その30「セイセイでドウドウな女」

 臨獣殿では、理央とマクが一戦交えていた。謀反を疑うマクに、理央は正面からぶつかる。しかし、怒臨気を纏った理央の実力もマクには到底及ばない。ロンは物陰で見守るメレに「このままでは理央様は死にますよ」と告げる。メレは理央を抑え、操獣刀入手まで辛抱するよう進言。理央は一旦マクに屈服するそぶりを見せることにした。

 スクラッチでは、マスター・シャーフーがケンに再び操獣刀を託した。ジャン達4人は、ケンの心構えを今一つ信用できない。詰め寄られるケンはそれをスルリとかわし、妹・幸子との待ち合わせ場所に出かけた。今日は幸子の誕生日なのだ。幸子にプレゼントを渡したケンは、物陰に潜むメレを見つける。戦って操獣刀を堂々と奪い取ると言うメレに、ケンは応じ、メレに操獣刀を奪われそうになるが、ゴウ達が助太刀に入った。メレは操獣刀奪取を宣言し、一旦退却する。

 ロンはメレの誇り高いやり方にもどかしさを感じ、理央への愛を引き合いに出して姑息な手段を講じるように仕向ける。その策とは、ケンの妹・幸子を誘拐すること。メレは激しく躊躇するが、結局幸子を誘拐する。

 その頃、生まれ変わって更に強力になったチョウダが出現。5人のゲキレンジャーが迎え撃つ。チョウダの凄まじい力に圧倒される5人だったが、途中ケンが前回の戦いに参加していないことに気づき、チョウダが浴びたことのない激気研鑽で戦いを有利に進める。ところが、そこへ幸子に変身したロンが姿を現し、気をとられたケンは戦いから離脱、ゴウはケンを追い、ジャン達3人が粘ることに。ケンは、幸子が人質に取られたことを知る。それを聞いていたゴウは、ケンと一緒に行くと言うが、ケンはゴウに当て身を食らわし、一人で飛び出していった。

 約束の場にはメレが待っていた。メレの戦いぶりを知るケンは仕切りなおしの勝負を進言する。変身せずに戦うと宣言するケンに敬意を感じたのか、メレはその申し出を受け入れた。様子を見ていたロンは歯噛みする。メレは獣人態となりケンを追い詰めるが、メレの誇りをうまく揺さぶるケンに隙を見せてしまいう。負けを認めて去ろうとするメレに、ロンは幸子を殺して操獣刀を奪うよう告げるが、メレには出来ない。ロンは理央に変身してさらなる説得を続け、遂に折れたメレは幸子が捕らわれている足場を破壊して川に落とした。ケンはメレを激しく軽蔑する。メレはそんな自分に対する悔恨のあまり、怒臨気を発現させた。

 幸子は危機一髪ゴウが助けていたが、操獣刀は奪われてしまった。しかし今はチョウダに苦戦する3人に合流するのが先だ。心技体のトライアングルに意志と才能の加わった5人のゲキレンジャーは、見事な連携でチョウダを追い詰める。ケンのサイブレードカッターの炸裂を受けたチョウダは、巨大化して反撃を試みるが、勢いに乗ったゲキレンジャーのゲキファイアーにより粉砕された。

 操獣刀を手にしたメレは、理央の捕らわれる独房を破壊し、理央に操獣刀を手渡す。理央はメレを供に、獣源郷へと向かうのだった。

監督・脚本
監督
諸田敏
脚本
荒川稔久
解説

 久々の臨獣殿寄りのエピソード。これまで拳魔たちに占拠されてきた臨獣殿において、静かにならざるを得ない理央が、いよいよ動き出すきっかけとなるエピソードでもある。

 今回の主役はメレ。ケンの妹・幸子が関わることで、ケンにも見せ場が用意されているが、心情的な描写やアクションの見せ場など、メレが主役であるのは一目瞭然だ。メレファン納得のシーンがふんだんに盛り込まれ、満足度の高い一編となっている。ここは素直にメレのシーンを検証していこう。

