GP-27「孫娘ハント!?」

 別次元から謎の物体が飛来した。ボンパーでも全く分からないというその物体の正体とは一体何か? 走輔達は手分けして捜索を始める。

 範人は林の中を捜索するが、物音に驚きシフトチェンジャーを紛失、さらに斜面を滑落してしまった。物音の正体はダウジングバンキだった。ダウジングバンキも謎の物体を捜索しているらしい。走輔達がその場に辿り着くと、ダウジングバンキと遭遇、走輔達は直ちに変身して立ち向かう。だが、ダウジングバンキの特殊能力と戦闘力に翻弄され、逃亡を許してしまった。

 一方、粗大ゴミ集めに勤しむ老女・お仙が、滑落した範人を発見、範人はお仙に怪我の手当をしてもらう。感謝する範人に、お仙は「感謝してるなら、手伝って行きな」と言い、「お宝」と称する粗大ゴミの整理を手伝わせた。

 ヘルガイユ宮殿からヨゴシュタインが消えた。置手紙を残し、一人旅に出たのだ。キタネイダスは戻ってくるヨゴシュタインを迎える為にも、「超兵器」を早急に見つける必要があると言う。ダウジングバンキにそれを指示したキタネイダスは、「超兵器」発見の暁には自ら出撃すると宣言した。「超兵器」とはガイアーク好みの汚い世界に作り変えてしまう力を持っているらしい。「VIVA! 超兵器!」と歓喜の声を上げるケガレシアとキタネイダス。

 範人は「手伝い」を継続中だが、お仙は随分と人遣いが荒い。疲れ気味の範人をよそに、お仙は「宝の山に囲まれている時が一番幸せだよ」と呟く。そんなお仙がふと落としてしまった写真。そこにはお仙の孫娘が写っていた。しかし、その孫娘は既にこの世にいないという。

 範人を探しあぐねてしまった走輔達は、大翔と美羽に空からの捜索を依頼する。トリプターとジェットラスはすぐにお仙の家を発見し、大翔と美羽は現場に降り立った。が、そこには女装した範人が居た。驚く大翔と美羽に、範人は「ここのお婆さんの、亡くなった孫娘さんの格好」だと説明する。範人はお仙に「本当の孫娘だと思って何でも言って欲しい」と言い世話を焼き始めた。そんな範人を見て、美羽は少し感心する。そこに走輔達が現れ、範人の女装に様々な反応を示すが、範人はもう少しだけ邪魔しないでくれと言う。走輔達は微笑みつつ範人の希望を聞き入れるが、突如キタネイダスとダウジングバンキ、そしてウガッツ達によってお仙が連れ去られてしまった。直ちに追う走輔達に、キタネイダスは「超兵器」を見つけたと宣言、その「超兵器」を用いて瞬時に周囲のゴミを百倍に増やすという。範人、大翔、美羽の3人はキタネイダスを追い、走輔、連、早輝、軍平の4人がダウジングバンキと対峙した。

 ダウジングバンキに走輔達は大苦戦。だが、4人はしっかりと勝機を窺っていた。雄叫びと共にダウジングバンキを高速移動で翻弄した走輔達は、ハイウェイバスターにガンパードソウルをセットし、ダウジングバンキに見舞う。しかし、ダウジングバンキはすぐさま巨大化した。範人とゴーオンウイングスを欠くゴーオンジャーは、エンジンオーで迎撃、後にガンパードも合流してエンジンオーガンパードを完成させるが、戦況は芳しくない。

 一方、お仙を放せと迫る範人をキタネイダスは一笑に付す。何とお仙の正体はジャンクワールドの魔女博士オーセンだったのだ。オーセンは「超兵器」の開発者であり、キタネイダスの依頼でヒューマンワールドにやって来たという。そして、範人を騙していたのだ。ショックを受ける範人をよそに、「超兵器」を作動させようとするオーセン。範人は話せばきっと分かってくれると信じ、変身を解いてオーセンに近付いていく。大翔と美羽はキタネイダスに立ち向かった。

