#12 宇宙で待ってる その1

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 ファースト・シーズンにおける沙慈とルイスを思う時、今回で描かれた2人の有様は、より一層その悲劇度を増すのです。

 何しろ、ルイスはあの経済特区・日本での楽しかった日々すら否定してしまうのですから。


 そこに至るプロセスは、完全に誤解と運命の翻弄の結果に過ぎないのですが、バックボーンの虚しさが際立つだけに、余計に悲劇度が増します。

 沙慈とルイスは「ガンダム00」のもう一方の主役、という言い方がなされてきましたが、ようやくそのあたりの真価が発揮されてきたようです。


 サブタイトルは、ルイスが沙慈に送った最後のメールの文面「宇宙で待ってて。すぐに追いつくから。」から採られ、受け取った沙慈の視点になっています。

 文字通り「宇宙で待って」いた沙慈は、立場的に敵同士として遭遇することとなりますが、沙慈が巻き込まれ派なのに対し、ルイスは自ら飛び込んでいるので、感情の差が顕著に表れています。

 このあたりは巧いですね。


 今回は、前回の終盤から継続している冒頭の攻防戦が、殆どクライマックスの様相を呈している為、前半が盛り上がり、後半が粛々と進行していく感じになっています。

 また、アロウズというよりイノベイターにスポットが当てられている為、スメラギとカティの戦術合戦に関しては小休止となっています。



 とりあえず、今回は時系列で追っても分かり易い構成なので、基本的に時系列で行きたいと思います。

 冒頭は、トレミーを襲撃するアロウズと、それを守るガンダムマイスター達の凄まじい攻防戦。

 そのさ中、沙慈とルイスはダブルオーライザーのトランザムの効果を経て、互いに感応し合います。


 刹那はそんな沙慈を気にしつつも(気にしているそぶりはないですが、後の場面から気にしていたことが分かります)、ダブルオーライザーでブリングのガラッゾと交戦。


「ここは通さん!」

ブリング

「邪魔をするな!」

刹那

 ガラッゾを圧倒し破壊するダブルオーライザー!

ダブルーガンダムとガラッゾ

 この「普通でない者」を超えていく性能は、カタルシスを約束するものでして、今回も例外ではありません。

 あからさまにモビルスーツの性能差が戦力を決定付けるというシチュエーションは、ガンダムシリーズへのアンチテーゼ的にも見えますが、まぁ許容範囲でしょう。


 ブリングは脱出し、リボンズは異変に気付きます。

 やはりイノベイターを易々と退場させるということはないようです。


 一方で、際限無い増援に苦戦するセラヴィーガンダム。

 そして、ロックオンのケルディムガンダムを襲撃するパトリック!

パトリック・コーラサワー

ロックオン

 しかし、ダブルオーライザーを駆る刹那は戦況を確実に把握して危機を救います。

 ツインドライヴの力とは言え、刹那のニュータイプっぽい活躍が描かれるのには、少々驚きました。


 間髪入れず、リヴァイヴの「圧縮粒子、充填完了」という声が刹那に聞こえてきます。

ガデッサ

 刹那は戦場の「声」を把握できているので、独自に先回り戦術を展開していきます。

 その結果、ダブルオーライザーが小惑星を切断して迫る!

ダブルオーガンダム

 スーパーロボット的演出が光ります。

 しかし、そこはさすがにイノベイターであるリヴァイヴ。

 少々の焦りを見せつつも、ガデッサのビームサーベルをダブルオーライザーに突き刺します。

ダブルオーガンダムとガデッサ

 ところが、ダブルオーライザーは光の粒子となって消滅し、その攻撃を無力化!

 ダブルオーライザーはガデッサの破壊をも成し遂げて行きます。


「やられた...イノベイターである、私が...」

リヴァイヴ

 これについては後で考察してみます。



 丁度トランザムが限界時間を迎えますが、最悪の戦況は既に回避された後。


 沙慈はオーライザーを勝手にセパレートさせてルイスの元に行こうとします。


「行かなきゃ...行かなくちゃ...ルイスのところに」

沙慈


 その頃、リボンズは、


「機体が量子化した!?僕の知らないガンダムの力だと?」


とひどく動揺。王留美が近付き、


「どうなされました?ひどく動揺されてるようですが...」


と尋ねますが、リボンズにより頬を張られ、倒れる!

リボンズと王留美

「黙っていろ...意地汚い小娘が...」

リボンズ

 そんなリボンズと王留美の様子を見て、ニヤリとするリジェネ。


 王留美はイノベイターを欺き利用する魂胆を抱いていますが、リボンズはそれを更に見透かして利用しているのかも知れない...そう思わせるシーンでした。

 蒼月さん(笑)の悪役ボイスを堪能できるのも、ポイント高し。



 で、リボンズの言う「量子化」の話ですが。

 量子力学で言うところの「量子化」とは、量子論に明るくないと実に難解なお話であり、私にもよく分かりません。

 ただ、SFで言うところの「量子化」は、この量子力学における量子化を拡大解釈したものであり、結構分かり易いのです。


 で、一応、ダブルオーライザーが成立させた「量子化」は、機体を離散観測できる程度にスカスカの状態にすること...なのですが。


 もっと分かり易く具体的に考察すると、パイロットなども含めた全ての物体構造を可逆的なデータに変換し、GN粒子を使って保存したものと思われます。

 そして、GN粒子の像となったダブルオーライザーがガデッサの攻撃を無力化した後、GN粒子に保存されたデータから再構成されて元に戻ったダブルオーライザーが姿を現すという...。


