第43駅「開かない扉」

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 本年も何卒よろしくお願い致します。

 というわけで、新年一発目のお話は、年末編に続いてあまり新年っぽくないエピソード。ただし、「新春編」に相応しい1月4日は放映休止だったので、やや遅れた今回をいかにもな新春編にしなかったのは正解でした。

 内容としては、敵の珍妙な作戦に翻弄されるという、一話完結編のお手本のような作りなのですが、意外にもヒカリとカグラの家族について丁寧な描写が盛り込まれたり、ライトとゼットの関係に踏み込んでみたりと、後の展開に対する段取りが巧みに行われており、充実度は非常に高いです。

 今回登場のドールハウスシャドーは、珍妙な名前が現すままの能力を持っていて、ドールハウスにヒカリとカグラを閉じ込めてしまいます。

 何かに閉じ込めて火攻めにするという卑怯かつ残酷な作戦には、強い既視感があったのですが、それは恐らく「ゴーグルファイブ」でゴーグルピンク=桃園ミキが絵本の中に閉じ込められて燃やされると...いう話が原因ですね。桃園ミキは、快活で可憐(で華奢)な女の子というイメージでしたが、この回では不屈の闘志を感じさせる表情や体当たりのアクションが強い印象を残しました。また、仲間の助力なしに、自らの力のみで脱出を果たすという意味で、後のヒロイン大ピンチ編のパイオニアになったのではないかと思います。

 今回は、カグラ単独ではなくヒカリと一緒。故に類型から離れて新鮮な印象に。またドールハウスというアイディアも良かったですね。前述の絵本等でもそうですが、どうしても「架空の内部」をセットとして表現する事になる為、現実感を持続させるには、演出にもキャストにもかなり高いテンションが要求されます。今回は、家の中であれば現実感が担保されるので、他の部分にテンションを割く事が出来、実際に巨大戦をドールハウス内部でやってしまうといった奇想天外な画作りにまで波及していると思います。

 また、脱出劇に関しても、扉から出れば脱出出来るという至極単純明快なロジックが成立する為、いかにして扉から出れば良いかという点に収斂させる事が出来ます。サブタイトルに文字通り「開かない扉」とあるように、開く可能性のある唯一の扉が外から封印され、それがサスペンスを生んでいます。

 火攻めに関しては、桃園ミキの例を挙げるまでもなく、生命の危険をダイレクトに感じさせる装置として、明快かつ一級です。

 このように、サスペンス・アクションとして一級の舞台装置が揃っているわけですから、その展開に関しては全く心配が要らず、我々はその脱出がいかにして行われるかという事、そして付随するドラマに集中出来ました。カグラの靴が片方だけドールハウスの外に出た際、その靴は元の大きさに戻っている...という「提示」。ヒカリがそれを元にけん玉を使っての脱出方法を思いつく「応用」。そして「実行」。その流れが実にスムーズに、そして格好良く描写されました。このパターンは「冒険野郎マクガイバー」という海外ドラマで毎回展開されるものなのですが、あのアイディアを巧く応用している作品には、なかなか出会えないのが現実。今回は本当に良く出来ていると思います。

 「トッキュウジャー」らしいのは、そこにさらに一捻り加えてある処でしょう。

 サブタイトルの「開かない扉」は、カグラの危惧が悪夢にまでなった、「大人になった自分を認識してくれない肉親」を象徴しており、ドールハウスからの脱出が、そのジレンマからの脱却に重ね合わされています。面白いのは、自分を守ってくれる両親を、今度は自分が守れるようになるという発想の転換で、それは無力な子供からの成長の自覚といった観念的な部分にまで踏み込んでおり、なかなか哲学的です。しかし、話の流れが自然で明快な為、そのテーゼが非常に分かり易く、宮内洋さんの言う処の「教育番組」が成立していたと思います。

 カグラがその境地へ至るに、ヒカリが欠かせない存在だったのも見事でしたね。

 私はもっと下世話な話を予想していて、トカッチとミオが良い雰囲気になってきたから、次はヒカリとカグラも...とか思っていたのですが、そんなものは超越していて、少しだけ一歩前を歩いているヒカリが、カグラの手を引いて前へ進むという構図なんですよね。二人は一応良い雰囲気なのですが、恋愛感情が云々というよりは、むしろ互いのメンタル面を象徴している...つまりはヒカリのアニマがカグラで、カグラのアニムスがヒカリで...といった感じに捉えるのが自然だと思います。

 そのヒカリの強さは、子供時代に味わう特有の孤独から来ているというのが判明しました。

 基本的にヒカリはいわゆる「鍵っ子」というヤツで、けん玉はヒカリを心配している祖母の贈り物であった事が分かりました。今時の子供にしては古風なけん玉を持ち歩いているヒカリですが、送り主が祖母で、しかも回想中にわざわざ「ゲームとかが良かったんだろうけど」というエクスキューズを入れたりしていて、設定の違和感を払拭する外堀の埋め方が尋常ではないですね(笑)。

 で、ヒカリの母親も登場するんですが、その母親がちょっと頼りないので、ヒカリ自身が自立しなければならないと考えていた事も分かり、何となく複雑な家庭環境も見え隠れしています。ただし、基本的に真っ直ぐな精神を有するヒカリを見るにつけ、決して悪い環境だったわけではなく、むしろ少々頼りなくも一生懸命な母親の姿に好感を持っていた事がちゃんと示されており、非常に暖かい回想シーンだったと思います。

 そして何と言っても、母親役に長谷部瞳さんがキャスティングされていた事で、シーンの意図は達成されたと言っても過言ではないでしょう。

 長谷部さんは「ウルトラマンマックス」でミズキ隊員を演じ、主人公のカイトと劇的に結ばれるという、ウルトラシリーズ中でも破格の扱いとなったヒロイン。かく言う私個人も、容姿端麗ながらもクールな印象が皆無な(!)ミズキ隊員には心奪われまして(笑)。現在でもシリーズ随一のウルトラヒロインだと思っている次第でして...。

 そんな彼女も母親役にキャスティングされるのか...と感慨に耽っていたら、まだ20代じゃん!と我に返り、随分思い切ったキャスティングだなぁと変に感心してしまったわけです。

 とにかく、長谷部さんの出演は私にとって福音でした。はい。

 さて、シャドーライン側の動きですが、ゼットのイエスマンのみが生き残った事により、いよいよレインボーラインとの対立構図が強固になりました。いわば、舞台装置をシンプルにした事で見せたいドラマが作りやすくなったという事ですね。今回は更に、年末編でちょっとだけ示された「ライトから立ち上る闇」を一歩進めてフィーチュアし、ゼットがキラキラを渇望する理由と関連しているのではないか、という謎を提供。この、少しずつ伏線が回収されていく感覚は正に終盤といった雰囲気であり、俄然期待が高まっていきますね。

 ゼットに関しては、闇そのものとなった関係か、より口数が少なくなっている代わりに、表情での芝居が際立つようになりました。他の面々が基本的に仮面劇を演じている関係上、ゼットのみが素面で感情を表現出来るわけで、そのコントラストが非常に面白いものとなっています。

 次回は、やはりライトに何らかの試練があるようですね。いわゆる小林戦隊のレッドは数奇な運命に翻弄される感覚を有しているので、その辺りを踏まえた奇抜さに期待したい処です。