その31「俺たちムニムニ!」

 なつめの同級生・新一はバスケットチームのエースだが、いつもスタンドプレーに走っている。ずっと自分一人で勝ってきたと自負する新一は、仲間の存在を認めていないのだ。周囲もそんな新一を煙たがっている。

 試合を終えた新一は、臨獣フォックス拳のツネキに襲われる。そこに現れたのはゲキレンジャー。しかし新一は、一対一の勝負を邪魔するなと吐き捨てる。新一を隠れさせ、ランとレツは激気注入でジャンに激気を注ぎ込み、ツネキを攻撃するものの、ツネキは新一を人質にとってしまった。そこにケンが登場し攻撃を開始しようとしたが、新一を心配したジャンが止めに入る。新一がツネキの手から逃れたのを機にゴウが一撃を加え、ひるんだツネキは虚空に矢を放って姿を消した。新一は何故止めを刺さなかったのかと、ジャンに詰め寄る。ジャンは新一の態度を「ビュウビュウだ」と称し、後を追った。ケンは呑気にメンチカツを食べに出かける。

 その頃、臨獣殿では、理央の姿が見えないことに苛立つマクが、カタとラゲクに行き先を聞き出す。マクは獣源郷に向かおうとするが、ロンがそれを阻む。ロンは理央こそが臨獣殿を統べる存在であると言い、怒ったマクはロンに襲い掛かる。しかしロンは、黄金の煙となってマクの攻撃をことごとくかわすのだった。

 新一を追ってきたジャンは、「ムニムニはいないのか」と尋ねた。そこにケンがメンチカツを持って現われ、ジャンとムニムニな様子を見せる。「ムニムニ」が仲間のことだと理解した新一は、馬鹿馬鹿しくなって去ろうとする。そこに雷鳴が轟き、新一はジャンとケン共々ツネキの作り出した「狐空」に閉じ込められてしまった。「狐空」は人々の悲鳴と絶望を吸収して大爆発を起こすという、臨気によるバリア状の空間だ。ジャンとケンは変身してツネキを攻撃するが、「狐空」内では力が9分の1になってしまい歯が立たない。続いてツネキは新一を狙う。ケンはツネキを押さえている間に、ジャンに新一を連れて逃げるよう指示した。

 ジャンは新一を工場の廃屋に隠し、戦いに赴こうとするが、新一は希望を失っていた。自分がいなくなっても誰も悲しまない、新一はそう思っていたのだ。ジャンは「ムニムニが悲しむ。だから死ぬなんて言うな」と怒る。そこにツネキが現れ、新一を階下へと落としてしまう。間一髪ジャンが新一の手を掴み、「新一は俺のムニムニだ」と告げた。ツネキはなおも攻撃を続け、ジャンもろとも階下に落ちようとしたその時、ケンが助けに現れる。ジャンとケンのムニムニな様子を見た新一は、「ムニムニ作戦」を思いつく。

 ジャンはスーパーゲキレッドに、ケンはゲキチョッパーとなり、サイブレードにスーパーゲキクローを合体させた。さらにジャンがケンに過激気を注入する。2人の攻撃を合体させ、過激気を研鑽したケンは、ツネキを過激気の刃で叩き斬った。敗色濃いツネキは巨大化して襲い掛かる。

 ゲキファイアーとゲキトージャウルフのタッグは、エレハンマーをバスケットボールに見立て、見事なコンビネーションでツネキを追い詰める。エレハンマーの炸裂でツネキは木っ端微塵に吹っ飛んだ。

 ゲキレンジャーのコンビネーションをその目で見た新一は、バスケットの試合で仲間にパスを出し、見事勝利するのだった。

 時を同じくして、獣源郷の前で、操獣刀を握る理央が士気を高める。そこにマスター・シャーフーが現れ、理央を阻んだ…!

