第7駅「やるせなく、やる気なく」

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 ヒカリとカグラのタッグで、二人のポジションを明確化する狙いが見えるエピソード。その狙いは、実に巧みなストーリーテリングによって達成されています。

 ヒカリが常に持ち歩いている(らしい)けん玉をメインに据え、カグラの、実は戦闘中に留まらないものだったという「なりきり趣味」を加える事で、二人の微妙な距離感を表現しつつ、クライマックスの決め手に至るまでそれら二要素を引っ張る巧さ。今回の面白さはこれに尽きます。

 一方で基盤となるシャドー怪人の作戦は、至極オーソドックスな「無気力モノ」となっていて、そこに複雑な描写を必要としない代わりに、ライトとカグラの感情の機微をより濃く描いていました。

 「無気力モノ」は、一般的に高めのテンションで展開していく戦隊シリーズにおいて、意外性とユーモアを醸し出すパターンとして重宝されているように思います。

 このパターンに類似するものとして、「洗脳モノ」がありますが、こちらはよりダークなイメージでまとめられる事が多く、ヒーローの右往左往振りにも如実に違いが現れる辺り、面白い処です。当然ながら、洗脳系はヒーロー内部の戦闘に発展したり、スパイになったりといった場合が多く、より殺伐とした雰囲気になりますし、他方、無気力系はその描写自体がコミカルにならざるを得ません。

 中には、無気力系でも人間関係の暗部が殺伐とした雰囲気の中であぶり出されるような「例外」もありますが、今回は定番に則ってコミカルに描かれているので一安心。しかも、ハンコシャドー(「スタンプ」シャドーではないネーミングセンスが抜群!)によって無気力化されたライト、トカッチ、ミオに乗じて、ワゴンがストライキを始めるという、予想だにしなかった発想の飛躍が見事です。素晴らしい。これによって烈車内では、妙にリアリティを伴った労使関係や金銭授受が存在する事まで表現され、現実世界の延長線上にある事がより強く、そしてさり気なく「念押し」されたような格好となりました。

 また、「トッキュウジャー」も7話目にして早くも安定ムードに入ったのか、初期のような重さや暗さは影を潜め、無気力化された人々が路上に座り込むような、ちょっとした「地獄絵図」が画面に登場しても、どんよりとした曇天のようなムードはありませんでした。ただ、ムードは軽くなっても、その描写に関しては手抜かりはありません。

 実際、「無気力坂駅」周辺で起きている事件は特にコミカルに描かれる事もなく、セリフも演出も笑いを狙うような部分は排除されており、しかも事件解決後は学校や会社に遅刻寸前だというシチュエーション(=「都合良くリセット」にはならない)をちゃんと描いていました。つまり、シャドーラインによる被害は「面白可笑しく描かれない」事が、今の処徹底されているように見受けられるわけです。これは、「悪」としてのシャドーラインを強く印象付けるという狙いでもあるでしょう。

 しかしながら、シャドーライン内部において、グリッタ嬢だけは別種の魅力を発揮しています。今回も、自分に与えられた「上質の闇」をシュバルツに譲ろうとする健気さが描写され、殺伐としたシャドーラインの中にあって、ちょっとした清涼剤の役割を果たしていますね。どちらかと言うとスタイリッシュなシャドーライン連中の中にあって、群を抜いて醜悪なデザインを与えられている意外性も、高い効果をもたらしていると思います。

 さて、肝心のヒカリとカグラのコンビです。

 ヒカリは考え事をしている際、けん玉を器用に操るという設定になっており、今回初めて、それが具体的に描写されました。頭がフル回転している時に何らかの手悪さをするというのは有効なので、理に適った行動だと言えます。何かを思いついた瞬間に、剣先にスポッと決める辺りも分かり易い演出でいいですね。「あばれはっちゃく」辺りのような、ちょっとした懐かしさすら感じます(笑)。それにしても、けん玉の扱いが巧いですよね。彼の頭脳派という設定が、トカッチのようなややステレオタイプな見た目とは異なるビジュアルで示されていてとても良いです。

 そのけん玉を、ヒカリは無意識に大切にしており、通常ならば糸が切れたくらいでは笑って済ますような場面でも、思わず壁を殴る程に突発的な怒りを見せてしまいます。その様子は、普段クールなヒカリだからこそ余計に恐怖感を抱かせるものになっていて、カグラの感じたヒカリへの恐れを、視聴者も共有する事になります。

 一方、けん玉の糸を切ってしまったカグラ。深夜に没頭していたのは、トカッチが「イマジネーションの糧に」と渡した忍者映画のなりきりでした。この忍者装束、カグラの普段のフワッとしたイメージとのギャップが非常に楽しく、スタンドインを交えてつつ本人も体当たりで挑んでいる数々の体術が、なかなか凄い事になっています。

 これまでは、彼女がイマジネーションを働かせる際に、イメージシーンでなりきりを披露していましたが、今回は遂に「現実世界」でのコスプレまで敢行し、カグラのなりきり趣味が「真性」だった事を示したわけです。それにしても衣装はどこから調達して来たんでしょうか...(笑)?

 ともあれ、カグラのイマジネーションは変身後のさらなる「変身」だけでなく、いわゆる変身前でも存分に発揮され、そして高い身体潜在能力を有している事が分かりました。しかしながら、それを後の戦闘に殆ど活かさない辺り、ユーモアに溢れていますね。

 突発的に怒りを見せてしまったヒカリと、なりきりに関して完全に呆れられたと思っているカグラ、二人の間にあった微妙な壁は、戦える者が二人だけとなった時に、解かれます。待ったなしのシチュエーションが和解を生むパターンも、これまた定番となりますが、今回は心情描写が丁寧だったが故にごく自然に見え、なおかつ納得感のあるカタルシスに彩られていました。興味深いのは、カグラのなりきりを内心バカみたいだと思っていたヒカリが、その考えを変えていないばかりか、はっきりと告げてしまう処で、それでもなお、カグラのなりきりのパワーが有効だと考えるヒカリのクールさが際立つ結果となりました。

 この流れが見事に活かされたクライマックスでは、何とヒカリとカグラでけん玉を形成するという作戦を披露。このシーンは画作りのイマジネーションがすこぶる素晴らしく、イマジネーションを掲げるコンテンツの面目躍如だと言えます。ヒカリの場合、これは頭で考えた作戦なのですが、ここまで飛躍する発想はイマジネーションなくば達せられないという事が、言及はなくともよく分かるようになっています。イマジネーションにも色々な形があると。

 巨大戦では、カーキャリアレッシャーを巧く利用して、接近戦を避ける作戦。忍者映画はここでようやく活かされる事になりましたが、ちょっと無理があったような(笑)。車を飛び道具に使うという点では、なかなか面白かったと思います。

 次回は、またまた新烈車を絡めたエピソードとなるようで。あの手この手で見せてくれる、イマジネーション豊かなバリエーションに期待したい処です。