 範人の必死の叫びに、オーセンのとった行動は...。

 オーセンが「超兵器」のスイッチを捻ると、辺り一面が花畑へと変貌していく。ガイアークは花に塗れて無力化した。オーセンはスイッチを逆に回してスクラップを消滅させ、花々を溢れさせたのである。オーセンはキタネイダスの言う「人間がジャンクワールドを侵略しようとしている」との言葉を信じてヒューマンワールドにやって来たのだが、範人の誠実さを目の当たりにし、それが虚言であると気づいたのだ。キタネイダスが花に苦しみつつ退散するのを確認し、範人、大翔、美羽の3人はすぐに巨大戦へと参戦。エンジンオーG9を完成させてダウジングバンキを粉砕した。

 オーセンは「もっとこき使う為に孫娘の話をしたら、女装までしてくれた」範人が、自分の心を動かしたと語る。お仙に孫娘はいなかったのだ。範人は完全に騙されたと知りショックを受けるが、ヒューマンワールドの人間の誠実さを知ることが出来たと、オーセンは満足気な表情を浮かべ、ジャンクワールドへと帰って行った。範人の女装が世界を救った...のか?

今回のアイキャッチ・レースのGRAND PRIX

 バルカ!

監督・脚本
監督
中澤祥次郎
脚本
武上純希
解説

 抱腹絶倒エド・はるみ編...になっていないところが理性的な範人編。逆に言えば、本エピソードにエド・はるみ氏を起用したこと自体に勿体無さを感じてしまう程、各キャラクターが立っている名編だ。ただし、名編たる所以は各俳優陣の演技によるところが大きく、残念ながらストーリー自体は予定調和に終始しており、決して手放しで傑作扱いできるものとは言えない。しかしながら、前半で範人の女装のビジュアルインパクトと周囲の反応をコミカルに描き、後半で少しホロッとさせる筋運びは、定番ながら巧く消化していたと評価できよう。

 今回は前述の通りキャラクターが立っていると評価できる為、メインキャラクターである範人、お仙、ダウジングバンキの3人を見ていくことで魅力等を浮き彫りにしていきたい。

 まずは、ダウジングバンキ。これまでも、スプレーバンキやフーセンバンキのように積極的にタレントを起用し、その「子供に分からなくてもいい」開き直り感覚が心地良い蛮機獣だが、遂に「子供にも分かるタレント」であるエド・はるみ氏を起用。あくまで推測だが、蛮機獣のキャスティングはデザイン決定後に行われているものと思われ、前述のスプレーバンキは特に「顎の感じ」からインスパイアされているに違いないわけだが、今回は恐らくダウジングロッドを構えたポーズが、エド・はるみ氏の定番アクションである「グ~ググ~」を連想させる故のキャスティング~だったのだろう。しかし、どうみても女性型蛮機獣に見えないこのデザインに、エド・はるみ氏の声が乗ることで、異様な雰囲気を醸し出していたのも確かである。かつて「電子戦隊デンジマン」に女性の声で演じられたアラジンラーというベーダー怪物が登場したが、この怪物と同等以上に容貌と声が合致しない。また、ダウジングというモチーフも、割と硬質なモチーフでまとめられた蛮機獣の中では、かなり曖昧なポジションにあると言えよう。このように、蛮機獣の中では異色中の異色となったダウジングバンキだが、スーツアクターの演技とエド・はるみ氏の演技は(スーツアクターの「仕草のモノマネ」の効果もあって)意外なほどにマッチ。また、エド・はるみ氏が持ちネタを必要以上に繰り出して作品世界を破壊するようなこともなく、むしろ抑え気味の声質を出すことによって、妖怪的な雰囲気を醸し出しているのは素晴らしいことだ。

 ダウジングバンキは探索が主な使命であったが、戦闘力も高く、ヨゴシュタインの「喪中」から開放された蛮機獣作成ブースの健在振りを見ることが出来る。「グ~」のギャグのノリの良さを生かしたアクションがふんだんに見られ、単なる話題先行のキャスティングに終始しない演出の底力を見せた。逆に戦闘以外の印象は薄く、そもそもの使命である「探索」はあまり描かれない。ダウジングロッドも探査棒ではなくトンファのような武器として扱われており、現場的としては非常に扱いにくいモチーフだったのかも知れない。そういった面が原因か、印象こそ強い上に完成度もそこそこ高いダウジングバンキではあるものの、ストーリーに殆ど絡まないということになってしまっている。結局、ガイアーク側でストーリーに積極的に絡んでいたのはキタネイダスであった。

