GP-22「最後ノノゾミ」

 ヨゴシュタインはヒラメキメデスの失敗を咎め、腹を貫くという凄惨な制裁を加える。そして、命からがら逃げ出すヒラメキメデスを処刑する為、ボーセキバンキに追わせた。

 その頃、ボンパーは須塔兄妹の屋敷にて、ジャン・ボエールとトリプター、そしてジェットラスの炎神キャストを調整していた。ボンパーが居ることを訝る大翔に、ジャン・ボエールは「自分が招いた」と説明する。ゴーオンジャーとの新たな連携、それがジャン・ボエールの考えであり、ボンパーはその為に呼ばれたのだ。その時、大翔と美羽はガイアークの気配を察知する。

 大翔と美羽が岸壁にやってくると、丁度走輔達もやって来た。そこには、ボーセキバンキに追われるヒラメキメデスの惨めな姿があった。走輔達は「ほっとけねぇ!」と、ヒラメキメデスに群がるウガッツ達を排除するが、ボーセキバンキの手によりヒラメキメデスは断崖の中に消えてしまう。大翔は冷ややかな目で状況を観察していたが、やがて走輔達の行動に呆れて美羽と共にその場を去って行った。走輔達は、ヒラメキメデスの滴らせたオイルを辿って、とある洞穴に辿り着く。そこには深い傷を負い自分の命が長くないことを悟ったヒラメキメデスが居り、「唯一つ思い残すことがある」と走輔達に告げるのだった。

 走輔は大翔の元に現れ、ヒラメキメデスの最後の望みを聞いて欲しいと言い出す。その望みとは、「蛮ドーマスペシャルが最速であることを証明する為に、トリプターと競いたい」というものだった。大翔は一笑に付すが、走輔はヒラメキメデスが提示した「条件」を示して食い下がった。その「条件」とは「レースのゴールをヘルガイユ宮殿とする」というものだった。敵の本拠地を提示するという心意気を見て、走輔はヒラメキメデスを信じる気になったのだというが...。

 ギンジロー号に戻って来た走輔は、大翔を説得することができなかったとヒラメキメデスに詫びる。軍平や早輝も、ヒラメキメデスに憐みの気持ちを抱き始めていた。そこにやって来たのは、大翔。ヒラメキメデスとのレースに応じたのである。大翔はゴーオンゴールドに変身しトリプターに搭乗、ヒラメキメデスも蛮ドーマスペシャルを召喚し搭乗した。レースは開始された。走輔達は大翔とヒラメキメデス双方にエールを送る。レース展開はほぼ一方的であり、トリプターの圧勝となった。ゴールであるヘルガイユ宮殿の前に降り立つ大翔。そこへヒラメキメデスの声が響く。「レースの勝利はあなたに譲りましょう。ただし、人生の賭けは私の勝ちですよ」。その途端、眼前のヘルガイユ宮殿は消失し、ボーセキバンキを引き連れたヒラメキメデスが姿を現した。しかも、ボンパーですら見破れなかった高度な修復システムが、ヒラメキメデスの傷を瞬時に塞いでいく。そこは太平洋の名も無き島であり、ヘルガイユ宮殿などではなかったのだ。ヒラメキメデスの指示により、ボーセキバンキが大翔に襲いかかり、そしてヒラメキメデスも自ら剣を振るう。

 その間ボーセキバンキは巨大化を果たす。勝利を確信するヒラメキメデスだったが、美羽の駆るジェットラスがトリプターの後を密かに付いて来ていた。罠を予感した大翔が指示していたのだ。ジャン・ボエールに自らの判断の正しさを示す大翔だったが、ジャン・ボエールはそれを認めつつも胸騒ぎを覚える。ジャン・ボエールとトリプター、そしてジェットラスはセイクウオーに合体し、ボーセキバンキを迎撃する準備を整えた。だが、突如雷鳴が轟き、セイクウオーは稲妻の餌食となってしまう。ヒラメキメデスはこの一帯の自然現象と大翔達の予知能力まで計算に入れて裏の裏をかいて見せたのだ。ヘルガイユ宮殿では、ヒラメキメデスの作戦を手放しで誉めるヨゴシュタインの姿があった。ケガレシアとキタネイダスはその姿を見て全てが作戦の内であることを悟った。