 これは「スター・トレック」の転送技術の受け売りですが、GN粒子の何でもありな様子からすれば、このくらい出来て当然な気がします。



 てなわけで、刹那は結局10機近くを落とし、戦況悪化に転じたアロウズは撤退を余儀なくされます。


 この攻防戦は、殆どダブルオーライザーの殊勲によってトレミーが勝利した格好ですが、その影でアレルヤは輸送艇を安全圏まで確実に護送しており、ソレスタルビーイングの貴重な人員確保という観点で、大いに役に立っています。

 ミレイナは母の無事を聞き、補修作業に喜んで就いていきました。

 また、イアンも10日程で復帰できる程度の容体とのこと。ヴァスティ一家が無事で良かったですね。



 一方、戦いの後の静寂の中、オーライザーを動かそうとする沙慈でしたが、既にパワーダウン。

 さらにその頃、ルイスは色々と考えを巡らせていました。


 沙慈が「ガンダムに乗っていた」こと。

 そして以前、刹那の隣に住んでいたこと。


 この2つの情報から、学生であった当時より、沙慈がソレスタルビーイングに関係していたのだと誤解するのです。

 誤解は確信となり、動揺するルイス。

ルイス

 ひどく短絡的な思考ですが、最近のルイスを見る限り、もはや彼女は正常な思考など持ち合わせておらず、負の感情に突き動かされる兵士に近似する存在。

 悲しいことに、この直前ではまだ沙慈との思い出のデータを捨てておらず、沙慈が普通に宇宙で働いていたならば、何事もなかったように逢うつもりだったのでしょう。



 なお、カティはダブルオーライザーの恐ろしいまでの機体性能に戦慄しています。

 自分の戦術に絶対的な自信を抱いていただけに、ダブルオーライザーの存在はカティにとってかなりの衝撃になったものと思われます。



 ダブルオーガンダムとオーライザー収容後、刹那は沙慈の元へ。

沙慈と刹那

 刹那は、本来ならば沙慈の色恋沙汰などに興味を抱かない筈ですが、当初は沙慈をソレスタルビーイングの行動に巻き込んでしまったという自責の念故に、そして今はルイスがアロウズに居るという事実故に、何かと沙慈に対して世話を焼く感じに。


 ルイスが何故アロウズに居るのかという刹那の疑問に、沙慈はガンダムが憎いからだと答えます。


「君らの所為だ...君らの所為でルイスはアロウズに入って...そして...」


 沙慈の「どうしてこんなことに」という呟きに、刹那はかつての自分も同じことを考えていたことを思い出し、


「戦え。ルイス・ハレヴィをアロウズから取り戻すには、戦うしかない」


と。その後は、真意を巧く伝えられない刹那と、争い事の大嫌いな沙慈とで、齟齬を生じたまま会話が進んでいきます。


「僕が...戦う...?」

「彼女のことが大切なら出来る筈だ」

「人殺しをしろって言うのか!」

「違う。彼女を取り戻す戦いをするんだ」

「そんなの詭弁だ!戦えば人は傷つく!ルイスだって!」

「お前の為の、戦いをしろ!」


 刹那を殴り飛ばす沙慈!

沙慈と刹那

「冗談じゃない!僕はお前らとは違うんだ!一緒にするな!」


 言い方は悪いですが、沙慈ごときの腕力で刹那がこんな風に倒れるとは思えないので、これは刹那が沙慈の拳をとりあえず受け入れたと見るべきでしょうね。

 刹那の真意は「イアンやリンダのような戦い方もある」ということなのでしょうが、沙慈にとっては「戦い」=「戦闘行為」という短絡的な図式しかない為、伝わりません。

 そして、結局「何かしないと」と言っていた沙慈は、その一切を自ら否定し、更に刹那を「殴り飛ばす」という行為で「戦闘行為」を拒否する自分を否定してしまったのです。

 即ち、沙慈はまだ自分の都合でしか行動できていないということになります。確固たる意志がない故に、その場の行動が以前の言動と矛盾する...それが沙慈です。


 その一部始終を、ロックオンは立ち聞きしていました。


「趣味が悪いな...」

「聞こえちまったんだよ」

刹那とロックオン

 このやり取りが素晴らしい!

 今回の隠れた名シーン№1です。


「あの坊やにはっきり言ってやったらいいじゃないか。戦闘は俺が引き受ける。お前は説得でも何でもして、彼女をアロウズから取り戻せ...ってな」

「うまくいくとは限らない」

「だがヤル気満々だ。...過去の罪滅ぼしかい?」

「過去じゃない。未来の為だ」


 ここで、刹那が確固たる、揺るぎない意志の持ち主であることがダメ押し的に描かれます。

 沙慈と巧く対比させているわけです。



 ルイスから沙慈に届いた最後のメールは、皮肉な形で果たされることになった...という実に悲しいカット。

ルイスのメール

 ちなみに、沙慈のメールアドレスは、「RH.SK>>ΦFINEΣWAY」という、2008年時点では何の効力もない文字列になっています。RH.SKは「RUISU HAREVI」「SAJI KUROSURODO」??だとするとカッコ悪いなぁ。

 もう一つちなみに、沙慈の持っている端末のOSの言語は日本語。ラストシーンで出てくるルイスのも同様に日本語でした。

 留学生であるルイスが、日本語に堪能であることが分かります。



 では、後半に続く...。