 続いて、お仙である。まず、指摘しておかなければならないのは、このキャラクターこそが今回の予定調和の塊だということだ。今回はどうやら「範人を女装させる」という大命題が存在していたものと思われ、その命題を中心に話を広げたらこんな話になったという感覚こそ前面には出ていないが、反対に広げるのには失敗しているという印象がある。このキャラクターの役割は二つあり、その内の一つが「お仙」として範人を女装させること、もう一つが「魔女博士オーセン」としてジャンクワールドの存在=悪ではないことを印象付けるというものである。後者は充分すぎるほど効果を上げていたが、前者に関しては動機もなければ必然もなく、単なるビジュアル的な面白さに空疎な笑いを求める構図になってしまっている(実は「女装」自体は目論見として成功している。後述)。何故か。それは範人が坊やだからではなく(失礼。何故か妙なテンションになってしまいました)、オーセンの、わざわざ孫娘の写真を持っていることの意味性が皆無だからである。孫娘の件は本人が明言しているとおり、口からでまかせレベルの「ウソ」であり、その「軽いウソ」の為に何故写真まで用意していたのか理解に苦しむ。さらに、果たして範人をこき使うことが、空をも飛べる「魔女博士」にとって必要なことかと言われれば、はっきり否と答えざるを得ない。単なる「意地悪ばあさん」のノリだと説明する向きもあるだろうが、それならばそれなりの描写があってしかるべきで、お仙からは意地悪ばあさんの雰囲気は殆ど感じられない。また、孫娘の件が実は本当の事だったのではという弁護も出来るわけだが、それを認めてしまうと、「ジャンクワールドをスクラップだらけの世界にした」という魔女博士の実績とは乖離してしまい、キャラクターが破綻してしまう。反論として、孫娘の死を嘆いてスクラップ世界にしたという、いかにもSF的な動機付けもあろうが、私は正体を現したオーセンからそのような悲壮感はまるで感じられなかった。むしろ、魔女博士の威厳と老女としての可愛らしい部分がしっかりと表現された、陽性のキャラクターとして成立している。

 実は、お仙はダウジングバンキと同様に、キャスティングによって別のベクトルへと深みを広げてしまったキャラクターなのではないか、との推察が成り立つ。木野花氏というキャスティングは抜群の人選だったと評価できる一方、その類稀なるオーラや言動から得られる独特のユニークな雰囲気は、キャラクターの設定を変えてしまうほどの存在感をも発揮しているのだ。凛と背筋の伸びたオーセンの落ち着いたセリフ回しには、例え「変なコスプレ」を強要されたとしても、キャラクターに与えようとした木野氏の「バックボーンのしっかりした生命力」が存分に感じられる。それはオーセンというキャラクターにプラスアルファどころではない効果をもたらしたが、逆に印象が強すぎて範人の女装が霞んでしまった面も否めない。実は今回のストーリーのアラは、範人の女装のインパクトが強ければ強いほど、隠蔽できたものと考えられる。というのも、ビジュアルインパクトの前ではストーリーの破綻が些細なものに思えるという錯覚が、映像作品には厳然と存在するからだ。それをスポイルしてしまったことは、本エピソードにおける最も指摘されるべき欠点だろう。とはいえ、私はオーセンというキャラクターの雰囲気を高く評価している。ベテラン俳優の抗し難い魅力とは、正にこういうことを言うのだと実感できる。逆説的だが、範人の女装のインパクトがスポイルされたからこそ、オーセンと範人の心の交流がうわべに終始せず深みを増したとも言えるのである。

 そして、今回の主役、範人だ。これまでの範人編では、軽いウソや惚れっぽいところ、大胆な発想など彼の少年性にスポットが当てられてきたが、今回もそれは踏襲されている。スポットが当てられたのは、範人の持つ優しさや労りの気持ちだ。そして、スーパー戦隊シリーズでは半ば恒例となった女装を担うことになるのも、この範人である。今回披露されたこれらの要素、関連性が薄いように見えるが実は強力に関連している。主人公が老人(私自身としては、お仙を老人と呼ぶのは多少抵抗があるが)に対する労りの気持ちを呈するというパターンは、様々なシリーズで幾度となく登場してきたが、かなりの確率で女性メンバーがメインのエピソードであり、今回のように男性メンバーがそれを担うのは珍しい。男性メンバーが優しさを見せるのは、大抵子供相手であるのは周知の通りだろう。範人は別段女装せずとも、充分にその優しさを表現する資格を持っていると思うが、女装という要素が加わったことで、よりその優しさが増幅され、お仙との一幕に単なるコメディとは片付けられない、何とも微笑ましいシーンとしての風格が備わってしまったのである。