 ボーセキバンキに動きを封じられ、絶体絶命の危機に陥ったセイクウオー。だが、突如地響きと共にエンジンオーとガンバルオーが海中より飛び出し、ヒラメキメデスと大翔を応援し始める。そして、巨大化したボーセキバンキの姿を見て、ヒラメキメデスを倒しに来たのだと誤解した走輔達は、ボーセキバンキを殴り飛ばしてしまった。続いてエンジンオーは「ゴールテープ(実はボーセキバンキの糸)に絡まった」セイクウオーを助ける。勝利を台無しにされたヒラメキメデスは半ばやけくそでボーセキバンキに後を任せた。

 空を飛べないエンジンオーとガンバルオーでどうやって島に辿り着いたのかを問う大翔に、連は「泳いできた」と答える。走輔達は命がけで応援する為にやって来たのだ。ヒラメキメデスの罠だと訴える美羽によって、ようやく状況を理解した走輔達は怒りを露わにする。ジャン・ボエールに促され、大翔は悟った。ゴーオンジャーは先を見ようともしないが、それが彼らの強さであり、何も考えなかったからこそ罠に捕らわれることもなかったのだと。ジャン・ボエールは「今こそ彼らの力を借りてはどうか」と、大翔と美羽に勧める。

 大翔は「俺たちと一つになって、戦って欲しい」と走輔達に進言、ゴーオンジャーはそれを快諾する。9体の炎神達は合体し、エンジンオーG9となった。ボンパーがウイング族の炎神キャストに調整を施したのは、この瞬間の為だったのである。エンジンオーG9は必殺技を即座に繰り出し、蛮ドーマスペシャルを駆るヒラメキメデスごとボーセキバンキを粉砕した。「最強になるには、ウイングスの敏感さや緻密な読みだけでなく、ゴーオンジャーの鈍感さや出たとこ勝負、異なった力が両方必要だった」とジャン・ボエール。敗れたヒラメキメデスは一人、足を引きずりながら去っていく...。

今回のアイキャッチ・レースのGRAND PRIX

 ベアールV!

監督・脚本
監督
鈴村展弘
脚本
武上純希
解説

 ゴーオンジャーとゴーオンウイングスが遂に手を結ぶ(?)、エンジンオーG9登場編。理詰めのゴーオンウイングスと、その場のノリの(笑)ゴーオンジャーが織りなすコントラスト豊かなヒーロー像が楽しい一編だ。

 一方で、殆ど主役と言っていいヒラメキメデスの存在感も秀逸。「敵を欺くにはまず味方から」のセオリーを見事に展開して見せた害地目には、視聴者もすっかり騙されてしまった。勿論、騙されたと言っても今回のヒラメキメデスの見え透いた行動にではなく、前回のラストから今回の冒頭にかけてのヨゴシュタインの制裁とヒラメキメデスの窮状にだ。ケガレシアやキタネイダスをして「やりすぎゾヨ」と言わせる迫力には、我々もすっかり騙されてしまった。打ち合わせをした様子もなく、前回のフーセンバンキの失敗を受けてヨゴシュタインの怒りまでスムーズに描写されていたのをみると、どうやらヨゴシュタインとヒラメキメデスには格別たる意思の疎通があるようだ。ヒラメキメデスの優秀な修復能力まで見越してダメージを負わせたヨゴシュタイン。その知性に悪の幹部たる威厳が感じられて非常に良かったと思う。普段は半分おフザケなキャラクターの中で、こういったキラリと光る部分があるのは良いものだ。