 まずは冒頭、ケンとのバトル。物陰に潜むメレが可愛らしいが、ケンの前に出ると一転して誇り高い武人となる。本エピソードではメレ役・平田氏の高い演技力を存分に見ることが出来るが、このシーンではまずジャブを披露といったところ。ベテラン蜂須賀祐一氏の素晴らしいアクションが光る獣人態との連携も抜群だ。この直後、ロンに心を揺さぶられるシーンが登場。鏡面のオブジェを効果的に用いた挑戦的なアングルが、メレの心情を描き出す。この鏡面を用いたシーンは、メレの表情が様々な角度から同時に見られるという素晴らしい構成で、シナリオ、キャスト、アングルが見事にトライアングルを成した名シーンである。ロンがその立ち位置を工夫することで、鏡になかなか映らないのも面白く、ロンのキャラクター性をよく表現していると言える。

 ロンの言に激しく誇りを揺さぶられるメレ。幸子を誘拐するも、ケンの心意気の前に誇りを捨てきれない。この揺れ動く心情描写は正に圧巻だ。人質、約束の破棄。悪の系譜では当たり前のこれらトピックを、メレは激しく否定するのだ。思えば、これほど悪の系譜から外れたキャラクターもいない。人々の悲鳴や絶望を引き出すという「もっともな」行動原理で行動してはいるものの、パワーの優劣が勝敗を決するというポリシーを持ち、格下とは戦わないというメレ。たとえ理央の利益になるとしても、自分のポリシーに合わない行動はしなかった。今回は、臨獣殿を拳魔たちに占拠されて忸怩たる思いを強いられてきた上、理央を獣源郷に入らせたいという思いが、メレを突き動かしたが、そこには、ロンの巧みな誘導があったことも忘れてはならない。ロンの目的は未だ不明だが、理央が恐るべき力を得ること自体、ロンにとっては利益となるらしい。ちなみにこのシーンでは、平田氏自身が高所から飛び降りるアクションを披露している。

 そして、遂にメレは自らの誇りを捨てて幸子を殺める決意をする。この時の泣き崩れんばかりの表情にヤラれてしまったメレファンは多いに違いない。ずっと大事にしてきたものを捨て去る時の心境で演じたかのような、切ない表情が素晴らしい。その際に怒臨気を発現させるのだが、これは理央が怒臨気を発現させた時よりも自然な流れであり、メレの変化をシンボライズしたものとして、高く評価できる。これで、メレが悪の系譜に組み入れられたことになるのかどうかは、この先の展開をじっくり見ていく必要があるだろう。

 幸子の再登場は受難となったが、ケンのプレゼントに嬉しそうな表情を見せたり、ロンの変身体で巧みな表情を見せたり、捕らわれの身になったり、ゴウに抱えられたりと、多彩で美味しい役どころとなっている。ケンが守ってやりたいと思う妹像が、実にウマく表現されており、演出の丁寧さを随所に感じることが出来る。

 今回で、ようやく「5人のゲキレンジャー」という図式が完成する。原色3人組に、紫と白が加わっての絵図はなかなか美しい。3+1+1という構成がこの美しさを完成させているのだろう。「+1」の部分が異なるデザインメソッドの上で組み立てられているからこそ、アンバランスでありながらシンメトリカルな美しさを成立させていることが分かる。また、この5人勢ぞろいの状態では、スーパーゲキレンジャーの方がより効果的であることにも気づく。

 最後に、「オヤッ?」と思わせるトピックを一つ。幸子がケンを食事に誘うシーンがあるのだが、その食事というのが「恐竜やのカレー」であった。「恐竜や」とは「爆竜戦隊アバレンジャー」に登場したアバレンジャーの「本拠地」である。アバレンジャーは荒川稔久氏がメインライターだったことからの楽屋オチだと思われるが、この「恐竜や」、OVなどに度々登場している。シリーズを超えて親しまれる店として印象的だ。