じですね。

 徒歩での移動について付記しておくと、トカッチとミオの体力の差が巧みに描写されていた事にも注目しておくべきでしょう。冒頭、長い停車時間を利用して、メンバーそれぞれが思い思いの時間を過ごす事になるのですが、ライトの焼肉、カグラのショッピング、ヒカリの自販機(笑...この辺にヒカリのクールさを感じられたり)、トカッチの大量仕入...と「打ち出の小槌」と化した(と勘違いした)パスを使っての余暇だったのに対し、ミオはジョギングで一線を画して見せます。それが画面的な根拠として後々まで活きていて、走って移動したり、登坂を息切れする事もなくこなしていたりと、実にスポーティで格好良い女性として描かれており、正に「惚れてまうやろ」なわけなのです(笑)。また、そのスポーティな描写が実にさまになっているのが素晴らしい。で、ギリギリの処で汗をかいているカットがあったりして、運動量に関するリアリティが示されていたり(直後の変身シーンでは、気温の低さを示す白い呼気が映っているので、「汗」がよりリアル)で、この辺の描写もやけに神懸かっているんですね。

 ちなみに、パスで払った代金は、レッシャー内の清掃等の「アルバイト」で充当する必要があるとのオチが付けられており、この辺りもまた妙なリアリティがあります。

 ところで、今回は意外にも新しいトピックに恵まれていました。

 一つは、シュバルツに、より具体的描写を伴うシーンが登場した事。現在の処、クライナーが一車種であり、そこに物足りなさを感じていると同時に、レッシャーに興味があり、研究対象にしたいという、闇駅の拡大とは別の目的を抱いている様子が描かれます。そこに、グリッタ嬢が純粋な思慕を寄せ、レッシャーの観察に適したタイミングを奥ゆかしく伝える辺り、敵側の感情を擁したドラマ展開の醍醐味が早くも発露しているようで、興味深い処ですね。シュバルツ自体がこれまたダークヒーロー的なノリで格好良い!

 二つ目は、そのクライナーが変形してロボットになるというもの。巨大戦でたまに描かれる「巨大戦闘員」扱いに近いものですが、デザインが実に格好良く、システマティックなロボット同士がバトルを繰り広げるという点で、「バイオマン」や「ゴーバスターズ」といった純粋な「ロボ戦」のエッセンスが追加される事になったわけで、これは嬉しいですね。トッキュウオー、クライナーロボ共々、列車形態からの変形なので、同傾向のロボットによる戦闘という、ちょっとリアルロボットアニメ的な匂いも。

 三つ目は、突如登場した(巨大戦用の)新レッシャー。シールドレッシャーと名付けられたそれは、使途がそのものズバリとなっており、シールドに変形してトッキュウオーに装着されるというものでした。トッキュウオー自体を跳ね飛ばして攻撃を回避させるという勇猛振りも鮮烈で、下手をすると棒状の物体で変化に乏しいレッシャーですが、このようにキャラクター付けされていると、見ていて楽しいですよね。

 というわけで、一応、トカッチがメインの回だった筈なのですが、何だかミオ中心の文章になってしまいました。思いっきり私の好みが出てしまって申し訳ない限りなのですが、まぁ例年通りですのでご容赦の程を(笑)。

 次回は鉄道の生命線である線路が...というお話。今回の「車内のお忘れ物」とはまた異なるアプローチによる鉄道ネタ。どう料理されるか期待です。