 また、前述の「やりすぎゾヨ」と漏らすキタネイダスやケガレシアを見ると、意外に仲間内の慈悲は深いことが窺い知れる。これが当初より意図されたことかどうかは不明だが、そうでないとすれば、俳優・声優陣の楽しげな熱演とギャグにより、キャラクターが自転している結果である。今回もエンディングにて「ゴーオンゼミナール」を乗っ取って「ガイアークゼミナール」を展開してみせたが、「ルネッサ〜ンス!」と髭男爵の真似を披露するギャグの暴走振り、そして「ノってやってます風味」は他の追随を許さない。最近の傾向として、ゴーオンジャーの面々が大真面目なボケっぷりを披露するストーリーの連発を指摘できるが、ガイアーク側は明らかにウケ狙いのテクニカルなギャグで雰囲気作りをしている。一体この先どうなっていくのかと、ある種の不安と期待が入り混じる。

 ギャグ描写についてはひとまずこのくらいにして、ヒラメキメデスの展開したトラップについて物語性の観点から分析してみたい。

 ヒラメキメデスがとった行動は、実は伝統的で由緒正しい東映特撮TVドラマのパターンを踏襲している。最も印象深く、また今回のヒラメキメデスの行動のオリジンに近いと思しきエピソードを挙げるとすれば、それは「仮面ライダー」第79話「地獄大使!!恐怖の正体?」となるだろうか。この「地獄大使!!恐怖の正体?」では、失敗続きで進退極まった地獄大使が、悪の組織ショッカーを裏切る芝居をすることで仮面ライダー=本郷猛の捕虜となって近付き、本郷の関係者を掌握してしまうというもので、「敵を欺くにはまず味方から」の構成や、「裏切り」のキーワード等に今回のヒラメキメデスの行動のオリジンを見出せる。ただ圧倒的に異なるのは、地獄大使の正体がガラガランダという怪人であるが故のストーリー的トリック(これに少々無理が生じているのは残念だが)や、本当に地獄大使に後が無いことで全体的に至極シリアスな雰囲気に包まれていることであり、今回のように途中から裏切り者の真意が丸分かりだったり、ギャグでオチをつけるような感覚とは大いに印象を異にしている。

 それでも、ヒラメキメデスだけにスポットを当ててみると、実に素晴らしい「名演」だと評価できよう。まず、洞穴でのやりとりは、互いが敵であることを意識した行動により、緊張感の高いシーンとなっている。勿論、これはヒラメキメデスの芝居の一環ではあるが、それを度外視した上で見ると(オンエア時は正にその状態であろう)、普段の「ゴーオンジャー」ではあまり見ることの出来ないシリアスなシーンに見える。とっさに剣を構えるヒラメキメデス、警戒しつつボンパーに「診察」させる走輔達。それぞれのポジションが正統派で硬質な雰囲気を醸し出していてポイントが高い。そして、「一介の発明家」と自らを評し、瀕死を演じて見せ、トリプターとのレースを熱望する様は、そのシーンだけ切り取れば充分落涙モノに仕上がっている。前回のラストでさり気なくヒラメキメデスへの同情を誘っておいて、ここで止めを刺すあたり、なかなか心憎い。この一連のシーンは予備知識なしで視聴し、全てが分かった後もう一度視聴されることをオススメしたい。その後、トリプターとのレースの最中までは、その傷が痛々しく描写される所為もあってヒラメキメデスを疑うに至るような要素は皆無。作劇の定石としては、何かしら怪しげな雰囲気を匂わせたりして視聴者の興味を煽るという手段がよく採用されるが、わざとそれらの定石を排除し、徹頭徹尾ヒラメキメデスへの感情移入を誘った上で、大胆に裏切るという手法を選択している。この手法を分析して気付かされるのは、視聴者の視点とゴーオンジャーの視点を一致させているということである。走輔達ゴーオンジャーは、ヒラメキメデスを信用して「最後の望み」をかなえてやろうという気持ちになるが、ここで(慎重でない)視聴者は走輔達にも巧みに感情移入させられることになる。一方で、鼻持ちならないヤツながらも大翔に対して一方的な仲間意識を抱いているゴーオンジャーは、大翔への応援も忘れておらず、ここでも視聴者は「トリプターが負けるのはちょっと...」と思わされるのだ。誠に見事と言うほかない。あらゆるキャラクターに感情移入させられつつ、それが劇中同様に罠であるという展開なのだ。