 しかも、恐るべきことに範人の女装は堂に入っており、早輝が「可愛い~」と評価し、軍平が変質的に目の色を変えるという爆笑モノの演技を見せるに至る。そしてそれは、視聴者自身が抱く印象とも直結している。戦隊ヒーローの女装は、明らかにウケ狙いという発想に端を発している(前作「獣拳戦隊ゲキレンジャー」におけるケンの女装がその典型)のだが、範人に関しては当てはまらなくなってしまったのだ。近年、「学校へ行こう!MAX」や「お試しかっ!」といったバラエティ番組にて、女装コンテスト系のコンテンツが一つのムーヴメントを形成しているが、今回の範人にはそれに類する雰囲気が感じられる。これらバラエティにおける女装コンテンツの着眼点は「完成度が高いこと」であり、換言するならば「女性として見てあまり違和感がないこと」だが、それはそのまま今回の範人にも当てはまると言えないだろうか。少なくとも私は(その方面の趣味は持ち合わせていないよと断りつつ・笑)範人の女装を素直に可愛らしいと感じたのだが...。

 その「完成度の高い女装」が、そのまま範人の優しさを表現するに至っていることは触れたが、それ故にラストのオーセンの心境の変化に、更なる説得力が加わったことを大いに評価しなければならない。明確には語られないが、少なくともお仙の目には範人が「孫娘」に近い存在として見えたことは、話の流れからして明瞭であり、範人であるからこそ今回のような結末へと繋がるという、キャラクター主体の必然をうまく活かした作劇として、高く評価されてしかるべきである。オーセンが「超兵器」を作動させようとするシーンで、範人が変身を解いて説得にあたろうとするのも狙った上での演出だろう(ここでのウガッツ相手の生身のアクションが範人らしくて良い)。ここではゴーオンジャーのスーツの下で、いつの間にかいつものジャケット姿に戻っているという珍現象が見られるものの、ここで女装を前面に出さなくとも、既に範人の優しさは伝わっているという好意的な解釈が充分に成り立つ。オーセンの動機付け等にウイークポイントのある本エピソードだが、この範人に関係するトピックに関しては素直に喝采を贈りたい。

 メインキャラクター以外は、今回に関してはそれほど目立ってはいない。だが、やはり「ゴーオンジャー」ならではの小ネタが随所に散りばめられている。

 冒頭では走輔のからかいにボンパーが憤慨し、ギンジロー号内で派手に暴れるという、演出面で手間のかかる凝ったシーンを挿入。直後、ギンジロー号を左右に振って運転するところを外からのアングルに切り替えて撮るという芸の細かさも見逃せない。他にも、連が躊躇なく大翔と美羽の助力を仰ぐところに両者の連携の深まりを感じさせたり、走輔、連、早輝、軍平という変則チームで常に行動していたりと、ちょっとしたシーンに様々なこだわりが見られる。特に変則チームは、ハイウェイバスターにガンパードソウルをセットするというバリエーションを見せており、それを巨大戦のエンジンオーガンパード(久々の)登場に繋げて一貫性を持たせているのは実に巧い措置だ。

 大翔のキャラクター崩しも本格的に始まっており、美羽に両頬をつねられて可愛らしい仕草を見せるシーンが秀逸。両頬をつねるという行為は元々早輝のものであり、美羽と早輝が交流した前回を踏まえてのことだとすれば、これも実に好感触な措置である。

 ガイアーク側ではヨゴシュタインが実に日本的な書置きを残して一人旅に出るというネタを披露。後の展開への伏線かもしれないが、キタネイダスとケガレシアが実に呑気なところはユーモラスそのものだ。「信じて待つゾヨ」という、また何とも悪役らしくない名言も残している。

 そして極め付きは、アイキャッチのレースでのバルカの初勝利(!)であろう。一度も1位になっていないこと自体も意外だったが、「あれ? 勝っちゃっタバスコ?」という超脱力系のコメントも非常に楽しい。