監督・脚本
監督
渡辺勝也
脚本
小林雄次
解説

 スーパーサイブレード登場を、子役ゲスト(といっても結構な大物ゲストだが)を迎えてバラエティ編風に仕立てた名エピソード。スーパーサイブレード完成をさり気ない爽やかな処理で演出し、なおかつ印象的に仕上げるという職人芸を見ることができる。前回がメレを中心に据えた重厚なエピソードだっただけに、ある種のトーンダウンが憂慮されたが、それは杞憂であった。

 今回の主役は、やはり新一である。須賀健太氏の余裕すら感じさせる演技が、小生意気でありつつも憎めない微妙なキャラクターをよく表現している。勿論、その設計や演出にもぬかりはなく、新一を「嫌われ者」にしない周囲の配置や、徐々にジャンと打ち解ける様子に、その丁寧な感覚を見て取ることが出来る。

 新一自体は戦隊シリーズ等によくあるタイプのゲストキャラクターだが、ここにジャンが絡んでくることで、別種の面白さを喚起する。ジャンはかなり精神的に成長していることが伺えるものの、その目線はあくまで子供にごく近いポジションにある。「子供を放っておけない」ではなく「友達を放っておけない」としたところに、本エピソードの勝因があるのだ。「友達」というキーワードは、大人と子供をも指すことができるのだが、このシチュエーションを大人であるヒーローと子供ゲストに適用すると、図らずも説教臭いものが出来上がってしまう。しかし、今回のジャンと新一の関係には、そもそも「大人と子供」という図式が当てはまりにくい為、説教臭さが一切感じられないのだ。終始爽やかな筋運びはここに起因する。

 ケンの役どころもなかなか興味深い。ケンはジャンより「大人」に近い場所にいる。だが、そのノリや行動はかなり子供っぽく、ジャンと最も気が合うであろう仲間だ。今回のケン登場シーンの大半はジャンとの絡みであり、この2人のノリの良さは見ていて楽しい。しかしながら、ケンがジャンと違うのは「計算してる」というセリフに象徴される、ある種の余裕だ。この余裕は、勿論ケンの類稀なる才能に裏打ちされたものである。つまるところ、ケンは新一と対比されるポジションに立っていると言える。天才と言えるような人物でも、一人で突っ走るような愚行は犯さない。ケンは理知的にそれを悟っている「大人」だ。仲間の大切さを知った新一に、ケンが優しく付き添う巨大戦の一幕は、最も「大人」を感じさせるシーン(しかしながら、自慢げにゲキファイアーとゲキトージャウルフを紹介する為、説教臭さは微塵も感じられない)であり、ケンのキャラクターの深さを感じることが出来る。

 スーパーサイブレード登場に至るプロセスは、実はかなり周到に織り込まれている。ツネキとの第一戦では、「激気注入」によってランとレツがジャンに激気を注ぐシーンが見られる。この様子を新一が見ており、これにより、スーパーサイブレードによる逆転劇が違和感のないものに仕立てられているのだ。つまり「過激気注入」が唐突ではないということである。新一、ジャン、ケンの3人のドラマ、そして魅力的なツネキ、荒れる臨獣殿といった多くの展開を抱えつつも、非常にテンポ良くかつ違和感のない筋運びになっており、完成度は驚異的だ。過激気を研鑽して放つ必殺技も豪快なビジュアルに彩られており、アピール度も十分であると言える。

 巨大戦では、新一に自分たちの戦いを見せるかのように、ゲキファイアーとゲキトージャウルフがエレハンマーボールを使ってバスケットっぽい動きを見せる。このシーンでは、ドリブルにわざわざ合成が用いられており、その自然な動きに一瞬目を奪われる。

 臨獣殿での動きも見逃せない。ロンが初めてメレ以外の人物の前にその姿を現し、マクにとってロンは旧知の者であることが分かる。カタとラゲクがロンを知らないというのは意外だが、そこにロンの謎を解くカギがあるのかも知れない。また、マクの強力無比な技を、スルリとかわしていくロンが不気味でカッコ良い。マクではなく理央を頭首と認めている発言もあり、ロンのポジションが理央側にあることが明確にされた。ただし、それでも真の目的は未だ不明なままだが…。

 獣源郷の手前では、マスター・シャーフーが理央を待ち受ける。このシーンではシャーフーの眼光の鋭さが遺憾なく表現され、非常に重厚な雰囲気だ。ラストに配置して次回への引きとして見せる心憎さも良い。このラストから、予告での拳聖拳魔大集合の絵図に繋げる意図は実に効果的で、次回への期待は最高潮に達すること必至だ。