 さて、ゴールであるヘルガイユ宮殿がフェイクだったと判明する少し前あたりから、物語は急激にいつもの「ゴーオンジャー」と化していく。いつものように緻密で慎重かつ余裕の行動を見せるゴーオンウイングス、そしていつものようにあまり後のことを考えずにその場のノリで動くゴーオンジャー。ゴーオンウイングス登場後は、この構図でずっと物語を牽引してきたが、結託がテーマである今回においてなお、この姿勢は変わらない。ただし、この構図にある種の弊害が伴うということを、今回はより強く露呈してしまった。それは連と軍平の存在だ。連はゴーオンウイングス登場まではゴーオンジャーきっての知性派・慎重派であり、作戦参謀であった。ノリで突っ走るタイプの代表である走輔のブレーキ役は、正に連だったのだ。ところが、今回はヒラメキメデスを微塵も疑わず、ノリで太平洋のとある島に応援にやってくる。ヘルガイユ宮殿の地図が本物かどうかは、事前に調査すればかなりの確立で見破れた筈であり、連ならばそれが充分に可能だ。だがここで、一つ予防線が張ってあるのを忘れてはいけない。かつて、連は手放しで範人を信用した過去を持つ。従って、連の性格からしてヒラメキメデスを手放しで信用しても、何ら不都合はないのだ。う~む、なかなかウマいゾ。そして軍平は元刑事というキャリアの持ち主であり、ゴーオンジャーの中で最も疑うことを習慣付けられた人物である。しかし、走輔のノリに巻き込まれてヒラメキメデスに憐れみを感じ、ノリノリのまま行動していく。ところが軍平の場合、登場時点から「ヘンな人」扱いされており、もはやこの時点で彼の行動原理を推し量ることは不可能となってしまっている。う~む、やっぱりなかなかウマいぞ...。こうしてシリーズ全体を通して眺めてみると、ちゃんとキャラクターが転がった結果を受け止めている。逆に本当の「弊害」は、ゴーオンジャーという存在に画一化されてしまっていることかも知れない。

 今回のテーマは、連流に言えば「ズバリ、鈍感力っす」ということになろうか。「鈍感力」とは小泉純一郎元首相の発言から生まれたタームであり、目先のことに鈍感になることで状況を打開するといった意味合いが込められているが、正に今回のゴーオンジャーの行動に当てはまる。しかも、ゴーオンジャーの鈍感力は一般的なものを遥かに超越しているらしい。現実に存在したらきっと納得できないだろう。その意味で納得せざるを得なかった大翔の心情は察するに余りある。その鈍感力は「両方を応援する為に太平洋を泳いできたエンジンオーとガンバルオー」という、ギャグの極みに到達するのだが、それもまたよしかな。何と言っても、クロールのエンジンオーとバタフライのガンバルオーという図が良い。

 目玉であるエンジンオーG9は、本編が充実していた為か、かなり端折られた印象だ。正直、大翔が完全にゴーオンジャーを認めたようには見えなかったのだが、エンジンオーG9が完成するには炎神とパートナー全員の心が一つにならなければならないので、一応認めたということなのだろう。一方で、ハンドルブラスターとウイングブースターでターゲットをロックする描写は急場感が否めないし、G6グランプリとG9グランプリの違いが空を飛ぶか否かだけであったりと、エンジンオーG9を完成させる必要性をあまり感じさせないのもマイナスだ。9体合体ということに単純に燃えることはできるし、その合体描写とコクピットへの7人全員集合というビジュアルは素直に拍手モノになっている。だが、特段強力無比というわけでもないボーセキバンキ相手に、エンジンオーG9登場の必然性があったかと言えば、実は殆ど無かったのではないかと言えそうだ。結局エンジンオーG9は、ゴーオンウイングスが仲間になることの象徴として登場したに過ぎない。翻せば、明らかなマーチャンダイジング側の要請を、このようにシンボリックな存在に仕立て上げたことに対し、その力量を認めなければならない。